135 / 148
三界巡行編
終章
しおりを挟む複製されたフィギュアと特別製の一体を収めた鞄を受け取る。
「ありがとね。もし必要な物があったら言って? 今度持って来るよ」
「そうですね、とりあえず魔導技術研究所が動き出してから、足りない物が出た時はよろしく」
悠介は自分達の技術だけでは用意できず、地球製品で代用が効く物があればその時に頼みたいと、フィギュア複製の報酬に対する要望を挙げたので、朔耶はそれを了承した。
この後アルシアの所にも寄る予定の朔耶は、ポルヴァーティアの食糧事情について悠介と二、三話し合って帰還の途につく。
「それじゃあ、またね」
「はいよ、おつかれさんでした」
地球世界の自宅庭に帰還した朔耶は、縁側で待っていた兄にフィギュア入りの鞄を返した。ひゃっほい言いながら受け取った兄は、さっそく中を確かめている。
「うむ、寸分違わぬ完璧な出来だ」
「なんか動く方はかなり気合入れて作ってたわよ?」
前回よりは正気を保っている兄を尻目に、朔耶は再び庭の転移陣から狭間世界へと転移する。今度はアルシアのいるポルヴァーティア大陸の方だ。
ポルヴァーティア大陸のほぼ中央、ポルヴァーティア人自治区の一画にある『暁の風』の本部に出た朔耶は、アルシアの姿を探して辺りを見渡す。
彼女を転移目標にしているので、大体直ぐ近くにいる。
「あ、いたいた。アルシアちゃーん」
「ああ、サクヤ」
アルシアはまたぞろ山積みになった箱を抱えて運んでいた。周囲も少しバタバタしており、気になった朔耶が訊ねてみると、現在引っ越しの準備中なのだという。
「お引っ越し? 随分急だね」
「以前からこの拠点は少し手狭になっていてな」
『暁の風』はこのところ所属する構成員も随分と増えており、栄耀同盟の件が片付いたのを機に、新しい拠点としてもっと大きな建物に本拠地を移す事になったらしい。
アルシアの『勇者食堂』はそのまま、住居としてここに残す。有力組織同士の結束も固まり、情勢も安定して来た今、そろそろアルシアの『組織の後ろ盾』としてのアピールも抑えていくそうだ。
組織の拡大と運営が軌道に乗ったので、用心棒兼看板役はお役御免といったところである。
「なにそれ、用済みって事?」
「ははは、そこまで悪し様なものではないさ」
多少の軋轢は抱えながらも、一つの組織・社会として何百年と続いて来た執聖機関の支配する体制が、邪神ユースケによって文字通り一夜で解体されたあの日。
ポルヴァーティアに吸収され、労働力として奴隷のように使われていた元他大陸民族や、ポルヴァーティア人同士の勢力争いで、いつ終わりの見えない内戦に踏み出すかもしれなかった。
そんな状況から僅かな期間で、大神官の率いる『真聖光徒機関』と『暁の風』を始めとする有力組織連合という、二大勢力が拮抗して牽制し合う、安定した情勢を迎える事が出来た。
「後ろ盾に私の名が必要だったのは、大神官に対抗する意思の在る者を、組織として出来る限り早く纏める必要があったからだ」
複数の組織が十分に纏まっている今、アルシアのような存在が一つの組織に留まり続ける事は、その突出した力が組織間の結束を乱す要因にもなり兼ねない。
なので今後は『暁の風』だけでなく、有力組織連合の後ろ盾として共有される事になるのだとか。
「アルシアちゃんはそれでいいの?」
「待遇には特に不満はないな」
所属が『暁の風』という一組織から有力組織連合に変わるだけで、活動の中身はこれまでとそう変わりない。
むしろ、大きな問題が一つ片付いた現状では、今までよりも料理に費やす時間を多く取れる。
「ふーむ、それならまあ……悪くはない、のかな?」
「うむ。私の役割は今後も抑止力として期待されると、カナンさんも言っていたな」
アルシアが納得しているなら、組織の部外者である自分があまり口を挟むのもよろしくない。朔耶はそれ以上の詮索を止めて今後の予定について話す。
「この前も言った通り、こっちに来るのは数日おきくらいになるけど、何か必要な物があれば言ってね?」
「ああ、またその時は頼む」
これからもよろしくねと、互いに握手して別れる。
アルシアとの親睦を深めて自宅庭に還って来た朔耶は、一つ息を吐いて伸びをしながら、陽の傾いて来た空を見上げる。
秋頃から始まった謎の双星騒ぎに纏わる一連の出来事。狭間世界絡みの問題も、これで本当に一段落した。
オルドリア大陸の情勢も、二大強国であるフレグンス王国とグラントゥルモス帝国の関係がかつてないほど良好。
新たに四大国入りした且つての未開地、アーサリムの部族連合国も、交易などを通じて順調に発展を続けている。
現在量産化している通信具の『魔術式投影装置』がそれぞれの国を繋ぐようになれば、今以上に安定した体制を築ける筈だ。
利便性が増した弊害として新たな問題もまた発生するであろうが、大きく世が乱れる様な要素は今のところ見つからない。
『よし、それじゃあ明日からは南の大陸を調べに行こう』
ムリハ セヌヨウニナ
三つの世界を飛びまわり、世界の平穏に貢献して問題の解決に奔走する。自己の充実。朔耶の活躍は留まる事を知らない。
次なる目標に翼を向ける朔耶は、しばしの休息に羽を休めるべく縁側から居間へと帰宅した。
「たっだいま~。ごっはんごはん~」
非日常的な今を生きる朔耶の賑やかな日常は、今日もこうして続いて行くのだった。
21
あなたにおすすめの小説
異界の錬金術士
ヘロー天気
ファンタジー
働きながら大学に通う、貧乏学生のキミカ。ある日突然、異世界トリップしてしまった彼女は、それと同時に、ちょっと変わった能力をゲットする。なんと念じるだけで、地面から金銀財宝が湧き出てくるのだ! その力は、キミカの周囲に富をもたらしていく。結果、なんと王様に興味を持たれてしまった! 王都に呼び出されたキミカは、丁重にもてなされ、三人のイケメン護衛までつけられる。けれど彼らを含め、貴族たちには色々思惑があるようで……。この能力が引き寄せるのは、金銀財宝だけじゃない!? トラブル満載、貧乏女子のおかしな異世界ファンタジー!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。