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第三章
執務室での会話
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閣議を終えたエドモンドは、長い廊下を無言で歩み、自らの執務室へと戻った。
厚い扉を押し閉めると、外のざわめきは遮断され、重苦しい静けさが部屋を包む。壁には精緻な地図や古びた勲章が整然と飾られ、大きな黒檀の机の上には封蝋の施された書簡の山が積まれていた。午後の淡い光が窓から差し込み、磨き込まれた机の天板を鈍く照らしている。
椅子に腰を下ろすと同時に、二つの影が入室した。
ラファエルは再び王の背後に控える。淡い金の髪と切れ長の榛色の瞳が静かな光を帯び、控えめな振る舞いでありながら、その美貌は場の空気を微かに張り詰めさせた。
一方執務室の隅に控えた近衛騎士団長オスカーは、鍛え上げられた体躯を包む軍服に金の飾り紐を肩に掛け、刀傷の残る顔に厳しさを宿していた。
「先ほどのガストンの言葉、気にされますか」
ラファエルが静かな声で口を開く。
「想定の範囲内だ。ただ、あれほど公然と口にするとはな」
エドモンドは机上の羽ペンを指先で弄びながら答える。
オスカーは不快げに眉をひそめ声を上げる。
「僭越ながら申し上げます! 妃殿下は齢を重ねられておられるのは事実。しかし、側室の件を閣議で持ち出すとは無礼を通り越して、不敬の極み」
「お前のように真っ直ぐ言ってくれる者ばかりなら楽だがな」
エドモンドはわずかに口元を緩める。
「恐れながら申し上げます」
オスカーは胸を張り直し、真摯な声で続けた。
「陛下と妃殿下の会話は、まだ数えるほどにしかございません。ご夫婦としての時間を、もう少しお持ちになるべきかと」
「夫婦の時間? あの威厳を欠いた疲れた老婆と寝所や食事をともにする時間などない」
エドモンドから冷ややかな言葉が吐き出される。
オスカーは一歩も退かずに言った。
「外見で侮るのは賢明ではありません。あのお方には知識も、慈しみも備わっている。必ずや陛下……いえ、この国を導く存在になられるでしょう」
「おやおや、妃殿下は早速オスカー殿の心を掴んだようで」
ラファエルが口元に穏やかな笑みを浮かべ、軽やかに言葉を差し挟む。
エドモンドは窓の外に視線を移した。淡い光が雲間から差し込み、城壁を照らしている。
「それが真かどうか……あの者をもう少し、探ってみるべきかもしれんな」
厚い扉を押し閉めると、外のざわめきは遮断され、重苦しい静けさが部屋を包む。壁には精緻な地図や古びた勲章が整然と飾られ、大きな黒檀の机の上には封蝋の施された書簡の山が積まれていた。午後の淡い光が窓から差し込み、磨き込まれた机の天板を鈍く照らしている。
椅子に腰を下ろすと同時に、二つの影が入室した。
ラファエルは再び王の背後に控える。淡い金の髪と切れ長の榛色の瞳が静かな光を帯び、控えめな振る舞いでありながら、その美貌は場の空気を微かに張り詰めさせた。
一方執務室の隅に控えた近衛騎士団長オスカーは、鍛え上げられた体躯を包む軍服に金の飾り紐を肩に掛け、刀傷の残る顔に厳しさを宿していた。
「先ほどのガストンの言葉、気にされますか」
ラファエルが静かな声で口を開く。
「想定の範囲内だ。ただ、あれほど公然と口にするとはな」
エドモンドは机上の羽ペンを指先で弄びながら答える。
オスカーは不快げに眉をひそめ声を上げる。
「僭越ながら申し上げます! 妃殿下は齢を重ねられておられるのは事実。しかし、側室の件を閣議で持ち出すとは無礼を通り越して、不敬の極み」
「お前のように真っ直ぐ言ってくれる者ばかりなら楽だがな」
エドモンドはわずかに口元を緩める。
「恐れながら申し上げます」
オスカーは胸を張り直し、真摯な声で続けた。
「陛下と妃殿下の会話は、まだ数えるほどにしかございません。ご夫婦としての時間を、もう少しお持ちになるべきかと」
「夫婦の時間? あの威厳を欠いた疲れた老婆と寝所や食事をともにする時間などない」
エドモンドから冷ややかな言葉が吐き出される。
オスカーは一歩も退かずに言った。
「外見で侮るのは賢明ではありません。あのお方には知識も、慈しみも備わっている。必ずや陛下……いえ、この国を導く存在になられるでしょう」
「おやおや、妃殿下は早速オスカー殿の心を掴んだようで」
ラファエルが口元に穏やかな笑みを浮かべ、軽やかに言葉を差し挟む。
エドモンドは窓の外に視線を移した。淡い光が雲間から差し込み、城壁を照らしている。
「それが真かどうか……あの者をもう少し、探ってみるべきかもしれんな」
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