77 / 82
第4章 リューべルへの道
スバシリテン
しおりを挟む「あー、もう真っ暗じゃん。今からでも宿って見つかるもの?」
俺は新しく発行されたギルドカードを両手にキラキラと目を輝かせていた。
盗賊を引き渡して、ギルドでも報告して、なんと俺とアレクは冒険者のランクが上がったのだ。
今まで最低ランクのFだったけど、今回の件はまさしく手柄、ということでEランクに上がったのだ。
「あー、今の時間じゃ厳しいかもな」
どこの宿も夕飯時あたりから受付自体を辞めてしまうところが多い。
幾つか宿屋をあたってみても、やはり部屋は取れなかった。
「あとは、あっちの方か」
ディーは淡々と宿のある方へと歩きだす。
もう今日は無理だよ。飯食って広場で野宿しようぜ...なんて口から出そうになった時
「お兄ちゃん!」
聞いたことのある声が聞こえた。
目をこらすと道の向こう側から、ミナちゃんが走ってくるのが見えた。うさぎ耳がぴょこぴょこ跳ねてて可愛い。
「あれ?ミナちゃんどうしたの?」
走ってきた勢いのまま俺にぶつかり、ぎゅっとしがみつくミナちゃん。
ふふ、ミナちゃんくらいじゃビクともしないし、一直線に走ってきてこの子やっぱり可愛い。
「こら、ミナ」
と後から男の人が走ってきた。彼は犬耳族らしい耳がぴょこんと生えていた。
……お父さんかな?
「あの、ミナの父の……」
「お兄ちゃん!お宿決まった?」
ミナちゃんは元気にお父さんの声に被せて俺に聞いてきた。
「あぁ~、それがまだなんだよね」
お父さんをどうするべきか視線をちらっとよこしつつ、ミナちゃんに答えてあげる。
「それならミナのうちにおいでよ!」
「え?」
今夜の宿は決まらなそうだし、泊まれるなら正直嬉しいけれど、でもお父さんは?と思って視線を向けると笑顔でうなづいた。
「はい。おそらく宿は難しいかと思いまして。その、昼間のお礼も兼ねてうちにいらっしゃいませんか?」
まじで!?ラッキー!と思いつつ、ディーの顔もちらっと伺う。
少しだけほっとした表情でうなづいてくれた。
「いいんですか!?」
「いいよぉ!」
お父さんではなく、ミナちゃんが元気よく答える。耳がぴーんと立って、しっぽも小さくプルプル震えてる。
ふふ、感情丸出し。
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
俺は上機嫌で、両手を伸ばしてくるミナちゃんを抱き上げた。お父さんが「こら」とミナちゃんに言うが本人はなんのその。俺に「すみません」と頭を下げていた。
"お礼"はギルドからきちんと盗賊捕縛の感謝料を貰っている。被害にあった個人からのお礼は無くても構わない。むしろ、馬が1匹逃げちゃったし、荷馬車は転倒していたから荷物も幾つかダメになっているはずで、ミナちゃんの家族も大変なはずなのだ。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「おっきぃお兄ちゃんは?」
「あ、えっと、ちょっと別行動してるんだ」
今、アレクは鞄の中だ。たとえ狭くても、長時間人型で居たアレクは休みたかったらしい。完全に寝入ってるようでビクリともしない。
「そうなんだ。あのね」
ミナちゃんはぎゅっと俺の服を掴んで、意を決したように話し始めた。
「今日ね、帰ってから、家が怖くて……」
「家が怖い?」
「うん、あのね、"ごとごと"って鳴ってるの。壁とか、天井が。それがね、怖くて」
「壁と天井が鳴ってる?」
「そうなの、怖いの」
ミナちゃんはぎゅっとしがみついて、俺の肩に耳と顔を埋めてしまった。
「あの、すみません。それに関しては明日にでもきちんとギルドへ依頼を出そうかと思っていたので、気にして頂かくて大丈夫です」
お父さんが申し訳なさそうに言う。
ミナちゃんもこんなに怖がっているんだし、何かお手伝いできたらいいんだけど。
……ん?明日にでもギルドに依頼?
ちらっとディーを見ると「まぁ、世話になるしな」と、俺にだけ聞こえるようにボソッと言った。
「あの!もし宜しければ、その依頼、先に俺らで見ても良いですか?」
「しかし、」
「っ本当!?」
またもやミナちゃんはお父さんを遮って耳と一緒に勢いよく返事をした。
「お父さん、お願い!お兄ちゃんたちなら絶対大丈夫だよ!」
ミナちゃんが俺の手をぎゅっと握る。
その力の入り具合で、昼間からどれだけ怖かったか分かっちゃう。
お父さんは小さくため息をついて、俺とディーを見た。
「……では、少しだけ様子を見てもらえますか?危険だと判断したらすぐに引き返してください」
「任せて下さい!」
ミナちゃんの家は、街の外れにぽつんと建つ二階建ての木の家だった。
外見は普通なのに、近づくと、かすかに“こつっ…かりっ”と木が軋むみたいな音がしていた。
「……確かに鳴ってるな」
ディーが小さくつぶやく。
「ね、怖いでしょ……?」
ミナちゃんは俺の後ろに隠れた。
「大丈夫。まずは音の場所、探してみるよ」
リビング、廊下、階段。
どこを歩いても、一定の間隔で “ゴト…ゴト…” と響く。
「……これ、固定されてない家具の音じゃねぇな」
「だよね。なんか…生き物の感じがする。小さめの」
と言った瞬間、
階段の上、天井裏の方から ドンッ!! と一発。
ミナちゃんが「ひゃっ」と俺の服をつかんだ。
「大丈夫、大丈夫。見てくるから。何かあると行けないので皆さん安全な部屋に居てください」
ディーがすっと前を歩くのを、俺もその後を追った。
階段を登りながら、俺は小声でディーに言った。
「どうする?アレク……起きたら絶対行くよな?」
「もう半分起きてる。鞄の中で尻尾がパタついてるぞ」
「あっ……!」
鞄が“もぞっ”と膨らんだ。
「ちょっと動くなって、くすぐったいって……!」
変にモゾモゾ動くアレクがくすぐったい。
そっと押さえたその瞬間。
天井の方で、ガタッ!ガサガサッ!
さっきより明らかにデカい音がした。
その音に反応したのか、鞄の中のアレクが ピクリッ と動いた。
「……っあ、おいアレク!?待っ……!」
俺の制止なんて聞かずに、
アレクが鞄の口を器用に押し広げて、
しゅばっ!!!
猫みたいな機敏さで天井裏のほうへ飛んでいってしまった。
「おまっ……!?」
「はは、行ったな」
ディーが笑ってやがる。
天井裏から
ドドドドッ! ガサアッ! キュイィ?
みたいな、小さな魔物とアレクが暴れてるような音が響く。
ミナのお父さんが驚いた声で
「な、なんだ今の……!?」
と言いながらやって来た。
ディーが落ち着いた声で答える。
「……上に入り込んでた小さい魔物だな。今、追い立ててますんで」
ディー、めちゃ自然に言ってくれてありがとう……!
その時、天井の隙間から
ふわふわの影が“ぽとっ”と2つ落ちてきた。
「わっ!」
小さな二股しっぽの魔物、スバシリテンだ。
必死に逃げようとしてるけど、こっちもEランクになったばかりの冒険者だ。絶対に逃さない!
俺はサッと前に出て、両手で1匹を受け止めた。
「つかまえた!」
もう1匹は既にディーの手の中。
俺たちに捕まったスバシリテンは逃れようと必死で暴れ回る。爪が鋭くて痛い。でもここで離したらまたミナちゃんが怖がっちゃう。
全力で暴れ回っていたスバシリテンは次第に動きがなくなっていった。最終的に敵わないと思ったのか俺たちの腕の中でびくびく震えるだけだった。
天井裏から魔力の塊が移動してるのに気づいた。そう、アレクが“誰にも見られずに”戻ってるのが分かったんだ。
俺の1匹をディーに任せて「残りがいないか見てきます」と一旦屋根裏に引っ込む。
すぐ後ろの影にすっと気配を感じたので、俺は背中越しに小声で言った。
「……おつかれ。よくやったな」
すると背中にちょこんと“鼻ツン”された。
その後、ミナちゃんとそのご両親、おじいさんも一緒にスバシリテンを外へ逃してあげた。
家に戻ると耳と一緒にミナちゃんはぱぁっと顔を明るくした。
「もう鳴ってない……!こわくない!」
「うん、もう大丈夫。これで安心だね」
そう言うと、ミナちゃんはぎゅっと俺の手を握った。
ディーは小さく肩をすくめながら、
「……寝床確保ついでに良い仕事したな」
とボソッと言った。
ほんとそれ。
46
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
転生したら猫獣人になってました
おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。
でも…今は猫の赤ちゃんになってる。
この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。
それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。
それに、バース性なるものが存在するという。
第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜
ゆず
BL
俺は、敵組織ディヴァイアンに所属する、ただの雑魚モブ。
毎回出撃しては正義の戦隊ゼットレンジャーに吹き飛ばされる、ただのバイト戦闘員。
……の、はずだった。
「こんにちは。今日もお元気そうで安心しました」
「そのマスク、新しくされましたね。とてもお似合いです」
……なぜか、ヒーロー側の“グリーン”だけが、俺のことを毎回即座に識別してくる。
どんなマスクをかぶっても。
どんな戦場でも。
俺がいると、あいつは絶対に見つけ出して、にこやかに近づいてくる。
――なんでわかんの?
バイト辞めたい。え、なんで辞めさせてもらえないの?
――――――――――――――――――
執着溺愛系ヒーロー × モブ
ただのバイトでゆるーく働くつもりだったモブがヒーローに執着され敵幹部にも何故か愛されてるお話。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる