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グランド・アーク
斬り合い決闘
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冒険者の頂点、それは十三傑と呼ばれる13人の凄腕の冒険者たちだ。
しかし、賞金首にも頂点と呼べる存在がおり、彼らは五窟主として知られている。
ホアナッド。
ジン=トライン。
クベ=キ。
ラオダル=スラス。
ハーハーフ=クワガエヌカ。
人間が多数を占める十三傑とは対照的に、ホアナッドは竜人、クベ=キは鳥人といったように、亜人種が五窟主の主な顔ぶれだ。
そして、ジュコの長牢獄にはホアナッド以外にもう1人、五窟主がいた。
ラオダル=スラスである。その賞金首は、犯罪集団クレイジー・ドーンを率いて世界を荒らした、五窟主の中でも屈指の暴れん坊だ。
「野郎ども、何かが来るぞ。世界に匹敵するデッカい奴らだ。場合によっちゃあ」
犬頭のラオダルは、仲間に向かってある決意を述べたのだった。
スフィアは、窮地に陥っていた。
どう考えてもタビウンは敵である。助けを乞うても意味はない。それどころか、侮られて死に急ぐようなもの。スフィアは沈黙する以外になかった。
「かわいそうにな。ワルガー=ザンでなければこんな事には」
タビウンは同情するような口ぶりだ。まるで、自分は何もしておらず、勝手にワルガーが負けて勝手にスフィアが捕らわれたかのような言い草を連ねてゆく。
「そもそも」「結局」「いわゆる」「単に」そうした言葉に宿る悪意の有効性を、タビウンは知った上で利用した。それはタビウン自身が浴びてきた悪人たちからの洗礼であり、人の心を折るために編み出してきたタビウンの苦心そのものだ。
「凄いな、アンタも。どこか適当な平和な村に籠ってれば、何にも巻き込まれなかったんじゃないかな」
それは確かに図星だった。スフィアだけが助かりたいなら、何も牢獄に足を運ぶ理由は一つもない。
スフィアはゼロの顔を思い出した。面会室での怯えきったその表情は、人形とは思えない人間らしさが隠せなかったように、彼女には思えてならない。
「・・・るせない」
「え、なんて?」
「許せない。人の、人間らしい心を何だと思っているのですか」
「て、てんめェ。この」
「調子に乗るなよ」とタビウンが言うのと、ワルガーたちが大執行台に辿り着いたのは、ほとんど同時だった。
「ワルガー=ザン」
タビウンは敗者であるはずの大盗賊の名を呼んだ。
「えと、誰だっけお前」
「兄貴、やっちまってくだせえ」
「キミも誰プリ?!」
「なんか、いつの間にかいたわよ」
ラオダルが五窟主にまで登り詰めたのは、強いからではない。病的なまでに強者に媚びる、その観察眼と図々しさだ。
暴れまわっていた時代さえ、実際に暴れていたのは巧みに取り入った、強さだけが取り柄のような知的な魔物や愚かな人間だったのである。
ラオダル=スラスと20人の愉快な仲間たち、即ちクレイジー・ドーンはそのように、本能的にワルガーたちを有利と見て、その配下に下ったのだ。
ラオダルは二本の曲刀を、ワルガーとタビウンの間に放り投げた。それは綺麗な弧を描き、石の床に突き刺さった。
「それで正々堂々の決着を付けましょうや」
「兄貴らがね」と言うが早いか、ワルガーとタビウンは互いに曲刀を取り、一騎討ちを始めたのだ。
ワルガーの身軽な装備に合わせるためか、タビウンは鎧を脱ぎ捨て、上半身の裸体をさらけ出していた。
やはり元は騎士の出なだけあり、正々堂々はタビウンも望むところだったのだろう。
拳での戦いとは打って変わり、刃を交える二人の間には沈黙が流れていた。
「互角、いや、兄貴が負けてる?」
「何か考えがあるんプリよ」
「いやぁ、じゃあボクらはちょっと向こうに付くんで」
「そう。今、死にたいの」
「冗談に決まってまさァ!?」
ワルガーは囚人たちからリンチされた分だけ、不利なコンディションには違いなく、戦いが変わったところで苦しさを隠せないでいた。
(何をやってンだ、俺は。大盗賊、そんな上っ面は今はいい。これは、騎士の戦い)
騎士としての実力は、二人の間に大差はない。どちらも途中で騎士たちから無用とされた捨て石、いや、捨て石ですらない脱落者だからだ。
「ワルガー=ザン。俺はお前とは違う、お前とは。俺は、俺は父様を尊敬している。尊敬することが出来るッ」
タビウンの構えが変わった。それはワルガーには見覚えのない構えだが、不思議と騎士を彷彿とさせた。
腰を十分に落としつつも、動きの読めない足の置き方、そして自らに引き付けた刃は、切っ先だけしっかりとワルガーに向けられていた。
そう思うや否や、タビウンは地面を蹴った。
「三段角舞点穴」
三人に分裂したのではないかと思えるほどの、素早い多角攻めだ。
「受け切れね・・・いや、こんなモン。これしき、この程度。殺し屋のレッスンに比べれば、全、然、マシ」
カウンター。ワルガーはここに来て、新たな境地を開いた。
「根性返納斬」
静寂。
それはどちらかが勝ち、どちらかが負けたという記号。
そして崩れ落ちたのは、タビウンだった。
しかし、賞金首にも頂点と呼べる存在がおり、彼らは五窟主として知られている。
ホアナッド。
ジン=トライン。
クベ=キ。
ラオダル=スラス。
ハーハーフ=クワガエヌカ。
人間が多数を占める十三傑とは対照的に、ホアナッドは竜人、クベ=キは鳥人といったように、亜人種が五窟主の主な顔ぶれだ。
そして、ジュコの長牢獄にはホアナッド以外にもう1人、五窟主がいた。
ラオダル=スラスである。その賞金首は、犯罪集団クレイジー・ドーンを率いて世界を荒らした、五窟主の中でも屈指の暴れん坊だ。
「野郎ども、何かが来るぞ。世界に匹敵するデッカい奴らだ。場合によっちゃあ」
犬頭のラオダルは、仲間に向かってある決意を述べたのだった。
スフィアは、窮地に陥っていた。
どう考えてもタビウンは敵である。助けを乞うても意味はない。それどころか、侮られて死に急ぐようなもの。スフィアは沈黙する以外になかった。
「かわいそうにな。ワルガー=ザンでなければこんな事には」
タビウンは同情するような口ぶりだ。まるで、自分は何もしておらず、勝手にワルガーが負けて勝手にスフィアが捕らわれたかのような言い草を連ねてゆく。
「そもそも」「結局」「いわゆる」「単に」そうした言葉に宿る悪意の有効性を、タビウンは知った上で利用した。それはタビウン自身が浴びてきた悪人たちからの洗礼であり、人の心を折るために編み出してきたタビウンの苦心そのものだ。
「凄いな、アンタも。どこか適当な平和な村に籠ってれば、何にも巻き込まれなかったんじゃないかな」
それは確かに図星だった。スフィアだけが助かりたいなら、何も牢獄に足を運ぶ理由は一つもない。
スフィアはゼロの顔を思い出した。面会室での怯えきったその表情は、人形とは思えない人間らしさが隠せなかったように、彼女には思えてならない。
「・・・るせない」
「え、なんて?」
「許せない。人の、人間らしい心を何だと思っているのですか」
「て、てんめェ。この」
「調子に乗るなよ」とタビウンが言うのと、ワルガーたちが大執行台に辿り着いたのは、ほとんど同時だった。
「ワルガー=ザン」
タビウンは敗者であるはずの大盗賊の名を呼んだ。
「えと、誰だっけお前」
「兄貴、やっちまってくだせえ」
「キミも誰プリ?!」
「なんか、いつの間にかいたわよ」
ラオダルが五窟主にまで登り詰めたのは、強いからではない。病的なまでに強者に媚びる、その観察眼と図々しさだ。
暴れまわっていた時代さえ、実際に暴れていたのは巧みに取り入った、強さだけが取り柄のような知的な魔物や愚かな人間だったのである。
ラオダル=スラスと20人の愉快な仲間たち、即ちクレイジー・ドーンはそのように、本能的にワルガーたちを有利と見て、その配下に下ったのだ。
ラオダルは二本の曲刀を、ワルガーとタビウンの間に放り投げた。それは綺麗な弧を描き、石の床に突き刺さった。
「それで正々堂々の決着を付けましょうや」
「兄貴らがね」と言うが早いか、ワルガーとタビウンは互いに曲刀を取り、一騎討ちを始めたのだ。
ワルガーの身軽な装備に合わせるためか、タビウンは鎧を脱ぎ捨て、上半身の裸体をさらけ出していた。
やはり元は騎士の出なだけあり、正々堂々はタビウンも望むところだったのだろう。
拳での戦いとは打って変わり、刃を交える二人の間には沈黙が流れていた。
「互角、いや、兄貴が負けてる?」
「何か考えがあるんプリよ」
「いやぁ、じゃあボクらはちょっと向こうに付くんで」
「そう。今、死にたいの」
「冗談に決まってまさァ!?」
ワルガーは囚人たちからリンチされた分だけ、不利なコンディションには違いなく、戦いが変わったところで苦しさを隠せないでいた。
(何をやってンだ、俺は。大盗賊、そんな上っ面は今はいい。これは、騎士の戦い)
騎士としての実力は、二人の間に大差はない。どちらも途中で騎士たちから無用とされた捨て石、いや、捨て石ですらない脱落者だからだ。
「ワルガー=ザン。俺はお前とは違う、お前とは。俺は、俺は父様を尊敬している。尊敬することが出来るッ」
タビウンの構えが変わった。それはワルガーには見覚えのない構えだが、不思議と騎士を彷彿とさせた。
腰を十分に落としつつも、動きの読めない足の置き方、そして自らに引き付けた刃は、切っ先だけしっかりとワルガーに向けられていた。
そう思うや否や、タビウンは地面を蹴った。
「三段角舞点穴」
三人に分裂したのではないかと思えるほどの、素早い多角攻めだ。
「受け切れね・・・いや、こんなモン。これしき、この程度。殺し屋のレッスンに比べれば、全、然、マシ」
カウンター。ワルガーはここに来て、新たな境地を開いた。
「根性返納斬」
静寂。
それはどちらかが勝ち、どちらかが負けたという記号。
そして崩れ落ちたのは、タビウンだった。
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