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グランド・アーク
閑話・悲しき竜人
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「ホビル。朝ごはんよ、起きなさい」
ホビルと呼ばれた竜人は目を覚ました。
「ママ、ボクはお腹すかない。学校行っても、いじめられるもん」
「何を言ってるの。一生懸命勉強して、成績はちゃんと取れてるわよ。みんな、あなたと遊びたいだけなんじゃない?」
違うんだ、ママ―――ホビルはしかし、その言葉をぐっと飲み込んだ。
きっと信じてもらえないからだ。それほど、彼らは狡猾で賢かった。
「ホビル先生、ホビル先生じゃないか」
「ホビル先生。今日も俺達ダメドラゴンに、拳法教えてくれよお」
校門をくぐると、待ち伏せていた数人がホビルを取り囲んだ。先生、とは方便だ。そう言っておけば、万一、おとなに見つかっても格好はつく。
そして授業に遅刻する寸前まで、ホビルを一方的に痛め付けるのだ。
「オラオラオラオラ」
「新技だ、食らえ」
「これでもか、これでもか」
ホビルは無言で耐える。傷になるほどの仕打ちは受けないが、心に負う孤独と傷は深い。
そして、傷にならないだけに、教師たちや上の学年はホビルの件を黙認していた。
「スゴいじゃん。今日も耐えきったな」
「くそ、良いとこの坊っちゃんだからってカッコ付けるから、ボクちゃんたちもこんな、こんな」
「行こうぜ。これ以上は友達と勘違いされる」
竜人たちは去っていった。しかし、彼らはホビルと同じクラスだ。授業が始まっても、隙あらば蹴落とそうという心構えを彼らは崩さない。
「よし、ホビル先生、試合続行だぞ」
「まさかまさかだな。休まないっていうボケを咬ましてきた」
「笑うとこ、なのかな。シュール過ぎて分からないけど」
冷笑が教室を包み込み、その中をホビルは自分の机に向かって歩いた。
「はい、静かに。ホビルくんも元気がないからバカにされるんだろ。ちゃんとしなさい」
担任だからってホビルの味方ではない。むしろいじめる側は一切責めないのだ。
(なんでなんだ。なんでボクがいると、こんなに空気がおかしくなるんだ)
「ホビルくん、ホビルくん。どうした。元気がないって言ったばかりだろ。周りに移さないでくれよ、頼む」
教師の言葉に我、意を得たりと生徒たちが続く。それは朝の数人とは限らず、今回は女子学生のリーダー格も交じってきた。
「そうよ、ホビル菌。殺菌しちゃうわよ」
「やめてあげなよ、菌にも命はあるよ」
「なんか、風邪っぽい気がしてきた」
「マジ?うっわ、本当に。俺なんて、おなか痛くなってきた」
「ざっけんなよ、オイ。ホビル菌、感染性あるなら出てけって。ホビル菌よう」
「おーい、先生は菌なんて言ったか?お前ら、俺はそんな事までは言わないぞ」
これは今日が異常なのではない。いつもこんな調子なのだ。
元気を持て余した子ども、言葉を知らない教師、そして覇気がないホビル。これらの要素が揃ってしまった結果として生じる、いわば化学反応なのである。
「ホビルくん、じゃあ元気を出すために教科書のここ、読んでみてくれる」
「今日はホビルくん応援デーだから、黒板にここ、解いてくれる」
「えーと、じゃあホビルくん、今日はホビルくんの元気が出るまで何度でも当てるよお」
担任も最近ではホビルに目を付けたらしく、殊更にわざとらしくホビルにばかり発言させている。
「ホビル菌のせいで、先生まで精神病じゃん。マジ、帰ってくれ。そして二度と来ないでくれ」
「空気が悪いと思ってはいたよ、ボクもホビルが菌類とは言いたくはなかったけど」
何かこんな風に言う学生もいるが、少なくともホビルを助けようという学生はいない。
ホビルはこんな生活を続けていたので、精神に異常をきたす事がたまにあった。
急に「ふふふ」と笑えてきたり、自分の体が自分の物でないように思える、精神的な逃避症状を発し始めたのだ。
そんな様はやはり、見つかれば例外なく気味悪がられる。しかしホビルは返すべき言葉が分からないので、黙って耐えるしかなかったのだ。口げんかが弱く、言い返すとそれがバレてしまう。
そして、向こうもホビルがそうであると確信に至る事で、ようやく優位を得た安心感が湧いてくる。それが一段落する事で、つまり彼らの自尊心が満たされる事によって初めて、ホビルはそうした流れから解放されてゆく。
そのはずだった。
実際、学生時代はそうして過ぎて行った。おとなげない、しつこい行いは恥、という感覚を持てるように道徳が育ってくる事で、幾らかは建設的な、行動論などを持ち出してのまともらしい説教という行為へと、いじめは昇華さえした。
しかし結論から言うならば、それは学生時代ならではの給食、というそれなりにバランスが取れた食事による精神安定作用がもたらした、短い黄金時代だった。
そんな事など露知らぬホビルは、多くの弱い人間がそうするように安心していた。将来は更なる黄金時代が訪れ、皆が人間的に安らかに生きていけるようになる。
そう、信じていられたのだ。
そしてホビルは、薬師を目指すようになった。
薬師は、病人に薬を処方する仕事。誇らしい、人に優しい仕事で、恥じるべきなど何もない素晴らしい仕事とホビルは信じた。
金華薬大学。竜族が薬師を目指すなら、まずそこが手堅いだろうというその大学に、ホビルは合格した。
ホビル第二の暗黒時代の到来である。
現役で合格したホビルを待っていたのは、医学部受験に失敗した、気違い寸前の浪人生上がりがのさばる地獄絵図。
多数決の原理が負の方向に働いた、稀有な体験がホビルに襲いかかる。
そこでは後がない浪人生が与党であり正義。よほど頭の回転が良くないと、成績が良かった程度では足元を見られる。
そう、昔は無視していれば過ぎていった、足元を見られる、軽んじられるという事象がホビルにとっては現実の脅威となって向かってきたのだ。
「ちょ、話くらい聞いといてくれよ。頼むぜ」
「邪魔邪魔、邪魔。もう、本当に教授はもう、本当に教授」
「教授ぅ、本当に何やってんの?」
教授。それは明らかにホビルに向けられた呼び名だ。蔑まれていた。
成績が良いだけの偉そうで使えないガキ。浪人組からの評価は地の底から始まっていたが、そこまでは知らないホビルはまだお気楽であった。
しかし気を許せる友人を作れないままに来てしまったホビルを待っていたのは、その状態を保持すら出来ない無力。
次第に扱いはどんどん悪化した。勉強は出来ても頭の回転が悪いと見抜かれ、浪人組は損な相手と見限ったのだ。
浪人組からすれば、勉強はそれほど出来なくとも、まだ話が通じる相手を優先していただけ、とも言える。
しかし、だからこそホビルからしたらそんな人間しかいない環境は獄中も同然だ。
話せる同士で群れ始め、ホビルからは隙あらば唯一の生き甲斐である勉強すら奪おうとする。適度に挑発していけば、彼らにとっては赤子の手を捻るようなものなのだ。
精神が屈したホビルは、遂に大量に単位を落とす。
留年時代の始まりだ。
ホビルは在学中に三回留年した。
しかし留年した後は、不思議と誰もが優しかった。不良品と共に歩んで行かなくてよいという安心だったのだろう、今ではホビルはそう考えている。
「まあまあまあ、おごってやるよ。飯でもどう?」
こんな調子だ。
頭の回転が人並みに良い人間は人並みにおり、見て見ぬふりをお金で詫びれるなら、というそうした凡夫たちの人心の動き。
そんな施しを受けながらギリギリで大学を出て、ホビルはフリーターになった。
クズの生き方。
そこまで堕ちて、ようやくホビルはそうした凡夫たちの本心をある時に悟った。
優越感や自尊心を満足させる。実際の方法が多様なだけで、彼らもまた昔のいじめっ子たちと同じ。あるのは、ただ貧富や教養の違いのみであったのだ。
つまり、ホビルがどんなに立派になれたとしても、どこまで行っても、満たされない畜生道にある竜人たちは絶対確実にホビルと関わってくるのだ。
そして更に、ホビルは衝撃の事実を知る。竜人ならば当たり前にあるものがないのだ。
実際には、ずっと前からそうだったのだろう。しかし自らの体は、当たり前すぎて気付けない事もあるものだ。
竜人は、尻尾の上に緋色の痣がある。しかしホビルには、それがなかった。
先天的な劣等種族。
生きてきて受けた全ての苦しみは、それだけが唯一無二の理由だったのである。
「は、はは、は、ははは。なんだ、そうだったか。は、はは」
ホビルは一度、壊れた。しかし急激に再生した。新たな、しかも一貫していて強力な思想がホビルに備わったのだ。
全員が敵。
そうでなければ、おかしかったのだ。味方なら、もっとまともな会話の時間はたくさんあった。
直感的にか、ホビルを劣等と確信しては足元を掬い、人格を否定し、精神に刃を立てる。
味方であるはずはないのだ。
そして、それを知った日にホビルはホビルである事を辞めた。
―――。
そこで、ホビルだった者は目を覚ました。
「夢、か。イヤなものだ。今でも夢にうなされる」
彼にとって、関わってきた彼らは全て過去。そして同時に、向かってくる限り打ち倒すべき敵だ。
「あるいは、命を奪ってでも。俺は、―――俺こそが竜人なのだ」
彼らと同じ事をすれば良い。心が満たされるまで、心が傷つけば、その心がまた蘇るまで。
何度でも、何度でも、何度でも。
五窟主ホアナッドは、今ではその未来を克明に描く事が出来る。それはホビルだった頃には不可能な事だった。
「やられる前にやれば良い。簡単な事、とても簡単な事だったんだ」
虐げられ、蔑まれて、無視されてきた劣等種族にとって、それこそが返すべき挨拶となった。
「謝れば良いという軽い気持ちで、俺もしていくよ。永遠の闘争、―――牢獄から解き放たれたのは、そうして構わないという神からの許し」
あるいは、俺こそがもはや神そのもの―――ホアナッドはゆるゆると何度も頷いた。
居場所なき劣等竜人は、今、その限りない闘志をますます居場所にし、全てを壊す決意を新たにするのだった。
ホビルと呼ばれた竜人は目を覚ました。
「ママ、ボクはお腹すかない。学校行っても、いじめられるもん」
「何を言ってるの。一生懸命勉強して、成績はちゃんと取れてるわよ。みんな、あなたと遊びたいだけなんじゃない?」
違うんだ、ママ―――ホビルはしかし、その言葉をぐっと飲み込んだ。
きっと信じてもらえないからだ。それほど、彼らは狡猾で賢かった。
「ホビル先生、ホビル先生じゃないか」
「ホビル先生。今日も俺達ダメドラゴンに、拳法教えてくれよお」
校門をくぐると、待ち伏せていた数人がホビルを取り囲んだ。先生、とは方便だ。そう言っておけば、万一、おとなに見つかっても格好はつく。
そして授業に遅刻する寸前まで、ホビルを一方的に痛め付けるのだ。
「オラオラオラオラ」
「新技だ、食らえ」
「これでもか、これでもか」
ホビルは無言で耐える。傷になるほどの仕打ちは受けないが、心に負う孤独と傷は深い。
そして、傷にならないだけに、教師たちや上の学年はホビルの件を黙認していた。
「スゴいじゃん。今日も耐えきったな」
「くそ、良いとこの坊っちゃんだからってカッコ付けるから、ボクちゃんたちもこんな、こんな」
「行こうぜ。これ以上は友達と勘違いされる」
竜人たちは去っていった。しかし、彼らはホビルと同じクラスだ。授業が始まっても、隙あらば蹴落とそうという心構えを彼らは崩さない。
「よし、ホビル先生、試合続行だぞ」
「まさかまさかだな。休まないっていうボケを咬ましてきた」
「笑うとこ、なのかな。シュール過ぎて分からないけど」
冷笑が教室を包み込み、その中をホビルは自分の机に向かって歩いた。
「はい、静かに。ホビルくんも元気がないからバカにされるんだろ。ちゃんとしなさい」
担任だからってホビルの味方ではない。むしろいじめる側は一切責めないのだ。
(なんでなんだ。なんでボクがいると、こんなに空気がおかしくなるんだ)
「ホビルくん、ホビルくん。どうした。元気がないって言ったばかりだろ。周りに移さないでくれよ、頼む」
教師の言葉に我、意を得たりと生徒たちが続く。それは朝の数人とは限らず、今回は女子学生のリーダー格も交じってきた。
「そうよ、ホビル菌。殺菌しちゃうわよ」
「やめてあげなよ、菌にも命はあるよ」
「なんか、風邪っぽい気がしてきた」
「マジ?うっわ、本当に。俺なんて、おなか痛くなってきた」
「ざっけんなよ、オイ。ホビル菌、感染性あるなら出てけって。ホビル菌よう」
「おーい、先生は菌なんて言ったか?お前ら、俺はそんな事までは言わないぞ」
これは今日が異常なのではない。いつもこんな調子なのだ。
元気を持て余した子ども、言葉を知らない教師、そして覇気がないホビル。これらの要素が揃ってしまった結果として生じる、いわば化学反応なのである。
「ホビルくん、じゃあ元気を出すために教科書のここ、読んでみてくれる」
「今日はホビルくん応援デーだから、黒板にここ、解いてくれる」
「えーと、じゃあホビルくん、今日はホビルくんの元気が出るまで何度でも当てるよお」
担任も最近ではホビルに目を付けたらしく、殊更にわざとらしくホビルにばかり発言させている。
「ホビル菌のせいで、先生まで精神病じゃん。マジ、帰ってくれ。そして二度と来ないでくれ」
「空気が悪いと思ってはいたよ、ボクもホビルが菌類とは言いたくはなかったけど」
何かこんな風に言う学生もいるが、少なくともホビルを助けようという学生はいない。
ホビルはこんな生活を続けていたので、精神に異常をきたす事がたまにあった。
急に「ふふふ」と笑えてきたり、自分の体が自分の物でないように思える、精神的な逃避症状を発し始めたのだ。
そんな様はやはり、見つかれば例外なく気味悪がられる。しかしホビルは返すべき言葉が分からないので、黙って耐えるしかなかったのだ。口げんかが弱く、言い返すとそれがバレてしまう。
そして、向こうもホビルがそうであると確信に至る事で、ようやく優位を得た安心感が湧いてくる。それが一段落する事で、つまり彼らの自尊心が満たされる事によって初めて、ホビルはそうした流れから解放されてゆく。
そのはずだった。
実際、学生時代はそうして過ぎて行った。おとなげない、しつこい行いは恥、という感覚を持てるように道徳が育ってくる事で、幾らかは建設的な、行動論などを持ち出してのまともらしい説教という行為へと、いじめは昇華さえした。
しかし結論から言うならば、それは学生時代ならではの給食、というそれなりにバランスが取れた食事による精神安定作用がもたらした、短い黄金時代だった。
そんな事など露知らぬホビルは、多くの弱い人間がそうするように安心していた。将来は更なる黄金時代が訪れ、皆が人間的に安らかに生きていけるようになる。
そう、信じていられたのだ。
そしてホビルは、薬師を目指すようになった。
薬師は、病人に薬を処方する仕事。誇らしい、人に優しい仕事で、恥じるべきなど何もない素晴らしい仕事とホビルは信じた。
金華薬大学。竜族が薬師を目指すなら、まずそこが手堅いだろうというその大学に、ホビルは合格した。
ホビル第二の暗黒時代の到来である。
現役で合格したホビルを待っていたのは、医学部受験に失敗した、気違い寸前の浪人生上がりがのさばる地獄絵図。
多数決の原理が負の方向に働いた、稀有な体験がホビルに襲いかかる。
そこでは後がない浪人生が与党であり正義。よほど頭の回転が良くないと、成績が良かった程度では足元を見られる。
そう、昔は無視していれば過ぎていった、足元を見られる、軽んじられるという事象がホビルにとっては現実の脅威となって向かってきたのだ。
「ちょ、話くらい聞いといてくれよ。頼むぜ」
「邪魔邪魔、邪魔。もう、本当に教授はもう、本当に教授」
「教授ぅ、本当に何やってんの?」
教授。それは明らかにホビルに向けられた呼び名だ。蔑まれていた。
成績が良いだけの偉そうで使えないガキ。浪人組からの評価は地の底から始まっていたが、そこまでは知らないホビルはまだお気楽であった。
しかし気を許せる友人を作れないままに来てしまったホビルを待っていたのは、その状態を保持すら出来ない無力。
次第に扱いはどんどん悪化した。勉強は出来ても頭の回転が悪いと見抜かれ、浪人組は損な相手と見限ったのだ。
浪人組からすれば、勉強はそれほど出来なくとも、まだ話が通じる相手を優先していただけ、とも言える。
しかし、だからこそホビルからしたらそんな人間しかいない環境は獄中も同然だ。
話せる同士で群れ始め、ホビルからは隙あらば唯一の生き甲斐である勉強すら奪おうとする。適度に挑発していけば、彼らにとっては赤子の手を捻るようなものなのだ。
精神が屈したホビルは、遂に大量に単位を落とす。
留年時代の始まりだ。
ホビルは在学中に三回留年した。
しかし留年した後は、不思議と誰もが優しかった。不良品と共に歩んで行かなくてよいという安心だったのだろう、今ではホビルはそう考えている。
「まあまあまあ、おごってやるよ。飯でもどう?」
こんな調子だ。
頭の回転が人並みに良い人間は人並みにおり、見て見ぬふりをお金で詫びれるなら、というそうした凡夫たちの人心の動き。
そんな施しを受けながらギリギリで大学を出て、ホビルはフリーターになった。
クズの生き方。
そこまで堕ちて、ようやくホビルはそうした凡夫たちの本心をある時に悟った。
優越感や自尊心を満足させる。実際の方法が多様なだけで、彼らもまた昔のいじめっ子たちと同じ。あるのは、ただ貧富や教養の違いのみであったのだ。
つまり、ホビルがどんなに立派になれたとしても、どこまで行っても、満たされない畜生道にある竜人たちは絶対確実にホビルと関わってくるのだ。
そして更に、ホビルは衝撃の事実を知る。竜人ならば当たり前にあるものがないのだ。
実際には、ずっと前からそうだったのだろう。しかし自らの体は、当たり前すぎて気付けない事もあるものだ。
竜人は、尻尾の上に緋色の痣がある。しかしホビルには、それがなかった。
先天的な劣等種族。
生きてきて受けた全ての苦しみは、それだけが唯一無二の理由だったのである。
「は、はは、は、ははは。なんだ、そうだったか。は、はは」
ホビルは一度、壊れた。しかし急激に再生した。新たな、しかも一貫していて強力な思想がホビルに備わったのだ。
全員が敵。
そうでなければ、おかしかったのだ。味方なら、もっとまともな会話の時間はたくさんあった。
直感的にか、ホビルを劣等と確信しては足元を掬い、人格を否定し、精神に刃を立てる。
味方であるはずはないのだ。
そして、それを知った日にホビルはホビルである事を辞めた。
―――。
そこで、ホビルだった者は目を覚ました。
「夢、か。イヤなものだ。今でも夢にうなされる」
彼にとって、関わってきた彼らは全て過去。そして同時に、向かってくる限り打ち倒すべき敵だ。
「あるいは、命を奪ってでも。俺は、―――俺こそが竜人なのだ」
彼らと同じ事をすれば良い。心が満たされるまで、心が傷つけば、その心がまた蘇るまで。
何度でも、何度でも、何度でも。
五窟主ホアナッドは、今ではその未来を克明に描く事が出来る。それはホビルだった頃には不可能な事だった。
「やられる前にやれば良い。簡単な事、とても簡単な事だったんだ」
虐げられ、蔑まれて、無視されてきた劣等種族にとって、それこそが返すべき挨拶となった。
「謝れば良いという軽い気持ちで、俺もしていくよ。永遠の闘争、―――牢獄から解き放たれたのは、そうして構わないという神からの許し」
あるいは、俺こそがもはや神そのもの―――ホアナッドはゆるゆると何度も頷いた。
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