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グランド・アーク
悪の気配
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あれから、3日経った。
しかしゼロは、未だに打開策を見出だせないでいた。
ゼロは空を飛べるだけだ。
他の魔法人形は特殊な能力を何かしら持っているらしい事を、ゼロはマテリアーで目撃していた。一方、ゼロはただ、空を飛ぶ能力を持つ以外は、ただの人形に過ぎないのである。
シュットはあれから、姿を見せなくなった。
無学なゼロにでも、シュットが相当な身分にあるのだと言うのが分かる。たとえその場にいなくても、部下である私兵たちの会話の九割以上はシュットに関する物だからだ。
力が欲しい。ゼロは願った。
「・・ヲ・・カ・・」どこからか声がした気がして、ゼロは辺りを見回した。けれども、少なくともゼロに話し掛けている者はいない。
それに、人間の声とは思えない威厳のような雰囲気に満ちた重々しい響きを伴っていたのだ。
【汝、力ヲ望ムカ?】
今度ははっきりと、そう聞こえた。そして、それはやはり人間の声ではないと、今度こそゼロは確信した。
(力が欲しい。大切な人を、友だちを守る力が欲しいんだ)
声に向かって、ゼロは心で語りかけた。なんとなくそれが正しい気がしたからだ。
【力ハ汝。汝、力ノ化身ナリ】
よく分からない事を、声は言い出した。
(ボクが力の、何だって?力をくれるなら、早く。このままだと、町の人の前で千切りかみじん切りにされちゃうよ)
しかし、声はそれきり聞こえなくなってしまった。何を言いたかったのか、目的も正体も不明な声。
ただ、ゼロはその声が自分自身から聞こえたような気がして、気味が悪く感じたのだった。
「ゾーン様、お待たせしました」
ママルマラ郊外にある、古びた遺跡。そこにいるのは、シュット=バーニング。そして、マテリアー王国の滅亡の元凶、魔法人形のゾーンだ。
ゾーンは言葉を持たない。
しかし、望んだ人間に、テレパシーで意思を伝える事が出来るのだ。
シュットはそのテレパシーで、ゾーンの存在に気付いた。さらに、それを真実と確かめるために、ゾーン自らが指定した待ち合わせに応じたのだ。
「グランド・アーク。聞いた事がないが、しかし直ちに確かめさせますよ。それが本当ならば、我が野望、い、いや、国家の繁栄に役立つでしょうからね」
数人の護衛がいる手前、シュットはわざわざ言葉を選び直した。
護衛には、ゾーンは理知的な印象の魔術師である、壮年の紳士に見えている。そのため、目上を相手に野望と冗談を交えたくらいにしか思っていないようだ。
ゾーンの魔術だ。ゾーンは、テレパシーに加えて、人に幻覚を見せるという力がある。それがゾーンを人間に見せている。
これらの能力は、マテリアーにいた頃にはなかった。徐々に封印の糸による封じられた力が解放されて、ゾーンは力を増しているのだ。
意思の強いシュットすら、ゾーンは不思議な力がある高名な人間と信じている。ゾーンの幻覚魔術は、それほど強力なのだ。
グランド・アーク。
それは、巨大な箱だ。
箱と言っても、ただの箱ではない。世界を左右する力が込められた、古代文明の遺産である。
ところで、ゾーンは元々、人間だ。
古代においてゾーンはグランド・アークを作った魔術師の1人だった。それがワレスの禁術により人形に封じられたのだ。
ワレスは魔法人形の使い手である。
強い魔術師であるゾーンを蘇らせるために、予め封印を施した人形を作り、そこにゾーンの魂を宿したのだ。
ゾーンは悪ではないが、ワレスの支配から逃れられないでいる。正に、人形のように賢さ、そして記憶すら利用されているのだ。
グランド・アークは平和のために作られた。しかし時をも超えるワレスの目は、その凄まじい力を見逃さなかった。
こうして、ゾーンを通じて人間の配下をも増やし始めた大魔王ワレス。
自らは更なる力を蓄えるために動かず、しかし動かずしてなお、その勢いは増すばかりなのだった。
それから程なくして、ゼロの公開処刑が、決定した。
人間のみならず、人形の居場所を知る事さえ造作もないゾーンには、どこに逃げたとて最初から無駄な事だった。
そう、全てはゾーンの、そしてワレスの掌の上。逃げる事など出来なかったのだ。
スフィアは、外で大きな音がするのが聞こえた。何か、地震や爆発のようにごうごうと唸ったような音だ。
ちょうど、アポーン館での占い仕事が一段落し、昼休みを迎えようと言う所だった。それに、雇い主のアポーンに頼まれたのもあり、スフィアは音が聞こえた広場の方に向かった。
アポーンの館があるのは、ママルマラ国の北中央部あたりにあるハード区と呼ばれる区画だ。ママルマラに限らず、国家は区割りで管理されている事が多い。
我々が暮らす世界からすると、全体の人口が千分の一ほどであり、そもそも少ないために自然に定まった管轄法なのだ。
どの国にも、ハード区はある。
ハード区は首都にあたる、重要な地区だ。
そしてシュットの屋敷もまた、そこにあった。爆発のような音がしたのは、その屋敷の近く、正確には屋敷前だ。
かくしてスフィアを待つ波乱は、その予感を隠せないのだった。
しかしゼロは、未だに打開策を見出だせないでいた。
ゼロは空を飛べるだけだ。
他の魔法人形は特殊な能力を何かしら持っているらしい事を、ゼロはマテリアーで目撃していた。一方、ゼロはただ、空を飛ぶ能力を持つ以外は、ただの人形に過ぎないのである。
シュットはあれから、姿を見せなくなった。
無学なゼロにでも、シュットが相当な身分にあるのだと言うのが分かる。たとえその場にいなくても、部下である私兵たちの会話の九割以上はシュットに関する物だからだ。
力が欲しい。ゼロは願った。
「・・ヲ・・カ・・」どこからか声がした気がして、ゼロは辺りを見回した。けれども、少なくともゼロに話し掛けている者はいない。
それに、人間の声とは思えない威厳のような雰囲気に満ちた重々しい響きを伴っていたのだ。
【汝、力ヲ望ムカ?】
今度ははっきりと、そう聞こえた。そして、それはやはり人間の声ではないと、今度こそゼロは確信した。
(力が欲しい。大切な人を、友だちを守る力が欲しいんだ)
声に向かって、ゼロは心で語りかけた。なんとなくそれが正しい気がしたからだ。
【力ハ汝。汝、力ノ化身ナリ】
よく分からない事を、声は言い出した。
(ボクが力の、何だって?力をくれるなら、早く。このままだと、町の人の前で千切りかみじん切りにされちゃうよ)
しかし、声はそれきり聞こえなくなってしまった。何を言いたかったのか、目的も正体も不明な声。
ただ、ゼロはその声が自分自身から聞こえたような気がして、気味が悪く感じたのだった。
「ゾーン様、お待たせしました」
ママルマラ郊外にある、古びた遺跡。そこにいるのは、シュット=バーニング。そして、マテリアー王国の滅亡の元凶、魔法人形のゾーンだ。
ゾーンは言葉を持たない。
しかし、望んだ人間に、テレパシーで意思を伝える事が出来るのだ。
シュットはそのテレパシーで、ゾーンの存在に気付いた。さらに、それを真実と確かめるために、ゾーン自らが指定した待ち合わせに応じたのだ。
「グランド・アーク。聞いた事がないが、しかし直ちに確かめさせますよ。それが本当ならば、我が野望、い、いや、国家の繁栄に役立つでしょうからね」
数人の護衛がいる手前、シュットはわざわざ言葉を選び直した。
護衛には、ゾーンは理知的な印象の魔術師である、壮年の紳士に見えている。そのため、目上を相手に野望と冗談を交えたくらいにしか思っていないようだ。
ゾーンの魔術だ。ゾーンは、テレパシーに加えて、人に幻覚を見せるという力がある。それがゾーンを人間に見せている。
これらの能力は、マテリアーにいた頃にはなかった。徐々に封印の糸による封じられた力が解放されて、ゾーンは力を増しているのだ。
意思の強いシュットすら、ゾーンは不思議な力がある高名な人間と信じている。ゾーンの幻覚魔術は、それほど強力なのだ。
グランド・アーク。
それは、巨大な箱だ。
箱と言っても、ただの箱ではない。世界を左右する力が込められた、古代文明の遺産である。
ところで、ゾーンは元々、人間だ。
古代においてゾーンはグランド・アークを作った魔術師の1人だった。それがワレスの禁術により人形に封じられたのだ。
ワレスは魔法人形の使い手である。
強い魔術師であるゾーンを蘇らせるために、予め封印を施した人形を作り、そこにゾーンの魂を宿したのだ。
ゾーンは悪ではないが、ワレスの支配から逃れられないでいる。正に、人形のように賢さ、そして記憶すら利用されているのだ。
グランド・アークは平和のために作られた。しかし時をも超えるワレスの目は、その凄まじい力を見逃さなかった。
こうして、ゾーンを通じて人間の配下をも増やし始めた大魔王ワレス。
自らは更なる力を蓄えるために動かず、しかし動かずしてなお、その勢いは増すばかりなのだった。
それから程なくして、ゼロの公開処刑が、決定した。
人間のみならず、人形の居場所を知る事さえ造作もないゾーンには、どこに逃げたとて最初から無駄な事だった。
そう、全てはゾーンの、そしてワレスの掌の上。逃げる事など出来なかったのだ。
スフィアは、外で大きな音がするのが聞こえた。何か、地震や爆発のようにごうごうと唸ったような音だ。
ちょうど、アポーン館での占い仕事が一段落し、昼休みを迎えようと言う所だった。それに、雇い主のアポーンに頼まれたのもあり、スフィアは音が聞こえた広場の方に向かった。
アポーンの館があるのは、ママルマラ国の北中央部あたりにあるハード区と呼ばれる区画だ。ママルマラに限らず、国家は区割りで管理されている事が多い。
我々が暮らす世界からすると、全体の人口が千分の一ほどであり、そもそも少ないために自然に定まった管轄法なのだ。
どの国にも、ハード区はある。
ハード区は首都にあたる、重要な地区だ。
そしてシュットの屋敷もまた、そこにあった。爆発のような音がしたのは、その屋敷の近く、正確には屋敷前だ。
かくしてスフィアを待つ波乱は、その予感を隠せないのだった。
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