腐男子♥異世界転生

よしの と こひな

文字の大きさ
107 / 112

107話 シルエット家領地へ -28-

しおりを挟む
 俺は、黙って続きを待った。
「任務中だろうと、私情に走った。……規則だけ見れば、褒められた話じゃない。だけど、俺も彼の立場なら同じ事をする……」
 低く、確かな声音。
「ジャンも若かった……、男を見る目が無かったんだ……それだけだ」

 それ以上は、踏み込まなかった。
「了解」

 呼吸が、ゆっくりと整っていく。
「……セ、レス……」
 もう、ほとんど寝言だ。

「はいはい」
 短く答え、また、髪を撫でる。
「おやすみ」

 しばらくして、完全に眠ったのを確認してからそっと手を離し、大きな身体に薄手のブランケットをかける。

 ――本当に、手のかかる男だ……。

 ……つられて、俺の意識も重くなる。
 ソファーにはジュールがいるし、この状況なら、余計な疑いを向けられることもないだろう。
 そう判断して、俺は小さく呪文を紡ぐ。
「――エンドゥ消灯
 灯りが静かに落ち、部屋は闇に包まれた。
 そのまま、意識を手放す。

 翌朝。
 朝食に誘いに来たアルチュールは、バラの部屋に俺の姿がなかったことに血相を変えたらしい。
 廊下を駆け、辿り着いた先――ルクレールの部屋の扉を拳で叩く。

 激しいノックの音。
「……っ」
 その音で、俺は目を覚ました。
 寝ぼけたまま身を起こし、状況を理解する前に、扉を開けてしまう。
 次の瞬間。
「セレス!」
 勢いよく、アルチュールが飛び込んできた。
 肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。
「……無事か?」
「え、あ、うん……?」
 何が起きているのか分からない俺をよそに、アルチュールが室内を鋭く見渡す。
 その先で、ベッドに半身を起こしたルクレールが目に入る。
「……何の騒ぎだ」
 低い声。
 アルチュールの視線は、さらに奥へ――。

 ソファーの上。そこに相変わらずだらしなく転がるジュールの姿を確認した瞬間、彼の肩から、はっきりと力が抜けた。
 大きく息を吐き、胸元に手を当てる。
「……よかった」
 その呟きは、ほとんど独り言だった。
 俺はようやく状況を飲み込み、苦笑する。
「……ごめん……心配させたみたいだね」

 ロジェのパーティーに来ていた騎士やノクターンたちも舌を巻くレベルの男と、一晩、同じ部屋で過ごしたんだ。
 そりゃ、食われたと思う。

 アルチュールは一瞬、言葉に詰まり、それから小さく首を振った。
「無事なら、それでいい」
 そう言って、もう一度だけ、強く俺を抱き寄せた。


  ༺ ༒ ༻


 朝食後、ルクレールとジュールは街へと向かい、残った俺たちは馬車の仕上げに取りかかった。
 魔法で内部を拡張し移動式のティーサロンへ――という当初の予定は、ノリに乗ったドワーフ兄弟とナタンの手にかかり、見事に“暴走”した。

 内部は、落ち着いた木目と金属装飾を基調にした、アンティーク調の超豪華な1LDK移動居室キャンピングカー
 簡易とはいえ厚みのあるマットと滑らかな張り地、真鍮の金具がさりげなく配されたベッドが設えられ、水魔法浄化循環式の水洗トイレまで組み込まれた瞬間、子爵が本気で言った。
「……ここに住みたい」
 爆笑が起きる。

「気持ち、分かりまっせ」
「ほんま、自分で言うのもなんやけど、ええ出来やわ」

 ドワーフ兄弟の自画自賛に、誰もが頷いた。
 シャーも負けていなかった。
 椅子の革張りは完璧で、土魔法を使い内部に小さな暖炉と装飾用の支柱を形作っていく。

 一方、屋外では、警護騎士たちが「何か手伝えることはありませんか」と声をかけ合いながら、次々と集まってきていた。
 サスペンションの調整のため、馬車を組み上げたレンガの上に据える必要がある。重労働だったが、身体強化魔法をかけた屈強な騎士たちは息を合わせ、馬車用CarriageジャッキJackで難なく車体を持ち上げてくれた。
 その間、使用人たちは手早く休憩用の卓を並べ、お茶と軽食を用意していく。湯気の立つカップと甘い香りが、作業場の空気を和らげる。
 周囲ではノアールが悠然と腰を下ろし、静かに場を見守っている。
 ときおり、ダンサーが俺と視線を合わせると、羽を大きく広げ、くるりと軽やかに舞ってみせた。

 いつの間にか、射るような目つきの鋭さすら可愛く見えてきている自分に、苦笑する。

 昼を少し過ぎた頃、ルクレールとジュールが戻ってきた。
「問題なし、だ」
「街で聞いた限り、ドワーフ兄弟の評判は上々です」
 二人の低い声が、耳元に落ちた。
「じゃあ、あとで武器の相談をさせてもらおう」

 陽が西へ傾き始める頃――、
 馬車は、ついに完成した。
 それは、もはや“改装”の域を超えている。移動する拠点。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

悪役キャラに転生したので破滅ルートを死ぬ気で回避しようと思っていたのに、何故か勇者に攻略されそうです

菫城 珪
BL
サッカーの練習試合中、雷に打たれて目が覚めたら人気ゲームに出て来る破滅確約悪役ノアの子供時代になっていた…! 苦労して生きてきた勇者に散々嫌がらせをし、魔王軍の手先となって家族を手に掛け、最後は醜い怪物に変えられ退治されるという最悪の未来だけは絶対回避したい。 付き纏う不安と闘い、いずれ魔王と対峙する為に研鑽に励みつつも同級生である勇者アーサーとは距離を置いてをなるべく避ける日々……だった筈なのになんかどんどん距離が近くなってきてない!? そんな感じのいずれ勇者となる少年と悪役になる筈だった少年によるBLです。 のんびり連載していきますのでよろしくお願いします! ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムエブリスタ各サイトに掲載中です。

拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを流れで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。

処理中です...