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トレクルカーム王国編
第九章:黒幕糾弾RTA
しおりを挟む特別な会議室に案内される少し前、偉い人と顔を合わせて事前の打ち合わせを行う。
「お初にお目に掛かる。私はカムレイゼ・カフネス。我が主トレク王の側近として仕える者だ」
「初めまして。オルドリア大陸のフレグンス王国から来ました、都築朔耶です」
ルタシュが案内人に取り次ぎを頼んでいた、国王陛下に次ぐ国家の重鎮。
カムレイゼ派という、トレクルカーム王国の中でも最大の派閥を率いるカフネス侯爵と面会した朔耶は、ルタシュと再会して城内に案内されてからの出来事をかい摘んで説明する。
既に報告は受けているであろうが、その報告内容に不備がないかを確かめる意味でも、まずは互いの情報のすり合わせを行った。
「ふむ……やはり、内通者が居るか」
「探りましょうか?」
「それは、簡単にできる事なのかね?」
「わりと」
カフネス侯爵は、まだ国交もない他国に大きな借りを作り、自国の恥を晒す覚悟で朔耶に内通者の燻り出しを依頼した。
「貴女の求める情報についても、出来る限り開示しよう」
「助かりますー」
朔耶は、元々の来訪理由だった大規模魔力変動に関する更なる詳しい情報と、この国で保護している『錬金術士キミカ』との面談を希望した。
大規模魔力変動についてはもう殆ど知りたかった内容を把握しているので、あとは巨大宝石塔の事や、まだ公に知られていない裏事情でも教えてもらえれば十分。
メインは『キミカ』が要救助者か否かを明確にする。人によっては元の世界に戻りたくない場合もあると思うので、まずは本人の意思確認だ。強引に連れ帰るような事はしない。
「では、キミカとの面談は諸々の後という事でよいかな?」
「はい、その流れでお願いします」
特別な会議室に入ってからの流れを話し合い、方針が決まったところで、カフネス侯爵は準備を整えておくと言って先に向かった。
その後、ルタシュと共に王宮の奥にある件の会議室の前まで案内される。
朔耶達が会議室に入る前に、全身赤タイツ風な道化師らしい小さいおじさんが颯爽と入っていった。思わず目を丸くしている朔耶。
『ほわ~、本物の宮廷道化師さんとか初めて見たわ』
ナカナカニ ソウメイナ ゴジンノ ヨウダ
ピエロのような奇抜な佇まいで滑稽な言動を演じながら、時に物事の本質を突く鋭い皮肉を利かせて紛糾しそうな会議の方向を調整したり、争いの火種を不発にさせたり。
立場上迂闊に発言できない王の気持ちを代弁する事も。
結構重要な役割を果たす立ち位置に居ながらの、にぎやかし要員。実際にそれほど有能なタイプの道化師は珍しいようだが。
さておき、宮廷道化師が突入してから、部屋の中より感じていた張り詰めたような雰囲気が少し和らいだ。
間を置かずルタシュが部屋に踏み入れたので、朔耶も後に続く。
扉をくぐると、一斉に注目を浴びる。昔はこういった人々から向けられる好奇や訝しみ、値踏みの入り混じった様々な視線に居心地を悪くしていたものだが、今ではすっかり慣れた。
サクヤヨ
『うん、気付いてる』
部屋に入ってすぐ、目的の人物を視界内に捉える。ワンレンボブヘアな黒髪の若い女性が、長い会議テーブルの端の方からこちらの様子を窺っていた。
飾り刺繍の入った貴族服風の白いコートを纏い、宝石の付いた髪飾りや首飾り、腕輪や指輪を身に着けているが、そのいずれにも強力な魔法効果が付与されているのが分かる。
『なんか、悠介君の特殊装備に似てるわね』
相手の女性も朔耶の事を同じ異邦人と意識したようで、少し驚いたような表情を浮かべている。互いに数秒ほど見つめあっていたところへ、進行役のカフネス侯爵が説明を始めた。
「皆、ここへ来る途中で少なからず聞いていると思うが、王宮内にドルメアの手の者が多数入り込んでいた。そればかりか、衛兵隊や騎士隊の中から裏切り者が出た」
先程までの騒ぎをかい摘んで説明する。ここに集まっているのは各派閥の偉い人達で、カムレイゼ派は強硬派と穏健派の二派に分かれているらしい。
他、中立派や融和派といった代表的な派閥があるようだ。
「そして、ここに居る彼女がその全てを暴き、対処してくれた。紹介しよう。遠方はオルドリア大陸の大国、フレグンス王国から来た異国の彷徨い人。ツヅキサクヤ殿だ」
「はじめましてー」
やや仰々しく紹介されたが、シンプルに挨拶をして居並ぶ各派閥の代表達を見渡した朔耶は、彼らの中から敵対意思を持つ者を探り出す。
部屋に入った時から既に意識の糸を絡めてあり、神社の精霊に判定を任せていた。
イルゾ
『いるんだ?』
朔耶に対して敵対意思を持つその人物が、内通者かどうかはまだ分からないが、先程のカフネス侯爵の紹介をうけて朔耶を疎ましく思うのなら、もはや十中八九というところだろう。
様々な表情を浮かべている各派閥代表達の顔を見渡しながら、朔耶がそんな事を考えていると、
難しい顔をした熟年紳士がおもむろに口を開いた。
「失礼だが、彼女こそが一連の騒ぎの元凶という事はないのかね?」
少々苦しい説ながら、トレクルカーム国上層に取り入るための自作自演、あるいは共謀の疑いを問う。ざわめく会議室。
「クァイエン伯爵、それは本当に失礼だぞ」
カフネス侯爵が眉間に皺を寄せながら、熟年紳士にそう諭す。最大派閥カムレイゼ派の中でも筆頭とされるクァイエン伯爵は、トレクルカーム国内でもっとも規模の大きい街の領主らしい。
国内での発言力も相応に高い。
神社の精霊による判定は、黒寄りの白。灰色に相当するという。
『敵対者とかじゃないのね?』
ウム タイシタ モノデハ ナイ
国王に対する忠誠心よりも己の野心が強く、立場的に大物ぶってはいるが、案外小物的な器の人物だと神社の精霊は評する。
思慮に欠ける礼を失した言動が目立ち、そこだけ見ると大物貴族の威を借ろうとする取り巻きのような立ち回り。
最大派閥筆頭、最大規模の街の領主という肩書が『辛辣な物言いの目立つ大物』に見せている。
ハリボテダ
『張りぼてかぁ~』
それよりも今は内通者の燻り出しが先決だと、会議室に入ってから明確に敵対意思を向けている人物に焦点を合わせる。
「……」
朔耶がハリボテ伯爵の言葉を無視して、とある人物を注視すると、カフネス侯爵がその人物をちらりと見やって朔耶に問う。
「……彼はウェイン・クルサーゼ伯爵。融和派の中心人物だが――彼に何か?」
「この部屋の中で、その人だけがあたしに明確な敵対意思を向けてるんですよ」
クルサーゼ伯爵の隣に座っているルタシュが「え!?」となっている。自分の発言を無視されてムッとしていたクァイエン伯爵も、訝し気な表情でクルサーゼ伯爵を見た。
いきなり注目を浴びる羽目になったクルサーゼ伯爵は、特に慌てた様子もなく落ち着いた調子で困惑したように口を開く。
「あー……儂の目つきが厳つい事は自覚しているが、それを敵意の目と取られても困るのだが」
ただでさえ我々は他の派閥から睨まれておるのにと、ユーモラスな雰囲気と小粋なトークでこの場の空気を流そうとするが、朔耶は敵意の判定の仕方について少し解説を入れた。
「あたしが使ってる精霊術には、意識の糸を相手の精神に絡めて、考えてる内容を読み取る術があるんですよ」
対象の心を読むことができる。
この部屋に入った時から、全員に意識の糸を絡ませて自分に対する反応を見ていたと明かすと、皆が思わず自身の胸元に手をやる。
「”今も読まれているのか”って? どうかしらね?」
「!……っ」
クルサーゼ伯爵の顔色が悪くなった。状況を理解した他の者達も、若干蒼褪めている。
「控え室に用意した暗殺メイドさんと暗殺者さんは、お金で雇った外部の人ね。衛兵隊長と騎士の人は隠れ融和派で、普段から暗躍してるみたい。案内の人は――ああ、賄賂を握らせたのね」
「っ!?……っ!」
次々と内情を暴いてくる朔耶に、クルサーゼ伯爵は今自分が心に思い浮かべたことを言い当てられているのだと確信して、焦りを深めた。
「ルタシュさんは――……ふむふむ、最初は都合のいい駒だったと」
「へ? え?」
「……」
絡めた意識の糸を通して、神社の精霊が読み取ったクルサーゼ伯爵のルタシュに対する、というかアズタール家に対する評価は、家格が古いだけで大した力の無い末端貴族。
切り易い尻尾として利用するつもりだったが、意外にも『錬金術士キミカ』と良好な交友関係を築いたので、融和派の代表として取り立てた。
クルサーゼ伯爵が推し進める本来の目的の障害になるようなら即座に排除できる、やはりお手軽トカゲの尻尾扱い。
「そもそも融和派自体が隠れ蓑で――」
「もうよい」
朔耶の暴露コンボを黙って聞いていたクルサーゼ伯爵が、そう口を挟んで溜め息を吐いた。
「元より儂の計画は破綻していたのだ……あの宝石塔が立った辺りからな」
そんな重々しく達観染みた呟きと共に、クルサーゼ伯爵が視線を向けた奥の席では、困惑顔の『錬金術士キミカ』が首をすくめていた。
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