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グランド・アーク
暴走
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ゼロは、自分自身の心の中にいた。
真っ白な空間の至る所に、よく見るとガラスのように透明なオブジェクトがある。
(ここは、どこ?なんでボクは、こんなところに)
「ゼロ。いや、オールディントと呼ぶべきかな」
ゼロに話しかけたのは、ゼロと同じ見た目の人間だ。
「あなたは、誰ですか?ここがどこなのか教えてください」
「私はお前だ。ここはお前の内にある世界。ここでは何も進まない。永遠にこのままなのさ」
男は着ている白衣をひらひらさせて、危ない物を隠し持っていないとジェスチャーしたらしかった。しかし、ゼロにその意味は分からない。
「どうしたら戻れますか。ボクは死んだのでしょうか」
ゼロは質問を続けた。見た目こそゼロと同じだが、白衣の男は、なんとなく頼りになりそうな眼差しをしていたからだ。
「戻るも何も、ここはお前自身だ。お前はいつも、ここにいるぜ」
「意味が分からないです。もう少し、きちんと説明してくださいませんか」
答えはない。
会話が噛み合わない。ゼロは急ぐために、知らんぷりをして歩き出した。
外の世界、ママルマラ。
ゼロはゼロでない何かになっていた。
魔法が暴発し、自らをも巻き込んで怪我人が相次ぐ騒ぎとなっていたのだ。
「ゼロ。あなたはゼロなの?」
スフィアは少し遠くから呼び掛けた。ゼロに与えたコートを羽織っているように見えたからだ。
しかし、その見た目は人形というより、むしろ獣。犬、いや、狼と言った方が的確だろうか。
がるるる。
鳴き声まで狼のそれだ。スフィアは、ゼロが知らない間に未知の存在と化していた、という事実に混乱を隠せなかった。
スフィアを睨む、ゼロだったモノ。もはや、スフィアの知るゼロではない。憎悪に満ちた目は、ゼロの心がそこにはない、という現実を示していた。
「怖くない。私よ、おいで」
警戒されていると思ったのか、両手を差しのべるスフィア。
「危ないぞ、お嬢さん」
そして、現れた何者に抱えられたまま、スフィアはその場を離れていくのだった。
【力ヲ解放シタ】
そう答えたのは、内側から聞こえた声の正体だ。
白衣の男によれば、この世界があった頃から存在しているらしい。
しかし、声はどこまでも声だ。
どこかに姿を現すでもなく、ただ聞こえてくる。そんな存在を自らが宿しているなんて、とゼロはぐったりした。
「どうして、勝手な事をしたんだ」
ゼロは迷わず責めた。
【力ヲ欲シタ。ソシテ汝コソガ、力】
声は無慈悲に、しかし正論を告げた。
「外の世界は大変だぜ。お前は人の命を脅かす怪物だ」
「そ、そんな。ボクはそんな事、望んでない」
「お前はそれほどの力を持つ。全てはそういう事だ」
白衣の男に冷静に、しかし残酷な真実を告げられて、ゼロは途方に暮れた。今さら、なかった事に出来る事態にはなっていないのだろう。
「ボクだけが壊されれば、こんな事には」
ゼロの心には、悲しみしかなかった。罪のない人々をまで苦しめて生き残る道など、優しいゼロは望まないのだ。
「元に戻る方法ならあるぞ」
白衣の男は淡々と説明した。
「ただ、戻りたいと願えば良い」
気付くと、ゼロは焼けただれた広場の真ん中にいた。磔にされていた十字架だった残骸は、今やただの灰と炭が混じった物質だ。
「これ、ボクがやったのか」
ゼロは努めて冷静に周囲を窺った。
焼け野原。それ以外に正確な表現はなさそうだった。
ママルマラのハード区・中心街は、ものの数分で焦げた広場となったのだ。
遠くにスフィアがいるのを見つけるのに、時間は掛からなかった。
「ゼロ。良かった、怪我はない?」
「姫。私より住民の皆さんを心配しましょう。それに、これは私がした行いです」
ゼロは、差し伸べたスフィアの手を優しく下ろした。
周囲には、ほんのわずか人がおり、二人を見ていた。その表情は、怒りよりはむしろ恐怖という感情を色濃く見せていた。
それは、そうなのだろう。
瞬く間に住むべき町を壊される。それは正に、ゼロが従う王女、スフィアが辿った道と同じなのだ。
「もう、お会いする事が出来ません。本当に、ごめんなさい」
ゼロは、焦げた町の中心で敬愛する姫に謝罪した。
「私はこれから、どうすれば良いのでしょう」
スフィアもまた心から、ただ悲しみの言葉を述べるしかなかった。
ゼロと名付けられた人形。
そこには、天才と呼ばれた優しい人間の魂と膨大な魔力が込められていた。
不気味な声は、ゼロに込められた魔力そのもの。いつ暴走するとも分からない、優しい怪物。
そうした存在としてワレスに作られたのが、ゼロだったのだ。
そうとも知らないで、スフィアに仕えたゼロ。それすらも王女の心を乱すための、ワレスの罠だった、という事である。
程なくして、ゼロは捕らわれた。罪を償うため、もうゼロが暴走する事はないだろう。
スフィアは孤独の身となった。
ゼロとの関わりは限りなく無実とされたものの、ママルマラにはもういられない。占い師アポーンは、その働きぶりを認めた上でスフィアを引き止めた。
しかし、まだ幼いスフィアでは恩人に迷惑を掛けない道が分からないからこそ、身支度を整え、ママルマラを発つのだった。
真っ白な空間の至る所に、よく見るとガラスのように透明なオブジェクトがある。
(ここは、どこ?なんでボクは、こんなところに)
「ゼロ。いや、オールディントと呼ぶべきかな」
ゼロに話しかけたのは、ゼロと同じ見た目の人間だ。
「あなたは、誰ですか?ここがどこなのか教えてください」
「私はお前だ。ここはお前の内にある世界。ここでは何も進まない。永遠にこのままなのさ」
男は着ている白衣をひらひらさせて、危ない物を隠し持っていないとジェスチャーしたらしかった。しかし、ゼロにその意味は分からない。
「どうしたら戻れますか。ボクは死んだのでしょうか」
ゼロは質問を続けた。見た目こそゼロと同じだが、白衣の男は、なんとなく頼りになりそうな眼差しをしていたからだ。
「戻るも何も、ここはお前自身だ。お前はいつも、ここにいるぜ」
「意味が分からないです。もう少し、きちんと説明してくださいませんか」
答えはない。
会話が噛み合わない。ゼロは急ぐために、知らんぷりをして歩き出した。
外の世界、ママルマラ。
ゼロはゼロでない何かになっていた。
魔法が暴発し、自らをも巻き込んで怪我人が相次ぐ騒ぎとなっていたのだ。
「ゼロ。あなたはゼロなの?」
スフィアは少し遠くから呼び掛けた。ゼロに与えたコートを羽織っているように見えたからだ。
しかし、その見た目は人形というより、むしろ獣。犬、いや、狼と言った方が的確だろうか。
がるるる。
鳴き声まで狼のそれだ。スフィアは、ゼロが知らない間に未知の存在と化していた、という事実に混乱を隠せなかった。
スフィアを睨む、ゼロだったモノ。もはや、スフィアの知るゼロではない。憎悪に満ちた目は、ゼロの心がそこにはない、という現実を示していた。
「怖くない。私よ、おいで」
警戒されていると思ったのか、両手を差しのべるスフィア。
「危ないぞ、お嬢さん」
そして、現れた何者に抱えられたまま、スフィアはその場を離れていくのだった。
【力ヲ解放シタ】
そう答えたのは、内側から聞こえた声の正体だ。
白衣の男によれば、この世界があった頃から存在しているらしい。
しかし、声はどこまでも声だ。
どこかに姿を現すでもなく、ただ聞こえてくる。そんな存在を自らが宿しているなんて、とゼロはぐったりした。
「どうして、勝手な事をしたんだ」
ゼロは迷わず責めた。
【力ヲ欲シタ。ソシテ汝コソガ、力】
声は無慈悲に、しかし正論を告げた。
「外の世界は大変だぜ。お前は人の命を脅かす怪物だ」
「そ、そんな。ボクはそんな事、望んでない」
「お前はそれほどの力を持つ。全てはそういう事だ」
白衣の男に冷静に、しかし残酷な真実を告げられて、ゼロは途方に暮れた。今さら、なかった事に出来る事態にはなっていないのだろう。
「ボクだけが壊されれば、こんな事には」
ゼロの心には、悲しみしかなかった。罪のない人々をまで苦しめて生き残る道など、優しいゼロは望まないのだ。
「元に戻る方法ならあるぞ」
白衣の男は淡々と説明した。
「ただ、戻りたいと願えば良い」
気付くと、ゼロは焼けただれた広場の真ん中にいた。磔にされていた十字架だった残骸は、今やただの灰と炭が混じった物質だ。
「これ、ボクがやったのか」
ゼロは努めて冷静に周囲を窺った。
焼け野原。それ以外に正確な表現はなさそうだった。
ママルマラのハード区・中心街は、ものの数分で焦げた広場となったのだ。
遠くにスフィアがいるのを見つけるのに、時間は掛からなかった。
「ゼロ。良かった、怪我はない?」
「姫。私より住民の皆さんを心配しましょう。それに、これは私がした行いです」
ゼロは、差し伸べたスフィアの手を優しく下ろした。
周囲には、ほんのわずか人がおり、二人を見ていた。その表情は、怒りよりはむしろ恐怖という感情を色濃く見せていた。
それは、そうなのだろう。
瞬く間に住むべき町を壊される。それは正に、ゼロが従う王女、スフィアが辿った道と同じなのだ。
「もう、お会いする事が出来ません。本当に、ごめんなさい」
ゼロは、焦げた町の中心で敬愛する姫に謝罪した。
「私はこれから、どうすれば良いのでしょう」
スフィアもまた心から、ただ悲しみの言葉を述べるしかなかった。
ゼロと名付けられた人形。
そこには、天才と呼ばれた優しい人間の魂と膨大な魔力が込められていた。
不気味な声は、ゼロに込められた魔力そのもの。いつ暴走するとも分からない、優しい怪物。
そうした存在としてワレスに作られたのが、ゼロだったのだ。
そうとも知らないで、スフィアに仕えたゼロ。それすらも王女の心を乱すための、ワレスの罠だった、という事である。
程なくして、ゼロは捕らわれた。罪を償うため、もうゼロが暴走する事はないだろう。
スフィアは孤独の身となった。
ゼロとの関わりは限りなく無実とされたものの、ママルマラにはもういられない。占い師アポーンは、その働きぶりを認めた上でスフィアを引き止めた。
しかし、まだ幼いスフィアでは恩人に迷惑を掛けない道が分からないからこそ、身支度を整え、ママルマラを発つのだった。
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