異界の魔術士

ヘロー天気

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トレクルカーム王国編

第三章:王都ハルージケープ

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 南方大陸に降り立って早々、傭兵国家ドルメアを名乗る大規模傭兵団と邂逅した朔耶は、案内された拠点砦から威力偵察的な攻撃を受けたので、数倍にしてやり返した。

 相手の脳筋威圧外交に脳筋で返してその力を印象付けた朔耶は、大被害を喰らわせた拠点砦から飛び去った――ように見せかけてステルスモードで再度接近すると、砦内部に潜入。
 傭兵王バスケードの近くをキープして情報収集に勤しんだ。

 ここで得た情報を手土産に、ドルメア軍と戦争しているトレクルカーム国の王都ハルージケープに赴き、大規模魔力変動と深く関連していると思しき『虹色の光』について調べる予定である。


(ここは作戦会議室ね。テーブルの上にあるのは戦略地図かな?)

 ドルメアが現在展開している各部隊や補給路。総兵力。周辺の街や村に潜伏している自軍兵や敵軍の協力者など、中々重要そうな情報が載っている。

 周囲に人が居ない時を見計らってスマホで撮影しておく。撮影音も精霊術で消しているので、今のところ誰にも気付かれていない。

(コウ君みたいに情報丸ごと引き抜いたりは無理だけど、これでも結構有用よね)

 あらかた撮り終えて満足した朔耶は、砦の武装復旧に勤しむドルメア軍の拠点から地球世界へと帰還した。



 自宅庭の転移陣――置き石のプチ・ストーンサークルに降り立つ朔耶。時刻はお昼を回る頃。

「ただいまー、お兄ちゃん居る~?」

 庭から居間に上がった朔耶は、スマホを取り出しながら兄重雄の在宅を確かめる。すると、丁度二階から兄が下りて来た。

「おかえりマイシスター、どした?」

 朔耶が異世界から帰還した時は、大体こんな風に顔を見せに現れる。何となく気配で分かるらしい。キモイとか言ってはイケない。

「ちょっとプリントアウトして欲しい画像があるんだけど」

 スマホを取り出しながら事情を掻い摘んで話す。

「お、また新しい紛争地域に武力介入してるのか」
「別に武力介入とかしてないし」

 あくまで調査をスムーズに進める為のアイテムだと主張する朔耶。勿論、説得力は無い。
 ともあれ、ドルメアの軍事機密資料を纏めた朔耶は、これを手土産にハルージケープに乗り込む計画を立てる。

「ひとまず下街で聞き込みをやって、向こうの偉いさんが動いたら手土産の出番ね」
「釣る気満々だな」

 トレクルカーム王国の全土を覆ったという『虹色の光』と、一晩で出現したらしい『宝石の巨塔』について堂々と聞き込みをおこない、情報収集をしつつ反応を見る。

 何か秘密があるのか、あるいは特に秘密などなく、街で訊ねれば普通に答えが返ってくる、誰でも当たり前に知っているような事情オチがあるのか。

(ドルメアの斥候部隊地影隊の人達もそれが何なのか調べてるって言ってたし)

 大規模魔力変動そのものだったと思われる『虹色の光』と、それによって現れた『宝石の巨塔』。
 朔耶としては、他大陸にまで及ぶような大きな災害が起きたりしないのであれば、別に詳しく知る必要はないのだが、何か勘に引っかかる感じがするのだ。

「うーん、この感じも久々だわ」

 今までにも勘に引っかかる何かがあって、調べてみたら色々な問題が解決に導かれたり、隠されていた悪意が暴かれる等といった経験を何度もしている。
 なので、今回も勘に従って動いてみるつもりであった。

「とりあえずお昼ごはん食べる」

 まずは腹ごしらえから。



 昼下がり。昼食と休憩を終えた朔耶は、ドルメア軍の機密資料を鞄に詰めると、庭に出て転移陣に入る。王都ハルージケープでトレクルカーム王国の偉い人に会った場合に渡すお土産だ。

『というわけで、今回はあの街の近くに』
ウム

 転移目標を王都ハルージケープの近辺に合わせて、自宅の庭から世界を渡る。次の瞬間には、大きな青い壁の前に居た。全体的に少しくすんでいるが艶もある、街を囲う青色の防壁。

『入り口は――あっちね。最初は姿消していきましょ』
シンチョウ ナノハ ヨイコトダ

 出入りを管理している門のところまでステルスモードで近付き、様子を見て門から正規の手続きを経て入るか、空から侵入するか決めるという朔耶に、神社の精霊も同意した。

 防壁をぐるっと回り込み、ある程度整地された道と繋がる門の近くまでやって来る。道の先には、ぽつぽつと歩いている人や荷馬車らしき乗り物が行き来していた。

 丈夫そうな分厚い大扉が半分ほど開いている門のところには、内と外に二人ずつ、門番らしき槍を持った兵士が立っている。
 朔耶は、ここを出入りする旅人風の人達と門番のやり取りを観察した。

(出入りに身分証とか必要なさそうね)

 門を出る時も街に入る時も、門番と一言二言話すだけで、特に何かを提示したり支払ったりというような動きは無かった。

 これだけ大きな街にしては警備が緩いように思えるが、それだけ平和なのかもしれない。
 ひとまずそう結論付けた朔耶は、適当に視線が切れる辺りまで移動してステルスモードを解除。歩いて門に向かった。


 街道を外れた平原地帯より現れた朔耶に、門番達は少し驚いたような表情を浮かべた。
 仕立ての良さそうな紅いコートを纏った黒髪の若い女性で、旅の荷物も無く手ぶら。小奇麗な身形からして何処かの貴族か豪商の令嬢かと訝しむ。

 門前までやって来た朔耶に、門番が声を掛ける。

「お嬢さん、初めて見る顔だと思うけど、王都ここには何をしに?」
「ちょっと調べものに来ました。ここに来るのは初めてです」

「調べもの? 城下街の図書館に行くのかい? それとも王宮の?」
「ううん、資料を調べに来たんじゃなく、この前の『虹色の光』とか、あの『宝石の塔』の事とかね」

 と、早速直球を投げて反応を見る朔耶だったが、門番は特に警戒したりするでもなく――

「ああ、アレか。って事はお嬢さんは学者さんか何かかな」

 ――と納得して通行を許可してくれた。どうやら秘匿されている類のものではないらしい。

『これは、少し当てが外れたかな?』
オモテムキノ ハナシト シンソウガ チガウ バアイモ アル

 やや肩透かし気味に感じる朔耶だったが、神社の精霊の指摘にもっともだと思い直すと、門番から聞き出せるだけの情報を聞き出しに掛かる。

 仕事が忙しいかと思いきや、ここの門番達は意外と気さくにこの国の事を教えてくれた。


 王都ハルージケープのそこそこ賑やかな城下街を歩きながら、朔耶は入手したこの国に関する情報を整理する。

 まず、このトレクルカーム王国は『宝石の国』と呼ばれ、その大地からは沢山の金銀宝石が採れる鉱山大国として、近隣国からよく狙われているらしい。
 そして最も特徴的な要素に、領内では一切の作物が育たないという致命的な問題を抱えていた。

 農業が成り立たず、作物の収穫が得られない代わりに、ここ王都には『実りの大地』という特別な土地があり、その場所でのみ農作物の育成が可能だった。
 『実りの大地』には通常の数倍の速度で作物が育つ効果があったとか。

 そこで得られる収穫物が、トレクルカーム王国と各支分国を含めた全体を支えていたという。
 王都から領内全ての街や支分国に食糧が配布され、その恩恵を受ける街々や支分国は王都に忠誠を示す証に、各種鉱石や貴金属などの資材を税として納める。

 この体制が、実に三百年以上も続いていたそうな。

『それが、この前の大規模魔力変動虹色の光で終わりを告げた、と』
イビツ ナガラ アンテイハ シテイタ ヨウダ

 しかし、その安定の裏には『生け贄』の存在があった。実はトレクルカーム領内で作物が育たないのは、大昔の錬金術士によってこの国に仕掛けられた『呪いと祝福』のせいだったらしい。

 呪いの効果で領内の土地から吸い上げられた生命力は、祝福となって王都の『実りの大地』に集められ、数倍の速度で作物を実らせる。
 この『実りの大地』の効果の維持に、代々王族から生け贄が奉げられていたのだと。


『これって結構突っ込んだ内容よね? 門番の人は、簡単に教えてくれたけど……』

 この国の機密に当たりそうな内容だけに、問題にならないのかしら? と朔耶は小首を傾げる。

モンダイハ ソコデハ ナイヨウダ
『というと?』

 神社の精霊によると、説明してくれた門番の周りで一緒に話を聞いていた他の門番や衛兵達から読み取れた心情として、寧ろ多くの人に知って貰いたいという意図が感じられたという。

 一見問題無く平和な営みが続いている王都だが、実際は急な体制の変化に対応出来ず、混乱している部分が多々あるようだ。

 王都を出入りする人々に対する門番の緩い対応も、その一環らしい。


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