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第一章
4 不意の口づけ
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漆黒の闇の中。
「ああ、妃よ。貴女に魅せられた憐れな私は、毎夜眠らず、この刹那を夢見ておりました」
男の謡うような声とともに、小蘭の唇に――熱が、触れた。
「う」
なすがままにされながら、小蘭は考えた。
(窓から入るのが、この国の作法なのかしら)
にしたって……。
考えることに集中し、従順であることに努める。そのうちに、身体が変に火照りだした。
香炉から漂っている、妖しい香りのせいだろうか。思考がとろけ、身体の芯が熱を帯びてくる。
「……うん」
思わず漏れ出た甘い呻きに、男は嬉しそうに声を弾ませた。
「妃よ、やっと思い出してくれたのか!」
男は、さらに熱を込め、甘い声で囁いた。
「では改めて。愛しています、可愛らしい貴女を」
「あの……」
問いかけようとした唇は、またすぐに塞がれた。
「ちょっ――!」
小蘭の脳裏に、ふと故国の収穫祭の夜が蘇った。
『兄ちゃん、大兄ちゃんは、何をしてるの?』
『んー……あれだ。好きな子とする事だ』
その、『好きな子とする事』を、今、自分は初対面の男としている。
その境遇に哀しさを覚えながらも、小蘭は必死で受け止める。
――ガマンしなくちゃ、でも……。
息もつけない苦しさに、目眩がしてくる。
(閨の事ってこんなに苦しいものなの?)
そうか、だから向かいの房のお姉様もあんなに泣いていたんだ。
「く……」
耐えきれず、男の腰にしがみつくと、男はその圧迫からようやく解放してくれた。
と思ったら。
いつの間にやら、下帯が外されている。
「ちょっと待っ――」
小蘭の焦りにも、男は何らためらわない。
「可愛いひとだ。幼子のような頬も」
熱っぽく囁きながら、さっきまで口を塞いでいた唇を頬へ。
「か細い首元も」
頬から首筋へと滑らせる。
「ひゃっ」
身をよじらせる小蘭を逃がさず、男は鎖骨の窪みに顔を埋めた。
「や、やめて……くすぐったい」
小蘭がつい声を張り上げると、意外にも彼は素直にそれを聞き入れた。
小蘭は胸をなで下ろした。
けれど……。
(何か、おかしい)
噂に聞く残虐な皇帝の姿と、今目の前にいるこの男が、どうしても結びつかない。
声が若々しく、動きも俊敏。
小蘭が頭を悩ませていたところ。
「そして、この胸の膨らみ」
再び男に抱き寄せられ、小蘭はつい、悲鳴をあげた。
「ひぇっ……!」
「そうだ。この柔らかさを、どれほど待ちわびたことか。ああ……俺の黎妃、俺の……あれ?」
男は、首を傾げている。
「前はもう少し……。君、もしかして痩せた?」
(……黎妃?)
ちょっと待て。
いくら皇帝とはいえ、何かすごく失礼な事を言われてないか。しかも今『黎妃』って、言った?
「やっ……」
考えるほどに、恐怖は疑問に、疑問は怒りに変わっていった。
「やめなさいっ!!」
「き、妃?」
男の、胸に触れていた手が、びくりと止まった。
「何よ、さっきから黙ってりゃ、変なことばっかり! 「黎妃」じゃない、小蘭よ。胡の国の妃、小蘭!」
「え?」
男は、慌てて身を引いた。
暗闇に目を凝らし、互いの顔をまじまじと見る。
そこにいたのはどう見ても若い男――どうみても七十の老人ではない。
さらに男は、ジロジロと小蘭を眺め回した挙句、不思議そうに首をひねった。
「え~っと。君、誰だっけ?」
「な、な」
なら、さっきまでの我慢は何だったのか。
つまり――
(この男、皇帝じゃなくてただの――)
「あんたこそ誰よっ」
その瞬間、小蘭の中から「恐怖」が消え失せ、「怒り」だけが残った。
「ああ、妃よ。貴女に魅せられた憐れな私は、毎夜眠らず、この刹那を夢見ておりました」
男の謡うような声とともに、小蘭の唇に――熱が、触れた。
「う」
なすがままにされながら、小蘭は考えた。
(窓から入るのが、この国の作法なのかしら)
にしたって……。
考えることに集中し、従順であることに努める。そのうちに、身体が変に火照りだした。
香炉から漂っている、妖しい香りのせいだろうか。思考がとろけ、身体の芯が熱を帯びてくる。
「……うん」
思わず漏れ出た甘い呻きに、男は嬉しそうに声を弾ませた。
「妃よ、やっと思い出してくれたのか!」
男は、さらに熱を込め、甘い声で囁いた。
「では改めて。愛しています、可愛らしい貴女を」
「あの……」
問いかけようとした唇は、またすぐに塞がれた。
「ちょっ――!」
小蘭の脳裏に、ふと故国の収穫祭の夜が蘇った。
『兄ちゃん、大兄ちゃんは、何をしてるの?』
『んー……あれだ。好きな子とする事だ』
その、『好きな子とする事』を、今、自分は初対面の男としている。
その境遇に哀しさを覚えながらも、小蘭は必死で受け止める。
――ガマンしなくちゃ、でも……。
息もつけない苦しさに、目眩がしてくる。
(閨の事ってこんなに苦しいものなの?)
そうか、だから向かいの房のお姉様もあんなに泣いていたんだ。
「く……」
耐えきれず、男の腰にしがみつくと、男はその圧迫からようやく解放してくれた。
と思ったら。
いつの間にやら、下帯が外されている。
「ちょっと待っ――」
小蘭の焦りにも、男は何らためらわない。
「可愛いひとだ。幼子のような頬も」
熱っぽく囁きながら、さっきまで口を塞いでいた唇を頬へ。
「か細い首元も」
頬から首筋へと滑らせる。
「ひゃっ」
身をよじらせる小蘭を逃がさず、男は鎖骨の窪みに顔を埋めた。
「や、やめて……くすぐったい」
小蘭がつい声を張り上げると、意外にも彼は素直にそれを聞き入れた。
小蘭は胸をなで下ろした。
けれど……。
(何か、おかしい)
噂に聞く残虐な皇帝の姿と、今目の前にいるこの男が、どうしても結びつかない。
声が若々しく、動きも俊敏。
小蘭が頭を悩ませていたところ。
「そして、この胸の膨らみ」
再び男に抱き寄せられ、小蘭はつい、悲鳴をあげた。
「ひぇっ……!」
「そうだ。この柔らかさを、どれほど待ちわびたことか。ああ……俺の黎妃、俺の……あれ?」
男は、首を傾げている。
「前はもう少し……。君、もしかして痩せた?」
(……黎妃?)
ちょっと待て。
いくら皇帝とはいえ、何かすごく失礼な事を言われてないか。しかも今『黎妃』って、言った?
「やっ……」
考えるほどに、恐怖は疑問に、疑問は怒りに変わっていった。
「やめなさいっ!!」
「き、妃?」
男の、胸に触れていた手が、びくりと止まった。
「何よ、さっきから黙ってりゃ、変なことばっかり! 「黎妃」じゃない、小蘭よ。胡の国の妃、小蘭!」
「え?」
男は、慌てて身を引いた。
暗闇に目を凝らし、互いの顔をまじまじと見る。
そこにいたのはどう見ても若い男――どうみても七十の老人ではない。
さらに男は、ジロジロと小蘭を眺め回した挙句、不思議そうに首をひねった。
「え~っと。君、誰だっけ?」
「な、な」
なら、さっきまでの我慢は何だったのか。
つまり――
(この男、皇帝じゃなくてただの――)
「あんたこそ誰よっ」
その瞬間、小蘭の中から「恐怖」が消え失せ、「怒り」だけが残った。
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