消えた幼馴染の身代わり婚約者にされた私。しかしその後、消えた幼馴染が再びその姿を現したのでした。

睡蓮

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第5話

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「アリッサ、ようやくこの日が来たよ…!僕は君との婚約式典を心待ちにしていたんだ…!」

心からうれしそうな表情を浮かべるロードス様。
その雰囲気は私の事を婚約者として見ている事よりも、この婚約式典そのものの開催を待っていたような雰囲気に感じられた。

「それじゃあ行こうか…!僕たちの晴れの舞台の上に…!」
「ちょっと待ってもらおうか、ロードス」
「…!?」

…これから会場に向かおうとしていた私たちの前に現れた、一人の男性。
今いる第三王宮に入れる時点で並の人ではない事はもう明らかだけれど、そのお姿には私は見覚えがあった…。
これまでに特別なお祝いの場などで何度か顔を見たことがある。

「ち、父上…。ここに何の御用でしょうか…」
「お前に話があってきた。いや、正確にはお前たちに、というべきか」

そう、私たちの目の前に現れたのは他でもない、国王様その人だった。
…私はこれまで直接会ったことはないからこそ、心臓の鼓動が早まって緊張していくのを感じている…。
そんな国王様が、私にも話がある…って?

「エレナ、今日をもって君はこれまでのエレナに戻るといい。我が息子であるロードスが勝手な事をしてしまったようだが、本当に申し訳ない」
「え、えっと…」
「なにを言うのですか父上!ここにいるのは紛れもないアリッサです!それを否定するのは、たとえ相手が父上であっても…」
「よく見ろ、お前が探し求めているアリッサの正体を…」
「…!?」

国王様がそう言葉を発せられると同時に、その背中からもう一人の人物が姿を現した。
…それこそ、ロードス様の前から突然に姿を消してしまったアリッサその人だった…。

「セ、アリッサ…!!今までどこに…!!」
「おっと、私から話をさせてもらおうか」

興奮している様子のロードス様をたしなめながら、国王様は言葉を続ける。

「彼女はお前との関係に嫌気がさしていたんだよ。ロードス、お前は何をするにしても彼女のためだと言いながら、その実自分の願望を押し通し続けてきた。その過程で彼女の言葉を聞くこともなく」
「そ、それは違います!僕は本当に彼女の事を思っているからこそ、その心の中に浮かぶ言葉を読み取ることが出来るのです!僕はこれを自信を持って…」
「だが、実際には当たっていなかった用だぞ。現に彼女は私やユークリッドのもとに何度も相談に来ていたしな」
「……」
「そうして話し合った結果、彼女はその姿を隠すこととした。私やユークリッドもそれに協力する形でな。まぁ無理もない、彼女の事をそこまで追い詰めてしまったのは我が息子のせい、であるならその責任の一端は私にもある」
「…!?」

ひとつ、まあひとつ、隠されていた真実が明らかにされていく。
その過程を追う中で、ロードス様の表情は少しずつ暗いものとなっていった…。

「そ、それは…。つまり、僕とアリッサの間にあった真実の愛は、すべて実在しないものだったという事…なのですか…」
「正確には、存在していたものをお前が抹殺してしまったという方が正しいな。現に見てみろ、お前はアリッサの身代わりの人間を立てて、こうして大々的に婚約式典を行おうとしているじゃないか。これこそ、二人の間に真実の愛なるものが存在していない事の何よりの証明だろう?お前が相手に抱く思いは、たとえかりそめの相手であっても成立するという事をお前自身が証明してしまっているのだよ」
「……」

…この類の言葉はこれまで多くの人がロードス様にかけ続けてきたもので、今更あらためて言うようなものでもないのだけれど、それでも気づかづにい続けてきたのはある種の才能だと思う…。
結局彼が一番間違っていたわけで、周りの人たちの印象の方が正しかったのだから…。

「…それじゃあ、僕がこれから向かう先は…全く意味を持たない舞台上だったというわけですね…。兄さまもそれを止めようとしてくれていたというのに、僕はそれに気づくこともなく…」
「ユークリッドだけではない、そこにいるエレナも同じことをやっていた。しかし、お前がそれに気づくことはなかったというわけだ」
「……」
「それに気づくことができていたなら、アリッサとの関係が元に戻せていたかもしれないが…。今となっては、考えるだけ無駄というものだろうな。結局はお前がアリッサの思いに気づくことも、エレナの言葉に耳を傾けることもしなかったのだから」
「……」

ロードス様はよくやくすべてを理解されたご様子で、その場にへたりこんでしまう。
自分が今まで信じてきた真実の愛が全くの空虚なものであり、一方で周りからの言葉に全く耳を傾けずに来たことの結果が、これなのでしょうね。

「…婚約破棄、というわけだな。それも二倍の」
「……」

それが、今のロードス様を現すには十分すぎる言葉だった。
当事者である私の中にあっても、それ以上の言葉は何も出てこない事でしょう。
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