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グランド・アーク
復活の強敵
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氷の宮殿、第二層。
まさに氷だけだった第一層とは打って変わり、
部屋によっては石造りだったり洞窟だったり、挙げ句の果てには森林らしき部屋まで見受けられる。
「変わった所に来たな」
それがスフィアたち一行の感想だ。天然と人工の融合。いかにも大魔王から遣わされたゾーンが仕込みそうな混然としたフロアだ。
「久しぶりだな、アンタたち」
声の主、それはトリシムだ。
トリシム=カズーヒーク。ジュコの長牢獄でダランの電撃技、電磁竜閃に倒れたはずが、今、一行の前に立ちはだかっていた。
「ボクだけじゃない」
そのトリシムの言葉に呼応するかのように現れたのは、タビウン=ハークだ。
「俺たちはゾーン様に救われた。見よ、俺のこの腕を」
そういうタビウンの腕は、いつかスプスーが悪魔化したように気味悪い黒緑色をしていた。
「悪魔との契約だ。ワルガー=ザン。貴様を殺すためにな」
そう言うとタビウンは、スフィアたちから遠く離れた、森林部屋の木を目がけてデコピンをした。
すると、それだけで木が何本か吹き飛んだのだ。
「このインフレしきった破壊力。マジに、たまんねえぜ。騎士の人生なんていらなかったんだ。クハハハハ」
「そしてボクは新たに、こんな槍をたまわったよ」
トリシムが構えた槍は、一見すると青銅の槍だが、絡み付く蛇を模した柄の装飾だけがイヤに存在感があり、まるで本物の蛇のようだ。
「いや、それって―――」
一番に気付いたのは、マジルだ。それを聞き逃さずトリシムは、にんまりと笑う。
「そう。コイツは蛇だ。だがアンラ・マンユって知ってるか。コイツはただの蛇じゃない」
よく見ると、その蛇はトリシムと一体化している。トリシムの左腕から、アンラ・マンユと呼ばれる蛇がうねりながら槍に巻き付いているのだ。
「大魔王に魂を売ったか、闇の人間に堕ちた愚か者どもめ」
ダランは一喝した。賞金首がそこまで言うのは不合理ではあるが、少なくともダランたちは大魔王に魂を売るような所業を一度たりともしていない。
「みんな、さっさと倒してゾーンもやっつけるプリ」
「ああ、言われずともなァ」
「殺し屋以下のゴミ、死で反省して」
「人形みたいな人たちですね、あ、ボクも人形でした」
「皆さん、気を付けて戦いましょう」
一同に気合いが入る。どんなに強化されていても、ゾーンやアイナムなどに比べれば戦える敵だ。しかし気を抜かない構えだけは皆、一人として備えない事のない覚悟を伴ない、ここにいる。
「まやかしの正義の味方ども。大魔王様とゾーン様の名の下に成敗、成敗ィ」
先に動き出したのはタビウンだ。魔腕を棍棒の形に変え、最も無力なスフィアに素早い打撃を繰り出してきた。
「お前の相手は俺だろォ、雑魚騎士崩れが」
ワルガーはタビウンの動きだけを見ており、誰よりも速くタビウンに対応した。魔腕の棍棒を両手でしっかり受けたが、実はこの棍棒は細かいトゲがびっしりと付いている。
ワルガーの手の平から、血が滴った。
「痛ェエ」
「ワルガーさん、大丈夫ですか?」
「姫さん、俺より敵に集中しな」
「スプスー、姫に優しい泡を」
「ゼロ、―――合点承知のプリ」
ゼロもスプスーも、ワルガーよりスフィアの防御を優先した。ワルガーを見殺しにするではないが、2人の強敵を同時に相手にしている以上、死者を出さないのが何より最優先となるのだ。
「ダラン、下がっていて。あなたは休み、回復を優先すべき」
一方、トリシムとの戦いを引き受けたのはマジルだ。過去に受けた絶え間ない地獄の特訓の成果で、第一層の死闘において実際、彼女は最も気力体力を残しているのは誰の目にも明らかである。
「ほう、その構えにそのクナイ。まさか暗殺組合の者か」
トリシムは意外な反応を見せた。まるで暗殺組合を知っているかのような口振りだ。
「そうだとしたら?」
「―――恨みを晴らす」
トリシムには姉がいた。
「スミュ姉さん。おやつの時間だよ」
「・・・」
「姉さん、姉さん。返事をして、またボクを叱ってよ」
スミュ=カズーヒーク。トリシムの2つ上の姉だ。そして、彼女は暗殺組合の者に殺されかけた。
殺されかけたというのは、まだ生きてはいるのだ。しかし、後遺症により植物状態。
死ぬより酷い、死んでいないだけの脱け殻みたいな姉を見てはトリシムは泣いた。
そして時折そんな姉が言う「スカー」の3文字、その意味を知ってから数年のトリシムは、暗殺組合を追うだけの存在になったのだ。
「姉さんは帰らない。暗殺者は殲滅するべきなんだよォ」
「ならばなぜ大魔王を信じた、この大馬鹿者」
トリシムのような被害者に恨まれるのは仕方ない、それはマジルもそう思っている。しかし、愚かな復讐に遅れを取るような時間などマジルすら、有さないのだ。
「五十音順・松這刀」
五十音順刀の変形にして応用。投げた一の刀に更に一の刀を投げ継ぎ、五十を一つにしたそれはさながら力強い松の木である。
一つの五十音順刀は、次のクナイを投げ込む角度を変える事で、完成するまでの間ならばどこまでも執拗に相手を追い詰める。
まして、マジルが鍛えた暗殺投擲の速さから逃れられる者がいるとしたら、それは実の兄であるドムカ=カヤルーサただ1人だ。
「―――アンラ・マンユ」
しかし今日、二人目の防御者が現れた。正確には、一匹の蛇。トリシムの左腕に巻き付くアンラ・マンユだ。
「しかも一対一なんて誰が決めたァ」
タビウンが、スフィアたちから狙いを急激に切り替えた。
魔腕を杖に変え、森林部屋の木をマジルの方に向けて成長させる魔法を唱えたのだ。
「オリジナル魔法・樹木讚歌。オーディンに匹敵する力はどうだ」
オーディン級かの真偽は定かではない。しかし確実にマジルの胸部を貫いた枝は、少なからず結果を出した。
「マ、マジルさん」
スフィアは叫んだ。まだ出会って間もないのに、確実に共に戦ってきた仲間。さらわれた過去は王女の中では既に帳消しだ。
「うわああああ」
スフィアの中で、何かが起きた。
「な、なんだこの目映い光は」
そして次の瞬間、スフィアは光の鎧を身に付け、光輝く弓矢を持つ戦士となった。
「アンラ・マンユに見入られた哀れな人よ、魂の杖の裁きを受けなさい」
「なんだ、てめェ。行け、蛇よ。女を食い潰せ」
トリシムから放たれた蛇は、みるみる内に巨大な白蛇になり、スフィアを食らわんと口を開いた。
「きしゃあー」
「聖星帰浄天想」
アンラ・マンユは一瞬にして浄化され、消滅した。
「な、な、何が起きて、あ、ああ」
トリシムは絶句している。
しかしスフィアは振り向く事もなく、今度はマジルを回復した。
「光奇跡治然音」
みるみる間に、木は元に戻り、マジルが受けた傷口も瞬く間に塞がった。
「あ、あなたは」
「スフィアよ。悪を倒すため、本当の力を解き放ったの」
泰然かつ勇猛にスフィアは言い放った。しかしそれをタビウンが聞き逃すはずはない。
「こ、小癪な。つい、この間まではクズ騎士もどきに守られる小娘だった癖に」
「だ、誰がクズ騎士もどきだと」
反論するワルガーを制しつつ、スフィアはようやくその手に持つ弓を構えた。
「あなたには強い悪が根付いています。存在の根幹にまで張り付いている、根深い呪縛。今、我が弓でその邪悪を打ち払ってみせましょう」
まるで人が変わったスフィアに、タビウンばかりではなく誰もが驚いていた。
「鎮めたまえ、久遠正善魂矢」
「ぐ、な、なああああ」
光の矢を受けたタビウンは悲鳴を上げ、その場に倒れた。するとタビウンから、翼が生えた黒い影が現れたのだ。
「姫、なんなのです。この黒い魔物は」
「魔物ではありません。これは時に人に潜む闇そのもの。今一度、今度こそ我が弓で消し去ります」
闇そのものと称された影は、「ブブブ、ブブブブブ」とハエの飛ぶような気味の悪い音を発している。
「光の力よ。我に悪を撃滅する力を与えよ。そして悪よ刮目せよ。永劫回帰無矢」
「ブブ!ブブブ!」と一瞬、羽音のようなものが大きくなったが、もうそこに影はいなかった。
そしてスフィアは光の装備を失った。何らかの奇跡の力の時間は、どうやら終わったのだ。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「姫様こそ。お怪我は」
「ダランさん、そういえば私ならスフィアで構いませんよ。皆さんも。あと、私は無事です」
スフィアは光の装備の不思議な作用で、第一層で受けた傷が癒えていた。また、気づけば一行の傷もまた等しく回復していた。それも光の装備の力なのだろう。
「お嬢。今度も記憶喪失か?俺が分かるか」
「ワルガーさん。ダランさんにマジル、スプスーさんに、ゼロ。みんな分かります」
魂の杖の、以前より遥かに強い力のためにスフィアの魔力はほとんど使われなかったようだ。
「魂の杖、聞いた事があるプリ。とんでもなく、魔法より強い力が入ってる伝説アイテムなんだプ」
「そして、姫の中にある内になぜだか力が増した。―――ふむ、しかしそれは今のところ、我々には良い作用に思えますね」
ゼロの推理に皆が頷いた。と、その時、誰ともなくトリシムたちの姿が消えている事に気付いた。
「まさかゾーン、また転移なの」
「懲りない野郎だぜ。絶対、ぶっ飛ばす」
そして一行は第三層を目指し歩き始めた。しかし、彼らは気付いていなかったのだ。
第二層の道のりはまだ始まったばかり、その事実に。
【アイナム、ご苦労】
「ご苦労じゃないわ、アンタが次は何かやんなさい」
そして大魔王のしもべたちは、そんな一行を気にする様子すらない。それは第二層の本当の恐怖を知っているからなのだった。
まさに氷だけだった第一層とは打って変わり、
部屋によっては石造りだったり洞窟だったり、挙げ句の果てには森林らしき部屋まで見受けられる。
「変わった所に来たな」
それがスフィアたち一行の感想だ。天然と人工の融合。いかにも大魔王から遣わされたゾーンが仕込みそうな混然としたフロアだ。
「久しぶりだな、アンタたち」
声の主、それはトリシムだ。
トリシム=カズーヒーク。ジュコの長牢獄でダランの電撃技、電磁竜閃に倒れたはずが、今、一行の前に立ちはだかっていた。
「ボクだけじゃない」
そのトリシムの言葉に呼応するかのように現れたのは、タビウン=ハークだ。
「俺たちはゾーン様に救われた。見よ、俺のこの腕を」
そういうタビウンの腕は、いつかスプスーが悪魔化したように気味悪い黒緑色をしていた。
「悪魔との契約だ。ワルガー=ザン。貴様を殺すためにな」
そう言うとタビウンは、スフィアたちから遠く離れた、森林部屋の木を目がけてデコピンをした。
すると、それだけで木が何本か吹き飛んだのだ。
「このインフレしきった破壊力。マジに、たまんねえぜ。騎士の人生なんていらなかったんだ。クハハハハ」
「そしてボクは新たに、こんな槍をたまわったよ」
トリシムが構えた槍は、一見すると青銅の槍だが、絡み付く蛇を模した柄の装飾だけがイヤに存在感があり、まるで本物の蛇のようだ。
「いや、それって―――」
一番に気付いたのは、マジルだ。それを聞き逃さずトリシムは、にんまりと笑う。
「そう。コイツは蛇だ。だがアンラ・マンユって知ってるか。コイツはただの蛇じゃない」
よく見ると、その蛇はトリシムと一体化している。トリシムの左腕から、アンラ・マンユと呼ばれる蛇がうねりながら槍に巻き付いているのだ。
「大魔王に魂を売ったか、闇の人間に堕ちた愚か者どもめ」
ダランは一喝した。賞金首がそこまで言うのは不合理ではあるが、少なくともダランたちは大魔王に魂を売るような所業を一度たりともしていない。
「みんな、さっさと倒してゾーンもやっつけるプリ」
「ああ、言われずともなァ」
「殺し屋以下のゴミ、死で反省して」
「人形みたいな人たちですね、あ、ボクも人形でした」
「皆さん、気を付けて戦いましょう」
一同に気合いが入る。どんなに強化されていても、ゾーンやアイナムなどに比べれば戦える敵だ。しかし気を抜かない構えだけは皆、一人として備えない事のない覚悟を伴ない、ここにいる。
「まやかしの正義の味方ども。大魔王様とゾーン様の名の下に成敗、成敗ィ」
先に動き出したのはタビウンだ。魔腕を棍棒の形に変え、最も無力なスフィアに素早い打撃を繰り出してきた。
「お前の相手は俺だろォ、雑魚騎士崩れが」
ワルガーはタビウンの動きだけを見ており、誰よりも速くタビウンに対応した。魔腕の棍棒を両手でしっかり受けたが、実はこの棍棒は細かいトゲがびっしりと付いている。
ワルガーの手の平から、血が滴った。
「痛ェエ」
「ワルガーさん、大丈夫ですか?」
「姫さん、俺より敵に集中しな」
「スプスー、姫に優しい泡を」
「ゼロ、―――合点承知のプリ」
ゼロもスプスーも、ワルガーよりスフィアの防御を優先した。ワルガーを見殺しにするではないが、2人の強敵を同時に相手にしている以上、死者を出さないのが何より最優先となるのだ。
「ダラン、下がっていて。あなたは休み、回復を優先すべき」
一方、トリシムとの戦いを引き受けたのはマジルだ。過去に受けた絶え間ない地獄の特訓の成果で、第一層の死闘において実際、彼女は最も気力体力を残しているのは誰の目にも明らかである。
「ほう、その構えにそのクナイ。まさか暗殺組合の者か」
トリシムは意外な反応を見せた。まるで暗殺組合を知っているかのような口振りだ。
「そうだとしたら?」
「―――恨みを晴らす」
トリシムには姉がいた。
「スミュ姉さん。おやつの時間だよ」
「・・・」
「姉さん、姉さん。返事をして、またボクを叱ってよ」
スミュ=カズーヒーク。トリシムの2つ上の姉だ。そして、彼女は暗殺組合の者に殺されかけた。
殺されかけたというのは、まだ生きてはいるのだ。しかし、後遺症により植物状態。
死ぬより酷い、死んでいないだけの脱け殻みたいな姉を見てはトリシムは泣いた。
そして時折そんな姉が言う「スカー」の3文字、その意味を知ってから数年のトリシムは、暗殺組合を追うだけの存在になったのだ。
「姉さんは帰らない。暗殺者は殲滅するべきなんだよォ」
「ならばなぜ大魔王を信じた、この大馬鹿者」
トリシムのような被害者に恨まれるのは仕方ない、それはマジルもそう思っている。しかし、愚かな復讐に遅れを取るような時間などマジルすら、有さないのだ。
「五十音順・松這刀」
五十音順刀の変形にして応用。投げた一の刀に更に一の刀を投げ継ぎ、五十を一つにしたそれはさながら力強い松の木である。
一つの五十音順刀は、次のクナイを投げ込む角度を変える事で、完成するまでの間ならばどこまでも執拗に相手を追い詰める。
まして、マジルが鍛えた暗殺投擲の速さから逃れられる者がいるとしたら、それは実の兄であるドムカ=カヤルーサただ1人だ。
「―――アンラ・マンユ」
しかし今日、二人目の防御者が現れた。正確には、一匹の蛇。トリシムの左腕に巻き付くアンラ・マンユだ。
「しかも一対一なんて誰が決めたァ」
タビウンが、スフィアたちから狙いを急激に切り替えた。
魔腕を杖に変え、森林部屋の木をマジルの方に向けて成長させる魔法を唱えたのだ。
「オリジナル魔法・樹木讚歌。オーディンに匹敵する力はどうだ」
オーディン級かの真偽は定かではない。しかし確実にマジルの胸部を貫いた枝は、少なからず結果を出した。
「マ、マジルさん」
スフィアは叫んだ。まだ出会って間もないのに、確実に共に戦ってきた仲間。さらわれた過去は王女の中では既に帳消しだ。
「うわああああ」
スフィアの中で、何かが起きた。
「な、なんだこの目映い光は」
そして次の瞬間、スフィアは光の鎧を身に付け、光輝く弓矢を持つ戦士となった。
「アンラ・マンユに見入られた哀れな人よ、魂の杖の裁きを受けなさい」
「なんだ、てめェ。行け、蛇よ。女を食い潰せ」
トリシムから放たれた蛇は、みるみる内に巨大な白蛇になり、スフィアを食らわんと口を開いた。
「きしゃあー」
「聖星帰浄天想」
アンラ・マンユは一瞬にして浄化され、消滅した。
「な、な、何が起きて、あ、ああ」
トリシムは絶句している。
しかしスフィアは振り向く事もなく、今度はマジルを回復した。
「光奇跡治然音」
みるみる間に、木は元に戻り、マジルが受けた傷口も瞬く間に塞がった。
「あ、あなたは」
「スフィアよ。悪を倒すため、本当の力を解き放ったの」
泰然かつ勇猛にスフィアは言い放った。しかしそれをタビウンが聞き逃すはずはない。
「こ、小癪な。つい、この間まではクズ騎士もどきに守られる小娘だった癖に」
「だ、誰がクズ騎士もどきだと」
反論するワルガーを制しつつ、スフィアはようやくその手に持つ弓を構えた。
「あなたには強い悪が根付いています。存在の根幹にまで張り付いている、根深い呪縛。今、我が弓でその邪悪を打ち払ってみせましょう」
まるで人が変わったスフィアに、タビウンばかりではなく誰もが驚いていた。
「鎮めたまえ、久遠正善魂矢」
「ぐ、な、なああああ」
光の矢を受けたタビウンは悲鳴を上げ、その場に倒れた。するとタビウンから、翼が生えた黒い影が現れたのだ。
「姫、なんなのです。この黒い魔物は」
「魔物ではありません。これは時に人に潜む闇そのもの。今一度、今度こそ我が弓で消し去ります」
闇そのものと称された影は、「ブブブ、ブブブブブ」とハエの飛ぶような気味の悪い音を発している。
「光の力よ。我に悪を撃滅する力を与えよ。そして悪よ刮目せよ。永劫回帰無矢」
「ブブ!ブブブ!」と一瞬、羽音のようなものが大きくなったが、もうそこに影はいなかった。
そしてスフィアは光の装備を失った。何らかの奇跡の力の時間は、どうやら終わったのだ。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「姫様こそ。お怪我は」
「ダランさん、そういえば私ならスフィアで構いませんよ。皆さんも。あと、私は無事です」
スフィアは光の装備の不思議な作用で、第一層で受けた傷が癒えていた。また、気づけば一行の傷もまた等しく回復していた。それも光の装備の力なのだろう。
「お嬢。今度も記憶喪失か?俺が分かるか」
「ワルガーさん。ダランさんにマジル、スプスーさんに、ゼロ。みんな分かります」
魂の杖の、以前より遥かに強い力のためにスフィアの魔力はほとんど使われなかったようだ。
「魂の杖、聞いた事があるプリ。とんでもなく、魔法より強い力が入ってる伝説アイテムなんだプ」
「そして、姫の中にある内になぜだか力が増した。―――ふむ、しかしそれは今のところ、我々には良い作用に思えますね」
ゼロの推理に皆が頷いた。と、その時、誰ともなくトリシムたちの姿が消えている事に気付いた。
「まさかゾーン、また転移なの」
「懲りない野郎だぜ。絶対、ぶっ飛ばす」
そして一行は第三層を目指し歩き始めた。しかし、彼らは気付いていなかったのだ。
第二層の道のりはまだ始まったばかり、その事実に。
【アイナム、ご苦労】
「ご苦労じゃないわ、アンタが次は何かやんなさい」
そして大魔王のしもべたちは、そんな一行を気にする様子すらない。それは第二層の本当の恐怖を知っているからなのだった。
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