最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ

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バルトロス帝国編

黒猫亭

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「そろそろ宿を探さないと……えっと、何処に行けばいいんだっけ……」
「ん?君達はまだ宿を決めていないのかい?」
「え、あっ……はい」


レナは串焼き屋の店主からお勧めの宿屋を聞いていたが、ここまでの道中で色々とあり過ぎて忘れてしまう。今から屋台に戻って尋ね直すという方法もあるが、彼の呟いた言葉を聞いた魔道具展の店主が口を挟む。彼女の質問にレナは正直に答えると魔道具店の店長は丁度いいとばかりに店の向い側の建物を指差す。


「それならこの正面に存在する宿屋がお勧めするね。ちょっと店主の営業態度に問題があるけど、値段も安いし料理も美味しい宿屋だよ」
「本当ですか?」


店主の言葉にレナは硝子のような水晶で構成されている壁の向こう側に視線を向け、少し古びた木造製の建物を発見し、看板には「黒猫亭」と言う名前が刻まれていた。レナは店主に感謝の言葉を告げて店の外に移動し、コトミンを引き連れて宿屋の方に向かう異にする。


「あっ……そういえばコトミンはどうする?自分で元の場所に帰れるなら……」
「今の状態じゃ無理……帰る前にお腹が空いて倒れると思う」


普通に行動を共にしていたがコトミンはスライム(自称)であり、自力で元の住処に戻れるのならばレナと行動を共にする必要もないが、彼女は彼の服の裾を掴んで首を振る。現在の状態では肉体を保つだけで限界らしく、先ほどの回復薬だけでは完全に回復したわけでないという。


「この宿屋か……思っていたよりもかなり年季がある建物みたいだな」
「ちょっと傾いている……」


2人の言葉通り、黒猫亭という看板を掲げた宿屋は周辺の建物の中でも廃れており、扉を開くだけ軋む音が鳴り響く。中に入り込むと受付には黒髪の獣人族の女性が椅子に座っており、業務中と思われるが空になった酒瓶が机の上に存在した。


「あん?なんだいあんたら……客かい?」
「えっと……向い側の店にお勧めの宿屋だと聞いたんですけど」
「ちっ!!ホノカの奴……また余計な気遣いを」


宿屋の主人と思われる女性は面倒気に羊皮紙を差し出し、どうやら羊皮紙に名前を書けと催促しており、レナ達はまだ宿泊料の値段も聞いていないのだが彼女は奥の方に移動する。


「エリナ!!新しい客だよ!!相手をしてやりな!!」
「うぃっす!!」


女性が去り際に二階に続く階段に声を掛けると、上の方から金髪の少女が降りてくる。年齢的にはレナ達と大差はないと思われるが、彼女の両耳は人間よりも細長く尖っており、恐らくは「エルフ」と呼ばれる種族だと思われた。元の世界では神話等にしか出てこない存在だが、こちらの世界では実在する。


「お客さんの部屋を案内しますよ。ちなみに宿泊料金は初めてのお客さんなら食事つきでも銅貨5枚っすよ」
「随分と安いですね」
「その分に二日目以降は一人当たり銅貨7枚ですけどね」


日本円に換算すると初日だけは「5000円」で宿泊する事が可能らしく、レナは自分の小袋から銀貨を取り出して彼女に差し出す。後は先ほど手渡された羊皮紙には自分の名前とコトミンの名前を書き込み、エリナに手渡すと彼女は何故か頭を掻きながら不安そうに文字を読み取る。


「えっと……コトミ……さんにレノ……さんですか?」
「……違う。私はコトミン」
「あ、コトミンさんですか。いや、すいませんね……あたし、実は最近になって人間の人が扱う文字を覚えたばかりなんで……」
「あの、俺の名前は……」
「それじゃ、部屋まで案内するっす」


エリナはレナの話を聞き終える前に二階の階段を上り、レナは先ほどのコトミンのように間違えて名前を覚えられてしまうが、訂正する暇もなく彼女は案内を行う。仕方なく後で名前の訂正は後で行う事に決め、2人は1つの部屋に案内される。


「申し訳ありませんけど今開いているのはこの二人部屋だけっす。今日は珍しくお客さんがいっぱいでこの部屋しか空いてないんですけど……問題ないですかね?」
「いや、それは……」
「大丈夫……問題ない」


流石に今日出会ったばかりの女の子(魔物だが)と一緒の部屋を過ごす事にレナは動揺するが、先にコトミンが答えてしまう。驚いた表情を彼女に向けるが特にコトミンは同じ部屋に宿泊する事に抵抗感はないらしく、エリナが安心したように安堵の息を吐く。


「それなら良かったっす!!じゃあ、夜はあんまり騒ぎ過ぎないようにして下さいね。用がある時は必ずノックをするので今晩はごゆっくり……」
「え?どういう意味……」
「それじゃあ、あたしは屋根裏の掃除があるので失礼します!!食事がしたい時は食堂に降りて来てくださいね!!」


意味深な言葉を言い残したままエリナは足早に立ち去り、彼女の言葉にレナ達は顔を見合わせるが、どうやら恋人同士だと勘違いされたようだ。レナはエリナを追いかけて否定するのも面倒になり、今日は色々の事があり過ぎて一刻も早く身体を休ませたかった。


「二段ベッドか……下と上、どっちがいい?」
「ベッド?」
「あれ、知らないの?」
「……こういう物で眠った事が無い」


コトミンは不思議そうに二段ベッドを覗き込み、ベッドで眠った事は無いのか彼女は珍し気に入り込む。その際に彼女の安産型なお尻が突き出される形となり、レナは慌てて視線を逸らす。


「はあっ……」


近くに置いてある椅子にレナは座り込み、机の上に小袋の中身を確認して溜息を吐きだす。既に残りの銀貨は5枚程であり、銅貨も残りは8枚程しか残っていない。この調子ではあと何日宿屋に宿泊できるのか分からず、何としても仕事を見つけ出して稼ぐ手段を確保しなければならない。明日は早朝から仕事を探す必要があり、もう一度宿屋の向い側の魔道具店に訪れ、あの優しそうな店主に相談するべきか考える。迷惑は掛けたくはないが、頼れそうな人間の心当たりが彼女一人だけであり、レナは今日の所は身体を早く休ませる事にした。
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