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第四章
気楽に参加できるパーティーではありません!
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これは―――。
エステルは目の前に広がる光景に呆然とした。
バラカルド帝国の宮殿、ソルの間。宮殿内で最も広い大広間で、太陽の異名のごとく黄金で光り輝く大広間だ。天井からは数えきれないほどのシャンデリアがぶら下がり、かけられている絵画はどれも有名な画家の手によるものばかり。天井画には天使の絵が描かれ、ドームを支えるように伸びたいくつもの大柱もまた黄金だ。そして磨き上げられた白い大理石の床はシャンデリアの光を反射しきらきらと光っているように見える。
あてがわれた支度部屋で用意を終え、こちらでお待ちくださいと案内されたソルの間に、エステルはただただ驚くばかりだ。列席者も目が回るほどたくさんで、見たことのない異国の衣装をまとった方もいる。
「気楽に参加できるって……嘘つき…」
エステルが独り言を漏らしたくもなるほど、とても盛大で品格があり、各国の要人までもが集う壮大すぎるパーティーだ。これのどこが一体気楽に参加できるパーティーだというのだろう。
クレトからパーティーへの参加を頼まれ一週間後には出発という慌ただしいスケジュールだった。
クレトのパートナーとしてパーティーに参加するのに、クレトにあわせたドレスの用意が間に合わないと焦ったものの、それはすでに準備されていて驚いた。
てきぱきとサイズの微調整をするマリナに聞けば、「実はお嬢様がダナ様とのお仕事を始められた頃から準備しておりました」と言う。
「そんなに早くから?」
「はい。ブラスさんとのお仕事というのは、お嬢様の衣装の準備のことでして、お嬢様のサイズを知っている私がお手伝い申し上げたのです」
「……知らなかった」
「クレト様からお嬢様にはまだ言わないでほしいと頼まれておりましたので」
そんなに早くから用意していたのなら、衣装も準備万端なはずだ。
クレトの用意してくれたドレスも靴も、とても上質な生地で丁寧に縫製された素敵なものだった。バラカルド帝国の要人の誕生パーティーだ。これくらいのものを着ていかなければ失礼にあたるのだろう。
にわかに緊張しだすとクレトは
「そんなに気負わなくても大丈夫だよ。気楽なものだからね」とエステルに言っていたのに―――。
これのどこが気楽なパーティーなのだろうか。場所もこの大陸を支配するバラカルド帝国の中枢である宮殿。憧れの帝都について早々、ゆっくりと帝都巡りを楽しむ余裕もなくクレトに連れられここに来たのだが、かなり驚いた。でもそのときはまだかろうじてクレトの言った気楽なもの、という言葉を信じていたのだけれど…。
考えてみれば、レウス王国内の王太子妃選びにまで口出しできるようなバラカルド帝国の要人の誕生パーティーだ。しかも場所も宮殿内の大広間。気楽なわけがない。
クレトは宮殿につくなりエステルを支度部屋へと案内したあと、エステルは支度が終わったらソルの間に先に行っててくれと言い置き、挨拶回りがあるからとどこかへ行ってしまった。
そして宮殿内の女官に案内され、先にエステルひとりソルの間へとやってきたのだが。
足を一歩踏み入れた途端、あまりのきらびやかな様子に、早くも足は竦みがちだ。クレトの用意してくれたドレスに間違いはないとわかっているのに、どこか自分はこの場からは浮いているようで怖い。
場の雰囲気に圧倒され、早くも壁際へと身を潜めるように立っていると、声をかけられた。
「もし、お嬢さん。お一人でしょうか」
振り返ればクレトによく似た淡い茶色の髪をした紳士が手を差し出してきた。
「お一人ならば一曲いかがです?」
広間の中央では早くも楽隊が登場し、ダンスが始まっている。
礼を尽くして誘われたダンスに、本来ならば乗らなければ失礼にあたるのだろうけれど……。
クレトのパートナーとしてここに来て、見知らぬこの男性とダンスを踊ってもいいものなのかわからない。
エステルが困った顔をすると、後ろから誰かの腕が肩に回され引き寄せられた。
「カミロ兄上。エステルは私のパートナーですよ」
クレトだった。黒のタキシードを着こなしたクレトが、エステルをダンスに誘った紳士を兄上と呼ぶと、カミロ兄上を呼ばれた紳士は「やっぱりな」とにやりと笑う。その笑顔がクレトによく似ている。
「そうじゃないかと思ったんだ。お前から聞いていた通りの女性だな」
「わかっていて誘ったのですか? だめですよ。エステルは私と踊るのですから」
「はいはい」
カミロは肩を竦めた。
エステルは初めて会うクレトの身内に、ぱっと頭を下げた。
「あの、クレトのお兄様ですか? はじめましてエステルです。よろしくお願いいたします」
「おお、可愛い可愛い。お兄様っていい響きだなぁ。悪くない。クレトにはもったいない美人だ。こいつ、君を手に入れるためにいろいろやってきたんだぜ。知っているかい?」
「はい、お話はクレトから」
「聞いたんだ。それでもこいつでいいの? こんな陰険な奴で本当にいいのかい?」
「兄上!」
クレトがカミロの言を止めると、カミロはクレトの肩に腕を回し、その頭をぐりぐりと撫でまわした。クレトは完全にカミロのペースに嵌められている。こんな風に誰かに振り回されているクレトは初めて見た。
「やめてください、兄上……」
クレトの常にない情けない声音に、エステルは我慢できず、くすっと噴き出した。
「クレトったら、なんだかかわいい……」
「兄上のせいでエステルに笑われてしまったではないですか。勘弁してくださいよ」
カミロは、はははと豪快に笑い飛ばした。
「いつも澄ました顔ではいさせないぞ。格好ばかりつけていないで、たまには本性をみせろ。末っ子めが」
「クレトは末っ子なのですか?」
「ああそうだよ。ってそんなこともまだ話していないのか? クレト」
「これから紹介がてら話そうとしていたところです。ちなみに、カミロ兄上は一番上の兄で、もう一人兄がいるんだ」
「三人兄弟なのね……」
こんな調子で二人の兄に揉まれているクレトがなんとなく想像できる。
カミロにやっと解放されたクレトは、くしゃくしゃになった髪を手櫛で整えながら、「こんな兄だよ」とエステルにお手上げだと弱りきったように肩をすくめてみせた。
エステルは目の前に広がる光景に呆然とした。
バラカルド帝国の宮殿、ソルの間。宮殿内で最も広い大広間で、太陽の異名のごとく黄金で光り輝く大広間だ。天井からは数えきれないほどのシャンデリアがぶら下がり、かけられている絵画はどれも有名な画家の手によるものばかり。天井画には天使の絵が描かれ、ドームを支えるように伸びたいくつもの大柱もまた黄金だ。そして磨き上げられた白い大理石の床はシャンデリアの光を反射しきらきらと光っているように見える。
あてがわれた支度部屋で用意を終え、こちらでお待ちくださいと案内されたソルの間に、エステルはただただ驚くばかりだ。列席者も目が回るほどたくさんで、見たことのない異国の衣装をまとった方もいる。
「気楽に参加できるって……嘘つき…」
エステルが独り言を漏らしたくもなるほど、とても盛大で品格があり、各国の要人までもが集う壮大すぎるパーティーだ。これのどこが一体気楽に参加できるパーティーだというのだろう。
クレトからパーティーへの参加を頼まれ一週間後には出発という慌ただしいスケジュールだった。
クレトのパートナーとしてパーティーに参加するのに、クレトにあわせたドレスの用意が間に合わないと焦ったものの、それはすでに準備されていて驚いた。
てきぱきとサイズの微調整をするマリナに聞けば、「実はお嬢様がダナ様とのお仕事を始められた頃から準備しておりました」と言う。
「そんなに早くから?」
「はい。ブラスさんとのお仕事というのは、お嬢様の衣装の準備のことでして、お嬢様のサイズを知っている私がお手伝い申し上げたのです」
「……知らなかった」
「クレト様からお嬢様にはまだ言わないでほしいと頼まれておりましたので」
そんなに早くから用意していたのなら、衣装も準備万端なはずだ。
クレトの用意してくれたドレスも靴も、とても上質な生地で丁寧に縫製された素敵なものだった。バラカルド帝国の要人の誕生パーティーだ。これくらいのものを着ていかなければ失礼にあたるのだろう。
にわかに緊張しだすとクレトは
「そんなに気負わなくても大丈夫だよ。気楽なものだからね」とエステルに言っていたのに―――。
これのどこが気楽なパーティーなのだろうか。場所もこの大陸を支配するバラカルド帝国の中枢である宮殿。憧れの帝都について早々、ゆっくりと帝都巡りを楽しむ余裕もなくクレトに連れられここに来たのだが、かなり驚いた。でもそのときはまだかろうじてクレトの言った気楽なもの、という言葉を信じていたのだけれど…。
考えてみれば、レウス王国内の王太子妃選びにまで口出しできるようなバラカルド帝国の要人の誕生パーティーだ。しかも場所も宮殿内の大広間。気楽なわけがない。
クレトは宮殿につくなりエステルを支度部屋へと案内したあと、エステルは支度が終わったらソルの間に先に行っててくれと言い置き、挨拶回りがあるからとどこかへ行ってしまった。
そして宮殿内の女官に案内され、先にエステルひとりソルの間へとやってきたのだが。
足を一歩踏み入れた途端、あまりのきらびやかな様子に、早くも足は竦みがちだ。クレトの用意してくれたドレスに間違いはないとわかっているのに、どこか自分はこの場からは浮いているようで怖い。
場の雰囲気に圧倒され、早くも壁際へと身を潜めるように立っていると、声をかけられた。
「もし、お嬢さん。お一人でしょうか」
振り返ればクレトによく似た淡い茶色の髪をした紳士が手を差し出してきた。
「お一人ならば一曲いかがです?」
広間の中央では早くも楽隊が登場し、ダンスが始まっている。
礼を尽くして誘われたダンスに、本来ならば乗らなければ失礼にあたるのだろうけれど……。
クレトのパートナーとしてここに来て、見知らぬこの男性とダンスを踊ってもいいものなのかわからない。
エステルが困った顔をすると、後ろから誰かの腕が肩に回され引き寄せられた。
「カミロ兄上。エステルは私のパートナーですよ」
クレトだった。黒のタキシードを着こなしたクレトが、エステルをダンスに誘った紳士を兄上と呼ぶと、カミロ兄上を呼ばれた紳士は「やっぱりな」とにやりと笑う。その笑顔がクレトによく似ている。
「そうじゃないかと思ったんだ。お前から聞いていた通りの女性だな」
「わかっていて誘ったのですか? だめですよ。エステルは私と踊るのですから」
「はいはい」
カミロは肩を竦めた。
エステルは初めて会うクレトの身内に、ぱっと頭を下げた。
「あの、クレトのお兄様ですか? はじめましてエステルです。よろしくお願いいたします」
「おお、可愛い可愛い。お兄様っていい響きだなぁ。悪くない。クレトにはもったいない美人だ。こいつ、君を手に入れるためにいろいろやってきたんだぜ。知っているかい?」
「はい、お話はクレトから」
「聞いたんだ。それでもこいつでいいの? こんな陰険な奴で本当にいいのかい?」
「兄上!」
クレトがカミロの言を止めると、カミロはクレトの肩に腕を回し、その頭をぐりぐりと撫でまわした。クレトは完全にカミロのペースに嵌められている。こんな風に誰かに振り回されているクレトは初めて見た。
「やめてください、兄上……」
クレトの常にない情けない声音に、エステルは我慢できず、くすっと噴き出した。
「クレトったら、なんだかかわいい……」
「兄上のせいでエステルに笑われてしまったではないですか。勘弁してくださいよ」
カミロは、はははと豪快に笑い飛ばした。
「いつも澄ました顔ではいさせないぞ。格好ばかりつけていないで、たまには本性をみせろ。末っ子めが」
「クレトは末っ子なのですか?」
「ああそうだよ。ってそんなこともまだ話していないのか? クレト」
「これから紹介がてら話そうとしていたところです。ちなみに、カミロ兄上は一番上の兄で、もう一人兄がいるんだ」
「三人兄弟なのね……」
こんな調子で二人の兄に揉まれているクレトがなんとなく想像できる。
カミロにやっと解放されたクレトは、くしゃくしゃになった髪を手櫛で整えながら、「こんな兄だよ」とエステルにお手上げだと弱りきったように肩をすくめてみせた。
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