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トレクルカーム王国編
第一章:南方大陸の武装勢力
しおりを挟む大規模魔力変動があった南方の大陸まで調査にやって来た朔耶は、その震源地に近い場所に降り立って早々、現地で任務中らしき『ドルメア軍』という勢力の斥候部隊と遭遇した。
地面の下に潜伏している斥候部隊から情報を読み取った結果、彼等は大規模魔力変動に関係していると思われるトレクルカーム王国と、戦争状態にある事が分かった。
件の国の事を調べる一環として、敵対している相手から得る情報には、その国の内では辿り着けないような情報にも触れられるかもしれない。
そう判断した朔耶は、斥候部隊の兵士達と交流を図るべく声を掛けた。
ドルメア軍の斥候部隊の一つ。シャドウ隊長率いる『地影隊』は、攻略目標であるトレクルカーム王国の王都ハルージケープを監視する任務で地下に拠点を作って潜んでいた。
王都に潜入中の仲間より、城周辺で何か大きな動きがあったらしいという報告を受け、昨日から監視の密度を深めていたのだが、突如この監視拠点上に現れた謎の人物に潜伏を見破られた。
その外見的特徴から、最近トレクルカーム国内でも話題になっている例の女錬金術士かと身構えていたところ、件の人物は『ツヅキサクヤ』と名乗り、他大陸から来た事を告げた。
敵意は無いらしく、対話を望んでいると主張している。シャドウ隊長は油断なく部隊を展開させると、相手の名乗りに応えた。
「我々はドルメア軍斥候部隊の『地影隊』。俺は隊長のシャドウだ。あんたの目的を窺おう」
何故我々に接触して来たのかと理由を問う。
「接触っていうか、ここに降りたのは偶然で、あなた達に気付いたのも偶然なのよ」
「我々を見つけたのは偶然、だと……?」
「降りたとは……?」
朔耶の答えに、部隊長のシャドウは困惑した表情を浮かべ、周りで彼の部下達が顔を見合わせながらざわつく。
「……先程、他所の大陸から来たと言ったが、東バクート大陸の事か?」
「その名前は知らない。ここからだとずっと北の方にあるオルドリア大陸だよ」
「オルドリア……? 聞いた事がある……が、俺の知っている大陸の事なら遠すぎる」
「あたし転移とか使えるから」
街からいい感じに距離をとった場所に転移したら、偶々ここに出てしまったという朔耶の説明に、『地影隊』からは驚きの声が上がった。
「て、転移魔法!?」
「突然現れたように見えたのは、やはり錯覚ではなかったのか」
「とんでもなく手練れの魔術士ということか」
「若く見えるが、見た目通りの年齢ではないのだろうな」
「いや、年齢は見た目通りなんですけど……」
やいのやいのと騒がしい兵士達を、シャドウがすっと片手を上げて黙らせる。その雰囲気が何だか軍隊というよりも傭兵団っぽいと感じる朔耶。
パーシバル傭兵団も、リーダーから指示が無い時は団員が各々勝手にくっちゃべっていた。
「そんな凄腕の魔術士殿が何故ここへ?」
「最近この辺りで大きな魔力変動があったから、何が起きたのか調べに来たの」
「魔力変動? この前のアレか」
シャドウ達は心当たりがあるらしく、周りの兵士達がまたぞろ「ああ、アレか」とか「アレは凄かったな」とか口々にその日目撃した光景について語っている。
なんでも、ある夜突然トレクルカーム王国の領土全域が虹色の光に包まれたらしい。
その光は王都ハルージケープに向かって流れていき、翌朝になると王都の中央部にあの宝石塔が立っていたそうな。
「あの夜の現象と塔については我々も調べているところだが、何か懸念でもあるのか?」
「懸念というか、少し前にも凶星騒動で問題が起きてたから」
「ああ、なるほど」
朔耶がわざわざ他所の大陸から転移まで使って調査に来た理由について、以前大規模な魔力障害を引き起こした凶星騒動事件を挙げると、シャドウはおもむろに納得した。
「筋は通っている」
その時、シャドウ達に本隊からの伝令が届いた。『その魔術士を中枢軍の拠点まで連れてこい』との事。
「いいのかな」
「バスケード様の判断だ。大丈夫さ」
シャドウ達のそんなやり取りを聞き流しつつ、朔耶は神社の精霊と相談しながら周辺の地形を把握したり、他に隠れている者が居ないか探ったりしていた。
『地影隊』の彼等と話している間に見つけたものと言えば、まだ地下に残って身を潜めている数人の兵士と、『こちらに興味を示しているここに居ない者』の意識を感知したくらいだ。
長時間使用可能な通信用の魔導具を稼働させているらしく、ここでの会話は中枢軍とやらにリアルタイムで届けられている。
(伝令を使ってるのはフェイクかな?)
ソウイウ ワケデモ ナイヨウダ
ドルメア軍の各部隊には、中枢軍直属の諜報員が一般兵として紛れ込んでいる。
彼等は突発的なトラブルや裏切り対策として派遣されており、部隊で使われている物より高性能な専用の通信魔導具を持たせられているらしい。
シャドウ隊長を含め、部隊の兵士達は彼等の存在を知らない。
(んー、その事実だけでドルメアがどんな勢力か大体分かるわね)
キボノ オオキナ ソシキニハ メズラシクモ ナイ ソナエダガ
まあアットホームな職場ではなさそうだと、朔耶は一つ溜め息を吐く。一応、ドルメア軍の中枢には顔を出しておいても良いかなとは考えていた。
ブラット ドノノ パタァン ヲ ケイゾク スルノカ?
(ううん、ちょっと予定変更。あんまり良い勢力じゃないなら見定めてから距離を置くつもり)
先ほどちらっと名前が出ていた『バスケード様』という人物。ドルメア中枢軍の重要人物であろうその人をじっくり観察して、その情報を手土産にハルージケープに乗り込む作戦を挙げる朔耶。
シャドウ達はまだここで王都ハルージケープの監視任務を続けるので、朔耶をドルメア中枢軍まで案内するのはその本隊から来た伝令の二人に任された。
「では、我々が案内します」
「あの山まで走りますが、馬には乗れますか?」
案内役の伝令の一人が、そう言って遠くを指した。薄らと霞かかった地平線の先には、山頂の雪なのか白の交じる赤茶色の山脈が横たわっている。
あの辺りがトレクルカーム王国と隣国との国境に当たるようだ。
「あたしは飛んでいくから、二人は真っ直ぐ向かって?」
パーシバル傭兵団のパターンで潜り込むなら、力を隠しておいた方が良さそうではあるが、既に転移が使える事を明かしているし、地下に潜んでいた相手を見つけ出したりもしている。
ここはある程度の力を見せてしまった方が、お話もスムーズにできるかもしれない。そう判断した朔耶は、漆黒の翼を出して宙に浮かんだ。
「なっ!?」
「と、飛んだ――」
「まさかっ、飛行魔法!」
彼等の反応からして、どうやらこちらの大陸でも空を飛ぶ術は珍しいようだと理解する。
『魔導具はオルドリア大陸よりも進んでるみたいだけど、フラキウル大陸のグランダール王国ほどじゃあないみたいだね』
カノ クニニハ アノ ハカセガ イルカラナ
アンダギー博士クラスの天才が居れば、こちらの大陸でも飛行機械くらいは開発されていたかもしれない。
神社の精霊とそんな魔導技術談義などしつつ、朔耶はドルメア軍の親玉がいるであろう中枢軍のもとへと案内されるのだった。
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