マテリアー

永井 彰

文字の大きさ
81 / 100
グランド・アーク

アークの秘密

しおりを挟む
 ゾーンは、スフィアが魂の杖と対話した事に気付いた。世界中に絶え間なく張り巡らされている意識網エゴ・オーラにより、スフィアは精神までゾーンに見透かされているのだ。

【ふん、茶番が始まったな。ジルアファンの血など、所詮は二級品・・・。せいぜい、足掻いてみよ。我はここで待っているぞ】

 そして、グランド・アークに備え付けられた機械蝉メタルゼミが怪しげにミビュミビュ鳴いていた。
 機械蝉。ゾーンがワレスに与えた、〈途方もない執着を成す鉄鋼〉だ。

【素晴らしいぞ。アークへの執着が、お前に奇跡を授けるだろう】

 機械蝉は執着の力で、アークにある魔力を吸い取っている。そして、その魔力をゾーンが更に吸い上げていくのだ。
 みるみる間に、ゾーンはその戦闘力を高めていた。そして人形でしかなかった骨格が、アンデッドを思わせる本物の骨になってきていた。

【このままなら、肉の体を得る日も近い。こんなに上手く行くとはな】

 グランド・アークの魔力は、人間の体内にある物よりも濃度が極めて高い。よって、魂の杖が持つ力とはまた別の奇跡を起こすのである。
 それが、ゾーンの体に変化として現れているのだった。


 太陽の国バルターク

 ワレスは王宮の玉座に佇み、一人で瞑想に耽っていた。

「くくく。このまま魔族が侵攻を進めれば、余の理想郷が見えて来るのも、もうじきであろう」

 ワレスだけが、グランド・アークの秘密を知っていた。

「あの箱は、生きている・・・・・。首尾良くヤツを目覚めさせれば、途方もない力が我が物になるのだ」

 ワレスがゾーンに会っていた時、彼が気にしていたのはグランド・アークが僅かながら呼吸していた事だ。呼吸により酸素と二酸化炭素が交換されているという事象を、大魔王ともなれば観測する事が出来る。

 アークが生物ならば、今は睡眠状態。何らかの方法で目覚めさせる事が出来るなら、大魔王の配下として有効に活用する可能性が算段としてある、というわけである。


 そして、ワレスは新たに傘下に下ったオーガたちのリーダー、グロッタンに指令を下した。

「この大陸の中の適当な国を1つ支配して来い。さすれば、お前に好きな褒美と地位を授けよう」

 グロッタンは「ほほ、ほうほはう」としか言わないので、ワレスは言葉を話せるように魔法を使った。意思は理解出来ても、面倒だったからだ。

「ま、魔王さまの為なら、全力で頑張って参ります。ほうほはう」

 大魔王の勢力は、ガワウ大陸においては遂にメンベフリを制圧した。ダランたちがガワウ大陸を去って、しばらくしてからの事だ。
 さらに勢力は、ザレーンカ湖霊国を制圧しつつある。ザレーンカもまたガワウ大陸にあり、バルタークからは南西に位置する、大陸最西端の国だ。

「素晴らしいペースだ。人間どもを根絶やしにするには魂の杖も欲しいが、それはおいおい考えるとしよう」

 ワレスもまた、ゾーン同様にスフィアの動向は手に取るように把握していた。なぜなら、ゾーンの意識はワレスにより掌握しょうあくされており、ワレスの好きなように記憶も見る事が出来てしまうのだ。

「ワレス様。お話をよろしいかしら」

 妖艶な美女が、ワレスに近づいてきた。妖しげな微笑を浮かべ、ワレスを誘惑でもしようとしているかのようだ。

「近すぎるぞ、アイナム。それでは余の示しが付かぬ。それが何を意味するかは分かるな」
「ああん、ワレス様。バカなアタシにはさっぱりですの」

 腰をふりふり、ぶりっこをする様は人間だとしても嫌われやすい振る舞いだ。増して、相手は大魔王。アイナムと呼ばれた美女は、あるいは本当に愚かなのかもしれなかった。

「ふんっ、お前はただ人間を殺し続ければ良い。そうすれば、いつかはお前に素晴らしい婿むこを授けよう」
「もう、おたわむれを。アタシが愛するのは、ワレス様ただお一人。全人生をあなた様に捧げておりますのに。いけずなお方」

 アイナムはしおらしく振る舞うのも、実に板に付いていた。
 それもそのはずで、今でこそゾーンに譲るが、ゾーンが目覚める前まではアイナムがワレスの第一のしもべだったのだ。

「アイナム。焦る気持ちは分かるがみっともないぞ。これ以上ふざけるならば」
「おやめください。封印だけはご勘弁を」

 アイナムはまごまごしながら、許しを請うた。戦いに関してだけはいまだに彼女を評価しているワレスもこれには半ば呆れていた。
 もっとも、戦いとなればアイナムは別人のように、動ける戦士となるため、封印する気などはさらさらない。
 アイナム自身も、それを分かった上でふざけているのだ。


 猫人族のアイナムは、一族の裏切り者だ。

 猫人ニャントの民は本来、掟に厳しい狩猟民族。自然を味方とする心豊かで自由な民だ。
 しかしアイナムにより、今では猫人族の生き残りはほんのわずかとなった。

 大魔王が持つ力への、純粋な憧れ。
 それだけが、そしてそれこそが、アイナムを魔のしもべへと変えてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

処理中です...