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トレクルカーム王国編
第四章:トレクルカーム国の現状
しおりを挟む王都ハルージケープに入った朔耶が色々と情報収集をした結果、分かった事。トレクルカーム王国は現在、分裂の危機に見舞われていた。
これまでトレクルカーム王国に属する各支分国にとって、作物が育たない大地においては王都から配布される食糧が唯一の命綱だった。
その大前提が、先日の『虹色の光』――大規模魔力変動によって崩れてしまった。
農業が可能な土地になった事で、『実りの大地』を持つトレクルカーム王国の絶対的な優位性が失われた。
以前から、近隣国による食糧支援を囁いての離間工作はあったのだが、トレクルカーム王国の優れた魔導技術に支えられた高い軍事力。
呪われた大地という特殊な環境下で生きる者同士の古い繋がりが、それら切り崩しを跳ね除けて来た。そんなトレクルカーム王国と各支分国との結束に、綻びが出始めたのだ。
『急激な体制変化で空中分解しそうになってるってわけね』
フクザツナ ジジョウガ アルヨウダ
祖先が護り抜いて来た国体は維持したい。しかし、国に根付いた呪いも何とかしたい。されど、呪いのお陰で祝福が機能して、これまでの体制が保たれていた。
呪いが解消されてトレクルカーム国の全土に作物を育てる力が戻ったのはいいが、それによって宗主国であるトレクルカーム王国の各支分国に対する唯一無二だった優位性まで失われた。
今のトレクルカームの王室は、各支分国とこれまで通りの関係を継続できるよう色々と交渉して策を練っている最中なのだそうな。
この国の機密に当たりそうな――というか、機密だったであろう『実りの大地』や『虹色の光』に関する情報が容易く手に入るのも、そんな策の一つ。
これまで『実りの大地』の機能を維持するには、王族の生け贄が必要だった。
トレクルカーム王国の体制を三百年以上も支えて来た歴史の背景には、王族が身を犠牲にしていた事実があった、という部分を強調して、各支分国はもとより民衆からの支持も得ようという作戦。
『色々考えてるんだねー』
トカク イセイシャハ ナンギナリ
兎にも角にも、これで朔耶が調べたかった大規模魔力変動の正体は判明した。この大陸の調査も七割方終わったと言える。
ノコリノ サンワリハ ナンゾヤ?
『あの宝石の塔の効果とか、どうやって呪いが解けたのかとか、あと引っ掛かってる勘の正体』
トレクルカーム王国の内情は結構突っ込んだところまで情報が明かされてはいるが、細かい部分で色々隠されている内容もあるだろう。
別に全てを詳らかにする必要は無いのだが、ドルメア軍との意図せぬ邂逅から成り行きで打撃を与えるなど、少なからずこの国の事情に関わってしまっている。
勘の正体がハッキリするところまでは首を突っ込むつもりだという朔耶。
イツモ ドオリデ アルナ
『ぐぬぬ』
神社の精霊の的確なツッコミにぐうの音も出ない。そんな調子でぶらぶらと歩いていた朔耶に、声を掛けて来る者が居た――
「おお、奇跡の光で未来を灯せし麗しき異郷の乙女、その輝きは幾千の宝石のごとし」
――というか、突然ポエムっぽい言葉を投げ掛けて来た。朔耶が「え? なに?」と戸惑っていると、声を掛けて来た相手も戸惑う素振りを見せる。
「んん? あれ? キミカではない……?」
どうやら人違いをしたらしいその相手は、中分けゆるふわなプラチナブロンドの髪に碧眼。身形の良い服装をしており、如何にも貴族の坊ちゃんがそのまま成長した感じの男性だった。
「これは失敬。貴女の雰囲気が我が麗しの君に似ていたので間違えてしまった」
「はあ……」
仕草が一々芝居掛かっていて何とも奇妙ではあるものの、滑稽とまでは感じさせないだけの気品さがある。
(なんか完成したドーソンみたい)
朔耶はこの男性にそんな感想を抱きつつ、彼の先程の言葉の中に気になる部分があった事を意識する。
『キミカではない? って言ったよね? 名前だと思うけど、なんか響きが日本人ぽくない?』
ポイナ
少し気になったので交流を試みる。
「あの、あたし朔耶っていいます。この国に来たのは初めてなんですけど、少しお話を伺ってもいいですか?」
「おおっと、外国からのお客さんかい? 僕はルタシュ。名門アズターール家の嫡男さ」
ターールの部分が妙に巻き舌で伸ばされていて、ギャグでやっているのかとツッコミたくなる朔耶。どうやら結構由緒ある貴族家の嫡男らしい。
そんなルタシュに、先程の人違いの相手の事を訊ねてみると、彼は不思議そうな表情を浮かべながらこう言った。
「ああ、彼女は『彷徨い人』でね。最近この国にやって来た錬金術士なんだ」
「彷徨い人?」
「そう、こことは異なる世界から迷い込んだ異界人の事さ」
彼の説明によると、大昔の大魔術戦争で使用された召喚魔術による空間の歪みが未だ各地に残っていて、稀にその歪みから何かが召喚される事があるのだとか。
記録によると、戦争当時は異形の怪物が喚ばれていたのだが、稀に人間が召喚されて来る事もあったらしい。
そうして異界からやって来た人間の事を、この辺りでは「彷徨い人」と呼んでいるのだそうな。
「なるほど~、この地域にはそんな歴史があるんですね。とても参考になりました」
「そうかい? お役に立てたようで何よりさ」
シャランと髪をかき上げるルタシュ。やっぱり完成したドーソンみたいだと思う朔耶であった。
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