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疑惑
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「タイラー侯爵は、前王妃のご実家で、セシル王子の後見人なんだよ……?」
「それは俺も知っている……だが、彼らの拠点の一つに残されていた帳簿に記されていた名前がタイラー家の名前だったのも事実なんだ」
「その裏帳簿の金の流れが正しい証拠は?」
「ない。だからあくまでも可能性の話だ。でも、もし仮にこれが事実だとすれば、Ωの女性を引き取ろうとする理由も察しがつく」
「理由?」
「ああ……胸糞悪い話だが、Ωは高く売れるんだ……闇の人身売買では」
「っ……!」
庶民のΩを引き取る理由。それが人身売買で金儲けをするためだとオルランドは睨んでいるようだった。
「でも、タイラー侯爵が金を集める理由は何? 犯罪組織と手を組んでまで……」
「これは、あくまで俺の推論だが……」
オルランドはそう前置きしてから、恐ろしい陰謀を口にした。
「セシル王子を王位就かせるために、金と兵を集めているのだとしたら?」
「……」
「国家転覆がタイラー侯爵の狙いかもしれない」
「いや、それはありえない」
ノアははっきりと否定した。
「何故言い切れる?」
「俺は、セシル王子に会ったことがある。彼はそんなことを望んでいないし、そんな恐ろしいことを企む子じゃない」
「仮に、王子がそうだったとしても、生家のタイラー家の考えが同じとは限らないだろう。ましてや今の当主は、前王妃の父親だ。彼女が亡くなっていなかったら王の祖父になれたかもしれないんだ。すくなくとも愛妾の子であるアルフレッドが王太子に選ばれたことをよくは思っていないはずだ」
「……正直に言うと、タイラー侯爵が、アルフレッド殿下をどう思っているかはわからない。でも……」
ノアはオルランドの目を見てはっきりと告げた。
「タイラー家は長年、王族に忠実に仕えてきた。不安定だった隣国アリカンテとの国境をずっと守り続けきた。今のこの国が平和になのは、タイラー家の働きがあったからこそなんだ。だからこそ陛下はタイラー家から王妃様を娶ったのだし、タイラー家も王妃様亡き後も忠誠を捧げ続けている……そんな長年、敵国からこの国を守り続けてきたタイラー家が、国境を跨いでの犯罪に手を貸しているなんて……俺は信じない」
「…………確かに、タイラー家の名前があったのはその帳簿一冊にのみ。また、タイラー家の領地と、密入国が盛んに行われている俺の国との国境は離れすぎている。地理的におかしい部分はある。だが、感情論だけで、可能性を捨てるのは間違っている。タイラー家に疑惑があるのは事実だ」
「……そう、だな」
なまじ当事者と関りがある分、ノアの判断は甘さが含まれている。この国の人間ではないオルランドの判断は冷静で的確だ。それでも……。
(いや……これは、今話すべきことではない、か……)
ノアは言葉を飲み込んだ。この場でオルランドを説得するのは無理があるとノア自身もわかっていたからだ。
「わかった。この話はこれで終わりにしよう……今の段階ではわからないことが多すぎる」
「そうだな……一度、ギルドに戻ろうか。そろそろ君の登録証も出来ているだろう」
「あ、忘れてた」
「今日はそれがメインだろう? ついでに薬草採取の依頼でもやってみるか?」
「え、いいの!?」
「登録証作ったのに、依頼の一つもやらないんじゃつまらないだろう? 一人で行かれるより、一緒行った方が安心だ」
これで午後の行き先も決まった。ノアはルンルンで、そんなノアの隣を歩くオルランドも穏やかな笑みを浮かべて二人は冒険者ギルドに戻った。
しかし、その予定は崩されることとなる。
「あ、オルランドさん。お帰りをお待ちしていました」
受付嬢のジェシカは、戻ってきたノアとオルランドを見てほっとしたように胸を撫でおろした。その顔は少し強張っていた。
「……何かあったのか?」
「はい。早急にお伝えしたいことがあります。ギルド長がお待ちです。こちらへ」
「それは俺も知っている……だが、彼らの拠点の一つに残されていた帳簿に記されていた名前がタイラー家の名前だったのも事実なんだ」
「その裏帳簿の金の流れが正しい証拠は?」
「ない。だからあくまでも可能性の話だ。でも、もし仮にこれが事実だとすれば、Ωの女性を引き取ろうとする理由も察しがつく」
「理由?」
「ああ……胸糞悪い話だが、Ωは高く売れるんだ……闇の人身売買では」
「っ……!」
庶民のΩを引き取る理由。それが人身売買で金儲けをするためだとオルランドは睨んでいるようだった。
「でも、タイラー侯爵が金を集める理由は何? 犯罪組織と手を組んでまで……」
「これは、あくまで俺の推論だが……」
オルランドはそう前置きしてから、恐ろしい陰謀を口にした。
「セシル王子を王位就かせるために、金と兵を集めているのだとしたら?」
「……」
「国家転覆がタイラー侯爵の狙いかもしれない」
「いや、それはありえない」
ノアははっきりと否定した。
「何故言い切れる?」
「俺は、セシル王子に会ったことがある。彼はそんなことを望んでいないし、そんな恐ろしいことを企む子じゃない」
「仮に、王子がそうだったとしても、生家のタイラー家の考えが同じとは限らないだろう。ましてや今の当主は、前王妃の父親だ。彼女が亡くなっていなかったら王の祖父になれたかもしれないんだ。すくなくとも愛妾の子であるアルフレッドが王太子に選ばれたことをよくは思っていないはずだ」
「……正直に言うと、タイラー侯爵が、アルフレッド殿下をどう思っているかはわからない。でも……」
ノアはオルランドの目を見てはっきりと告げた。
「タイラー家は長年、王族に忠実に仕えてきた。不安定だった隣国アリカンテとの国境をずっと守り続けきた。今のこの国が平和になのは、タイラー家の働きがあったからこそなんだ。だからこそ陛下はタイラー家から王妃様を娶ったのだし、タイラー家も王妃様亡き後も忠誠を捧げ続けている……そんな長年、敵国からこの国を守り続けてきたタイラー家が、国境を跨いでの犯罪に手を貸しているなんて……俺は信じない」
「…………確かに、タイラー家の名前があったのはその帳簿一冊にのみ。また、タイラー家の領地と、密入国が盛んに行われている俺の国との国境は離れすぎている。地理的におかしい部分はある。だが、感情論だけで、可能性を捨てるのは間違っている。タイラー家に疑惑があるのは事実だ」
「……そう、だな」
なまじ当事者と関りがある分、ノアの判断は甘さが含まれている。この国の人間ではないオルランドの判断は冷静で的確だ。それでも……。
(いや……これは、今話すべきことではない、か……)
ノアは言葉を飲み込んだ。この場でオルランドを説得するのは無理があるとノア自身もわかっていたからだ。
「わかった。この話はこれで終わりにしよう……今の段階ではわからないことが多すぎる」
「そうだな……一度、ギルドに戻ろうか。そろそろ君の登録証も出来ているだろう」
「あ、忘れてた」
「今日はそれがメインだろう? ついでに薬草採取の依頼でもやってみるか?」
「え、いいの!?」
「登録証作ったのに、依頼の一つもやらないんじゃつまらないだろう? 一人で行かれるより、一緒行った方が安心だ」
これで午後の行き先も決まった。ノアはルンルンで、そんなノアの隣を歩くオルランドも穏やかな笑みを浮かべて二人は冒険者ギルドに戻った。
しかし、その予定は崩されることとなる。
「あ、オルランドさん。お帰りをお待ちしていました」
受付嬢のジェシカは、戻ってきたノアとオルランドを見てほっとしたように胸を撫でおろした。その顔は少し強張っていた。
「……何かあったのか?」
「はい。早急にお伝えしたいことがあります。ギルド長がお待ちです。こちらへ」
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