小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

文字の大きさ
76 / 82
第4章 リューべルへの道

女の子

しおりを挟む


 ディーが盗賊達を縛り上げていく姿をただただ呆然と見ていた。

 まだ、手に残る切った感触、耳に残る生々しい"声"。
 魔獣や魔物とは違う感覚に襲われていた。なんだか手が、震えている気さえする。

「おい、エル。こっちに来い」

 ディーは俺に縛り方をおしえてくれた。やっぱり初めは上手くいかなくて、5回ほどやり直してやっと形になった。

「……人は喋るし、騙す。狡猾でよっぽどずる賢い。魔獣や魔物より、ある意味厄介だ」

「うん」

 それはさっき痛感した。俺が一瞬戸惑ったせいでアレクに助けてもらった。アレクがいなかったら多分、あのナイフは俺を貫いていた。

 強さでいったら、ダイアウルフの方が何倍も強くてしつこかった。
 でも、人は強さの前に言葉巧みに揺さぶってくる。
 ……確かに、すごく厄介だ。

 これからも、冒険者としてやっていく上で、それ以前に旅を続けるならきっと同じことは数え切れないくらいあるだろう。
 その時にいちいち悩んでなんか居られない。
 迷ったら死ぬ。それは全てに共通することだ。

「よし」

 声に出して、気持ちを切り替えた。

 大丈夫、迷わない。

「老人、どこまで行く予定だ?」

「助けていただきまして、ありがとうございます。ノアラまででしたが、一旦ヴィルナまで戻ろうと思います」

「そうだな、それがいい」

 それからお爺さんは俺の手をとって深々と頭を下げた。

「君も、本当にありがとう。お陰様で、荷物だけでなく、孫も助けていただいた」

「おまご、さん?」

 倒れた荷馬車を見ると、幌のあいだから覗き込んでいる顔が見えた。
 目が合うとぴゃっと隠れてしまった。うさぎ族らしい、長い耳がぴょこんと揺れた。

 咄嗟に俺は倒れた荷馬車に駆け寄る。
 中に居る時に荷馬車が倒れたなら怪我をしていないか心配になったからだ。

「きみ!大丈夫?」

 幌の向こう、崩れた木箱の隅にしゃがみ込んでいた子は、小さな布人形をぎゅっと抱きしめたまま、怯えたようにこちらを見上げた。

 黒に近い焦げ茶の髪を肩の上で切りそろえた、小さな女の子だった。
 年の頃は……6歳くらいだろうか。

「だ、だいじょぶ……」

 小さな声。震えている。
その長い耳がしょんぼり垂れて、しっぽもぎゅっと縮こまっていた。

 その顔を見た瞬間、胸がきゅっとした。
 きっと、いや絶対にものすごく怖かったはずだ。

 俺は慌ててしゃがみ込んで手を伸ばした。
 でも――

 あれ?女の子って、ど、どうやって声かけたらいいんだ……?

 今にも泣きそうな顔の女の子。あれこれ俺泣かせちゃわないかな。

 だから、おそるおそる、そっと声をかけてみた。

「えっと……外、出られる?痛いとこない?」

 女の子は布人形を抱えたまま、その場を動こうとしない。よく見ると膝が真っ赤になっていた。

「そっち、行っても平気?」

 なるべく怖がらせないように、優しく声をかけた。
 女の子は耳と一緒に小さくこくんと頷く。

 怯えさせないように、ゆっくりと荷馬車に入って近づく。膝が真っ赤でとても痛そうだ。抱っこしてあげようと脇の下に手を差し込む。

「……おにいちゃん?」

 その一言で心臓が跳ねた。慌てて両手を引っ込める。

「っあ、ごめんね!足、痛そうだったから抱っこしてあげようと思って」

 何も言わずに抱っこしようとしたのはまずかった!俺は兄上に結構無言で抱っこして貰ってたけど、女の子だし、それ以前に今出会ったばかりの女の子なのに!

 内心パニクっているのに、外面は頑張って“優しげ”を装う。

「抱っこしても、いいかな?」

 少し悩んだ後、女の子はこくんとうなづいて両手を伸ばしてくれた。

「外の空気吸おっか。おじいさん、心配してるよ」

「……うん」

 抱っこするとぎゅってしがみつく女の子。
 ちいちゃい。あったかい。

 怖かったね、もう大丈夫だよと優しく背中を撫でてあげた。

 そして荷馬車から降りると、お爺さんが駆け寄る。お爺さんは犬族らしく、ミナちゃんのことが心配で耳がピンと立っていた。

「ミナ!怪我はないか!」

「おじい……ちゃん……」

 ミナちゃんを降ろすと、ぎゅっとお爺さんにしがみついた。
 その姿を見て、俺は胸を撫で下ろした。

 ところが――

 ミナちゃんが俺の方へ振り返り、布人形を抱え直しながら言った。

「おにいちゃん……こわいの、やっつけてくれて……ありがと……」

 言われた瞬間、耳まで真っ赤になった。産毛まで逆だってる気がする。

「い、いや!大したことじゃ……!」

 うわああああ!何この恥ずかしさ! 女の子相手だと破壊力が違いすぎるんだけど!?

 動揺して固まってる俺の横で、アレク(人型)がミナちゃんにじーっと見られ、

「……おっきい、おにいちゃん……?も、ありがとう」

「あっ……お、おう……?」

 アレクが珍しく言葉に詰まっていた。

「おじさんも、ありがとう」

 ディーにもちゃんとお礼を言っていた。
「おう」と返事をするが耳がちょっと膨らんだのを俺は見逃さなかった。
 というかディーはおじさんっていう年齢なのかな?お兄さんくらいかな、と思ってたんだけど。
 まぁいっか。ディーがおじさんでもお兄さんでもディーはディーだし。機会があったら聞いてみようっと。

「あ!ミナちゃん?足、俺湿布草持ってるから貼ろうか」

 返事も聞かずに鞄の中からミルド草を取り出した。これは寒冷地に生えるという訳では無いが、ノルデン周辺の夏場にたまに見かけることがある。依頼でも何回か受けたが、1回の依頼の分量を集めるのに3日以上かけないと集まらなかった苦い思い出の採取依頼だ。

 それを手の中で揉んで柔らかくする。少し水分が出てきてしなっとしてきたら、ミナちゃんの真っ赤な膝にあてる。落ちないように布で固定して完成だ。

「ひゃっ、冷たい」

「この冷たいのが良いんだよ。炎症を抑えて、治すのを手伝ってくれるからね」

「うん」

 まだ少し緊張してるみたいだけど、少しほっとした表情のミナちゃんが可愛い。耳もしっぽも変な緊張は見られない。それが嬉しくてつい、顔が緩んでにこにこしてしまう。

「あのぅ、ミナはしばらく歩けませんし……その……よければ、ヴィルナまで同行をお願いできませんか?」

 ディーは短く頷いた。

「ああ、そいつらを引き渡すまでは同行するつもりだ。エル、アレク、先ずは荷馬車を戻すぞ」

「わ、分かった!」
「えぇ」

 文句を言う割にしっかり手伝うアレクに苦笑した。

 荷馬車に盗賊を転がして、見張りはアレク。

 馬が1匹逃げてしまったようで、おじいさんは荷馬車を引く残りの馬を牽引、ミナちゃんはディーが抱っこ。俺はディーの隣を歩く。

 日が暮れる前にヴィルナに着くことが出来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

処理中です...