【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠

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「殿下がアリーシャを見かけたのは、お忍びで街に出た時だったんだ」


 静かにリュダールが話し出した。アリーシャは割と街に出て買い物したりお茶したりしているからない話ではない。


「アリーシャが俺に気付いて手を振ってきて、殿下もそれに気付いた時に二人は恋に落ちたと聞いている」


 運命的な出会いだと言いたいのね。でも、殿下には婚約者がいたのよ?何を考えてるのかしら。


「婚約者がいるからって殿下はすぐに諦めて…アリーシャも叶わない相手だとのめり込む事は無かった…その時は」


 一応はわかっているのに、どうして暴走したのかしらね。暴れ馬よりタチが悪いわ、それ。王族が暴れ出すなんて、誰も手が付けられないじゃないの。


「それから少し経った時、また偶然にも街で二人は会った。二人は抱いた気持ちに蓋をして、楽しく会話をするだけだった。でも…アリーシャのデビュタントで、ダンスの相手をサイラス殿下がしたことによって…二人の想いは加速した」


 あぁ、最初のダンスを王族がしてくれるのよね。私は王太子殿下だったけど、リュダールの視線が痛すぎてそれどころじゃなかったわ。


「殿下は小さい頃から、全て言われた通りに生きてきたらしい。王太子殿下を支える役割も、婚約者も、自分の性格すら言われた理想の王子になろうとしていたんだ」
「それは…お辛いわね」
「うん、雁字搦めにされた様子で騎士になって初めて仕えた主人は凄く苦しそうだった」
「だから…助けたかった…と?」


 私はリュダールをじっと見た。彼は目が合うとびくりと肩を揺らしたが、目を逸らす事は無かった。


「…殿下は第二王子で、いずれは王族から外れる。ならば伴侶くらいは自分で決めれたら良いのにとアリーシャに初めて会った時に呟いたんだ」
「そんなに簡単に行くわけないでしょう。既に婚約は結ばれているのだから」
「俺はそれを叶えるなら、ブランシュ様との婚約をどうにかしないと無理だと伝えた。それから周りへの根回しと、アリーシャの存在は知られてはならないと」
「そう…」


 当たり前だ。婚約者がいながら、不貞を働くなんてあってはならない、王族なら特に。政略結婚には意味がある。国の為になるメリットがある結婚…確かに気の毒ではあるけれど貴族である以上は受け入れなければならない。
 ましてや彼は王子なのだ。どれだけの戦略が絡んでいるか計り知れない。


「俺が止めるべきだったのはわかってる。でも、俺は自分がその立場だったら…って考えたら絶対に耐えられないと思った。メリットだけでティアラと離されるなんて生きる意味もない」
「今既に離れてるじゃない。あなた自身のせいで」
「…そうだな。馬鹿だった。でも、殿下にも幸せになって欲しかった。最初は同情だったかも知れないけど、あの青い目が、キラキラするんだ…希望を得たみたいに。それを見たら…」
「だからって…やり方があまりにも…あなただって…」


 リュダールは悲しげに笑う。久しぶりに見た愛しい人は愚かで主人を慕う情けない人。


 そして、仕方のない人。


「あのアリーシャと行ったパーティーの前の日、殿下は陛下に話を持っていく前にブランシュ様と二人で話をしたんだ。俺以外は全員部屋の外に出てもらって、腹を割って話をしたら…」
「…し、したら…?」


 ブランシュ様は大丈夫だったのかしら…だってあんなに真面目に殿下の婚約者を熟していたのに。いきなり、無かった事にしてくれじゃ誰だって納得いかないわ。王子妃教育まで受けている彼女なら尚更よ。


「ブランシュ様が…笑ったんだ」
「は?」
「初めて自分の要望を言ったわね、と」
「え…」


 そこは笑う所なのかしら。私なら腹が立つけれど。ブランシュ様はまた違う視点で物事を広く見られているのね。


「そこからブランシュ様の殿下に対する批判と評価が始まって…」
「批判!?ひょ、評価!?」
「うん、聞いてるこっちが泣きそうになった…。殿下の名誉のために内容は言わないけど」
「まぁ…思う所が…あったんでしょうね…色々と」


 気になるわ…物凄く気になるわ…。何を言われたのかしら…ブランシュ様って、そんなイメージないけれど。冷静沈着慌てませんわ、わたくし…ってイメージ。歳下だけど、威厳があるというか、凛としてるというか。


「…ありすぎたんだろうな、殿下はずっとじっと黙って聞いてた」
「聞く以外の選択肢ないわよね、自業自得というか…」
「今更婚約解消してくれ…なんて普通はないもんな。ブランシュ様に非はないのに」
「そうよね」


 色々言いたくなる気持ちはわかる。私だって半年間、コソコソされているのを見るだけでもあんなに腹が立ったのに、それはブランシュ様だって同じよ。むしろ殴ってやれば良かったのよ!!私は苛立ちを覚えた。
 リュダール、アリーシャにはもちろん、殿下にも。
 知らずのうちに、リュダールを見る目が冷たい物に変化した。





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