不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
624 / 2,091
外伝 ~ヨツバ王国編~

変異体

しおりを挟む
「何だ!?」
「後ろから何かが接近してくるっす!!」


レナ以外に者達も後方から接近する気配を感じ取り、エリナは新調したクロスボウを構え、ハンゾウは腰の短刀に手を伸ばす。数秒後、茂みから全身が赤色の毛皮で覆われたコボルトが出現した。


「ガアアッ!!」
「コボルト!?」
「撃ちます!!」


出現した赤色のコボルトに対してエリナはクロスボウを向けると、矢を放つ。彼女は「狙撃」と呼ばれる固有スキルを所持しているため、狙いを定めれば確実に相手を射抜く。だが、迫りくる矢に対してコボルトは右腕を振りはらって弾く。


「ウガァッ!!」
「嘘っ!?あたしの矢が……」
「ここは拙者に任せるでござる!!」


矢を軽く弾き返したコボルトに対してエリナは驚くが、即座にハンゾウが短刀を構えた状態で駆け出し、コボルトに向かう。しかし、彼女が距離を詰める前にコボルトは身体を屈めて立ち止まり、空中に跳躍した。


「ガウッ!!」
「ウォンッ!?」
「キュロロッ!?」
「ヒィンッ!?」


魔獣達の上を飛び越えてコボルトは10メートルは離れた場所に存在する大樹の枝の上に飛び乗り、レナ達を見下ろす。通常のコボルトよりも身体能力が高く、さらに危険を察知して即座に回避行動に移る辺りは知能も高い。


「何でござるかこいつは……」
「お前達、無事か!!」
「あ、カゲマルさん……」


コボルトが現れた茂みの中からカゲマルが現れ、既に両手に小太刀を握り締めていたカゲマルは枝の上に立つコボルトに視線を向け、目つきを鋭くさせる。どうやらこちらのコボルトがレナ達を尾行していた個体で間違いなく、カゲマルが仕留めきれずに取り逃していたらしい。


「すまん、油断していたわけではないが仕留めそこなった……こいつは亜種だ」
「亜種か……俺も何度か見かけた事はあるけど、赤色のコボルトは初めてだな」
「ガルルルッ……!!」


枝の上から威嚇するように牙を剥き出しにしたコボルトに対してレナ達は警戒を行い、様子を伺う。子供の頃にレナは深淵の森でコボルトの亜種と遭遇した事はあるが、今回のコボルトはあの時に遭遇したコボルトよりも素早く、鋭利な牙と爪を持っていた。

あまりに戦闘が長引くと離れた場所で待ち伏せしている北聖将の配下の兵士達に気付かれる恐れがあり、早急に時間を掛けずに仕留めなければならない。レナは自分が動くべきかと考えた時、コボルトは鼻を鳴らし始める。


「フガッ……グゥウッ!!」
「な、何でござる?」
「血の臭いに気付いたのか?」


コボルトは兵士達が惨殺したブタンの血の臭いを嗅ぎ取ったのか、興奮したように全身の毛を逆立たせ、枝の上を飛び移ってその場から離れる。コボルトの姿を見送ったレナ達は警戒を解くと、即座にカゲマルが小太刀を腰に収めて追跡を行う。


「俺が様子を見てくる、お前達はそこにいろ!!」
「あ、カゲマル……」


別に後を追わずともレナが風の聖痕の力を使えばコボルトの行動を監視する事は出来るのだが、止める暇もなくカゲマルも枝の上を飛び移って姿を消してしまう。仕方なくレナは右手に意識を集中させ、姿を消したコボルトとカゲマルの様子を観察した。



――風の精霊の力を借りてレナはコボルトとカゲマルの位置を把握すると、どうやらコボルトは兵士が罠として仕掛けたブタンの死骸に気付いたらしく、枝の上から地上へ降りて疾走する。環境の違いのせいか深淵の森でレナが遭遇したコボルトの亜種と比べてもやはり小柄で身軽なため、速度という点では圧倒的に速い。


『ウガァッ……!!』


コボルトは死骸を発見すると立ち止まり、一瞬だけ左右に首を振る動作を行う。50メートルほど距離を取ったカゲマルは大樹の枝の上から双眼鏡のような魔道具を取り出して様子を観察し、コボルトの行動を見張る。


『グゥウウッ……!!』


涎を垂らしながらコボルトは恐る恐るブタンの死骸の元へ近づき、そのまま死骸に食らいつくかと思ったら無数の傷跡から流れる血液だけを嘗めとる。傷口に爪を押し敢えて無理やり開くとまるで吸血鬼のように血液を吸い取った。


『ッ……!!』


夢中に血液を吸い上げる光景を見たカゲマルは不審な表情を浮かべ、死肉よりも血液だけを味わうようにコボルトは吸い上げ、やがて1頭のブタンの死骸の血液を飲み干すと、肉体に異変が訪れた。


『ウウッ……!!オ、アアッ……!?』


コボルトの全身の筋肉が膨張し、体躯が更に一回り程大きくなった。その姿を見てカゲマルも聖痕の力で観察しているレナも驚愕し、やがてコボルトは咆哮を放つ。


『ウガァアアアアッ!!』
『今だ!!捕らえろっ!!』
『捕獲しろ!!絶対に殺すなっ!!』


周辺の大樹の枝の上や木陰に潜んでいた兵士達が遂に姿を現すと、弓矢を構えて一斉に矢を放つ。肉に食い込むような特殊な形状をした鏃の矢を兵士達は同時に放ち、コボルトは全方位から迫りくる矢に対して目を見開く。


『アガァアアアッ!!』
『馬鹿なっ!?』
『弾いただと!?』
『いかん、攻撃を休むな!!』


あらゆる角度から放たれた矢に対してコボルトはその場をベーゴマのように回転させて身体に触れた矢を弾き返し、地面に無数の矢が転がる。その光景を見て兵士達は動揺するが、隊長格と思われる中年男性の兵士が指示を出す。

追撃を緩めずに兵士達は次々と矢を放つが、コボルトは既に移動を始め、矢から逃れるように四足歩行で駆け抜けた。兵士達はエリナと同様に「命中」や「狙撃」のような射撃を強化するスキルを習得している者も多いが、威力が足りないのかあるいは力量レベルが低いせいなのかコボルトに致命傷を与える事は出来ず、全て弾かれてしまう。


『駄目です!!矢を受け付けません!!』
『ちぃっ……ならば魔法の使用を許可する!!腕や足程度ならば吹き飛ばしても構わん!!』


兵士達は普通に矢を放つだけでは効果が無い事を悟ると、精霊魔法を利用して矢の威力を強化させてコボルトを捕獲しようとしたが、危険を察知したコボルトはまずは枝の上で弓を構える兵士の一人に向けて飛び掛かった。


『ウガァッ!!』
『ぎゃあっ!?』
『何だと!?』


10メートル以上の高度をコボルトは跳躍して飛び移ると、兵士が弓を構える前に鋭利な爪を振り翳して首元を切り裂く。兵士は悲鳴を上げながら地上に転落し、その様子を確認したコボルトは爪先の血を舐めとりながら別の兵士に狙いを定めて次々と大樹の枝の上に配置していた兵士達を襲う。


『ガアアアアッ!!』
『ま、不味い!!退避、退避!!』
『撤退だ!!速やかに離れろ……ぐはぁっ!?』
『た、隊長!?』


遂には隊長の兵士までコボルトの爪に切り裂かれ、地上へと落下してしまう。その様子を見た他の兵士達は混乱を起こし、反撃など考える余裕もなく兵士達は逃げ惑う。


『に、逃げろ……うわぁっ!?』
『何でこんな奴が……ひいっ!?』
『駄目だ、誰か助けて……嫌だぁああっ!?』
『ウガァアアアッ!!』


背中を見せた兵士から優先してコボルトは襲い掛かり、次々とミスリルの如き鋭さを誇る爪で兵士達の急所を切り裂く。その様子を見ていたカゲマルは眉を顰め、その場を退散しようとした。残念ながら兵士達をここで救い出せば自分達の正体も気付かれてしまうため、彼等を助ける事は出来ないとカゲマルは判断した。



――だが、その様子を見ていたレナは次々とコボルトに殺される兵士達の姿を見て居ても立っても居られず、風の聖痕の力を解除して現場へ向けて駆け出していた。
しおりを挟む
感想 5,096

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。