出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ

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番外編1

エステルのお悩み

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「どうされました? お嬢様。さきほどからため息ばかりつかれて」

 自室のベッドに腰掛けため息をついていると、いつものようにリネン類を届けに来たマリナに怪訝そうに聞かれた。
 帝都でバラカルド帝国皇帝の誕生日会に出席し、港町のクレトの邸に戻ってすぐのことだ。
 皇帝の誕生日会を途中で抜け出し、そのまま帝都見物に五日を費やし(それでも全ては見切れなかった)、その後帝都から近い港町へ出て船に乗り南の島へ渡り、そこに二週間ほど滞在してから帰宅したあとのことだ。
 予定からは大幅に遅れて帰宅したクレトを、執事のブラスは渋面をもって迎え入れ、いつもの日常が動き出していた。

「クレト様のことは全てわかり、もうお互いに隠し事もないのですよね。帝都見物も南の島もすごく楽しかったとおっしゃっていたではないですか。お幸せの絶頂にいらっしゃるはずなのに、どうしてそう何度もため息をつかれるのです?」

 マリナの疑問ももっともだ。
 確かに今のエステルは幸せだ。幸せすぎて夢なのではないかと思うくらいだ。
 帝都見物も楽しかったし、南の島では今まで見たこともないようなカラフルな鳥や不思議な生き物、食べたことのない果物と新しいこと尽くしで、クレトと一緒になって驚いたり、楽しんだりしているうちにあっという間に時が過ぎた。

 その旅自体はとても満足したし、クレトと恋人になってはじめての旅とあって心も弾んだ。何も不満はない。むしろ満足しかない。そう言いたいのだけれど……。

「あのね、マリナ……」

「―――ちょっとお待ちくださいませ、お嬢様」

 エステルが切り出そうとすると、マリナは両手を前に突き出し、バツ印を作った。

「お聞きしておいて何なのですが、やはりご相談なされるのなら私ではなくダナ様にしてくださいませ。男女のことについては私めは全くお嬢様のお役には立てませんので」

 マリナはそう言うとそそくさと部屋を出て行った。
 旅の間も何度も悩んだことをやっと誰かに相談できると思ったのも束の間、一人取り残されたエステルはこてんとベッドに沈みこんだ。










「相談? クレトとのことで?」

 翌朝、ダナと二人で手掛けたワインの商船が港に着いた。
 セブリアンに案内され船の中で検品を行い、問題はなかったので今は終わったものから順に人足の手によって次々に運び出されていっている。そのワインの木箱を見ながら、ダナに相談があるので後で時間を取ってほしいと頼むと、ダナは「いいよ」と請け合った。

「お時間取らせて大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。―――ちょっと! その木箱からは次の馬車に載せてちょうだい!」

 エステルに答えながらもダナの視線は運び出されていく木箱へと向けられている。
 手元の書類を見ながら、的確に指示を出していく。

「へぇ、相談事? 何なら私が代わりに聞いてあげようか?」

 側にいたセブリアンがひょいっと割って入り、興味津々といった態で目を輝かせる。
 けれどエステルは慌てて手を振った。

「あの、セブリアン様にご相談するようなことではないので、その……」

 せっかくの好意だけれど、セブリアンには相談しにくい内容だ。
 あたふたと断ると、セブリアンはますます興味をひかれたようだ。

「クレトのことだろう? 気になるなぁ。あいつのことならダナよりも私の方がよく知っていると思うよ。なんだろうなぁ。二人が恋人になって、そろそろひと月くらいだろう? 少し冷静になってお互いの欠点も見え始める頃だ。あいつの欠点なぞ数え上げればきりがないからな」

 セブリアンは何を想像するのか、一人頷いている。おそらく全くの見当違いだろう。エステルの悩みはクレトに関することではあるが、クレトの欠点が気になるとかそんな類のものではない。むしろ相変わらずクレトは、エステルから見れば完璧で、たまには弱音も聞いてみたいと思うくらいなのだから。

「いいんです、本当に。セブリアン様は忘れてください」

「隠されると余計に気になるよ。あててみせるから正解だったらちゃんと教えてくれよ」

 えっとそうだな、とセブリアンは指折りながら挙げていく。

「寝相が悪い」

「違います」

「最近冷たくなった」

「違います」

「欲しい物を買ってくれなかった」

「違います」

「二人の時間がなかなかとれない」

「……違います。あの、」

「えっとあとはそうだなぁ」

 まだ続けそうなセブリアンをエステルは止めた。

「どれも違います。たぶん、当てられないと思います」

「そうかなぁ。そのうち当たるんじゃないか? 悔しいなぁ。なんだろうなぁ」

 セブリアンはまだ考えていたが、ちょうど通りかかった人足の一人が、この荷はどこに運べばいいのかと聞くので

「―――そちらの木箱は一番右端の荷車にお願いいいたします」

と答えて、セブリアンには「ちょっと失礼します」と言い置き、これ幸いとその場を離れた。
 
 本当にセブリアンには相談しにくい内容だったし、これ以上詮索されて万が一当てられても、とっても困る。

 セブリアンは名残惜しそうにこちらを見たが、エステルは仕分けられていく荷を確認しながら、ワインのチェックに集中した。


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