マテリアー

永井 彰

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グランド・アーク

アークの秘密

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 ゾーンは、スフィアが魂の杖と対話した事に気付いた。世界中に絶え間なく張り巡らされている意識網エゴ・オーラにより、スフィアは精神までゾーンに見透かされているのだ。

【ふん、茶番が始まったな。ジルアファンの血など、所詮は二級品・・・。せいぜい、足掻いてみよ。我はここで待っているぞ】

 そして、グランド・アークに備え付けられた機械蝉メタルゼミが怪しげにミビュミビュ鳴いていた。
 機械蝉。ゾーンがワレスに与えた、〈途方もない執着を成す鉄鋼〉だ。

【素晴らしいぞ。アークへの執着が、お前に奇跡を授けるだろう】

 機械蝉は執着の力で、アークにある魔力を吸い取っている。そして、その魔力をゾーンが更に吸い上げていくのだ。
 みるみる間に、ゾーンはその戦闘力を高めていた。そして人形でしかなかった骨格が、アンデッドを思わせる本物の骨になってきていた。

【このままなら、肉の体を得る日も近い。こんなに上手く行くとはな】

 グランド・アークの魔力は、人間の体内にある物よりも濃度が極めて高い。よって、魂の杖が持つ力とはまた別の奇跡を起こすのである。
 それが、ゾーンの体に変化として現れているのだった。


 太陽の国バルターク

 ワレスは王宮の玉座に佇み、一人で瞑想に耽っていた。

「くくく。このまま魔族が侵攻を進めれば、余の理想郷が見えて来るのも、もうじきであろう」

 ワレスだけが、グランド・アークの秘密を知っていた。

「あの箱は、生きている・・・・・。首尾良くヤツを目覚めさせれば、途方もない力が我が物になるのだ」

 ワレスがゾーンに会っていた時、彼が気にしていたのはグランド・アークが僅かながら呼吸していた事だ。呼吸により酸素と二酸化炭素が交換されているという事象を、大魔王ともなれば観測する事が出来る。

 アークが生物ならば、今は睡眠状態。何らかの方法で目覚めさせる事が出来るなら、大魔王の配下として有効に活用する可能性が算段としてある、というわけである。


 そして、ワレスは新たに傘下に下ったオーガたちのリーダー、グロッタンに指令を下した。

「この大陸の中の適当な国を1つ支配して来い。さすれば、お前に好きな褒美と地位を授けよう」

 グロッタンは「ほほ、ほうほはう」としか言わないので、ワレスは言葉を話せるように魔法を使った。意思は理解出来ても、面倒だったからだ。

「ま、魔王さまの為なら、全力で頑張って参ります。ほうほはう」

 大魔王の勢力は、ガワウ大陸においては遂にメンベフリを制圧した。ダランたちがガワウ大陸を去って、しばらくしてからの事だ。
 さらに勢力は、ザレーンカ湖霊国を制圧しつつある。ザレーンカもまたガワウ大陸にあり、バルタークからは南西に位置する、大陸最西端の国だ。

「素晴らしいペースだ。人間どもを根絶やしにするには魂の杖も欲しいが、それはおいおい考えるとしよう」

 ワレスもまた、ゾーン同様にスフィアの動向は手に取るように把握していた。なぜなら、ゾーンの意識はワレスにより掌握しょうあくされており、ワレスの好きなように記憶も見る事が出来てしまうのだ。

「ワレス様。お話をよろしいかしら」

 妖艶な美女が、ワレスに近づいてきた。妖しげな微笑を浮かべ、ワレスを誘惑でもしようとしているかのようだ。

「近すぎるぞ、アイナム。それでは余の示しが付かぬ。それが何を意味するかは分かるな」
「ああん、ワレス様。バカなアタシにはさっぱりですの」

 腰をふりふり、ぶりっこをする様は人間だとしても嫌われやすい振る舞いだ。増して、相手は大魔王。アイナムと呼ばれた美女は、あるいは本当に愚かなのかもしれなかった。

「ふんっ、お前はただ人間を殺し続ければ良い。そうすれば、いつかはお前に素晴らしい婿むこを授けよう」
「もう、おたわむれを。アタシが愛するのは、ワレス様ただお一人。全人生をあなた様に捧げておりますのに。いけずなお方」

 アイナムはしおらしく振る舞うのも、実に板に付いていた。
 それもそのはずで、今でこそゾーンに譲るが、ゾーンが目覚める前まではアイナムがワレスの第一のしもべだったのだ。

「アイナム。焦る気持ちは分かるがみっともないぞ。これ以上ふざけるならば」
「おやめください。封印だけはご勘弁を」

 アイナムはまごまごしながら、許しを請うた。戦いに関してだけはいまだに彼女を評価しているワレスもこれには半ば呆れていた。
 もっとも、戦いとなればアイナムは別人のように、動ける戦士となるため、封印する気などはさらさらない。
 アイナム自身も、それを分かった上でふざけているのだ。


 猫人族のアイナムは、一族の裏切り者だ。

 猫人ニャントの民は本来、掟に厳しい狩猟民族。自然を味方とする心豊かで自由な民だ。
 しかしアイナムにより、今では猫人族の生き残りはほんのわずかとなった。

 大魔王が持つ力への、純粋な憧れ。
 それだけが、そしてそれこそが、アイナムを魔のしもべへと変えてしまったのだった。
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