腐男子♥異世界転生

よしの と こひな

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104話 シルエット家領地へ -25-

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 低く唸るように言った声に、俺は違和感を覚えて振り向いた。
 見上げた先で、ルクレールが、耳まで真っ赤になっていた。明らかに、照れている。
 焚き火のせいにするには、さすがに無理だ。
 俺は一瞬、言葉を失い、次の瞬間、思わず視線を逸らした。

 百戦錬磨のヤリチンが……。
 過去の浮名をどれだけ掘り返されようが、誰とどうだったと暴露されようが眉一つ動かさないくせに、魚釣りを頑張ったことを知られただけでこの有様かよ。
 思春期ですか、コノヤロー。
 反応が中学生男子すぎて、こっちがどうしていいか分からない。

 しかし、ジュールは、そんな空気を読むことはなく、悪気なく続ける。
「そこまで頑張ったのに、んん? ……美味っ、……洞窟に……着いた瞬間」
 もう一口。
「婚約宣言を……、魚、フワフワっ……、うーんっ、絶品ですね、これっ、……聞かされたんですもんねー。そりゃ、膝から崩れ落ちます」
 ジュールの言葉が落ちた瞬間、焚き火の爆ぜる音だけが、妙に大きく響く。

 ルクレールは一拍置き、何事もなかったようにグラスを卓に置いた。
「……お前、モローさんに似てきたな」
 軽い調子の言葉だったが、その裏に、少しだけ棘が混じっている。
「まあ、元ノクターンの先輩ですしー」
 ジュールは気にも留めず、肩をすくめて続ける。
「ガルディアンに配属された当初は俺の世話係をかって出てくれて、今でも何かと一緒にいる時間が一番長い気もしますし」

 ……え?

 思わず、声が漏れた。
「……元ノクターン?」
「はい。元テネブリス・ノクターン夜の影の所属でしたよ、モロー隊長」
「……見えない……」
「強いでしょ、あの人」
 ジュールは当然のことのように頷く。

「……よし、ジュール。明日は魚に化けろ。川に放り込んでやる」
「えー、嫌ですよー」
 ルクレールの口元が、ほんのわずかに緩んでいる。
 それを見て、俺はつい、堪えきれずに吹き出した。
 広場のざわめきは穏やかで、笑い声と食器の音が、星明りに溶けていく。
 アルチュールの足元で、ノアールが静かに伏せ、同じ空を見上げていた。

 やがて、宴は静かに終わりへと向かっていった。

 寝落ちしてしまった子供を背に負い、名残惜しそうに頭を下げながら帰っていく通いの召使たち。
 その背を見送りつつ、メイドたちは手際よく卓を片付け、空になった皿や杯を次々と下げていく。
 焚き火も少しずつ火勢を落とされ、広場に残るのは、夜風と星明りだけだった。

 ……そういえば。

 さっきまで場を賑わせていたダンサーの姿が見当たらない。
 いつの間にか、俺の前だけでなく、あちこちに引っ張り出されては踊っていたはずだ。
「上手、上手!」と手を叩かれ、「きれーい!」と子供たちに囲まれ、気が付けば広場の端から端まで、呼ばれるままに羽を広げていた。
 人の輪ができては解け、そのたびに小さな歓声が上がっていたのを覚えている。

 どこへ行ったのかと周囲を見回していると、背後から気配が近づいた。
彩尾鳥さいびちょうのエルなら厩舎ですよ」
 振り向くと、マルセルが小さな器を手に立っていた。
 中には、つやつやとした白いプリンが揺れている。
「基本、夜は見えない“鳥目”ですから……寝ています」
 くすりと笑って、続けた。
「セレスさまが羽を受け取ってくださったでしょう? あれで、ずいぶんご機嫌でしたね」
 そう言われて、俺は無意識に腰元に触れた。
 ズボンのポケットに差し込むように収めてある、羽の束。
 動くたび、羽軸がかすかに布越しに主張してくる。
 その仕草を見て、マルセルは小さく笑う。

「はい、どうぞ。特製のデザートです」
 そう言って、手にしていた器を差し出して来た。
 受け取りながら、嫌な予感がして眉をひそめる。
「これ……もしかして、白卵瑞鳥ココリウスの……」
「正解」
 即答だった。
「ちゃんと食べてやってください。あれなりの、最大級の歓迎ですから」
 その横から、ぐいっとジュールが顔を突っ込んでくる。
「俺には無いんですかー?」
 完全に出来上がっていた。足取りも危うく、目もとろんとしている。
「これは、ココリウスがセレスさまに捧げた愛ですから」
 マルセルは淡々と言い切った。
「なんか……態系、崩してませんか……?」
 ジュールが真顔で呟く。
「上司と同じこと言わないでください」
 俺はそう返しながら、スプーンを入れる。
 口に運んだ瞬間、思わず声が出た。
「……美味っ」
 舌の上でほどけるように広がる、濃厚な卵黄のコクと甘み。
 まろやかな余韻が喉の奥まで残り、今日一日の疲れが、ゆっくりと溶けていく気がした。
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