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第16話 「考え過ぎるのは、オレには合わないんだ!」
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「”千歳の幸せ”……って、言ってもどうしたらいいのかなー」
父と話してから数日、夏樹は悩んでいた。どれもこれも、はっきり言って、難し過ぎる。どうにも良い案が浮かばなかった。
「なーっちゃん!」
「うわっ!」
夏樹は、背後から突然飛び付かれてたたらを踏んだ。振り返ると、そこには奏がいた。
「もー、何回呼んでも返事しないんだもん!僕ってそんなに印象薄い?」
「ごめん……何かあったか?」
「僕さー、次の講義、休講になったんだよねー?なっちゃんも今は空き時間でしょ?退屈だから付き合ってよー」
どうやら、暇潰しに付き合えと言うことらしい。だが、考え事をしたい夏樹としてはそれどころではない。
「いや、今は……」
「よっしゃ、決まりー!じゃあ、1階のカフェ、行こ!あそこ、今、限定メニュー出してるんだってさー」
「うわっ、ちょっと!?」
奏は返事を聞く前に、夏樹を強引に引き摺って歩き出した。初めから夏樹に拒否権はなかった様だ。
「うーん!やっぱり、ここのデザートは格別だよねー」
奏は、先週から発売していると言う”ブルーハワイパフェ”を頬張っている。ちなみに夏樹の前にはコーラが来ている。
「(どうすっかなー……)」
パフェに舌鼓を打っている奏は置いておいて…夏樹の最大の問題は”如何にして千歳に誠意を見せるか”だ。千歳が分厚い仮面の下に隠しているだろう本心に、どうしたら肉薄出来るのだろうか?
「なっちゃんさー、何難しい顔してんのー?らしくないよー」
そんな夏樹の只ならぬ雰囲気を感じたのだろう。奏がスプーンを止めて、話し掛けて来た。
「らしくないって何だよ……オレだって、悩んだりするさ」
特に千歳のことが絡んでいるのだから尚更だ。下手を打ちたくない。
「そっかー、なっちゃんも大人になったんだねー」
奏はしみじみと頷いた。その目はまるで”出来の悪い弟の成長を喜ぶ兄か姉”の様な代物だった。
「いや、同じ年だろ、オレ達」
「何言ってんのさー。”心理的には一番末っ子だー”って言うのが皆の共通認識だよ?」
「うぐっ」
自分の立ち位置は理解している夏樹だが、こうもはっきり言われると微妙に傷付く。アルファなのに”末っ子いじられキャラ”とは……まあ、他の面子を考えると仕方がない。竜二は妹が2人いるらしいし、乙也は中高時代に部活の副部長を務めて来たと言う運営様。夏樹と同じく1人っ子の奏に関しても、親戚は年下ばかりらしい。1人っ子であり、親戚一同の現最年少である夏樹が、そのポジションに納まるのは必然であった。
「しっかし、恋バナでガチに『運命の番』を語り出すとは思わなかったなー。今時、『運命の番』にあそこまで夢見てる人いないって!僕もアルファの友達何人かいるけどさ?皆『運命』なんて探してなかったよ?」
交友関係の広い奏の口から、思わぬ言葉が飛び出して来た。
「マジで?」
「うん、マジで。その人達曰くさー、オメガってすーっごくレアだから、中々会えないんだってさ。仮に会えても、ライバルが多いのなんの!」
夏樹は母の言葉を思い出した。単純計算するなら、3人のアルファが1人のオメガに言い寄るのだから、争いは熾烈だろう。
「だから、『運命』か否か、なんて気にしてたら恋人作るチャンス逃しちゃうらしいよ?特に大学生になったら、そう言う話よく聞く様になったなー」
「大学生と、それ以下じゃ違うのか?」
「うん、全然違うよ?だってさー、高校生までは恋愛対象って、やっぱ”顔がいい”とか、”勉強や運動が出来る”とか、”話が面白い”とかじゃん?その人と”仲良くなりたい”とか、”特別になりたい”って感じで彼氏彼女になるじゃん?」
奏の言うことは間違っていない。夏樹の高校生時代の恋人達は、概ねその様な感じで付き合っていたように思う。
「でもねー、それ以上の歳になると、皆、そこに”結婚相手にどうか?”って話も入って来るじゃん?」
「それはそうだけど……それが何の関係があるんだ?」
オメガと結婚出来ないのは残念だが、だったらアルファ同士やベータを相手に交際すればいい様に思う。
「わかってないなー?”結婚”って言ったらさー、やっぱり”子供”だよ、”子供”!”子供”どうするかって話になって来るんだってー」
「あっ」
そうだ。アルファは、オメガがいなければ子供を作るのが非常に困難な性なのだ。
「歳取ってる人なら兎も角さー、若い人が”完全に子供作らない”って決めて結婚することって少ないじゃん?それにアルファってさー、偏見かもだけど”偉そう”とか”怖そう”みたいなイメージあるじゃん?だから、ベータからすると”付き合うだけ”なら兎も角、”結婚する”旨味がないらしいんだー。いくら美形で高収入でも、プロフィールの段階で避けられちゃうことが多いんだって。仮にマッチング出来ても、求められるレベルが高いから相手に落胆されて、あっさり”お断り”なんてこともー」
「アルファって……世知辛いのな」
世間では”優良性”と言われているのに、実態はこの様だと言うのか。
「だから、アルファって結婚がすーっごく大変らしいよ?ちょっと年上のアルファの人に聞いた話なんだけどさー。結婚相談所とか、マッチングアプリって、大体アルファで溢れ返ってるんだって。ベータはベータ同士で落ち着いちゃうし、オメガは複数の言い寄って来たアルファの中から条件のいい1人を選ぶし」
「(やべぇ……)」
生々し過ぎる…父のなんと強運なことか。千歳に言い寄るアルファが減らないのも納得だ。やり方は間違っていたかもしれないが、皆、必死だったのだ。
「皆、言ってるよ?”会えるかどうかもわからない『運命の番』を探すくらいなら、取り合えず出会ったオメガに声を掛ける”って。”そんな時間をかけるなら、少しでも有利にするために自分磨きする”って。僕、これ聞いた時さー、初めてアルファって”大変だなー”って思っちゃった」
「今までは違ったのか?」
「うん。僕はベータだし、この性でよかったとも思ってるんだけどさー、時々アルファを羨ましく思うこともあるんだよねー。だって、ルックスがよくて、頭がよくて、何でも出来るなんて憧れるじゃん。男なら、誰でも1回ぐらいそんなハイスペックになって、女の子にキャーキャー言われたりしてみたいじゃん!」
「いや、別にアルファだからって、そんなキャーキャー言われないぞ?」
これは夏樹の実体験だ。夏樹に向かって来た言葉は、十中八九「ふーん、アルファなんだ。へー、そうなんだ」である。アルファだからと崇められたり、持ち上げられたりした経験はない。良くも悪くも、皆、普通に友達でしかなかった。
「なっちゃんがどうとかじゃなくてー、僕の勝手なイメージだよ!でも、さっきの話聞いたら考えが変わったの。だって、その話が事実なら『アルファは実力を示し続けないと許されない』ってことじゃん。アルファ達がキラキラして見えるのは、文字通り『生きるため』なんだよ。太陽が毎秒その内側で命を燃やしてるみたいにさー、アルファもその命を燃やしてるから輝いて見えるんだよ。そう思ったから、僕、『アルファ』に憧れるの止めたんだー。僕にはそんな生き方出来ないもん。だから、光ってる人は素直に応援しようって決めたんだ」
夏樹を揶揄う頻度が最も多い奏だが、最もよく人を見ているのも奏だ。そんな風に思っていたのか。
「矢崎選手と一緒にいる時のなっちゃんもキラキラしてるよ。空回ってばかりだけど!」
「へ?」
「水族館の件だよ!失敗ばっかりだったじゃん!」
「はい!?」
夏樹は、あの日の不祥事を誰にも話していないはずだ。なぜ、それを奏が知っているのか?
「だって、末っ子の初デートだよ?気になるじゃん!」
「あそこにいたのか!?」
「うん!僕の独断で行ったつもりだったんだけど、途中でりゅー君にも、おっちゃんにも会ったよ。はははー、考えることは皆、同じだったみたい」
「……全く気が付かなかった」
初デートを友人達に見られていたとは、思ってもいなかった。気付いていなかった自分の何と滑稽なことか。
「思ったんだけどさー、なっちゃんはそんなに悩まなくてもいいんじゃかと思うんだよねー」
「どういう意味だよー」
恥ずかしさから立ち直れていない夏樹に、奏が声をかける。
「だってさー、その水族館の件も考えて考えて、結果、午前中失敗しまくったんでしょ?」
「……っ」
「あっ、その反応、やっぱ図星なんじゃん!」
奏はケラケラと笑った。見透かされ過ぎて、夏樹にはもはや反抗する気力もない。
「何があったかは知らないけどさー、やっぱり、なっちゃんは考え過ぎない方がいいよ。心までノーパンになるくらいのつもりで、ぶつかりなよ」
「それじゃただの変態……」
「例えだよ、例え!それで成功したら御の字!逆に失敗したら、遠慮なく矢崎選手に助けて貰いなよー。きっと矢崎選手、夏樹が無様なとこ晒して、頼ってくれたら喜ぶと思うんだよねー。ほら、成功しても失敗しても大丈夫。二段構えの布陣って奴!」
「そんな上手く行くか……?」
「弱気になっちゃダメだよ、なっちゃん!」
奏はスプーンを、夏樹の顔面に突き付けた。
「大丈夫だよ!なっちゃんは十分、魅力的だよ!すごいアルファだよ!矢崎選手にお似合いだよ!だって、スマートなアルファはよく見るけどさ、あんな人目だらけの場所で土下座出来るアルファはいないよ!幾らメダリストとは言え、オメガに!」
「いや、あの時は必死だったから……」
後先考えない行動の結果、千歳の関心を引き出せたが、代わりに「本当にアルファか?」としばらく馬鹿にされたため、喜びと苦みが入り混じった記憶だ。
「その必死さがいいんだよー!『あっ、本気なんだなー』って言うのが嫌でも伝わって来るよ!」
「本気が……伝わる……?」
奏の言葉に、夏樹の脳裏に天啓が浮かんだ気がした。
「そうか!わかった!」
「え?」
突然立ち上がって叫んだ夏樹に、今度は奏が圧倒された!
「そうだ!そういうことだ!考え過ぎるのは、オレには合わないんだ!ありがとう、奏!オレ、やってみるよ!」
「え?ええ?」
「ここはオレが払っとくよ!相談乗ってくれてありがとな!」
コーラを飲み干した夏樹は、レシートを引っ掴み、疑問符を浮かべる奏を置いたままカフェを出て行った。
「どゆこと?……まっ、タダになったし、なっちゃんも元気になったみたいだし、いっか!」
奏は、少し解けかけたチョコミントアイスを口に運んだ。
父と話してから数日、夏樹は悩んでいた。どれもこれも、はっきり言って、難し過ぎる。どうにも良い案が浮かばなかった。
「なーっちゃん!」
「うわっ!」
夏樹は、背後から突然飛び付かれてたたらを踏んだ。振り返ると、そこには奏がいた。
「もー、何回呼んでも返事しないんだもん!僕ってそんなに印象薄い?」
「ごめん……何かあったか?」
「僕さー、次の講義、休講になったんだよねー?なっちゃんも今は空き時間でしょ?退屈だから付き合ってよー」
どうやら、暇潰しに付き合えと言うことらしい。だが、考え事をしたい夏樹としてはそれどころではない。
「いや、今は……」
「よっしゃ、決まりー!じゃあ、1階のカフェ、行こ!あそこ、今、限定メニュー出してるんだってさー」
「うわっ、ちょっと!?」
奏は返事を聞く前に、夏樹を強引に引き摺って歩き出した。初めから夏樹に拒否権はなかった様だ。
「うーん!やっぱり、ここのデザートは格別だよねー」
奏は、先週から発売していると言う”ブルーハワイパフェ”を頬張っている。ちなみに夏樹の前にはコーラが来ている。
「(どうすっかなー……)」
パフェに舌鼓を打っている奏は置いておいて…夏樹の最大の問題は”如何にして千歳に誠意を見せるか”だ。千歳が分厚い仮面の下に隠しているだろう本心に、どうしたら肉薄出来るのだろうか?
「なっちゃんさー、何難しい顔してんのー?らしくないよー」
そんな夏樹の只ならぬ雰囲気を感じたのだろう。奏がスプーンを止めて、話し掛けて来た。
「らしくないって何だよ……オレだって、悩んだりするさ」
特に千歳のことが絡んでいるのだから尚更だ。下手を打ちたくない。
「そっかー、なっちゃんも大人になったんだねー」
奏はしみじみと頷いた。その目はまるで”出来の悪い弟の成長を喜ぶ兄か姉”の様な代物だった。
「いや、同じ年だろ、オレ達」
「何言ってんのさー。”心理的には一番末っ子だー”って言うのが皆の共通認識だよ?」
「うぐっ」
自分の立ち位置は理解している夏樹だが、こうもはっきり言われると微妙に傷付く。アルファなのに”末っ子いじられキャラ”とは……まあ、他の面子を考えると仕方がない。竜二は妹が2人いるらしいし、乙也は中高時代に部活の副部長を務めて来たと言う運営様。夏樹と同じく1人っ子の奏に関しても、親戚は年下ばかりらしい。1人っ子であり、親戚一同の現最年少である夏樹が、そのポジションに納まるのは必然であった。
「しっかし、恋バナでガチに『運命の番』を語り出すとは思わなかったなー。今時、『運命の番』にあそこまで夢見てる人いないって!僕もアルファの友達何人かいるけどさ?皆『運命』なんて探してなかったよ?」
交友関係の広い奏の口から、思わぬ言葉が飛び出して来た。
「マジで?」
「うん、マジで。その人達曰くさー、オメガってすーっごくレアだから、中々会えないんだってさ。仮に会えても、ライバルが多いのなんの!」
夏樹は母の言葉を思い出した。単純計算するなら、3人のアルファが1人のオメガに言い寄るのだから、争いは熾烈だろう。
「だから、『運命』か否か、なんて気にしてたら恋人作るチャンス逃しちゃうらしいよ?特に大学生になったら、そう言う話よく聞く様になったなー」
「大学生と、それ以下じゃ違うのか?」
「うん、全然違うよ?だってさー、高校生までは恋愛対象って、やっぱ”顔がいい”とか、”勉強や運動が出来る”とか、”話が面白い”とかじゃん?その人と”仲良くなりたい”とか、”特別になりたい”って感じで彼氏彼女になるじゃん?」
奏の言うことは間違っていない。夏樹の高校生時代の恋人達は、概ねその様な感じで付き合っていたように思う。
「でもねー、それ以上の歳になると、皆、そこに”結婚相手にどうか?”って話も入って来るじゃん?」
「それはそうだけど……それが何の関係があるんだ?」
オメガと結婚出来ないのは残念だが、だったらアルファ同士やベータを相手に交際すればいい様に思う。
「わかってないなー?”結婚”って言ったらさー、やっぱり”子供”だよ、”子供”!”子供”どうするかって話になって来るんだってー」
「あっ」
そうだ。アルファは、オメガがいなければ子供を作るのが非常に困難な性なのだ。
「歳取ってる人なら兎も角さー、若い人が”完全に子供作らない”って決めて結婚することって少ないじゃん?それにアルファってさー、偏見かもだけど”偉そう”とか”怖そう”みたいなイメージあるじゃん?だから、ベータからすると”付き合うだけ”なら兎も角、”結婚する”旨味がないらしいんだー。いくら美形で高収入でも、プロフィールの段階で避けられちゃうことが多いんだって。仮にマッチング出来ても、求められるレベルが高いから相手に落胆されて、あっさり”お断り”なんてこともー」
「アルファって……世知辛いのな」
世間では”優良性”と言われているのに、実態はこの様だと言うのか。
「だから、アルファって結婚がすーっごく大変らしいよ?ちょっと年上のアルファの人に聞いた話なんだけどさー。結婚相談所とか、マッチングアプリって、大体アルファで溢れ返ってるんだって。ベータはベータ同士で落ち着いちゃうし、オメガは複数の言い寄って来たアルファの中から条件のいい1人を選ぶし」
「(やべぇ……)」
生々し過ぎる…父のなんと強運なことか。千歳に言い寄るアルファが減らないのも納得だ。やり方は間違っていたかもしれないが、皆、必死だったのだ。
「皆、言ってるよ?”会えるかどうかもわからない『運命の番』を探すくらいなら、取り合えず出会ったオメガに声を掛ける”って。”そんな時間をかけるなら、少しでも有利にするために自分磨きする”って。僕、これ聞いた時さー、初めてアルファって”大変だなー”って思っちゃった」
「今までは違ったのか?」
「うん。僕はベータだし、この性でよかったとも思ってるんだけどさー、時々アルファを羨ましく思うこともあるんだよねー。だって、ルックスがよくて、頭がよくて、何でも出来るなんて憧れるじゃん。男なら、誰でも1回ぐらいそんなハイスペックになって、女の子にキャーキャー言われたりしてみたいじゃん!」
「いや、別にアルファだからって、そんなキャーキャー言われないぞ?」
これは夏樹の実体験だ。夏樹に向かって来た言葉は、十中八九「ふーん、アルファなんだ。へー、そうなんだ」である。アルファだからと崇められたり、持ち上げられたりした経験はない。良くも悪くも、皆、普通に友達でしかなかった。
「なっちゃんがどうとかじゃなくてー、僕の勝手なイメージだよ!でも、さっきの話聞いたら考えが変わったの。だって、その話が事実なら『アルファは実力を示し続けないと許されない』ってことじゃん。アルファ達がキラキラして見えるのは、文字通り『生きるため』なんだよ。太陽が毎秒その内側で命を燃やしてるみたいにさー、アルファもその命を燃やしてるから輝いて見えるんだよ。そう思ったから、僕、『アルファ』に憧れるの止めたんだー。僕にはそんな生き方出来ないもん。だから、光ってる人は素直に応援しようって決めたんだ」
夏樹を揶揄う頻度が最も多い奏だが、最もよく人を見ているのも奏だ。そんな風に思っていたのか。
「矢崎選手と一緒にいる時のなっちゃんもキラキラしてるよ。空回ってばかりだけど!」
「へ?」
「水族館の件だよ!失敗ばっかりだったじゃん!」
「はい!?」
夏樹は、あの日の不祥事を誰にも話していないはずだ。なぜ、それを奏が知っているのか?
「だって、末っ子の初デートだよ?気になるじゃん!」
「あそこにいたのか!?」
「うん!僕の独断で行ったつもりだったんだけど、途中でりゅー君にも、おっちゃんにも会ったよ。はははー、考えることは皆、同じだったみたい」
「……全く気が付かなかった」
初デートを友人達に見られていたとは、思ってもいなかった。気付いていなかった自分の何と滑稽なことか。
「思ったんだけどさー、なっちゃんはそんなに悩まなくてもいいんじゃかと思うんだよねー」
「どういう意味だよー」
恥ずかしさから立ち直れていない夏樹に、奏が声をかける。
「だってさー、その水族館の件も考えて考えて、結果、午前中失敗しまくったんでしょ?」
「……っ」
「あっ、その反応、やっぱ図星なんじゃん!」
奏はケラケラと笑った。見透かされ過ぎて、夏樹にはもはや反抗する気力もない。
「何があったかは知らないけどさー、やっぱり、なっちゃんは考え過ぎない方がいいよ。心までノーパンになるくらいのつもりで、ぶつかりなよ」
「それじゃただの変態……」
「例えだよ、例え!それで成功したら御の字!逆に失敗したら、遠慮なく矢崎選手に助けて貰いなよー。きっと矢崎選手、夏樹が無様なとこ晒して、頼ってくれたら喜ぶと思うんだよねー。ほら、成功しても失敗しても大丈夫。二段構えの布陣って奴!」
「そんな上手く行くか……?」
「弱気になっちゃダメだよ、なっちゃん!」
奏はスプーンを、夏樹の顔面に突き付けた。
「大丈夫だよ!なっちゃんは十分、魅力的だよ!すごいアルファだよ!矢崎選手にお似合いだよ!だって、スマートなアルファはよく見るけどさ、あんな人目だらけの場所で土下座出来るアルファはいないよ!幾らメダリストとは言え、オメガに!」
「いや、あの時は必死だったから……」
後先考えない行動の結果、千歳の関心を引き出せたが、代わりに「本当にアルファか?」としばらく馬鹿にされたため、喜びと苦みが入り混じった記憶だ。
「その必死さがいいんだよー!『あっ、本気なんだなー』って言うのが嫌でも伝わって来るよ!」
「本気が……伝わる……?」
奏の言葉に、夏樹の脳裏に天啓が浮かんだ気がした。
「そうか!わかった!」
「え?」
突然立ち上がって叫んだ夏樹に、今度は奏が圧倒された!
「そうだ!そういうことだ!考え過ぎるのは、オレには合わないんだ!ありがとう、奏!オレ、やってみるよ!」
「え?ええ?」
「ここはオレが払っとくよ!相談乗ってくれてありがとな!」
コーラを飲み干した夏樹は、レシートを引っ掴み、疑問符を浮かべる奏を置いたままカフェを出て行った。
「どゆこと?……まっ、タダになったし、なっちゃんも元気になったみたいだし、いっか!」
奏は、少し解けかけたチョコミントアイスを口に運んだ。
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