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第三章
薬草園の整備
その日も、セラはリゼットを伴って薬草園へ足を運んだ。
王宮の庭の更に奥まったところにある薬草園は、長らく手入れされていなかったらしく、雑草が地面を覆い、かつて植えられた薬草は枯れ枝を残すばかりとなっていた。
「まあ、なんてもったいない!」
セラは膝を折り、薄茶色に変わったローズマリーの枝を指で撫でた。わずかに残る香りが、過ぎ去った年月を物語っている。
「陛下のお許しはいただいておりますか?」
リゼットが草を抜きながら問いかける。
「役立つのなら、きっと好きにしてよいと仰るはずよ」
「つまり、まだ伺っていないのですね」
「あなたの地獄耳で何も聞いていないのなら、そういうことなのでしょう」
それに相談しようにも、顔を合わせる機会などないのだ。もし怒られても、威厳をもって言い返せばいいだけのこと。老婆の生きがいを奪うつもりですか? と。
セラは微笑み、袖を軽くまくった。
「さあ、忙しくなるわよ、リゼット」
「承知いたしました」
二人は笑い合いながら雑草を抜き、土を掘り返し始めた。
セラにとっては懐かしい作業だった。聖女として神殿に仕えていた頃、病人のために薬草を調合するのは日常の務め。大地に触れ、草花の力を借りて人を癒すことこそ、自分の誇りだった。
そこへ、ひとりの女官が駆けてきて、目を見開いた。
「まあ、妃殿下! なんということを……そのようなことは下々の者がいたします!」
「神殿でもよくやっていましたので大丈夫です。閉じこもってばかりでは老け込むだけですもの」
セラは軽やかに返し、枯れた枝を剪定して若葉に陽が当たるように広げた。
女官はなおも信じられぬように口をぱくぱくさせている。王妃が泥に手を染めるなど、宮廷の常識ではあり得ないことだった。
「セラ様、あちらに東屋がありました。少しお休みになられては?」
リゼットがドレスの裾についた土を払いつつ進言する。
「そうね」
セラは伸びをして、呆然と立ち尽くす女官に声をかけた。
「そこのあなた、ここでお茶をいただきたいわ。用意してくださる?」
「ここで……ですか?」
「これは王妃命令です」
「は、はい! ただいま!」
女官は慌てて王宮へと駆け戻っていった。
「ああ、こんなに澄んだ空気を胸いっぱいに吸うのは久しぶり」
セラは額の汗を拭い、庭を見渡した。
午後の陽射しのなか、枯れていた庭に、ほんの少しずつだが緑が息を吹き返していく。
それはまるで、宮廷という冷ややかな場所に、彼女自身が新しい息吹を運び込んでいるかのようだった。
王宮全体が彼女を受け入れているわけではない。だが、この小さな庭とセラの胸の奥には、確かに新たな芽生えが宿っていた。
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