異界の魔術士

ヘロー天気

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トレクルカーム王国編

第五章:彷徨い人

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 大規模魔力変動の調査でここトレクルカーム国の王都ハルージケープを訪れた朔耶は、目的をほぼ達成したついでにこの国の内情も詳しく知る事となった。

 知り得た情報を整理しながら王都の街中を散策していた時、ルタシュ・アズタールというこの国の貴族らしき男性に声を掛けられた。

 どうも人違いで朔耶に声を掛けてしまったらしいのだが――

(……もしかして、要救助案件かな?)

 その間違えた相手というのが、この地域では『彷徨い人』と呼ばれる、稀に異界から召喚される異世界人との事だった。

 『キミカ』という名前らしい。その彷徨い人キミカと親し気な様子の彼が間違えるほどなのだから、容姿なり雰囲気なりが朔耶と似ているのだろう。

 フラキウル大陸での沙耶華や京矢の事を思い出す朔耶は、帰還の助けを必要としている相手かもしれないと考えるも、「最近この国にやってきた錬金術士」というルタシュの言葉も気に掛かる。

『これが勘に引っ掛かってた事かは分からないけど、とりあえずコネは繋いどいていいよね?』
ウム コノモノ ネハ ゼンセイナリ 

 この国の上流層への道筋に縁を紡ぐのは悪くないと、神社の精霊からもお墨付きをもらったので、朔耶はさっそくアプローチを仕掛けた。

「ルタシュさんって割と上流の貴族ですか?」
「うむ? そうだねぇ。アズターール家は派閥の代表に選ばれるくらいは名門だからねぇ」

 と、自身の家が所属する派閥にとって、件の彷徨い人錬金術士キミカとの交渉の窓口になっている事をさり気なくアピールしている。

 朔耶は、この国の上流層を占める主要な派閥が幾つかある情報など取得しながら、ルタシュが身分や立場を重要視している事を見定めると、自分の身分を明かして箔付けに使う。

「あたし、実はオルドリア大陸のフレグンスっていう国から来た異世界人なんですよ」

 こっちでいう彷徨い人に当たる事をまず語る。

 ドルメア軍の斥候部隊である地影隊のシャドウと話した時、「自分の知る大陸の事なら遠過ぎる」と呟いていたので、ルタシュにもその辺りを配慮して「かなり遠方の大陸になる」と説明した。

「ほ、ほう? 他所の大陸とな?」

 明らかに戸惑っているルタシュに、朔耶は畳み掛けるように告げる。

「フレグンスでは王室特別査察官の役職を貰ってまして、外交官的な事もやってたりします」
「お、王室の関係者でありましたか」

 ルタシュの言葉に敬語が混じりだした。

「それで、こっちの大陸に来た時に、ちょっと成り行きでドルメア軍とやり合っちゃって」

 その時に彼等の拠点から色々――ドルメア軍の拠点情報とか部隊編成情報とか軍事作戦情報などの資料を拾って来たので、良かったら提供する旨を上に伝えておいて欲しいと告げる。

「え、あ、いや、それは……えーと」
「それじゃあまた来ますね」

 恐らくこの国にとってはかなりの重要事項を並べられて狼狽しているルタシュを尻目に、朔耶はひらひらっと手を振ると、明確な返事を待たずにその場から帰還した。



 地球世界の、夕暮れに染まる自宅庭に帰還した朔耶は、一つ伸びをしながらお風呂に向かう。

「ふ~、今日は結構忙しかったねー」
イツモノ コトデ アルナ

 向こうに転移して早々、潜伏中のドルメア軍斥候部隊と遭遇。
 交流を図って地理的な情報を少し手に入れ、ドルメア中枢軍の入る拠点砦に案内されたものの、威力偵察を受けたのでガッツリやり返した。
 ついでに諜報も仕掛けてドルメア軍の機密情報をごっそり掴んだ。

 それから調査の目的地である王都ハルージケープに入り、トレクルカーム王国の歴史や現状を把握。
 名門を自称する貴族家の嫡男と知り合ったので、彼の国の上流層と渡りをつけてもらうべく自己紹介してきた。

『明日は朝一でアルサレナさん達に報告して、国交結ぶかどうか相談しましょうか』

 オルドリアからはかなり離れている遠い国なので、一旦正確な位置や距離を測って交流可能か否かも調べる必要がある。
 船や竜籠で交易ができるのか。それらが無理だった場合、グランダールの魔導船ならどうか。

 アンダギー博士が取り込んでいる『転移門』による『転移回廊』が実現すれば、そういった距離の問題も解消されるのだから、改めて考えても凄い技術だと朔耶は思う。

「まあ、そんな便利なものがそうそう簡単に実現できたりはしないんだろうけど」

 などと、どこかでフラグが立っていそうな事を呟いた朔耶は、庭から居間に帰宅するのだった。

「ただいま~」




 翌日。朝からオルドリア大陸の王都フレグンスに転移した朔耶は、王宮に出向いて南方大陸で見て来た事をアルサレナ達に報告した。

「まだその国と直接対話もしてないんで、どうなるか分からないですけど」

「なるほど。情勢不安を抱えている現状ながら歴史ある大国。魔導技術が高く、宝石や貴金属が豊富に採れる土地ですか」
「それほど遠いのであれば、互いに形だけの友好国となるやもしれんが、それで不利益も無し」

 アルサレナ王妃は、交易相手としては悪くないのではと見積もっている。カイゼル王もトレクルカーム国にその気があるのなら、国交を結んでも良いという考えのようだ。

 そんな訳で、これから朔耶が向こうで動く時に使える手札として、フレグンス王室からの親書なども用意しておく運びとなった。
 これまで通り、ある程度までは朔耶の裁量で交渉を進めて、事後報告でも構わない。


 王宮で用事を済ませた朔耶は、王都の自宅であるサクヤ邸と工房にも立ち寄り、親友兼専属メイドの藍香と近況報告の他、細かい打ち合わせなどをしていく。

「朔ちゃん、お疲れさまっ 逢いたかったよぉ~」
「藍は相変わらず元気ねぇ……」

 朔耶の工房の運営は既にその殆どを藍香に任せている。
 定期的に地球世界の実家に里帰りしては、現代文明の恩恵の中で次のアイデア商品の構想を練り、こちらの魔導具で再現するというやり方で人気商品を増やしていた。

 藍香が地球世界で商品の構想を練る時、都築家に来て朔耶の弟である孝文によく相談している姿を、朔耶と兄重雄はほっこりしながら(隠れて)見守っていたりする。

「そろそろ藍の里帰りする日を決めないとね」
「あ、もうそんな時期? 朔ちゃんの都合の良い日でいいよ?」

 しばらくは南方大陸で調査の残りを片付けつつ、少し外交の真似事をするくらいなので、こちらの休日などに合わせて藍香の里帰りスケジュールを決める事にした。


「それじゃあまたね」
「いってらっしゃい。朔ちゃん」

 サクヤ邸で昼食を済ませて地球世界に帰還した朔耶は、藍香の実家である美村家に連絡を入れる予定を立てつつ、ふと思う。

『そろそろ藍の両親にも異世界の事を明かすべきか考えなきゃだわね』
スデニ サヤカドノト キョウヤドノノ リョウケニハ アカシテイル カラナ

 フラキウル大陸組の二人とは事情が大分異なるものの、藍香もスパン長めで異世界と地球世界を行き来しながら異世界むこうの朔耶の屋敷や工房で働いている。
 もう一人の親友、川岸財閥のお嬢様である実穂の厚意にこのまま頼り続けるのも、あまりよろしくないかもしれない。

 美村家の両親の認識では、藍香は『川岸財閥が所有する海外の別荘で家政婦見習いとして働いている』という事になっており、定期的な手紙のやり取り一つでも複数の手順が踏まれる。

 異世界で朔耶が受け取り、地球世界に持ち帰った手紙それを実穂のコネで一旦海外に運び、そこから国際郵便で藍香の実家宛に届けられるのだ。
 暮らしている場所と職場が国外である事は間違いないのだが。

『まあ、こっちは藍と実穂とも相談しないとだから、また予定が噛み合った時だね』
ジジョウヲ シル ミカタハ イクライテモ ヨイ

 そんなこんなと、今日もやる事の多い朔耶だったが、以前のようなオーバーワーク気味な活動を改めて、一日に進める案件を二つか三つに抑えている。
 勿論、緊急の時はその限りではないが。

『さて、昨日の件は何か動いたかな?』
ヨウスヲ ミネバ ワカラヌナ

 トレクルカーム王国の内情と共に、『彷徨い人』と呼ばれる異世界人の存在を知った。今現在、あの国では『キミカ』という名の彷徨い人異世界人が、『錬金術士』として暮らしているらしい。

 それが沙耶華や京矢のように、事故などで意図せず世界を渡ってしまった遭難者だった場合、帰還に向けて協力したい。

 情報提供者であるルタシュ・アズタールの話しぶりからは、貴族の上流層でも一目置かれる立場に在るようだったので、接触するにしても相手側の事情を鑑みて手順を踏むべきだと判断した。

『ま、ちょっと慎重にいきましょ』
イツモ ソウセヨ

 神社の精霊に軽くツッコまれながら、朔耶は今日も南方大陸へと転移するのだった。



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