142 / 148
トレクルカーム王国編
第六章:Kの依頼
しおりを挟む「到着っと」
地球世界の自宅庭から人気のない王都の裏路地に転移して来た朔耶は、今日もお土産を入れた鞄を提げて、表通りの道に歩き出す。
朔耶が大規模魔力変動の調査で南方大陸にやって来るようになって、既に四日目。
トレクルカーム王国の貴族、ルタシュ・アズタールと出会ってから一日おきくらいに王都ハルージケープを訪れているが、再び彼と遭遇することは無かった。
(ぶらぶら歩いてれば、向こうからアプローチが来ると思ったけど、また当てが外れたかな?)
とはいえ、上流層との顔繋ぎなど普通は時間の掛かる事である。もう二、三日様子を見て動きが無ければ、こちらから働き掛けようかと検討する朔耶。
そんな調子で今日まで情報収集を続けてきた結果、この国の内情については更に細かいところまで理解できた。
『実りの大地』を持つ王都が国内の全ての食糧配給を担っていたこれまでの制度上、まだ新しい環境に対応できていないという話は、先日の門番達から聞いた通り。
他所から来た朔耶が王都に出入り自由な現状は、そういった混乱と苦慮の一環。
以前はそもそも国内を移動できる人間が限られていた。どこから誰が何の目的で来るのか、予め厳密に決められていたので、入出の記録や荷物検査などを厳しくする必要がなかった。
基本的に街や村に住む平民の住人は、ほぼ一生その地域から出ることは無い。
ゆえに、余所から来て悪さをするような者もいなかった。食糧や物資の供給を上が完全に押さえて管理していたので、犯罪組織なんてものも生まれ難く、結成されても大きくなれない。
今はその前提が崩れて、闇市的なものが出始めているらしい。まだ大っぴらに治安が悪化しているわけではないが、徐々に色々と暗躍する輩が増えて来ているそうな。
屋台でクレープっぽい食べ物を買い食いしながら王都の通りを歩いていた朔耶は、夕暮れ時の空を見上げて溜め息を吐く。
『う~ん、今日も空振りかぁ。そろそろ帰ろうかな』
ジミチニ ススメテ ユクシカ アルマイ
ちなみに、この地域の通貨はドルメア軍の拠点砦を叩いた時に拝借したものである。
トコロデ ツケラレテ オルゾ
『うん、気づいてた』
神社の精霊と少し打ち合わせして、今日転移して来た裏路地へと向かう。
先日ルタシュの目の前で帰還転移したのはインパクト狙いであり、普段は人目につかない場所で転移するようにしている。
朔耶が路地に入ると、露店で買い物をした辺りから後を付けて来ていた人相のあまりよろしくない二人組の男が、出入口を塞ぐように足を早めて追って来た。
そして、前方からも彼らの仲間と思しき二人組の無頼漢がぶらりと現れ、絡んでくる。
「よお姉ちゃん、ここは物騒だぜぇ」
「俺たちと一緒に――ぶげぇっ」
バチバチッと迸る青白い雷光を纏った朔耶の右手が振り抜かれ、不用意に手を伸ばしてきた男の片方が稲妻ビンタに張り倒される。それに驚き固まっているもう片方にも返す刀で往復稲妻。
後方の二人には意識の糸を絡めての電撃一閃。瞬く間に四人を沈めた朔耶は、そのまま流れるように帰宅転移した。
「ふぅ。あれも治安が悪くなってるって事なのかしらね」
イシキヲ ヨンダ カギリ ソシキダッタ モノタチデハ ナカッタ
神社の精霊の観察によると、人買いや人攫いを生業にしているような、犯罪組織と繋がる者達ではないとの事。ただの運の悪いチンピラだったようだ。
「ただいま~」
いつものように庭から居間に上がり、洗面所で手を洗って自分の部屋に向かう。お土産の入った鞄を置き、スマホを充電器に差してお風呂へGO。
地球世界の安心安全快適な我が家で日常を満喫する。朔耶のバイタリティー溢れる行動力は、ある意味こうやって毎日充填されているのだ。
夕飯も済ませて部屋に戻って来た朔耶は、充電器に差してあるスマホ画面に見慣れない表示を見つけた。
「ん? 何これ、留守電?」
留守番電話らしきリストには、『御国杜コウ』の名が表示されていた。そして電話番号ではなく、記号のような文字が並んでいる。
ちなみに、朔耶はスマホの留守電機能を使っていない。とりあえず再生ボタンを押してみる。
『夜分に恐れ入ります。エイネリアです。朔耶様に協力をお願いしたくご連絡させて頂きました』
そんなメッセージが入っていた。
「コウ君のネリアちゃんからだわ。これ、超古代魔導技術でなんかしたのかしら?」
少し疑問に思いつつ謎の留守電リストから掛け返してみる。コウ少年は今、フリージャーナリストの彩辻美鈴と共に取材旅行に出掛けている筈だ。
電話というか、通信は直ぐに繋がった。
「もしもしコウ君? 留守電聞いたんだけど、どうしたの?」
『ちょっと朔耶に手伝ってほしいことがあるんだ』
コウ少年は、そう言って現在の状況を説明し始めた。話によると、仙洞谷町という取材旅行先の町で面倒な集団とトラブルに遭っているのだとか。
何でも、犯罪紛いの事を仕掛けてくる相手グループのリーダーは、身内にかなり力のある代議士が居るらしく、そのコネを使って好き放題やっているらしい。
警察関係者にも影響力を持っているので、この町の行政機関は問題解決の当てにならないのだそうだ。
話している間にも意識の糸を伸ばしてコウ少年の精神体に繋ぎ、具体的にどんな支援が欲しいのかイメージから直接情報を得る。
「ふむふむ。実穂の伝手を借りたいわけね?」
『うん。いける?』
「ちょっと聞いてみるわ。直ぐまた連絡するから待ってて」
朔耶はそう言って一旦電話を切ると、藍香と同じく高校時代からの親友である大財閥のお嬢様。川岸実穂のプライベート番号に電話を掛けた。
ほぼワンコールで繋がった。
『朔耶ちゃん? こっちに掛けてくるなんて、珍しいね』
「やほー、実穂。元気してた?」
お互いに「久しぶりー」と軽く挨拶代わりの雑談を交わし、おもむろに本題に入る。
『それで、今日はどうしたの?』
「うん、ちょっと実穂の家の力を借りたくて」
『家? てことは、川岸の名を使いたいって事?』
「そうなの。相手は北条代議士って人になるんだけど」
『ああ、あの人』
「知ってるの?」
『前に北条家の息子さんやお孫さんが、わたしの婚約者候補のリストに上がってたの』
「ほへぇ~~」
中々ブルジョワな話題だとか考えている朔耶。
実穂の話によると、川岸家側は大物代議士の北条氏と縁を結ぶことで政界に強いコネクションを。北条家側は大財閥の川岸家を取り込むことで、財界に影響力を持てる。
そんな思惑も含ませながらの縁談が持ち上がっていたのだが、素行調査で北条氏の家族回りに問題が目立った為、話は立ち消えになったらしい。
北条家の長男は四十代も半ばを過ぎた実家暮らしの引きこもりらしく、実穂を嫁がせるには歳の差も然ることながら、あまりにもスペックが釣り合わない。
孫の方は若い企業家だが、素行が悪過ぎて論外となった。
「あ、どうもその孫の人とトラブルになってるみたいなのよ。コウ君が」
『あ~、宗近さんかぁ。てゆーか、あの人あの子に喧嘩売ったの?』
実穂は、コウ少年とはまだ直接顔を合わせていないが、朔耶からも色々と話を聞いているので、彼の事はよく知っていた。
コウ少年の読心能力の前では、後ろ暗い事もそうでないものも全てすっぱ抜かれる。
『それなら案外簡単かも。わたしの人脈だけでも十分そうだけど、一応両親にも話を通してみるね。多分、北条家と繋がりのある財界の人から色々言ってもらう事になると思う』
「ありがと~、助かったよ。それじゃあよろしくね」
実穂と話が付いたので通話を終えた朔耶は、兄重雄を呼び出して事情を話し、現状で打てる手を打っておく。
「実はかくかくしかじかでコウ君のところまで様子見に行って欲しいのよ」
「あー、コウ君は大丈夫として彩辻さんが心配だな」
重雄は「それなら知り合いの刑事さんも誘ってひとっ走り行ってくる」と、自分の部屋まで車のキーを取りに戻った。
その後、カーナビを立ち上げて仙洞谷町に出発する兄を見送った朔耶は、謎の記号文字番号から通信を繋いで、コウ達に実穂の協力が得られた事を報告する。
「話は通しておいたわ。実穂からご両親に相談して――色々動いてもらう予定よ」
少し時間は掛かるかもしれないが、北条代議士に近しい財界の人から圧力をかけてもらう事になるらしいと説明しておいた。
「後、お兄ちゃんと知り合いの刑事さんも派遣しといたから、何かあったら車で避難しちゃって?」
『りょーかーい。ありがとう』
コウ少年との通信を終えた朔耶は、もう一度実穂に電話を掛けると、向こうに知らせておいた事を報告した。
『うん、わかった。なんかお父さんの知り合いの人が凄く張り切ってるみたいだから、期待して待ってて? 朔耶ちゃんお疲れ様』
「ん、ありがとね。実穂もお疲れ」
朔耶は『北条代議士のライバルの人でも居たかな?』などと推察しつつ、実穂との通話を終えて一息吐いた。
71
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異界の錬金術士
ヘロー天気
ファンタジー
働きながら大学に通う、貧乏学生のキミカ。ある日突然、異世界トリップしてしまった彼女は、それと同時に、ちょっと変わった能力をゲットする。なんと念じるだけで、地面から金銀財宝が湧き出てくるのだ! その力は、キミカの周囲に富をもたらしていく。結果、なんと王様に興味を持たれてしまった! 王都に呼び出されたキミカは、丁重にもてなされ、三人のイケメン護衛までつけられる。けれど彼らを含め、貴族たちには色々思惑があるようで……。この能力が引き寄せるのは、金銀財宝だけじゃない!? トラブル満載、貧乏女子のおかしな異世界ファンタジー!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。