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グランド・アーク
シュット=バーニング
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ママルマラにおける最高責任者は、大統領と首相である。しかし、平和なこの国では、どちらも象徴的存在に過ぎず、儀礼上の行事を中心に行うだけと言っても過言ではない。
いわゆる、保守派勢力の集まりとも見れる。そして、保守に対して革新はどんな社会にも付いて回るものである。
シュット=バーニング。
ママルマラにおける革新は、彼を軸にして動いていると言っても過言ではない。
そんな重要人物であるシュットが、人形であるゼロを目撃した時、どのような展開になるかは想像に難くないだろう。
「そこのキミ!止まりなさい」
「え、ボ、ボボボ、ボクですか」
「キミの顔・・・私の目は欺けないぞ。来たまえ。キミを、いや、あなたを緊急に連行する」
シュットの警護を務める私兵たち四、五人に捕まり、ゼロは為すすべもなく何処かへ連れ去られるのだった。
「ゼロ。今日もお仕事、終わったよ・・・って、ゼロ?ゼロ~~~」
占い仕事が一段落し、裏手で物言わぬただの人形に扮しているはずのゼロを迎えに来たスフィア。しかし、どこにもその姿は見当たらなかったのである。
「おい、本当に人形だぞ」
「マジかよ!気味が悪いな」
「歩いたり、しゃべったりするから気を付けろよ」
「なんでぶっ殺さねえんだろうな?シュット様もよお」
私兵たちは、特注の檻に閉じ込められたゼロをじろじろ見ては、下品に笑い立てている。
ゼロの人間的な感情は、まだ未熟ではある。しかし、それでもゼロは悲しいという気分を教わったような気がした。
疑われる悲しさ。人の扱いを受けない悲しさ。そして、スフィアがいない悲しさ。そうした、あらゆる悲しさはゼロの顔を暗くした。
「お前たち、何をしている。相手は素性も分からぬ悪魔人形。目を離すとは、クビになりたいか」
シュットが、檻のある階に上がってきた。
ゼロがいる檻は、シュットの私邸と事務所を兼ねた屋敷の二階に置かれている。
客人に人形も檻も見せるわけにはいかないという、シュットの思惑だ。
「ボクは、ただの人形なんです。ここから出してもらえませんか」
ゼロは捕らわれの身とは思えない丁重な態度を示したが、シュットには逆効果だ。
「おや?おかしいなあ。ただの人形なら、そもそもおしゃべり出来るのは、どういう訳かな。一体、何の魔術で動いているッ」
檻の隙間から、シュットは容赦なく鞭を飛ばした。びしっ、びしっ、と乾いた音が鳴り響く。
「旦那ァ、じゃなかった。シュット様、そんな音を立てたら近所にバレますぜ」
「なぁに、然るべき手続きで私の正当性さえ確立すれば、こんな汚らわしい邪悪な異物など野晒しでも構わないのだよ。つまり、後は時間と手間だ」
「シュット様・・・最高の行いでいらっしゃる!」
下品な笑いに加えて、シュットの高らかな笑い声が大きく弾けた。
ゼロはその様子を見ているしか出来ない。鞭でボロボロになった服。寒くないようにと、スフィアが給料で買ってくれたコートだ。
「姫。申し訳ありません。全てはボクが弱いせいだ」
聞こえないように、とても小さな声でゼロはそこにいないスフィアに謝罪した。
そして、スフィアの言葉を思い出した。
「敬語なんて家来みたいでしょ。私はお城のみんなも町の人も敬語なんて、ダメとしたの。だって、みんな同じ人間なの。それに、あなたも心は人間なんだから。そうでしょう?」
けれども、こうも情けなくては、とゼロは自分を責めた。ゼロは、その身が朽ちるまでにスフィア姫の良き友人になるにはどうしたら良いか、そればかりを考えるのだった。
スフィアは帰宅した。先に住まいに戻っているかもしれなかったからだ。
しかし、ゼロはいない。捕らわれの身なので当たり前だが、スフィアはその事を知らないのだ。
どうするべきか、スフィアは悩んだ。
まだ関わって間もないのだから、スフィアが知らない知人が実はいて会いに行っているとか、人形にしか感じ取れない敵の存在を感知し、単身、戦いに挑んでいるかもしれないとか、可能性を考えるとそれなりにあるからだ。
下手に探すと、人形であるというゼロの素性が明るみに出て、逆に迷惑になる場合も十分に有り得る。
人は、動く人形に馴染んでいないのだ。
当たり前の現象ではないし、むしろ人形と判明しただけで、邪悪な魔物からの使いと思われても仕方ない。それほど、人形であるという事実は人に良い印象を与えないのかもしれない、という結論に至ったスフィアだった。
つまりそれは、もしゼロが戦いを不得手としているなら、相手が人間だとしても最悪の状況が考えられるという事に他ならないのだ。
ただ、スフィアもまた戦う事など出来ない。特別な魔法を使えるわけではない。そもそも魔法は、その危険さ故に遥か古代に封印された〈世界の秘密〉なのだ。
「〈世界の秘密〉。魔法がそうなら、魔法で動くゼロ。あなたも、きっと・・・」
スフィアは、思わず天を仰いだ。
三日月が、雲に隠れて消えていく。
マテリアーには言い伝えがある。
『三日月が雲に隠れて燕が鳴いたら、次の日は厄日だ』
スフィアは燕を知らない事を、この日ほど後悔したことはないのだった。
いわゆる、保守派勢力の集まりとも見れる。そして、保守に対して革新はどんな社会にも付いて回るものである。
シュット=バーニング。
ママルマラにおける革新は、彼を軸にして動いていると言っても過言ではない。
そんな重要人物であるシュットが、人形であるゼロを目撃した時、どのような展開になるかは想像に難くないだろう。
「そこのキミ!止まりなさい」
「え、ボ、ボボボ、ボクですか」
「キミの顔・・・私の目は欺けないぞ。来たまえ。キミを、いや、あなたを緊急に連行する」
シュットの警護を務める私兵たち四、五人に捕まり、ゼロは為すすべもなく何処かへ連れ去られるのだった。
「ゼロ。今日もお仕事、終わったよ・・・って、ゼロ?ゼロ~~~」
占い仕事が一段落し、裏手で物言わぬただの人形に扮しているはずのゼロを迎えに来たスフィア。しかし、どこにもその姿は見当たらなかったのである。
「おい、本当に人形だぞ」
「マジかよ!気味が悪いな」
「歩いたり、しゃべったりするから気を付けろよ」
「なんでぶっ殺さねえんだろうな?シュット様もよお」
私兵たちは、特注の檻に閉じ込められたゼロをじろじろ見ては、下品に笑い立てている。
ゼロの人間的な感情は、まだ未熟ではある。しかし、それでもゼロは悲しいという気分を教わったような気がした。
疑われる悲しさ。人の扱いを受けない悲しさ。そして、スフィアがいない悲しさ。そうした、あらゆる悲しさはゼロの顔を暗くした。
「お前たち、何をしている。相手は素性も分からぬ悪魔人形。目を離すとは、クビになりたいか」
シュットが、檻のある階に上がってきた。
ゼロがいる檻は、シュットの私邸と事務所を兼ねた屋敷の二階に置かれている。
客人に人形も檻も見せるわけにはいかないという、シュットの思惑だ。
「ボクは、ただの人形なんです。ここから出してもらえませんか」
ゼロは捕らわれの身とは思えない丁重な態度を示したが、シュットには逆効果だ。
「おや?おかしいなあ。ただの人形なら、そもそもおしゃべり出来るのは、どういう訳かな。一体、何の魔術で動いているッ」
檻の隙間から、シュットは容赦なく鞭を飛ばした。びしっ、びしっ、と乾いた音が鳴り響く。
「旦那ァ、じゃなかった。シュット様、そんな音を立てたら近所にバレますぜ」
「なぁに、然るべき手続きで私の正当性さえ確立すれば、こんな汚らわしい邪悪な異物など野晒しでも構わないのだよ。つまり、後は時間と手間だ」
「シュット様・・・最高の行いでいらっしゃる!」
下品な笑いに加えて、シュットの高らかな笑い声が大きく弾けた。
ゼロはその様子を見ているしか出来ない。鞭でボロボロになった服。寒くないようにと、スフィアが給料で買ってくれたコートだ。
「姫。申し訳ありません。全てはボクが弱いせいだ」
聞こえないように、とても小さな声でゼロはそこにいないスフィアに謝罪した。
そして、スフィアの言葉を思い出した。
「敬語なんて家来みたいでしょ。私はお城のみんなも町の人も敬語なんて、ダメとしたの。だって、みんな同じ人間なの。それに、あなたも心は人間なんだから。そうでしょう?」
けれども、こうも情けなくては、とゼロは自分を責めた。ゼロは、その身が朽ちるまでにスフィア姫の良き友人になるにはどうしたら良いか、そればかりを考えるのだった。
スフィアは帰宅した。先に住まいに戻っているかもしれなかったからだ。
しかし、ゼロはいない。捕らわれの身なので当たり前だが、スフィアはその事を知らないのだ。
どうするべきか、スフィアは悩んだ。
まだ関わって間もないのだから、スフィアが知らない知人が実はいて会いに行っているとか、人形にしか感じ取れない敵の存在を感知し、単身、戦いに挑んでいるかもしれないとか、可能性を考えるとそれなりにあるからだ。
下手に探すと、人形であるというゼロの素性が明るみに出て、逆に迷惑になる場合も十分に有り得る。
人は、動く人形に馴染んでいないのだ。
当たり前の現象ではないし、むしろ人形と判明しただけで、邪悪な魔物からの使いと思われても仕方ない。それほど、人形であるという事実は人に良い印象を与えないのかもしれない、という結論に至ったスフィアだった。
つまりそれは、もしゼロが戦いを不得手としているなら、相手が人間だとしても最悪の状況が考えられるという事に他ならないのだ。
ただ、スフィアもまた戦う事など出来ない。特別な魔法を使えるわけではない。そもそも魔法は、その危険さ故に遥か古代に封印された〈世界の秘密〉なのだ。
「〈世界の秘密〉。魔法がそうなら、魔法で動くゼロ。あなたも、きっと・・・」
スフィアは、思わず天を仰いだ。
三日月が、雲に隠れて消えていく。
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