不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

聖痕の力とは

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――風の聖痕を継承した後、レナはアイリスの夢の世界に何度か訪れたことがあるが、ある時に彼女から聖痕に関する助言を受けた事を思い出す。


『レナさんは風の聖痕の力を使いこなしてませんね』
『え?俺の身体に馴染んだんじゃないの?』
『そういう意味じゃなくて、聖痕の力を扱いこなしていないという意味です』


トランプで遊びながらもアイリスの説明によるとレナは風の聖痕が身体に馴染んだ一方、肝心の聖痕の力を上手く使いこなせていない事を指摘する。聖痕の力は単純に魔法の威力を増加させるだけではなく、様々な応用が出来るという。


『今のレナさんは車を与えられた子供みたいな状態ですね。車を発進させる事が出来てもハンドルを切ったり、ブレーキを踏む事もままならない状態です』
『その例えはよく分かんないけど……』
『要するに聖痕の力を完全に使いこなせば今以上にあらゆる方法に利用できるというわけです。聖痕のお陰でレナさんも精霊魔法を扱えるようになったんですからその力を存分に使ってみたらどうですか?』
『精霊魔法か……』




――アイリスから助言を受けたレナは自分が風の聖痕の力を一部しか引き出せない事を自覚し、それ以降は聖痕の力を扱う訓練を実行する。だが、幼少の頃にスキルの習得のために様々な訓練とは異なり、聖痕を利用して風の精霊を操る精霊魔法を扱うのは困難を極めた。それでも地道に訓練を続けた事でレナは風の精霊を以前よりも呼び集める事が出来るようになり、更に攻撃以外の手段で精霊を利用する方法を見出す。


(風の精霊を利用して探索を行う……周囲の状況を詳しく把握する)


森の中に存在する風の精霊を利用してレナは周辺の状況を把握するため、まず呼び集めた精霊を周囲へと拡散させる。今現在のレナならば1キロ圏内までなら精霊を操作する事が可能のため、10秒後には戻って来た精霊達を呼び集めて情報収集を行う。

探索に向かわせた精霊を全て聖痕が宿る右腕に吸収すると、レナの頭の中に精霊が感知した事象が流れ込み、まるでラジコンやドローンなどの機器で記録した映像を頭の中で確認するような感覚に陥る。やがて前方の方角に向かわせた精霊が大樹の木陰に隠れている存在を発見していた。


「見つけた。この先800メートル先に存在する大樹に兵士の集団が待ち伏せしている。それと後方からも俺達を尾行するコボルトが居る」
「何?そんなに事まで分かるのか?」
「今の……もしかして精霊魔法で探索したんですか!?そんな高等技術、あたしでも難しいのに……」


レナと同じく風属性の精霊魔法を扱えるエリナでさえも驚きを隠せず、以前に彼女も精霊を利用して離れた場所で話している人間達の会話を盗み聞きした事もあるが、レナのように広範囲にしかも全方向に向けて探索するような事は出来ない。それだけレナが聖痕の力を使いこなせるようになったという証明だが、問題なのは兵士の集団が進路方向に存在する事である。


「兵士が待ち伏せしているという事は……俺達の存在がバレたのか?」
「拙者たちはもう見つかっていたのでござるか?」
「いや、まだ分からない。待ち伏せしていると言っても、俺たちがいる方向とは別の方向に注意を向けているみたいだ。それと尾行するコボルトは風下に上手く移動して臭いを嗅ぎ取られないように行動している。相当に厄介な奴だ」
「グルルルッ……!!」


自分の嗅覚に悟られないように追跡してくるコボルトが居ると知ったウルは唸り声を上げるが、ここで騒ぎを起こせば兵士の集団に気付かれる恐れがあるのでレナはウルの頭を抑えて兵士達の様子を探った。


「……兵士全員が弓と矢筒を装備している。あとは腰に短剣を装備している程度で他に武器は持っていない……待って、兵士の近くにブタンの群れが接近している。もしかしたらこいつらを狙っているのかもしれない」
「全員が弓兵だとしたら北聖将の配下の兵士で間違いないっす。恐らく、狩猟中のようですね」
「ん?森人族の方は殆どが菜食主義者ではないのでござるか?何のために狩猟を?」
「別に法律で決められているわけじゃないから森人族全員が肉を食べないわけじゃないっすよ。それに自分達が食べなくとも戦闘訓練のために狩猟をする事はよくある事です。狩った獲物を他の種族に売り捌く事もありますからね」
「何にせよ、我々が目的ではないのなら放置しておけばいい」


兵士達はどうやら狩猟中らしく、レナ達が目的ではないらしい。魔獣達だけが兵士達に気付いたのは人間よりも感覚が優れているからであり、いくら暗殺者として優秀なカゲマルやハンゾウでも数百メートル先で身を隠している存在を捉える事は出来ないだろう。


「というか兄貴、そんなに遠くまで探索出来るのなら何でもっと早く教えてくれなかったんですか?」
「聖痕の力を使うと頭が痛くなるんだよ。結構精神力を使うから1日に何度も使えないんだ」


頭を抑えながらレナは浮かび上がった聖痕を摩り、精霊魔法は魔力の消耗を抑えられるとはいえ、扱う際には細心の注意を払わなければならない。下手に聖痕の力を使うと頭痛を起こすため、出来れば使用は控えなければならない。

兵士達がブタンの群れを追って立ち去るまで待機する間、レナは自分達を尾行するコボルトの様子を伺う。臭いで位置を探られないように風下に移動し、視界で捉えられる範囲で尾行する。兵士よりもこちらのコボルトを放置した方が厄介だと判断したレナはカゲマルに頼む。


「カゲマル、この先の方向に隠れているコボルトを追い払ってくれる?俺は兵士の方を見張っているから動けないんだけど……」
「仕方あるまい……この先の方角だな?」
「それにしてもコボルトが一匹だけで尾行するとは……群れからはぐれた個体だとしても拙者たちを獲物と狙って追跡するとは随分と命知らずでござるな」
「確かに……俺達はともかく、ウル達に怯えていないのが気になるな?」
「ウォンッ?」


レナ達の傍には白狼種のウル、サイクロプスのアイン、子供とはいえユニコーンのユニコが同行しているにも関わらずに魔物としてはオークと同程度の力しか持ち合わせていないコボルトが1体だけで追尾している事に疑問を抱く。余程自分の力を過信しているのか、あるいは獲物としてレナ達を狙っているのではなく、別の理由で尾行しているかである。

念のためにレナは周辺の状況を隈なく調べるが他にコボルトの姿は見当たらず、自分達を尾行するコボルトが1体だけである事を再確認してからカゲマルを向かわせた。得体が知れない相手とはいえ、このまま尾行されながら行動するのは危険のため、カゲマルに対処を任せてレナは兵士達の様子を探る。どうやら狩猟を無事に果たしたらしく、兵士達は大量のブタンを仕留めていた。


「どうやら狩猟に成功したみたい、ブタンの死骸から毛皮を剥ぎ取っている……いや、ちょっと待て、様子がおかしい」
「どうかしたんですか?」
「ブタンの死体の素材を回収しないで一か所に集まっている。それに死骸に刃物で無茶苦茶に切り裂き始めた……何をしてるんだ?」
「え?どういう事でござるか?」
「死骸から素材を回収しているわけじゃないんですか?」
「違う、まるで痛めつけるように死骸を切り裂いて血を噴出させている……意味が分からない」


わざわざ仕留めたブタンの死骸を刃物で切り裂き、血抜きにしては派手に切り刻む行為にレナは疑問を抱くと、自分達の後方の方角から高速接近する物体を感じ取った。
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