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第5話
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――それから1か月後――
「そ、そこをなんとか協力してはいただけませんか…!?もう僕が頼ることができるのは、フリーヒ伯爵様だけなのです…!以前から懇意にさせていただいた仲ではございませんか!」
「すまないが、ここまで大きな問題になってしまった以上はもう君と一緒にやっていける気がしない。少なくとも今の君に、貴族家の長としての器があるとも思えないのでね」
「そ、そんなぁ…」
フリーヒ伯爵のもとにすがる思いでやってきたノラン侯爵だったものの、結局全く相手にされることなく交渉を追われようとしていた…。
それもそのはず、今ノラン侯爵が置かれている状況はエリステルの事を失踪させる以前と比べて非常に険しいものとなっており、彼の味方をすることを表明したなら自分の元にも火の粉が飛んでくることは明らかであったためだ。
「侯爵、この際はっきり言わせてもらおうか。今の貴族会に、君の味方をしたいと考えている者は一人として存在しない。その理由、君にはまだわからないのか?」
「わ、分かりませんとも…。僕は今まで皆様と一緒に仕事をしてきた仲ではございませんか…。だというのに、婚約者に消えられたというだけでここまでひどい扱いを受けなればならないなど…」
「やれやれ…。やはりなにも分かっていないようだな…」
大きなため息をつきながらフリーヒ伯爵はそう言葉を漏らすと、そのままノランに対して非常に厳しい口調でこう言葉を続けた。
「いいか、貴族家の者が婚約するという話は、それはそれは大きな意味を持つものである。なぜなら、我々が持つ権力バランスを考えれば、貴族家がどんな相手と婚約を結んで関係を築くかによっては権力の均衡を動かしかねないからである。逆に言えば、そこをずさんに考えるような者は、誰からも信頼をされなくなるということを意味する。侯爵、君はその点において非常に大きなミスを犯したのだ」
「……」
非常にまっとうな言葉を連ねるフリーヒ伯爵の手前、なんの反論もできないでいるノラン侯爵。
「あいてから婚約破棄をさせるのならまだ体裁は保てたかもしれないが、相手に逃げられたというのは全く意味が変わってくる話だ。明らかに君の方が立場が上であるというのに向こうがいなくなったということは、それを補ってもあまりあるほど君の人格に問題があったと周囲の者たちは考えることだろう。普通、少々性格に難があろうとも、大きな権力や立場が手に入るのならそこは我慢ができる点である。しかしそれを加味しても我慢ができなかったというのは、それはもうお前のほうに大きな欠陥があったとしか考えられなくなるだろう。貴族家の者たちはその時点でお前に対する信頼を失い、関わることを諦めたわけだ」
「う……」
「しかもさらに問題なのが、それだけ正体不明な形で終わってしまった関係の裏にあったのが、幼馴染のユリアだったということだ。これに他の貴族家の方々や臣民たちが納得をするはずもない。浮かび上がったのはただただ侯爵に対する疑惑の目のみであり、侯爵は自分の欲望のままに相手を選んでもてあそんでいるろくでもない男だ、という話が街中の人々の中で駆け巡っていった。それは分かっているのか?」
「は、はい…。恥ずかしながら…」
「なら話は早いな」
「…?」
伯爵はそれまで心の中にためていたある言葉を、侯爵に対してぶつけた。
「侯爵、君はもう貴族の立場から降りるんだな」
「なっ!?!?!?」
「当然だろう?ここまで大きな問題を起こし、臣民から不信感を抱かれているんだ。このままお前がその椅子に座り続けて、いったい誰が納得する?」
「で、ですが僕は今まで侯爵としての仕事をきっちり果たして…」
「信頼というのは、失う時は一瞬なのだよ。お前がエリステルの事を全力で呼び戻しにかかったのならまだしも、それもやっていないのだろう?あくまで自分の隣に立つのにふさわしいのはユリアだ、とかなんとか言って」
「う……」
完全に行動を見透かされている侯爵には、返す言葉も見つからない。
「この期に及んでもそんな行動しかとれないお前に、味方をするものはやはりいないだろうな。まぁいいじゃないか。幼馴染の事を愛しているのは本当なんだろう?ならこれからは貴族をやめて二人で仲良くやっていけばいいではないか。表立って応援はできないが、まぁ激励の言葉くらいはなげかけてやってもいいぞ」
「は、伯爵様ぁ…。そ、そこをなんとか…」
「話は以上だ。これ以上長話を続けていたら、私もお前と同類であるとみられてしまいかねない。このまま消えてくれたまえ」
「そ、そんなぁぁぁ……」
消え入りそうな声でそう言葉を漏らす侯爵であったものの、だからと言ってなにかが変わるわけでもない。
結局、最初にエリステルに対して投げかけた言葉をそのまま返されてしまう形となってしまったのだった…。
「そ、そこをなんとか協力してはいただけませんか…!?もう僕が頼ることができるのは、フリーヒ伯爵様だけなのです…!以前から懇意にさせていただいた仲ではございませんか!」
「すまないが、ここまで大きな問題になってしまった以上はもう君と一緒にやっていける気がしない。少なくとも今の君に、貴族家の長としての器があるとも思えないのでね」
「そ、そんなぁ…」
フリーヒ伯爵のもとにすがる思いでやってきたノラン侯爵だったものの、結局全く相手にされることなく交渉を追われようとしていた…。
それもそのはず、今ノラン侯爵が置かれている状況はエリステルの事を失踪させる以前と比べて非常に険しいものとなっており、彼の味方をすることを表明したなら自分の元にも火の粉が飛んでくることは明らかであったためだ。
「侯爵、この際はっきり言わせてもらおうか。今の貴族会に、君の味方をしたいと考えている者は一人として存在しない。その理由、君にはまだわからないのか?」
「わ、分かりませんとも…。僕は今まで皆様と一緒に仕事をしてきた仲ではございませんか…。だというのに、婚約者に消えられたというだけでここまでひどい扱いを受けなればならないなど…」
「やれやれ…。やはりなにも分かっていないようだな…」
大きなため息をつきながらフリーヒ伯爵はそう言葉を漏らすと、そのままノランに対して非常に厳しい口調でこう言葉を続けた。
「いいか、貴族家の者が婚約するという話は、それはそれは大きな意味を持つものである。なぜなら、我々が持つ権力バランスを考えれば、貴族家がどんな相手と婚約を結んで関係を築くかによっては権力の均衡を動かしかねないからである。逆に言えば、そこをずさんに考えるような者は、誰からも信頼をされなくなるということを意味する。侯爵、君はその点において非常に大きなミスを犯したのだ」
「……」
非常にまっとうな言葉を連ねるフリーヒ伯爵の手前、なんの反論もできないでいるノラン侯爵。
「あいてから婚約破棄をさせるのならまだ体裁は保てたかもしれないが、相手に逃げられたというのは全く意味が変わってくる話だ。明らかに君の方が立場が上であるというのに向こうがいなくなったということは、それを補ってもあまりあるほど君の人格に問題があったと周囲の者たちは考えることだろう。普通、少々性格に難があろうとも、大きな権力や立場が手に入るのならそこは我慢ができる点である。しかしそれを加味しても我慢ができなかったというのは、それはもうお前のほうに大きな欠陥があったとしか考えられなくなるだろう。貴族家の者たちはその時点でお前に対する信頼を失い、関わることを諦めたわけだ」
「う……」
「しかもさらに問題なのが、それだけ正体不明な形で終わってしまった関係の裏にあったのが、幼馴染のユリアだったということだ。これに他の貴族家の方々や臣民たちが納得をするはずもない。浮かび上がったのはただただ侯爵に対する疑惑の目のみであり、侯爵は自分の欲望のままに相手を選んでもてあそんでいるろくでもない男だ、という話が街中の人々の中で駆け巡っていった。それは分かっているのか?」
「は、はい…。恥ずかしながら…」
「なら話は早いな」
「…?」
伯爵はそれまで心の中にためていたある言葉を、侯爵に対してぶつけた。
「侯爵、君はもう貴族の立場から降りるんだな」
「なっ!?!?!?」
「当然だろう?ここまで大きな問題を起こし、臣民から不信感を抱かれているんだ。このままお前がその椅子に座り続けて、いったい誰が納得する?」
「で、ですが僕は今まで侯爵としての仕事をきっちり果たして…」
「信頼というのは、失う時は一瞬なのだよ。お前がエリステルの事を全力で呼び戻しにかかったのならまだしも、それもやっていないのだろう?あくまで自分の隣に立つのにふさわしいのはユリアだ、とかなんとか言って」
「う……」
完全に行動を見透かされている侯爵には、返す言葉も見つからない。
「この期に及んでもそんな行動しかとれないお前に、味方をするものはやはりいないだろうな。まぁいいじゃないか。幼馴染の事を愛しているのは本当なんだろう?ならこれからは貴族をやめて二人で仲良くやっていけばいいではないか。表立って応援はできないが、まぁ激励の言葉くらいはなげかけてやってもいいぞ」
「は、伯爵様ぁ…。そ、そこをなんとか…」
「話は以上だ。これ以上長話を続けていたら、私もお前と同類であるとみられてしまいかねない。このまま消えてくれたまえ」
「そ、そんなぁぁぁ……」
消え入りそうな声でそう言葉を漏らす侯爵であったものの、だからと言ってなにかが変わるわけでもない。
結局、最初にエリステルに対して投げかけた言葉をそのまま返されてしまう形となってしまったのだった…。
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