マテリアー

永井 彰

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グランド・アーク

新たな仲間

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 ゼロがいる牢を開く音がした。

 そこにいたのは、ダラン=リーグイースト。そして、ワルガー、マジル、スプスーもいた。

「あなたたちは?」

 ゼロは彼らを知らない。会った事のない顔ぶれは、にこやかにゼロを見守っていた。

「あなたたちは、ボクを助けに来たのか?」


「ゼロ、そうよ。彼らは私を守ってくれる、大切な仲間たち。そして、やっとあなたを助けに来れた」

 スフィア=ジルアファンは、少し遅れてやって来た。大切な記憶、置き去りにしてきた心を取り戻して、王女はゆっくりとした確かな足取りでやって来たのだ。

「これから、厳しい戦いになるかもしれません。ゼロ、あなたはそれでも着いて来てくれますか」

 ゼロの答えは決まっていた。
 王女の旅の新たな仲間として、優しい魔法人形、ゼロが今度こそ加わったのだった。


 時は少しさかのぼる。

 タビウンを倒し、気付くとラオダルたちクレイジー・ドーンの姿はなかった。勝利の空気に乗じて、本格的に行方をくらましたのだ。きっと倒すべき凶悪な犯罪者ではあったのだが、ワルガーたちは追わなかった。
 間に合わないのと、敵であっても曲刀の情けがあったからだ。

「スフィア、待ってて。すぐ動けるようになる」
「マジル、ありが・・・うっ」
「姫さん、どうしたァ」
「スフィア、しっかりするプリ」


「スフィア=ジルアファン。目覚めなさい」

 スフィアが目を覚ますと、そこにはスフィアがそのまま大人になったような女性が純白のローブを身に付けて立っていた。

「あなたは、誰」
「私は魂の杖の化身。悪の心に奪われたたくさんの魂の杖の中でただ一つけがれを免れた、マテリアー王国の象徴たる杖の移し身です」
「あなたは、魂の杖なの?」
「そうです。マテリアー王国が大魔王により崩壊に向かう中、私はあなたの中に居場所を見つけました。ジルアファン家の選ばれし者よ、これは全て運命が定めたのです」
「どうして。父上は、父上は」

 スフィアはマテリアーを出るまでの記憶は戻りつつあったので、その悲しみは記憶をなくしていた王女の心にわずか蘇ってきていた。


「実はあなたの父、レゼットはジルアファンの血統ではなかったのです」

 レゼットは、元は王家ジルアファン一族に拾われた影武者。貴族として振る舞う事だけを求められた、偽りの王族だったのだ。
 しかしそれがいつしか、人格の優れた行いを王族たちの中で高く評価され、ジルアファンでない王という快挙を成し遂げた。
 だがそれをジルアファン家は許さなかった。王を名乗る以上ジルアファン家から逃げるのは罪だとして、ジルアファン家であると偽るように要求してきたのだ。

「では、私は誰の子なのです」
「いずれ運命があるならば、真実はあなたを導きましょう。それまでは厳しい道を仲間と行くのです。あなたはもっと、強くならねばならないのですから」


 そして、スフィアは目覚めた。
 意識を取り戻しただけではない。失った記憶もまた復活していたのだ。

「みなさん。私、全て思い出しました。ゼロを助けに行きましょう」


 そして、現在。
 スフィアはゼロの手を取った。そしてゼロは、自然とこうべを垂れていた。

「ゼロ、ありがとう。共に本当の悪を討ちましょう」
「上手く行きましたね、いや、上手く行きすぎだ」

 ぱち、ぱちという拍手と共に、シュットが現れた。

「ただ、どちらにせよ貴様らは犯罪者。つまり君たちが悪。私がそう思う限り、すなわち永遠に君たちは悪なのだよ」

 囚人たちにはもう、戦える者はいない。たった1人になったシュットだが、その笑みは不敵なままだ。

「皆に愛されてきた勝ち組には分かるまい。果たすべき大義を誰も認めない苦しみ。だから私は悟ったのだ。今度は君たちがそれを味わう番なのだとな」

 シュットはサーベルに雷をまとわせた。そして、それだけでシュットの周囲の牢は鉄格子ごと・・・・・吹き飛んだ。

「私はゾーン様に力を与えられた。ようやく認められたのだよ、私という人間の価値をな」
「ゾーン、何者なんだ」
「何者かなど、どうでも良いのだ。大事なのは人を動かす力。人が動けば、それこそが結果。力をくれるゾーン様こそ、私の正義」

 サーベルに絡み付く電流は、さながら蛇のようにうねりを伴っていた。まるでそれは、シュットという野心の男の精神そのものだ。

(ふむ。電磁竜閃リークは残り一発。だがヤツの電気は魔法だ。どうしたら勝てる。ダラン、考えろ。ダラン=リーグイースト)

「早速、ボクの出番みたいだ」

 ダランが素早く思考を巡らせる一瞬の内に、ゼロが一歩前に進み出た。

「狼の足、そんな棒切れで防げるかい」
「黙れ、悪魔人形。神聖な戦いを妨げるな」

 魔法靴ホッパーで、僅かな格子を器用に足で捉え、ゼロは思い切り蹴り切った。

靴砲ホップ・キャノン

 人形の体は、電気を通しにくい材質で出来ていた。そのためゼロの魔法は靴にしか効かなくとも、シュットに力強い突撃を叩き込んだのだった。
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