マテリアー

永井 彰

文字の大きさ
78 / 100
グランド・アーク

槍戦

しおりを挟む
 外壁沿いを走るダランの前に、またしても敵が立ちはだかった。

 トリシム=カズーヒーク。
 シュット=バーニングの右腕と称される男だ。そして、その左手には細槍が握られていた。

「誰か来る気が、してたんですよ」
「こちらで正解、と言ってるのか?」
「さあ。力ずくで聞いてみてください」

 ダランは翼竜槍ドラコを構え、間合いを測り始めた。トリシムもそれに続く。
 互いの実力は並んでいた。だが僅かにダランが先に流れを読み、そうだと主張する形で戦いは始まったのだ。

 大槍のドラコに比べると、トリシムの得物は幾らか貧弱に見えた。しかし隙を見せないトリシムの構えにより、その貧弱さは大きく補われている。

「嬉しいなあ、槍使いとれるなんて」


 トリシムは、元はママルマラ保守派が期待する政界のエースだ。
 幼い頃から文武両道の英才教育で育ったため、教養も武芸も並み以上に出来る。そうなるように期待され続けてきたのだ。
 しかし小さい頃からトリシムは、自らは期待に応えられる器ではないという事に気付いていた。才能を錯覚し、自尊心にだけは溢れた保守派の大人たちに囲まれて、いつかこのままでは無意味な理不尽に押し潰されるという不安が常に彼には付きまとっていた。

「よし、一、二、そこで足を止めない」

 槍術の師匠。シュットとの出会いは、そうした形だった。当時、トリシムは14歳。16年前の事だ。

「シュットさん。そんなのボクでは無理です」
「いいや。トリシムくん、キミは勘違いしている。才能のない人間なんていない。隙をなくすんだ。それだけでキミは強くなれるぞ」

 トリシムは気乗りせず、適当に稽古をしていた。しかしシュットはそんな彼を見抜いていたのだ。

「おい、トリシム。膝が緩みすぎだ」
「トリシム。稽古を増やすぞ」
「やめても良い、トリシム。だが二度と来るな」
「トリシム、それじゃ気合いになってない」

 トリシムはすぐには強くならなかった。文武両道ではあるトリシムだが、槍だけは本当に苦手で、習得するのに非常に時間が掛かったのだ。
 しかし、だからこそトリシムはシュットとの信頼関係を得たのだと確信している。


竜閃ナイフ
「ん、ちょろくないか?」

 トリシムは粗末な細槍で、翼竜槍をいなした。てこの原理のような戦い方だ。最低限の力で、大きな力の軌道をずらす。

「そんな槍で、やるじゃないか青年」
「減らず口を」

 変わった足さばきで、トリシムはダランを翻弄ほんろうし始めた。左に動くか右に動くか、前に進むか後ろに下がるか。それを悟らせない、しかし気にさせる動きにより一撃の隙を作り出しているのだ。

「あんたが竜なら・・・蜂羽ストライク

 ハチのように無軌道な軌道から繰り出される、毒針のように厳しい打突だ。

「ぬ、読みきれん」

 肩を掠めただけのはずが、ダランの皮膚は深く切れた。それほどに鋭い打突なのだ。
 ダランは豪快な攻撃を得意とするが、繊細な動きは天敵だ。まさに竜と蜂、天敵同士の宿命を思わせる、異常な緊張感が場を支配していた。

「ゼロくんは、どこだね」
「だから、それも勝ってからだ」

 あくまで正々堂々の勝負を望むのだろう。そうした心構えはやはり、保守らしくはあるのだ。


 トリシムが保守派を離れたのは、シュットという指導者のための離反だ。彼は、シュットの革命により開かれるママルマラの新時代に保守派となる事こそが、本当の保守だと考えている。
 つまり、保守のために革命を助けるのがトリシムの目的だ。シュットはそれを理解した上で、トリシムの優秀さを選んだ。
 革新と保守が手を結ぶ。これが革命において起こるのは、一つの強い力となる。理由がなんであれ、歴史は多数決の原理。そうである以上、支持者が多数付く事こそが正義となるわけだ。


 ダランは、腹を括った。若いとは言え、勝つべき敵なのだと言う事を、理解したのだ。

「翼竜槍は、竜の鱗で出来ている。だから、多少の無茶には耐えてくれるんだ」

 そう言うと、ダランは今までに見たこともない動きを始めた。翼竜槍の持ち方を変えたのだ。
 バイクのハンドルを握るかのように、両手で翼竜槍の突起を掴んだ。

 その直後、トリシムは黒焦げになった。

電磁竜閃リーク。すまない。なんでもアリ、なのだよ」


 起きた事はこうだ。
 翼竜槍には、科学的な電流装置が内臓されている。それを突起に付属しているレバーを強く押し込む事により、作動させたのである。
 しかし電気は有限だ。つまり充電を要する。ダランの翼竜槍に内臓された電流装置は余りに強力なために、2回使うだけで電気がカラになってしまう。

「キミは強かった。だから、奥の手をやった。ゼロくんは、自分で探すよ」

 黒焦げになったトリシムが、返事を出来るかはダランには分からないのだった。


「トリシムは、やられたか」

 空中から、シュットは全てを見ていた。

「まあ良い。あれに苦戦するなら、やはりダランなど恐れるに足らん」

 問題はゼロだ―――そう呟くシュットなのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...