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しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
しおりを挟むごひきのこぶたのチャールストンを見終わったオスカーは暫くの間、放心していたが、やがて我に返ってノア連れて再び執務室に戻った。
そして、自分の椅子に座ると、手を組み顎を乗せた。さながら某機関の総司令のようなポーズである。
「……なるほど。アルフレッド殿下の懸念は尤もだ。ノア、この魔法の事は今後も秘密にするように。使用人達にも改めて口止めをしておこう」
「幸い、使用人の中で私が魔法を使っているところをみたのはメイド一人だけでした」
「ああ。彼女は我が家に忠実な使用人だ。外部には言いふらさないだろう。不幸中の幸いだった」
(我が家にではなく、お父様に忠実なんだと思いますけどねー?)
彼女の告げ口のせいで散々お説教されたノアは心の中だけでそう毒つく。
「それで、お前の話というのはなんだ? この件に関する弁明か?」
「いえ。違います。それよりももっと重大な話です」
ノアは王都で起きている人攫いの事件と、それを調査しているローランもといオルランドのこと。そしてギルドの調査を元にノアが出した結論という形で事件の黒幕に関しての憶測を父に話した。嘘ではない。その調査に、自分が参加していることを告げていないだけである。
「……王都で人攫いが発生していることは、陛下も私を知っている。近々対策本部をたてる予定だった。しかし……エドワード王子が関わっているかもしれないとはな」
「お父様から見て私の推測は当たっていると思いますか?」
「正直、今は判断材料が乏しい。しかし、陛下のお気持ちがアルフレッド殿下よりもエドワード王子に流れて行っていることは間違いないかもしれない」
「というと?」
「昔から、陛下はエドワード王子の能力を買っていたからな。『アルフレッドにエドワードほどの頭脳があったなら……』とよく愚痴を零されていた」
(……確かにアルフレッド殿下はぽんこつかもしれないけど、実の親がそんな比べるように言わなくても……)
ノアの心中を察したようにオスカーが苦笑いを浮かべてフォローする。
「そう睨むな。アルフレッド殿下が彼なりに努力をしていたことは私も陛下も知っている」
「別に睨んでなんかいませんけど……」
「エドワード王子は確か12年前、リチャード家へ養子に出されている。だが、色々あって最終的には大きな商家に養子に出されたはずだ」
「商家に?」
「ああ。貴族だと、エドワード王子の復権を望む勢力に目を付けられるということでな。いざこざが多々あって、結局貴族社会からは追い出されたのだよ」
「優秀過ぎると大変ですね……しかし、平民の方が、犯罪組織は近づきやすいでしょうね」
「ああ。私もエドワード王子が今どうしているかはしらない。陛下ならご存じだろう。訊ねてみることにしよう」
「……この事件の全貌を陛下に言うのは待ってもらえますか? 今ギルドがデンバー家当主の逮捕で動いているところなんです。実の息子が事件に関わっているとなれば……陛下は隠ぺいを考えるかもしれません」
「わかった。事件のことは匂わせずに聞き出してみよう」
「ありがとうございます。それと他の疑わしい貴族たちについてなのですが……」
「ああ。わかっている。そちらの金の動きも予算担当に確認して調べてみよう」
「ありがとうございます! お父様」
(さすがお父様……頼りになるぜ)
「だからくれぐれもお前は無理はせず、家で反省していることだ」
「え? あ、あの……だからあれは本当は火遊びではなく、ローランと事件について色々調べ物をしていて……」
「……ローラン様に対してまったくその気がなかったと?」
「ええっと……その……」
「ノア」
ぽんっとオスカーはノアの肩に手を置いて告げた。
「私が、お前のアルフレッド殿下に恋する顔を何年見てきたと思っている? 私の留守中に、お前の気持ちがとっくにローラン様に移っていたのはさっきローラン様の話をしていたお前の顔をみて全部お見通しだ。お前の恋心は実にわかりやすい」
「へ!? あ、え………………そ、そうなんですね…………」
カァ――ッと一気に顔が赤くなるノアと、そんなノアを険しい顔で見るオスカー。
「……なので、調査だけだったという戯言も通用しない。今後二人で出かけるならば、まず彼が私に挨拶をしてからだ。その時の彼の態度次第で交際を認めよう……わかったな?」
「はい……」
「とりあえず一週間は外出禁止だ。図書館も認めない。家の中で大人しくしていなさい」
「はい」
恥ずかしさやら恥ずかしさやら恥ずかしさやらで、ノアはもう素直に『はい』と返事をすることしかできなくなってしまった。
(でも、お父様が俺の話を信じてくれてよかった。調査への協力もしてくれるみたいだし、これで今まで掴めなかった証拠も集まってくるだろう)
(あとは……オルランド達の吉報を待つだけだ)
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