異界の魔術士

ヘロー天気

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トレクルカーム王国編

第八章:ドルメアホイホイ

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 トレクルカーム王国の王都ハルージケープに通うようになって五日目。
 城下街を歩き尽くしたのでお城の前までやって来た朔耶は、偶然にも先日に出会ったこの国の貴族家の嫡男、アズタール・ルタシュと再会した。

 彼は朔耶との邂逅の件についてお城に呼ばれていたらしい。
 国の偉い人達が集まった会議の席で、『もし遭遇したなら直ちに報告を上げるように』と、国王の側近周りからその場の全員に向けて強い通告が出されたそうだ。

 そんな会議の帰りに、城門を出たところで朔耶を目にしたものだから、慌てて声を掛けたという。

「斜陽囁かれる夕暮れの王都に一筋の光を射し込む希望の星。君こそまさに輝ける太陽!」

 ――という感じの謎ポエムを聞かされながら、朔耶はアズタール家の馬車で王城に向かっていた。先ほど城門から出たばかりの馬車がUターンして戻って来たことで、門番の兵士が慌てている。


「君の事を報告しようと陛下に謁見を申し込んでいたのだが、随分と時間が掛かってしまってね。ようやく報告できたと思ったら、各派閥の代表を集めての緊急会議で説明させられたよ」

 緊張して参ったと苦笑するルタシュは、報告が遅れた事も問題視されたと肩を竦めている。

「あたしも一日置きくらいに来てたんですけどね」
「いやはや、街に連絡員の一人も待機させるくらいすべきだった」

 ルタシュは、普段あまり下街をうろつく事はないらしい。
 突然の重要人物との遭遇に、報告すべき内容が内容だったので焦ってしまい、色々と手抜かりな対応をしてしまったと反省しているようだ。


 やがて城の玄関前にあたる広い場所に出た。馬車を降りる場所から城の入り口まで、白い石畳の通路が伸びている。
 入り口の扉脇には城門の兵士よりも豪奢な甲冑を着けた見張りが立っており、執事っぽい正装の老紳士が扉から出てくると、ルタシュに用向きを訊ねる。

「これはアズタール様、如何なさいました?」
「突然済まないが、探し人が見つかった。陛下かカフネス侯に取り次いで頂きたい」

「――あー……では、こちらでお待ちを」

 ルタシュの勢いに圧されるように、執事っぽい老紳士はルタシュと朔耶を控室へと案内した。

「……」
(ん?)

 部屋に入って直ぐ、ルタシュの表情が一瞬曇ったように見えた。気になった朔耶は訊ねてみる。

「何かありました?」
「ん、いやあ、この案件は主賓クラスの客人扱いになる筈なんだけど、流石に一介の案内人にまでは通達が届いてなかったみたいだねぇ」

 大変申し訳ないと、ルタシュはバツが悪そうに頭を下げる。どうやら案内された控室が一般的な下級貴族や平民の商人用で、重要な賓客を迎えるには格式が足りないらしい。

 朔耶はその辺りのメンツなど気にしないし、十分立派な部屋に思えるのだが、アズタール家の嫡男としては、大切な客人を粗末な部屋で待たせるなど、トレクルカーム貴族の沽券に関わる大事のようだ。

 それから暫く待っていると、メイドさんがトロリーを押してお茶を運んできた。ティーセットと一緒に一口サイズのお菓子もお皿に盛られていて華やかだ。

 普段なら朔耶のテンションが上がるところだが、何やら勘が働いたようで気分は平常通り。そして、神社の精霊から警告が入った。

ドクガ モラレテ オルゾ
『あらら。どっちに?』

 神社の精霊によると、両方のお茶及びお菓子にも別種の毒が交じっているとの事。毒の強さは分からないが、猛毒だったなら中々に殺意が高い。

『このメイドさんは?』
クロ ダ

 他にもこの部屋を見張っている者が二人。左右の壁の隠し空間にそれぞれ潜んでいる。その内の片方は黒――明確に敵対意思を向けているそうな。

 とりあえず、暗殺メイドさんと壁の敵対者に意識の糸を絡めた状態で声を掛けて揺さぶり、情報を引き出す事にした。
 一応、敵対意思を持っていない、もう片方の壁の人にも絡めておく。


「その毒は強いの?」
「はい?」

 朔耶が訊ねると、メイドさんは作業の手を止めながらきょとんとした表情で振り向く。隣でルタシュが「え?」という表情を浮かべている。

「そのお菓子とお茶、別々の毒が入ってるみたいだけど、合わせると効果が変わるとか?」
「あの、ええと……」

 メイドさんは困惑した様子で言葉に詰まっているが、内心では『見抜かれた。第二策に移行』と、プランBを発動しようとしている。
 壁の敵対者も同じ考えらしく、背後からの急襲を狙っているようだ。

 もう片方の壁に潜んでいる人は、戸惑いと警戒心を高めながら様子を窺っており、城内の衛兵を応援に呼ぼうかと考えているあたり、正規? の控室の監視者なのだろう。

 やがて、困惑顔でもじもじしていた暗殺メイドさんが動いた。

「申し訳ありません!」

 そう叫ぶように頭を下げる。が、それが合図らしく、壁に潜んでいた暗殺者が背後に飛び出して来た。
 タイミングを合わせて、暗殺メイドさんが頭を下げた状態から勢いよく身体を起こしつつ、熱湯の入ったティーポットをこちらに放り投げ、スカートの前掛けに潜ませていた暗器を抜く。

 二重三重に不意を突くような同時奇襲攻撃は、全て朔耶の魔法障壁に阻まれた。
 隣でルタシュがアワアワしているのを尻目に、朔耶は二人の暗殺者に絡めてある意識の糸から電撃を発現。一瞬で昏倒させて襲撃を終わらせた。

 そこへ、もう片方の壁の空間から正規の監視役が現れる。

「これは一体……アズタール殿、説明を頂きたい」
「へ? い、いや、僕にも何が何だか……」

 ひたすら困惑しているルタシュに変わって、朔耶が状況の説明をする。

「こんにちは。あたしはオルドリア大陸から来た異世界人の朔耶です。こちらには大規模魔力変動の調査で訪れてましたが、今はこの国に居るキミカって人に会えればと思ってます」

 お土産にドルメア軍の機密情報を幾つか持参している事を告げた。そして、床に伸びているこの暗殺者達が、ドルメア軍の関係者である可能性も示唆する。

「あと、あたしとルタシュさんをここに案内した人も怪しいかも?」
「それは……少々お待ちください」

 それから間もなく、正規の監視役に呼ばれた城の衛兵が踏み込んできた。隊長らしき偉丈夫が衛兵達に暗殺者の拘束を指示すると、朔耶とルタシュにも話を聞きたい旨を訴える。

「詳しい事情を窺いたい。ご同行願う」
「うーん……」

 朔耶は、既に彼らにも意識の糸を絡めていた。そして、衛兵隊長に対する神社の精霊の判定は黒。明確に敵対意思を持っている。
 決定的だったのは、二人の暗殺者に対して仲間意識を持っている事。

 ドルメアの手の者が城の中にまで入り込んでいて、ルタシュの突発的な謁見の申し込みに即座に暗殺者を差し向ける事ができて、城の衛兵の指揮官にも敵方が交じっているという状態。

『これ、完全に内部に手引きしてる人が居るパターンよね』
ヨクアル セイソウノ イッカンヤモ シレヌ

 権力闘争で優位に立つ為に、外部の勢力と手を組むのは珍しい事ではないという。とりあえず、裏切り者の衛兵隊長を電撃で沈めた朔耶は、事情を話して別の人を呼んでもらう。

 いきなり隊長を昏倒させた朔耶に衛兵達は驚いていたが、彼らの中には敵対者は居ないようだった。
 話を聞いた正規の監視役の人が頭を抱えていた。


 一連の騒ぎを受け、新しい衛兵隊長の部隊と共に城を護る騎士隊までやって来て、控室の周辺は騒然とする。

 この頃には状況を把握して大分落ち着いたルタシュが説明役をやってくれた。朔耶に関しては、今日の昼の会議で主題になっていた重要人物であるとの説明で騎士達には通った。

 彼らには『遭遇したなら直ちに報告を上げるように』との通告が出されている他国の異世界人の情報が届いていたようだ。

「現在、会議に参加していた方々に呼び戻しの使者が出ています」

 全員の登城にはまだ時間が掛かるので、それまでに今回の騒動の詳細を訊ねておきたいからと、別室に案内しようとする騎士隊の薦めに、朔耶はご遠慮する。

「この部屋でいいよ。詳細って言っても、ドルメアの人が暗躍してて、それに加担してるこの国の人が居るってだけだし――ていっ」

 そんなやり取りをしている間にもまた一人、朔耶の電撃で昏倒する者が現れる。拘束されている暗殺者にさり気なく近づいていたその人物は、追加で呼ばれた騎士隊の一員だった。
 拘束を解くための暗器と『気付け』に使うらしい薬品を隠し持っていた。

「尋問室に移動する途中で騎士団の宿舎にある隠し通路から逃がすつもりだったみたいよ?」

 朔耶から説明を受けた騎士隊の隊長が頭を抱えていた。


 その後、会議の準備が整ったとの知らせを受けて、朔耶がルタシュと共に王宮の特別な会議室に案内されたのは、空も茜色に染まる夕暮れ時であった。



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