最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ

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スラム編

吸魔石の効果

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レナが空き地から立ち去ろうとした時、暗殺者の専用スキルの「気配感知」が発動し、後方を振り返ると三人の男が立っている事に気付く。全員が人間ではなく獣人と呼ばれる種族であり、頭に肉食獣と思われる動物の獣耳を生やしており、それぞれが丁度いい具合に大中小の体格をしていた。


「おいおい兄ちゃん……こんな所で何してるんだい?」
「へへへっ……久しぶりの獲物だぜ」
「偶には人肉も悪くはねえな……」
「うわっ……」


異世界物の小説ではテンプレな悪党の登場にレナは呆れるが、実際に自分が絡まれる立場になると内心焦り、咄嗟に魔石を握りしめる。その様子に3人組は一瞬だけ警戒したが、すぐに彼が杖を所持していない事に気付き、笑い声を上げる。


「ぶははははっ!!おい、お前それをどうする気だ?」
「杖に取り付けもしないで魔石を使う気なのか!?」
「やっちまおうぜ!!こいつが本当に魔術師だとしても魔石も真面に使った事もない素人だ!!」


基本的に魔術師は杖の類に魔石を装着させて魔法を発動の際の触媒や強化を行う。だが、レナのような付与魔術師は杖の類を利用しても魔石の使用は出来ず、専用の魔道具が存在しない限りは素手で魔石を使用するしかない。相手が油断している隙に聖属性の付与魔法で肉体を強化して逃げる事も出来るが、レナは敢えて先ほど造り上げた風属性の吸魔石を取り出し、まずは表面に氷結化を溶かすために火属性の付与魔法を発動する。


火属性エンチャット
「うおっ!?」
「な、なんだっ!?」


手元に握りしめた吸魔石に火属性の付与魔法を発動し、表面の氷を溶かすとレナは勢いよく足を踏み込み、今度は風属性の付与魔法を発動して男達に投擲を行う。


風属性エンチャット!!」
『うおおっ!?』


吸魔石に風属性の付与魔法を発動させ、今回は魔力を吸収させるのではなく、魔石を発動させる。原理は不明だが吸魔石の場合は魔力を送り込む場合と発動する場合は所有者の意思に反応するらしく、攻撃する意思を強く抱いて魔力を込めれば魔石の発動ができる。レナが投げ込んだ吸魔石は三人組に向けて接近すると蓄積されていた魔力が暴風のように解き放たれ、3人組を吹き飛ばす。


『ぎゃあああああっ!?』
「あれ!?」


予想外の威力にレナ自身も驚愕し、吹き飛ばされた3人組は気絶したのか地面に倒れたまま動かず、念のためにレナは鑑定のスキルを発動して3人の様子を伺うと画面には「状態異常:気絶」と表示され、本当に意識を失っただけである。予想外の威力にレナ自身も戸惑うが、地面に落ちている効力を失った吸魔石を拾い上げ、すぐにこの場を立ち去る事にした。


「やばい、逃げないと……」


こんな場所を誰かに見られたら面倒であり、聖属性の付与魔法を肉体に施してレナはその場を立ち去る。幸いにも何事もなく離れる事に成功し、黒猫亭に引き返した――





――数分後、レナに敗れた3人組は意識を取り戻し、彼等は自分達が気絶していた事に気付いて激しく動揺するが、折角の獲物を取り逃がした事に憤慨する。それと同時に奇妙な魔石の使い方をしたレナに疑問を抱き、もしかして自分達は凄腕の魔術師に喧嘩を売ったのではないかと恐怖を抱く。


「くそっ……おい!!どうしてあんな奴に喧嘩を売ったんだよ!!」
「俺に当たんなよ……まさか魔術師だとは思わなかったんだよ」
「それにしても最後の魔法は凄かったな……何だったんだあれ?」
「もしかして砲撃魔法の中級ランクの「ストームアロー」じゃねえのか?」
「マジかよ……よく生きてるな俺達」


3人組は自分達の怪我の治療を行いながら自分達が何者と遭遇したのか話し合い、この世界では魔術師という存在は非常に大きな力を有しており、仮に低レベルの魔術師の魔法であろうと魔物に対抗できる力を持つ。彼等は盗賊の職業でレベルは30台を迎えてはいるが、魔法耐性の高い装備を整えておらず、もしもレナが付与魔法ではなく砲撃魔法のような高威力の魔法を扱えたら非常に不味い事態に陥っていただろう。


「……真面目に働くか」
「そうだな……あんなガキに負けるようじゃな……」
「引退するか……串焼き屋でも始めるか」


自分達が遭遇した相手が子供であり、手も足も出せずに敗北した事で彼等の盗賊としての誇りは粉々に砕け散り、スラム街から抜け出して真面目に生きていく事を考え始めた時、不意に奇妙な気配を感じて3人組は顔を上げると見知らぬ少女が目の前に立っていた。



「――ねえねえおじさん達ぃっ……ここで何してるの?」



その少女の外見は一言で言えば「美少女」と言えた。年齢はまだ十代半ばだろうが、膨らんだ胸元が非常に目立ち、小ぶりではあるが形酔いお尻が目立つ。しかも驚くべき事に彼女は下着のような水着だけを着込んでおり、惜しみもなく自分の素肌を晒す。金髪のショートカットに赤色の瞳を怪しく光らせ、常に口元に笑みを浮かべる。

普段の3人組ならばこれほどの容姿の美少女を見つけたら極上の獲物と判断して捕獲し、自分達が好きなだけ身体を味わった後に奴隷商人にでも売り捌こうと考えたかもしれない。しかし、この場所は帝都の闇を抱える人間だけが住まうスラム街であり、野蛮な男達が腐る程存在するこの街に堂々と肌を露出しながら現れた美少女に逆に警戒心を抱かせる。


「な、何だお前……何処から現れた」
「え~私の方が先に質問したのにぃっ……まあいいや」
「お、おい……こいつやばくねえか」
「お、怯えてんじゃねえっ!!こんなガキに俺達がやられると思ってんのか?」
「さっきガキに負けたばっかだけどな……」
「むぅ~おじさん達、カトレアの話を聞いてるの?」


どうやら少女の名前は「カトレア」というらしく、彼女は自分に質問して置いて勝手に話し合う3人組に頬を膨らませ、その行動自体は可愛らしいのだが少女の瞳は決して笑ってはいなかった。


「私はねぇっ……あそこから降りてきたんだよ」
「あそこだと……」
「……空?」
「んな馬鹿なっ……」


カトレアは上空を指差し、3人組は見上げた瞬間、唐突に突風が生じる。一体何が起きたのか理解できずに3人は倒れると、目の前に立っていたはずの少女が姿を消す。


「な、なんだぁっ!?」
「こっちこっち」


動揺した男達に上空から声が掛かり、3人は再び上空を見上げるとそこには背中に蝙蝠のような羽根を生やした先ほどの少女が浮かんでおり、男達を見下ろしていた。その光景に3人は背筋が凍り付き、目の前の少女が「魔人族」である事に気付いた。


「ヴァ……ヴァンパイア!?」
「ぶぅ~……違うよ。私に牙はないもん」
「という事は……サキュバスだと!?」


この世界に蝙蝠の翼を持つ人種は「ヴァンパイア」と「サキュバス」だけであり、両者は生態的には同種なのだが、違いがあるとすれば前者は人間の血を好み、後者は人間の精気を好む。3人組は悲鳴を上げながら逃げようとするが、何時の間にか腰が抜けており、真面に動けない。



「それじゃあ、いただきま~す」
「や、止めろぉおおおおっ!!」
「嫌だ、助けて……ぎゃあぁああああああああっ!!」
「うわぁあああああああっ!!」



スラム街に男達の悲鳴が響き渡り、帝都に先日のヴァンパイアに匹敵する脅威が訪れた――
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