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ギルド長 隻眼のジル
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緊迫した様子のジェシカに連れられて、ノアとオルランドはギルドに二階に向かった。二階の一番奥の部屋をジェシカがノックすると、中から渋い男性の声が聞こえた。
「失礼します。ギルド長。オルランドさんをお連れしました」
ジェシカはオルランドとノアを部屋の中に通すと一礼をして部屋を出て行った。
「デート中に呼び出して悪かったな、オルランド」
そう言ったのは初老の男性だった。頭髪は白く、顔には皺と深い切り傷が刻まれている。そして、片足がなく、剥き出しの義足をつけていた。隻眼で黒い眼帯をつけている。
(おぉ……見るからに強そうなおじいちゃんが出てきたけど、この人も見おぼえないんだよなー……というか、そもそも普通の乙女ゲームにはこんな渋いおじいちゃんキャラ出てこないしな。こんなに癖強いのに、原作未実装な人物がまた登場しちゃったよ……)
「まったくだ。もっとも、ギルドをデートコースに選んでくるような相手なので、最初から甘い展開は期待してなかったけどね」
(悪かったな。ずっと行ってみたかったんだよ冒険者ギルド)
話を邪魔したら悪いかと、口には出さないが唇を尖らせて睨みつけはするノアだった。
「それで? 俺を呼び出した理由は?」
「……この嬢ちゃんどこまで知っているんだ?」
男性は明らかに無関係なノアの存在を気にしていた。ノアも空気を読んでそっと出て行こうと後ろに下がろうとした。だが、オルランドはノアの退室を許さなかった。
「例の件についてだろう? なら、彼も被害者の一人、無関係じゃない。まぁ未遂だったけどね」
「そうか。そして、嬢ちゃんではなかったのか……すまんかったな」
「いえ、よく間違えられるので」
「わしは、このギルドの長を務めているジルだ」
「ノアです。よろしくお願いします」
(俺も被害者の一人ってことは、例の人攫いに関する件についてか……)
ジルはノアとオルランドに着席を求め、二人が応接間のソファに腰を掛けたのを見て話を始めた。
「新たな被害者が出た。ミラという女性だ。彼女は旅一座の看板女優で顔と名前が売れていた。番がまだいないΩという情報も公表していたようだ」
「それって、さっきパン屋の主人が言っていた、公演が中止になった旅一座のこと?」
「恐らくそうだろうな」
(じゃあ、公演中止の理由は体調不良ではなく、主演女優が攫われたからだったのか。そりゃあパウンドケーキを食べている場合じゃないよな)
「これでこの一か月で被害者はわかっているだけで5人だ。どんどんスピードが速くなっている。連中、もはやこの犯罪を隠す気がないかのようだ」
「でもその分、こっちは足取りを掴みやすい」
「そのはずなんだがな。余程大物が絡んでいるのか、或いは資金が豊富にあるのか。今のところわかっているのは彼らが選んでいるターゲット層のみだ」
「『番のいないΩ』……」
「ああ。闇のマーケットでは最も高値で取引されるからな。しかし、まさか役者まで攫うとはな……」
「内部で手引きをした可能性のある人物は?」
「怪しいものはいなかった。犯行を目撃した者もいない。だが、自分から失踪したとは考えにくい。彼女はここ最近誰かに後をつけられているようだと仲間に話していたそうだ」
「警戒していたのに、攫われたと」
「そう。明らかにプロの犯行。つまり、俺たちが今追っている奴らの手口によく似ている」
犯人に繋がりそうな手掛かりは現場に残されておらず、追跡は困難。捜索は難航しているようだ。
「このままでは被害が広がるばかりだ。何か対策を打たないと」
「……あの、一つ提案があるのですが」
ノアは小さく手をあげて発言した。
「彼らは『番のいないΩ』を狙っていると言っていましたよね?」
「そうだ」
「……だったら、私を使ってください」
「ノア。それは駄目だ」
すぐにノアの意図を察したらしいオルランドが止めに入る。
「でも、このままじゃ犯人を逃がしてしまうかもしれないんでしょう? 今だったらまだミラさんや他の攫われた女性達を救えるかもしれない」
「しかし、危険すぎる。もし追跡に失敗したら……」
「そこは、S級のオルランドの腕を信じるよ」
「っ……ノア。これは遊びじゃないんだ。もし君に何かあったら」
「大丈夫。いざとなったらガン……ゴーレム使って逃げるし」
「ゴーレムってなんのことだ?」
「待った待った! お前さん達二人で話を進めるな。何をしようとしている?」
「……私が囮になります。そうすれば、少なくとも拠点の一つはわかるはずです」
「囮って……確かにあんたは別嬪だしΩだと一発でわかる見た目をしているから囮役としては十分だが、オルランドの言う通り危険すぎる。一般人を巻き込む訳には……」
「一般人ではありません。今日からは、H級冒険者です!」
ドヤ顔で己の胸を叩くノアと頭を抱えるオルランド、そしてそんな二人を唖然として見つめるジルの姿がそこにあった。
「失礼します。ギルド長。オルランドさんをお連れしました」
ジェシカはオルランドとノアを部屋の中に通すと一礼をして部屋を出て行った。
「デート中に呼び出して悪かったな、オルランド」
そう言ったのは初老の男性だった。頭髪は白く、顔には皺と深い切り傷が刻まれている。そして、片足がなく、剥き出しの義足をつけていた。隻眼で黒い眼帯をつけている。
(おぉ……見るからに強そうなおじいちゃんが出てきたけど、この人も見おぼえないんだよなー……というか、そもそも普通の乙女ゲームにはこんな渋いおじいちゃんキャラ出てこないしな。こんなに癖強いのに、原作未実装な人物がまた登場しちゃったよ……)
「まったくだ。もっとも、ギルドをデートコースに選んでくるような相手なので、最初から甘い展開は期待してなかったけどね」
(悪かったな。ずっと行ってみたかったんだよ冒険者ギルド)
話を邪魔したら悪いかと、口には出さないが唇を尖らせて睨みつけはするノアだった。
「それで? 俺を呼び出した理由は?」
「……この嬢ちゃんどこまで知っているんだ?」
男性は明らかに無関係なノアの存在を気にしていた。ノアも空気を読んでそっと出て行こうと後ろに下がろうとした。だが、オルランドはノアの退室を許さなかった。
「例の件についてだろう? なら、彼も被害者の一人、無関係じゃない。まぁ未遂だったけどね」
「そうか。そして、嬢ちゃんではなかったのか……すまんかったな」
「いえ、よく間違えられるので」
「わしは、このギルドの長を務めているジルだ」
「ノアです。よろしくお願いします」
(俺も被害者の一人ってことは、例の人攫いに関する件についてか……)
ジルはノアとオルランドに着席を求め、二人が応接間のソファに腰を掛けたのを見て話を始めた。
「新たな被害者が出た。ミラという女性だ。彼女は旅一座の看板女優で顔と名前が売れていた。番がまだいないΩという情報も公表していたようだ」
「それって、さっきパン屋の主人が言っていた、公演が中止になった旅一座のこと?」
「恐らくそうだろうな」
(じゃあ、公演中止の理由は体調不良ではなく、主演女優が攫われたからだったのか。そりゃあパウンドケーキを食べている場合じゃないよな)
「これでこの一か月で被害者はわかっているだけで5人だ。どんどんスピードが速くなっている。連中、もはやこの犯罪を隠す気がないかのようだ」
「でもその分、こっちは足取りを掴みやすい」
「そのはずなんだがな。余程大物が絡んでいるのか、或いは資金が豊富にあるのか。今のところわかっているのは彼らが選んでいるターゲット層のみだ」
「『番のいないΩ』……」
「ああ。闇のマーケットでは最も高値で取引されるからな。しかし、まさか役者まで攫うとはな……」
「内部で手引きをした可能性のある人物は?」
「怪しいものはいなかった。犯行を目撃した者もいない。だが、自分から失踪したとは考えにくい。彼女はここ最近誰かに後をつけられているようだと仲間に話していたそうだ」
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「このままでは被害が広がるばかりだ。何か対策を打たないと」
「……あの、一つ提案があるのですが」
ノアは小さく手をあげて発言した。
「彼らは『番のいないΩ』を狙っていると言っていましたよね?」
「そうだ」
「……だったら、私を使ってください」
「ノア。それは駄目だ」
すぐにノアの意図を察したらしいオルランドが止めに入る。
「でも、このままじゃ犯人を逃がしてしまうかもしれないんでしょう? 今だったらまだミラさんや他の攫われた女性達を救えるかもしれない」
「しかし、危険すぎる。もし追跡に失敗したら……」
「そこは、S級のオルランドの腕を信じるよ」
「っ……ノア。これは遊びじゃないんだ。もし君に何かあったら」
「大丈夫。いざとなったらガン……ゴーレム使って逃げるし」
「ゴーレムってなんのことだ?」
「待った待った! お前さん達二人で話を進めるな。何をしようとしている?」
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「囮って……確かにあんたは別嬪だしΩだと一発でわかる見た目をしているから囮役としては十分だが、オルランドの言う通り危険すぎる。一般人を巻き込む訳には……」
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