婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta

文字の大きさ
15 / 53

王妃のお茶会

しおりを挟む


 事件の捜査で忙しいだろうに、ノアとのデートは絶対にすると譲らなかったローランと二日後に出かける約束をしてノアは家に帰ることになった。
 もちろん、屋敷の裏口までは心配したローランが送ってくれた。結局、本来の目的であった冒険者ギルドにはたどり着けず冒険者にはなれなかったし、危うい場面もあったが、ローランの意外な一面が知れて、それなりに満足できる一日を過ごす事が出来た。

 こうしてここ数日は楽しい日々を送っていたノアだったが、この日、因縁の王族の印が付いた手紙がまたもや屋敷に届いてしまい、ノアは嫌々王城に向かう羽目になった。


 王城の庭は広い。中でも噴水のある花園は人気の高い社交場であった。
 そこにはたくさんの使用人に囲まれるノアと、一人の麗しき女性がいた。現王妃、アイリーンは今年40歳を迎えたがとても若々しく20代でも通じそうな美しい肌の持ち主である。しかし、その王妃の顔に浮かぶのは憂いの表情。口からは大きなため息が零れていた。

「ねぇ、どうしてうちのアルフィーちゃんはあんな泥棒猫を選んだのかしら? 絶対趣味が悪いと思わない?」
「さぁ?」
「というかぁ、今から王太子妃の教養を一から躾けなきゃいけないなんて、かなり面倒臭いんだけどぉ」
「そうですねー」
「だからさぁ、戻ってきてよノアちゃん」
「それはムリですねー」
「んもう! さっきから適当に相槌打ってるでしょ!」

(めんどくせぇ……なんで俺ここにいるんだ……?)

 王城からの呼び出しは陛下からではなく、王妃からだった。以前はよくお茶会に招かれていたものだが、婚約破棄してから王妃に会うのはこれが初めてのことだった。

(まさか愚痴大会に付き合わされるとは思っていなかったけど)

「ほんとどうかしてるわぁ……こんな優秀なノアちゃんを捨てて、我がまま放題の成り上がり娘を選ぶなんて」
「我がまま放題?」
「ええ。高価なドレスや宝石を買いあさっているって聞いたわ。もちろん、アルフィーちゃんの予算……つまり、公費でね。男爵家出身っていうし、実家からの援助はあんまりなかったのかもしれないけど、まだ正式に王太子妃になった訳じゃないのに公費を使うなんて、もうやりたい放題よ」

(はて……リリスってそんなキャラだっけ?)

 リリスと言えば、原作の乙女ゲームでは主人公であったから、少なくともシナリオの中では、優しくおひとよしな性格だったはずだ。
 現実のリリスも、少なくとも在学中はそんなことはしてなかった。アルフレッドにべったりではあったが。

「というか、まだ会われていないんですか?」
「ええ。つい先日から王城に図々しく居座っているんだけど、私にはまだ挨拶しに来ないのよ? 失礼だと思わない?」
「……アイリーン様の方が位が高いので、声を掛けられるのを待っているとか?」
「そんな殊勝な子には見えなかったけどなー」

アイリーン様のリリスに対する印象は会う前から最悪らしい。

「はぁ……私もね、元は妾の王妃。当時は色々言われて周囲からの風当りは悪かったわ。だからこそ、最初は味方してあげようと思ったのよ? どんな経緯でも、アルフィーが選んだ子ですもの。良いところはあると思ってね。でもねぇ……侍女たちの話を聞くと、とてもじゃないけど仲良く出来なそうなのよね」
「使用人からの評判も良くないんですか?」
「そうなの。一部は信者っていうぐらい好意的な使用人もいるんだけど、なんか様子がおかしくて……今後を考えると憂鬱だわ」
「王妃様も大変そうですねー」
「だからぁ、なんでさっきから他人事なのよぅ?」
「だって、他人事ですもん」
「んもぅ! ノアちゃん変わったわ」
「そうですか?」
「うん。冷たくなった」

(いやだって今の王妃様めっちゃめんどくさいんだもん……)

「……でも、安心したわ。本当はちょっと心配していたの。アルフィーに未練があるんじゃないかって」

そこで、王妃は苦笑いを浮かべて言った。

「まったくなさそうね」
「ええ、まったく」
「それはそれで、私はちょっと残念だけど。でも、きっとこれで良かったのよね……」

王妃は自分を納得させるようにそう呟いた。そこで、さすがのノアも気づいた。

(普段、人のことをあまり悪く言わないアイリーン様がリリスの愚痴を言っていたのは、俺の本心を探ろうとしていため、か。俺が未だアルフレッド様を想って傷ついているんじゃないかって……)

「アイリーン様」
「なぁに?」
「私はもう、アイリーン様の子ではなくなってしまいましたが、身内ではないからこそ話せる話もあると思います」

きょとんとする王妃に、ノアは微笑みながら続けて言った。

「だから、愚痴を言いたい時はまた呼んでください。王妃様のお茶会にでてくる紅茶とお菓子目当てでいつでも参加しますよ」
「……私も見る目がないわぁ、アルフィーちゃんのこと言えないわね。ちっとも変わってないじゃない。優しいノアちゃんのままだったわ」
「あくまでもお茶とお菓子のためです」
「うふふ。ええ、食いしん坊のノアちゃんがいつ遊びに来てもいいように、用意しておくわね」

本来なら婚姻関係がなくなった以上、あまり王妃とも関係を持たない方がいいのかもしれない。
 しかし、王妃アイリーンの実家はあまり強い家柄ではない。だから、王妃の味方は意外と少なく、孤独を強いられている。
 彼女には、昔から大変お世話になっている。今までの恩を考えれば、ノアが愚痴を聞いてそれで少しでも彼女負担が軽くなるのならそれでもいいと思えた。

(お父様はあまりいい顔はしないだろうけど……でもこれくらいはさせて欲しい。俺とアイリーン様は同じ戦いを生き抜いたなんだから)

 ノアが王太子妃候補として選ばれたのと、アイリーンが愛妾から王妃になったのはほぼ同じ時期だった。お互い慣れない妃教育を一から一緒に学び、共に高めあった戦友なのだ。なので、アイリーンはノアに好き放題言うし、ノアもアイリーンにはちょっと毒舌になったりするのだが、それは気が置けない仲だからこそだった。


 婚約破棄が原因でアイリーンとの関係も白紙になってしまうかと思っていたが、どうやらこちらは修復出来そうで、内心ちょっと嬉しく思っているノアなのだった。



しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。

竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。 男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。 家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。 前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。 前世の記憶チートで優秀なことも。 だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。 愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

処理中です...