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78話 イバラ王 -7-
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「……生徒たちには、本来知られずに済む話でした。ですが……、ワンジェ君、シルエット君、トレモイユ君、あなたたち三人には、もしかしたら今後、関係して来るかもしれません」
病室の空気がわずかに引き締まる。
アルチュールの眉がすっと寄り、リシャールは視線を落としつつも耳を澄ませ、ナタンは真剣な面持ちで、ごくりと喉を鳴らした。
ボンシャンは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「これは、ニコラ少年から始まった出来事です。彼が目覚めたとき、一瞬、“王”が彼の意識下に入って来たそうです」
「……王、だと? いや、王ですか?」
アルチュールの声が低く落ちる。
「はい。あ、学院ではないので、言葉遣いは気にしなくて結構ですよ。ナクティスの中心核。私たちが『イバラ』と呼んでいた者。その“王”が――セレスタン・ギレヌ・コルベール君という存在を間近で見て、知ってしまったのです」
「それが、今回の件とどういう繋がりが?」
リシャールが聞いた。
「魔は光を憎み、同時に惹かれる。彼らの王は、コルベール君に非常に“興味”を持った。……“妃に迎える”などと考えたようです」
アルチュールが大きく息を吸い、リシャールとナタンの眉が鋭く動く。
ルクレールは、表情を変えない。
「だから、近隣のナクティス群れが急に活性化した可能性があります。“光属性の存在を知った王”が、世界へ意思の波紋を走らせたのではないかと考えられます」ボンシャンが三人へ視線を移す。「今回の討伐は、その影響の調査も兼ねていました」
アルチュールが、ぎゅ、と拳を握る。
「セレスを妃にだと……、ふざけたことを言いやがって」
「俺のせいです……」
思わず、声が漏れてしまう。
「いえ、あなたのせいではありません」カナードが落ち着いた声で否定した。「十四年前からナクティスは討伐対象として上位に引き上げられています。対ナクティス・ポーションの普及によって数はかなり減少しつつある。だからこそ、奴らは焦っているのです」
「……しかし」
「あなたのことが無くても、遅かれ早かれこうなっていたことでしょう。それに……あのとき、あなたでなければニコラを助けることは出来なかった。表面が硬化した身体をミスリルやオリハルコン製のスカルペルで開腹手術したとしたも、成功率はあまりにも低かった。どれほど術者が熟練していても、助かる可能性はごくわずかだったのです。あなたはニコラだけではなく、ラクロワ騎士も救いました。これは、悩むべきことではありません。寧ろ、胸を張るべき成果です」
そこへ、グルネル指揮官が太い腕を組みながら口を開いた。
「ボンシャン先生。対ナクティス・ポーションと回復薬――特に高出力の浄化剤の増産を早急に頼みたい」
「了解です。さっそく手配します」ボンシャンは淡々とうなずくと、ベッドの上のルクレールを親指で示した。「そこの赤い豹はもう放っておいても大丈夫なので、私は先に失礼しますね」
その背に、かすれた声が飛んだ。
「……ボンシャン先生」
ルクレールが片腕で身を支え、わずかに身を起こしていた。
その横顔はいつになく真剣で、どこか言い慣れない緊張が滲んでいる。
「……助かった。感謝してる」
ボンシャンは一瞬だけ目を瞬かせ、それから穏やかに微笑んだ。
「知っています。あなたの“ありがとう”は、十分に受け取りましたよ。だから、さっさと横になってなさい」
そう言ってボンシャンは扉へ向かいかけ――まるで思い出したように、ふいに振り返り、にこりと目を細めた。
「コルベール君」
「……はい」
「魔力提供をありがとう。後遺症もなくルクレールを救うことが出来た上に、おかげで私の身体も三十歳くらい若返ったように軽やかです。明日あたり黒板の前で踊り出していたら察してくださいね」
さらりと言い残し、衣の裾をひるがえして病室を後にした。
落ち込む俺への気遣いでもあったのだろう。張りつめていたものが一気にほどけ、心の奥がふっと温かくなる。
「私も、対魔武具の増産と補填を上に進言する。ルクレール、お前は完治するまでここにいろ」
「嫌だね。動けるようになれば、すぐに出ます」
指揮官は、鼻で笑うように息を吐いた。
「現場に出れば手を抜かないが……、いかんせん、闘志が起きるまでに時間のかかるお前がどうした? 常にこれくらいやる気を見せてくれたらいいんだがな」そして、ふっと目だけを俺に向ける。「――守りたい者が出来ると、こうも変わるものか。うちの若造をどうかよろしく頼むよ。『銀の君』」
急に振られた俺は、完全に固まる。
そこへ、タイミング最悪な救援が入った。
「指揮官、ちがっ、触れちゃ駄目です、その話、……セレスタン君は、そっちの彼と……」
ジュールが、俺とアルチュールを交互に指さしながら、妙に気まずそうに口ごもった。
いや、俺もアルチュールも気まずい。
病室の空気がわずかに引き締まる。
アルチュールの眉がすっと寄り、リシャールは視線を落としつつも耳を澄ませ、ナタンは真剣な面持ちで、ごくりと喉を鳴らした。
ボンシャンは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「これは、ニコラ少年から始まった出来事です。彼が目覚めたとき、一瞬、“王”が彼の意識下に入って来たそうです」
「……王、だと? いや、王ですか?」
アルチュールの声が低く落ちる。
「はい。あ、学院ではないので、言葉遣いは気にしなくて結構ですよ。ナクティスの中心核。私たちが『イバラ』と呼んでいた者。その“王”が――セレスタン・ギレヌ・コルベール君という存在を間近で見て、知ってしまったのです」
「それが、今回の件とどういう繋がりが?」
リシャールが聞いた。
「魔は光を憎み、同時に惹かれる。彼らの王は、コルベール君に非常に“興味”を持った。……“妃に迎える”などと考えたようです」
アルチュールが大きく息を吸い、リシャールとナタンの眉が鋭く動く。
ルクレールは、表情を変えない。
「だから、近隣のナクティス群れが急に活性化した可能性があります。“光属性の存在を知った王”が、世界へ意思の波紋を走らせたのではないかと考えられます」ボンシャンが三人へ視線を移す。「今回の討伐は、その影響の調査も兼ねていました」
アルチュールが、ぎゅ、と拳を握る。
「セレスを妃にだと……、ふざけたことを言いやがって」
「俺のせいです……」
思わず、声が漏れてしまう。
「いえ、あなたのせいではありません」カナードが落ち着いた声で否定した。「十四年前からナクティスは討伐対象として上位に引き上げられています。対ナクティス・ポーションの普及によって数はかなり減少しつつある。だからこそ、奴らは焦っているのです」
「……しかし」
「あなたのことが無くても、遅かれ早かれこうなっていたことでしょう。それに……あのとき、あなたでなければニコラを助けることは出来なかった。表面が硬化した身体をミスリルやオリハルコン製のスカルペルで開腹手術したとしたも、成功率はあまりにも低かった。どれほど術者が熟練していても、助かる可能性はごくわずかだったのです。あなたはニコラだけではなく、ラクロワ騎士も救いました。これは、悩むべきことではありません。寧ろ、胸を張るべき成果です」
そこへ、グルネル指揮官が太い腕を組みながら口を開いた。
「ボンシャン先生。対ナクティス・ポーションと回復薬――特に高出力の浄化剤の増産を早急に頼みたい」
「了解です。さっそく手配します」ボンシャンは淡々とうなずくと、ベッドの上のルクレールを親指で示した。「そこの赤い豹はもう放っておいても大丈夫なので、私は先に失礼しますね」
その背に、かすれた声が飛んだ。
「……ボンシャン先生」
ルクレールが片腕で身を支え、わずかに身を起こしていた。
その横顔はいつになく真剣で、どこか言い慣れない緊張が滲んでいる。
「……助かった。感謝してる」
ボンシャンは一瞬だけ目を瞬かせ、それから穏やかに微笑んだ。
「知っています。あなたの“ありがとう”は、十分に受け取りましたよ。だから、さっさと横になってなさい」
そう言ってボンシャンは扉へ向かいかけ――まるで思い出したように、ふいに振り返り、にこりと目を細めた。
「コルベール君」
「……はい」
「魔力提供をありがとう。後遺症もなくルクレールを救うことが出来た上に、おかげで私の身体も三十歳くらい若返ったように軽やかです。明日あたり黒板の前で踊り出していたら察してくださいね」
さらりと言い残し、衣の裾をひるがえして病室を後にした。
落ち込む俺への気遣いでもあったのだろう。張りつめていたものが一気にほどけ、心の奥がふっと温かくなる。
「私も、対魔武具の増産と補填を上に進言する。ルクレール、お前は完治するまでここにいろ」
「嫌だね。動けるようになれば、すぐに出ます」
指揮官は、鼻で笑うように息を吐いた。
「現場に出れば手を抜かないが……、いかんせん、闘志が起きるまでに時間のかかるお前がどうした? 常にこれくらいやる気を見せてくれたらいいんだがな」そして、ふっと目だけを俺に向ける。「――守りたい者が出来ると、こうも変わるものか。うちの若造をどうかよろしく頼むよ。『銀の君』」
急に振られた俺は、完全に固まる。
そこへ、タイミング最悪な救援が入った。
「指揮官、ちがっ、触れちゃ駄目です、その話、……セレスタン君は、そっちの彼と……」
ジュールが、俺とアルチュールを交互に指さしながら、妙に気まずそうに口ごもった。
いや、俺もアルチュールも気まずい。
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