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トレクルカーム王国編
第七章:進捗と再会
しおりを挟むコウ少年の協力要請に応えて仙洞谷町に派遣した兄は、深夜過ぎに帰って来た。一応解決を見たので、明日当たり実穂からも報告があるだろうとの事だった。
明けて翌日。実穂からの報告を待つ間、コウ少年に連絡を入れて様子を尋ねると、無事トラブルは解決したらしい。
事の顛末を搔い摘んで説明されたのだが、相手のやらかし具合に思わず閉口する朔耶。
「はぁ~、撮影の場所取りから子供相手に暴力沙汰で、拉致監禁未遂に放火未遂って、どんだけ凶悪なのよ、その人」
『本人の性格もあるけど、環境が色々増長させちゃったみたいだね』
権力者の身内というコネを使って好き放題しているとは聞いていたが、そこまで映画やドラマに出てくる悪役みたいな人間が実際に居るとは、と驚きを隠せない。
そして話題は今後の予定へと移り、互いの近況を語り合いつつ雑談に興じる。
『あしたで取材も終わるから、あさってにはキョウヤの家にもどる予定だよ』
「そっか。京矢君はまだしばらく向こうよね」
『朔耶は今何してるの? また狭間世界?』
「ううん、今は南の大陸を調査中よ」
大規模魔力変動の調査で訪れている南方大陸の事を少し話す。宝石で出来た防壁や塔などの建物を持つ大国の話には、コウ少年も興味を持ったようだ。
『へー、お金持ちな国なのかな』
「ん~それが、何か最近まで呪われた国だったらしくてね。色々あったみたいなのよ」
国家の体制が変わるほどの大きな変革により、未だ混乱が続いているトレクルカーム王国。要救助者の存在もあるかもしれないなど、まだまだ不明な部分も多いので今は慎重に進めている。
『いつもの体当たり外交じゃないんだ?』
「別に外交目的で調べに行ってるわけじゃないからね」
とは言いつつ、朔耶の活動と報告でフレグンスの王室はトレクルカーム王国と国交を結ぶべきか検討を進めているので、意図せずとも外交活動になってしまっているのは今更であった。
コウ少年との通信を一段落させた朔耶は、実穂からも問題は解決した旨の報告を受け、改めて協力に感謝しておいた。
ついでに藍香の帰省と彼女の両親に異世界の事を明かすタイミングについて相談する。
『そうだね。うちの両親にもそろそろ交易相手の事を話すべきか、わたしも考えてたから――』
「そっか。実穂の場合は利益も大きいから、いつまでも秘密にしておくのは不味いわよね」
この問題は藍香とも話し合ってタイミングを計り、御国杜家や遠藤家の時と同じく、双方の親族を呼んで一緒に明かす方が良さそうだという事になった。
その時はまた、川岸財閥のホテルに関係者のみを集めてのイベントになるだろう。
「さて、コウ君の突発イベントも解決したし、朝ご飯も食べたし。今日もハルージケープの様子を見に行きましょうかね」
ちなみに、今日も何も起きそうになければ、お城を訪ねてみる予定である。お土産の入った鞄を提げ、庭の転移陣に入って準備完了。
『じゃあ、いつもの路地裏へ』
ココロエタ
景色が切り替わり、ここ数日通いなれた薄暗い路地に出た。瞬間、魔法障壁が展開して何者かの攻撃を弾き返す。
「うん?」
「な……っ!?」
朔耶がふと見やれば、この路地裏の景色に馴染みそうな白と灰色の衣装を纏った忍者みたいな人影が、弾かれた短剣を片手に驚いている。
『いきなり何?』
ドルメアノ モノノ ヨウダ
どうやらドルメア軍の潜入員らしい。突然近くに朔耶が現れたので、奇襲を受けたと思って攻撃に出たようだ。とりあえず意識の糸を絡めておく。
「地影隊の人じゃないわね」
「……何者――いや、その身形に黒髪……先日の砦を襲撃した、他国の彷徨い人か」
「襲撃されたのはこっちなんだけどね」
呼びつけておいて攻撃されたのでやり返しただけだと嘯く朔耶。ドルメアの潜入員は短剣を構え直すと、体勢を整えつつ問う。
「貴殿は、なぜここに」
「この国の偉い人達とちょっとお話したくてね。最近通ってるの」
この前知り合った貴族の若者に取り次いでもらうつもりだったのだが、今日まで音沙汰も動きも無いので、そろそろ自分から会いに行こうか考えていたと朔耶が語ると、潜入員は目を丸くする。
「そ、それは――トレクルカームに付くという事か」
「さあ。その辺りも偉い人と会ってお話してみない事には何とも」
ドルメアの潜入員は、朔耶がトレクルカーム王国側に付くと戦力バランス的に自分達が危うくなると感じているようだ。
「って言っても、あたしは積極的に戦いに加わったりはしないわよ? 今は別の目的もあるし」
オルドリア大陸のフレグンス王国から来た使者として、トレクルカーム王国との友好や国交の事までは考えるが、それでドルメア軍や他の近隣国との戦争に加担するかは別問題だ。
「では……条件次第では我々に付く場合も?」
「あ、それは無理」
潜入員の問いをバッサリ返した朔耶は、固まる潜入員に逆に問う。
「初手で射掛けてくるような相手と仲良くできると思う?」
「いや、それは、うむむ……」
拠点砦での顛末とその詳細を把握している潜入員は、あれはバスケード王の自業自得だと分かっていた。ゆえに、何とも言えない表情で唸っている。
「そんな訳だから、あたしの勧誘は諦めてね」
朔耶はそう話を締めくくってこの場を後にした。残された潜入員は、ここでの会話が通信魔導具で本部に届いていた事を確認すると、追加の任務を賜って路地裏の影へと消えていく。
その様子を意識の糸を通じて監視していた朔耶は、先ほどの潜入員がこれから合流しようとしている仲間の潜伏場所や、現在ハルージケープで活動しているドルメア軍関係者の情報も入手。
お土産に加える事にした。
『体制変わって混乱中でセキュリティガバガバなのは仕方ないとして、ドルメアの人も大概よね』
ワレラノ チカラモ トクシュデ アルコトヲ ワスレテハ ナラヌ
王都内に入り込んでいるドルメア軍関係者の多さに閉口するも、そのドルメアの潜入員も油断が過ぎるのではないか等と思う朔耶に、神社の精霊から自身を正しく認識するようお小言が出る。
朔耶にとってはもう日常の一部なので自覚が薄くなってしまっているが、世界の壁を越えて自由に行き来できる事自体、本来はあり得ない奇跡の領域である。
さらには精霊と重なって同等の力を行使できる事も、その状態で人間であり続けられる事も含めて、朔耶は存在自体が異常事態なのだ。
『んな人を非常識の塊みたいに……』
ソコハ ジカクセヨ
神社の精霊はそう忠言しつつも、自覚が薄いからこそ未だ人の感性を保っていられる可能性にも思い至り、あまり強くは促せないでいた。
昼過ぎ。
一度地球世界に戻り、昼食を挟んで再びハルージケープを訪れた朔耶は、下街は歩き尽くした感があるのでお城方面に向かうことにした。
『やっぱり囲郭都市だと広さにも限界があるわよね』
イズコノ ミヤコモ シカリ ナリ
神社の精霊とそんなやり取りをしながら歩いている内に城下街を通り抜けた朔耶は、城門の近くまでやって来た。
城門前は広場のようになっていて、人もまばらだ。
王都を囲う宝城壁と違い、城壁は普通の石壁だった。巡回らしき兵装の人が、ちらちらと朔耶に視線を向けている。
『お城の前まで来ちゃったけど、どうしようかな』
ダイブ チュウモクヲ アビテオルゾ
その時、一台の馬車が城の方からやって来て手前の門が開かれた。
深い緑カラーな車体には角笛を模した紋章。豪奢な装飾も入った貴族用らしき馬車が城門前の広場を通り過ぎていく。
朔耶がそれを目で追っていると、馬車が突然急停車した。
何事かと注目している朔耶の前で扉が開かれ、転がり落ちるように降りてきた若者が声を上げる。
「き、君っ!」
「あ、ルタシュさん」
アズタール家の嫡男ルタシュとの、数日ぶりの再会であった。
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