異界の魔術士

ヘロー天気

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トレクルカーム王国編

第六章:Kの依頼

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「到着っと」

 地球世界の自宅庭から人気ひとけのない王都の裏路地に転移して来た朔耶は、今日もお土産を入れた鞄を提げて、表通りの道に歩き出す。

 朔耶が大規模魔力変動の調査で南方大陸にやって来るようになって、既に四日目。
 トレクルカーム王国の貴族、ルタシュ・アズタールと出会ってから一日おきくらいに王都ハルージケープを訪れているが、再び彼と遭遇することは無かった。

(ぶらぶら歩いてれば、向こうからアプローチが来ると思ったけど、また当てが外れたかな?)

 とはいえ、上流層との顔繋ぎなど普通は時間の掛かる事である。もう二、三日様子を見て動きが無ければ、こちらから働き掛けようかと検討する朔耶。

 そんな調子で今日まで情報収集を続けてきた結果、この国の内情については更に細かいところまで理解できた。


 『実りの大地』を持つ王都が国内の全ての食糧配給を担っていたこれまでの制度上、まだ新しい環境に対応できていないという話は、先日の門番達から聞いた通り。

 他所から来た朔耶が王都に出入り自由な現状は、そういった混乱と苦慮の一環。
 以前はそもそも国内を移動できる人間が限られていた。どこから誰が何の目的で来るのか、予め厳密に決められていたので、入出の記録や荷物検査などを厳しくする必要がなかった。


 基本的に街や村に住む平民の住人は、ほぼ一生その地域から出ることは無い。
 ゆえに、余所から来て悪さをするような者もいなかった。食糧や物資の供給をが完全に押さえて管理していたので、犯罪組織なんてものも生まれ難く、結成されても大きくなれない。

 今はその前提が崩れて、闇市的なものが出始めているらしい。まだ大っぴらに治安が悪化しているわけではないが、徐々に色々と暗躍する輩が増えて来ているそうな。


 屋台でクレープっぽい食べ物を買い食いしながら王都の通りを歩いていた朔耶は、夕暮れ時の空を見上げて溜め息を吐く。

『う~ん、今日も空振りかぁ。そろそろ帰ろうかな』
ジミチニ ススメテ ユクシカ アルマイ

 ちなみに、この地域の通貨はドルメア軍の拠点砦を叩いた時に拝借したものである。

トコロデ ツケラレテ オルゾ
『うん、気づいてた』

 神社の精霊と少し打ち合わせして、今日転移して来た裏路地へと向かう。
 先日ルタシュの目の前で帰還転移したのはインパクト狙いであり、普段は人目につかない場所で転移するようにしている。

 朔耶が路地に入ると、露店で買い物をした辺りから後を付けて来ていた人相のあまりよろしくない二人組の男が、出入口を塞ぐように足を早めて追って来た。
 そして、前方からも彼らの仲間と思しき二人組の無頼漢がぶらりと現れ、絡んでくる。

「よお姉ちゃん、ここは物騒だぜぇ」
「俺たちと一緒に――ぶげぇっ」

 バチバチッと迸る青白い雷光を纏った朔耶の右手が振り抜かれ、不用意に手を伸ばしてきた男の片方が稲妻ビンタに張り倒される。それに驚き固まっているもう片方にも返す刀で往復稲妻。
 後方の二人には意識の糸を絡めての電撃一閃。瞬く間に四人を沈めた朔耶は、そのまま流れるように帰宅転移した。

「ふぅ。あれも治安が悪くなってるって事なのかしらね」
イシキヲ ヨンダ カギリ ソシキダッタ モノタチデハ ナカッタ

 神社の精霊の観察によると、人買いや人攫いを生業にしているような、犯罪組織と繋がる者達ではないとの事。ただの運の悪いチンピラだったようだ。


「ただいま~」

 いつものように庭から居間に上がり、洗面所で手を洗って自分の部屋に向かう。お土産の入った鞄を置き、スマホを充電器に差してお風呂へGO。

 地球世界の安心安全快適な我が家で日常を満喫する。朔耶のバイタリティー溢れる行動力は、ある意味こうやって毎日充填されているのだ。

 夕飯も済ませて部屋に戻って来た朔耶は、充電器に差してあるスマホ画面に見慣れない表示を見つけた。

「ん? 何これ、留守電?」

 留守番電話らしきリストには、『御国杜コウ』の名が表示されていた。そして電話番号ではなく、記号のような文字が並んでいる。
 ちなみに、朔耶はスマホの留守電機能を使っていない。とりあえず再生ボタンを押してみる。

『夜分に恐れ入ります。エイネリアです。朔耶様に協力をお願いしたくご連絡させて頂きました』

 そんなメッセージが入っていた。

「コウ君のネリアちゃんからだわ。これ、超古代魔導技術でなんかしたのかしら?」

 少し疑問に思いつつ謎の留守電リストから掛け返してみる。コウ少年は今、フリージャーナリストの彩辻美鈴と共に取材旅行に出掛けている筈だ。
 電話というか、通信は直ぐに繋がった。

「もしもしコウ君? 留守電聞いたんだけど、どうしたの?」
『ちょっと朔耶に手伝ってほしいことがあるんだ』

 コウ少年は、そう言って現在の状況を説明し始めた。話によると、仙洞谷町せんくつだにまちという取材旅行先の町で面倒な集団とトラブルに遭っているのだとか。

 何でも、犯罪紛いの事を仕掛けてくる相手グループのリーダーは、身内にかなり力のある代議士が居るらしく、そのコネを使って好き放題やっているらしい。
 警察関係者にも影響力を持っているので、この町の行政機関は問題解決の当てにならないのだそうだ。

 話している間にも意識の糸を伸ばしてコウ少年の精神体に繋ぎ、具体的にどんな支援が欲しいのかイメージから直接情報を得る。

「ふむふむ。実穂の伝手コネを借りたいわけね?」
『うん。いける?』

「ちょっと聞いてみるわ。直ぐまた連絡するから待ってて」

 朔耶はそう言って一旦電話を切ると、藍香と同じく高校時代からの親友である大財閥のお嬢様。川岸実穂のプライベート番号に電話を掛けた。
 ほぼワンコールで繋がった。

『朔耶ちゃん? こっちに掛けてくるなんて、珍しいね』
「やほー、実穂。元気してた?」

 お互いに「久しぶりー」と軽く挨拶代わりの雑談を交わし、おもむろに本題に入る。

『それで、今日はどうしたの?』
「うん、ちょっと実穂の家の力を借りたくて」

『家? てことは、川岸の名を使いたいって事?』
「そうなの。相手は北条代議士って人になるんだけど」

『ああ、あの人』
「知ってるの?」

『前に北条家の息子さんやお孫さんが、わたしの婚約者候補のリストに上がってたの』
「ほへぇ~~」

 中々ブルジョワな話題だとか考えている朔耶。
 実穂の話によると、川岸家側は大物代議士の北条氏と縁を結ぶことで政界に強いコネクションを。北条家側は大財閥の川岸家を取り込むことで、財界に影響力を持てる。

 そんな思惑も含ませながらの縁談が持ち上がっていたのだが、素行調査で北条氏の家族回りに問題が目立った為、話は立ち消えになったらしい。

 北条家の長男は四十代も半ばを過ぎた実家暮らしの引きこもりらしく、実穂を嫁がせるには歳の差も然ることながら、あまりにもスペックが釣り合わない。
 孫の方は若い企業家だが、素行が悪過ぎて論外となった。

「あ、どうもその孫の人とトラブルになってるみたいなのよ。コウ君が」
『あ~、宗近さんかぁ。てゆーか、あの人あの子コウ君に喧嘩売ったの?』

 実穂は、コウ少年とはまだ直接顔を合わせていないが、朔耶からも色々と話を聞いているので、彼の事はよく知っていた。
 コウ少年の読心能力の前では、後ろ暗い事もそうでないものも全てすっぱ抜かれる。

『それなら案外簡単かも。わたしの人脈だけでも十分そうだけど、一応両親にも話を通してみるね。多分、北条家と繋がりのある財界の人から色々言ってもらう事になると思う』
「ありがと~、助かったよ。それじゃあよろしくね」

 実穂と話が付いたので通話を終えた朔耶は、兄重雄を呼び出して事情を話し、現状で打てる手を打っておく。

「実はかくかくしかじかでコウ君のところまで様子見に行って欲しいのよ」
「あー、コウ君は大丈夫として彩辻さんが心配だな」

 重雄は「それなら知り合いの刑事さんも誘ってひとっ走り行ってくる」と、自分の部屋まで車のキーを取りに戻った。


 その後、カーナビを立ち上げて仙洞谷町に出発する兄を見送った朔耶は、謎の記号文字番号から通信を繋いで、コウ達に実穂の協力が得られた事を報告する。

「話は通しておいたわ。実穂からご両親に相談して――色々動いてもらう予定よ」

 少し時間は掛かるかもしれないが、北条代議士に近しい財界の人から圧力をかけてもらう事になるらしいと説明しておいた。

「後、お兄ちゃんと知り合いの刑事さんも派遣しといたから、何かあったら車で避難しちゃって?」
『りょーかーい。ありがとう』

 コウ少年との通信を終えた朔耶は、もう一度実穂に電話を掛けると、向こうコウ達に知らせておいた事を報告した。

『うん、わかった。なんかお父さんの知り合いの人が凄く張り切ってるみたいだから、期待して待ってて? 朔耶ちゃんお疲れ様』
「ん、ありがとね。実穂もお疲れ」

 朔耶は『北条代議士のライバルの人でも居たかな?』などと推察しつつ、実穂との通話を終えて一息吐いた。





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