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第1話:理不尽な婚約破棄
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王太子主催のパーティーは、その華やかさにおいて頂点に達していた。
クリスタルガラスのシャンデリアが放つ光は、床の大理石に反射し、色とりどりのドレスを纏った令嬢たちを照らし出している。
給仕たちが運ぶ最高級のワインの香り、楽団が奏でる優雅なワルツ。
だが、その喧騒は一瞬にして凍りついた。
会場の中央。
一段高くなった場所に、この国の王太子ジュリアン・ヴァリエールが立っていたからだ。
彼の腕には、小動物のように愛らしい男爵令嬢、ミシェル・フォックスがしがみついている。
そして彼らの視線の先には、一人の令嬢が佇んでいた。
ヴィオラ・クライスト伯爵令嬢。
艶のある栗色の髪を、実用性を重視したシニヨンにきっちりとまとめ、銀縁の眼鏡をかけた彼女は、周囲の煌びやかな令嬢たちと比べれば、確かに地味に映るかもしれない。
しかし、その背筋はまっすぐに伸びており、表情には一点の曇りもなかった。
「ヴィオラ・クライスト! 貴様との婚約を、この場を持って破棄する!」
ジュリアンの高らかな宣言が、ホールに響き渡る。
音楽が止まり、数百人の視線がヴィオラに突き刺さる。
通常であれば、顔面蒼白になって泣き崩れるか、怒りに震える場面だろう。
しかし、ヴィオラは冷静だった。
彼女は眼鏡のブリッジを中指でくいと押し上げると、まるで実験室でビーカーの目盛りを読むような平坦な声で答えた。
「……承知いたしました、殿下。理由は伺っても?」
取り乱さない彼女の態度が気に入らなかったのか、ジュリアンは眉をひそめ、さらに声を張り上げた。
「理由だと? そんなこともわからんのか! 貴様のような陰気で可愛げのない女は、将来の王妃にふさわしくないからだ!」
「陰気、ですか」
「そうだ! 貴様はいつもいつも、王宮の壁のひび割れだの、椅子の脚のガタつきだの、薄暗い場所で接着剤を捏ね繰り回してばかりではないか!」
会場のあちこちから、クスクスという嘲笑が漏れる。
ヴィオラは小さく息を吐いた。
王宮の設備が老朽化し、危険な状態にあったため、彼女が夜な夜な特殊樹脂を用いて補強工事を行っていたことは事実だ。
予算不足を訴える財務官と、見栄えばかり気にする王太子の間で、物理的な崩壊を防いでいたのは彼女の技術だったのだが――どうやら、それは陰気な趣味と判断されたらしい。
「それに引き換え、ミシェルを見ろ! 彼女は純粋で、明るくて、私を心から癒やしてくれる。私と彼女は、貴様との形式的な関係とは違う。真実の愛で結ばれているのだ!」
ジュリアンがミシェルの腰を抱き寄せる。
ミシェルは「きゃっ、殿下ったら……恥ずかしいですぅ」と頬を染め、上目遣いで彼を見つめた。
その光景を見てヴィオラは、思考のスイッチを切り替えた。
感情ではなく、現象の分析へと。
そして彼女は、冷ややかな瞳で語り始めた。
クリスタルガラスのシャンデリアが放つ光は、床の大理石に反射し、色とりどりのドレスを纏った令嬢たちを照らし出している。
給仕たちが運ぶ最高級のワインの香り、楽団が奏でる優雅なワルツ。
だが、その喧騒は一瞬にして凍りついた。
会場の中央。
一段高くなった場所に、この国の王太子ジュリアン・ヴァリエールが立っていたからだ。
彼の腕には、小動物のように愛らしい男爵令嬢、ミシェル・フォックスがしがみついている。
そして彼らの視線の先には、一人の令嬢が佇んでいた。
ヴィオラ・クライスト伯爵令嬢。
艶のある栗色の髪を、実用性を重視したシニヨンにきっちりとまとめ、銀縁の眼鏡をかけた彼女は、周囲の煌びやかな令嬢たちと比べれば、確かに地味に映るかもしれない。
しかし、その背筋はまっすぐに伸びており、表情には一点の曇りもなかった。
「ヴィオラ・クライスト! 貴様との婚約を、この場を持って破棄する!」
ジュリアンの高らかな宣言が、ホールに響き渡る。
音楽が止まり、数百人の視線がヴィオラに突き刺さる。
通常であれば、顔面蒼白になって泣き崩れるか、怒りに震える場面だろう。
しかし、ヴィオラは冷静だった。
彼女は眼鏡のブリッジを中指でくいと押し上げると、まるで実験室でビーカーの目盛りを読むような平坦な声で答えた。
「……承知いたしました、殿下。理由は伺っても?」
取り乱さない彼女の態度が気に入らなかったのか、ジュリアンは眉をひそめ、さらに声を張り上げた。
「理由だと? そんなこともわからんのか! 貴様のような陰気で可愛げのない女は、将来の王妃にふさわしくないからだ!」
「陰気、ですか」
「そうだ! 貴様はいつもいつも、王宮の壁のひび割れだの、椅子の脚のガタつきだの、薄暗い場所で接着剤を捏ね繰り回してばかりではないか!」
会場のあちこちから、クスクスという嘲笑が漏れる。
ヴィオラは小さく息を吐いた。
王宮の設備が老朽化し、危険な状態にあったため、彼女が夜な夜な特殊樹脂を用いて補強工事を行っていたことは事実だ。
予算不足を訴える財務官と、見栄えばかり気にする王太子の間で、物理的な崩壊を防いでいたのは彼女の技術だったのだが――どうやら、それは陰気な趣味と判断されたらしい。
「それに引き換え、ミシェルを見ろ! 彼女は純粋で、明るくて、私を心から癒やしてくれる。私と彼女は、貴様との形式的な関係とは違う。真実の愛で結ばれているのだ!」
ジュリアンがミシェルの腰を抱き寄せる。
ミシェルは「きゃっ、殿下ったら……恥ずかしいですぅ」と頬を染め、上目遣いで彼を見つめた。
その光景を見てヴィオラは、思考のスイッチを切り替えた。
感情ではなく、現象の分析へと。
そして彼女は、冷ややかな瞳で語り始めた。
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