小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

文字の大きさ
75 / 82
第4章 リューべルへの道

盗賊

しおりを挟む

 ノアラはノルデンへ向かう道の最終中継地点。
 俺からすれば、ノルデンを出てから最初の街。

 元はただの農村だったけど、ノルデンへの行き来で泊まる人が増え、宿町の側面も発展した街なんだそうだ。

 地図上で言うと、王都は地図の真ん中。ノルデンは王都から見て北北東。ノアラはノルデンのちょっと西。要するにまだまだ北。季節は夏だから寒くないけど。

 街に着いたらとりあえず宿を確保する。これは旅する人皆の常識。街に来てまで野宿はしたくないからね。
 宿の確保が出来たら俺たちはギルドへ向かう。

 目的は、スノーダックの羽毛を売る事!雑貨屋や道具やでも買ってくれるけど、足元見てきたり、安く買い叩かれたりする事があるから、ギルドで売るのが安心なんだって。

「お待たせしました。こちらが買取金額です」

 と受付のスラッとした背の高い白色に近いベージュの犬耳お姉さんは、硬貨の入った袋をドサッと置いた。

「ぇっ??」

 俺は驚きのあまり口が塞がらない。

 待って?スノーダックの羽毛ってそこまで高級だったの?

 ディーはそそくさとそれを仕舞う。

 本当は今すぐにでもに幾らだったのか、スノーダックってそんなに高級品だったのかってディーに聞きたいけどまだギルド内。お金の話は特に人のいるところではしない方がいい。

 俺もディーに倣って平常心を装ってギルドを後にした。



「スノーダック、そんなに高かったんだな……」

 ディーが綺麗に2等分してくれた羽毛の買取金額。アレクが「俺はいらねぇから2人で分ければ?」と言ったのでこうなった。
 結構重い。俺の見習いの2年間の依頼報酬よりも多いかもしれない。

 それでも1匹分の羽毛ではないのだ。捌く時に血が着いてしまったり、汚れている羽は全部置いてきた。持ってきたのは本当に綺麗なものだけ。

 ……1匹に満たない量だったのにこんなにって、そんなに貴重って事だよな。

「明日、出発するぞ」

「わかった」

 本当は良さげな依頼があれば受ける予定だったけど、アレクのおかげで当面の旅費は確保できた。
 ならば、距離を稼ぐに限る。

 なら、明日からのためにさっさと寝るに限る。
 食堂で温かい食事をとって、風呂でゆっくりして、俺たちは早々にベッドに入った。





 ノアラを出て3日ほど過ぎたころだ。
 次の街まではまだ距離があるけど、人が行き来する道だから、旅人や馬車と時々すれ違う。

 その日は空がどんよりしていて、風が湿っていた。
 なんだか、何かが起こりそうな、そうでもなさそうな、なんて言うか、嫌な予感が漠然と俺を襲っていた。

「なんか天気悪くなるのかな」

「湿気てるだけだろ。気にすんな」

 ディーはいつも通りだったけど、俺は妙に落ち着かなかった。

「天気悪いと気分も落ち込むよなぁ」

 今日は珍しくアレクが人型だ。
 俺の一言に否定するでも肯定するでもなくそんな言葉を返された。

 そんな時だった。

 前の道の少し先から、“バギッ”と木が折れるような音と共に男の叫び声が聞こえた。

「……今の、何?」

「行くぞ。あっちだ」

 ディーが一瞬で険しい顔になって駆け出す。
 俺たちも慌ててついていく。

 少し行くと、そこには荷馬車が横倒しになっていた。馬は怯えて暴れ、老人が必死に押さえようとしていた。

 そして
 5人の汚れた格好の男たちがナイフや剣を片手に荷馬車を囲んでいた。

「爺さん、金置いてけよォ。さっさとしねぇと、馬ごと殺すぞ?」

「やめ……やめてくれ……!」

 うわ……これ、完全に盗賊だ。

 俺が固まっている横で、ディーの気配が変わった。

「おい、やめとけ」

 低くて冷たい声だった。
 今までに聞いたことのない声音。

 盗賊の一人が振り向き、ニヤッと笑う。

「なんだぁ?冒険者か?子連れじゃねぇか。いい金になりそ──」

 男の言葉が終わる前に、ディーの拳が鳩尾にめり込んだ。

「ぐぼっ!!」

 ベキッと嫌な音がして男が吹っ飛んだ。

「ひっ……!」

「おい!やれ!!」

 残りの男達が俺とディーを囲むようにして刃物を構える。

「ガキを狙え!」

 誰かが叫んだ瞬間、2人が俺に向かってナイフを振り上げながら迫ってきた。

 それを瞬時に避けて足を狙う。

 男たちは俺が切って赤く血に染った足を抑えて懇願してきた。

「いてぇよぉ。見逃してくれよぉ、なぁ?」

 泣きそうな顔で俺に縋ってくる姿に、一瞬、たじろいた。

「っ……ぐふ!」

 その一瞬のうちに男はまだ手に持っていたナイフで俺に切りかかろうとした所を、アレクが思いっきり蹴飛ばした。

 ハッとして剣を握り直す。

「エル。こいつらは魔物より、卑怯で狡猾だ」

 ディーの言葉が身体に染み渡る。

 同じ手は効かないと判断した男たちはそれぞれに襲いかかってくる。

 でも、ディーやイディアの動きに比べたら全然遅い。俺は難なく躱して、振り向きざまに剣を入れる。

 魔物や魔獣と違って"声"がすごく生々しく感じた。

 程なくして、男たちは全員地面に伏した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず
BL
俺は、敵組織ディヴァイアンに所属する、ただの雑魚モブ。 毎回出撃しては正義の戦隊ゼットレンジャーに吹き飛ばされる、ただのバイト戦闘員。 ……の、はずだった。 「こんにちは。今日もお元気そうで安心しました」 「そのマスク、新しくされましたね。とてもお似合いです」 ……なぜか、ヒーロー側の“グリーン”だけが、俺のことを毎回即座に識別してくる。 どんなマスクをかぶっても。 どんな戦場でも。 俺がいると、あいつは絶対に見つけ出して、にこやかに近づいてくる。 ――なんでわかんの? バイト辞めたい。え、なんで辞めさせてもらえないの? ―――――――――――――――――― 執着溺愛系ヒーロー × モブ ただのバイトでゆるーく働くつもりだったモブがヒーローに執着され敵幹部にも何故か愛されてるお話。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

処理中です...