悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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アスタリア王国編

158 和風プリンを味わいましょう

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 エリーナがナディヤをどう応援するかを考えている間にも、和風プリン計画は進んでいた。マルクは転生者であり、日本のプリンに関する知識を持ちそれを再現する腕もある。となれば、エリーナがクリスに材料の手配を頼み、和風プリンを作ってもらえるように頼むのは当然のことだった。
 マルクの知識と記憶をもとに、似た材料を王宮とドルトン商会の伝手を使って集めていく。みるみるうちに届く食材に、マルクは目を丸くすると同時に興奮を抑えられなかった。料理人の間では、プリン姫のプリン研究と呼ばれて応援され、何度かリズも参加して試行錯誤を繰り返したらしい。そしてこの日、ついにお披露目の日がやってきたのである。

 小さめのサロンにエリーナとクリスが丸テーブルを挟んで座っていた。クリスの休憩とデートを兼ねたプリン会なのだ。クリスは和風プリンの味がアスタリアでも受け入れられそうだったら、カフェ・アークでのメニューに加えるつもりらしい。ちなみにカフェ・アークは先日開店し、さっそく若い女の子たちで賑わっているようだ。ミシェルから成功の報告と忙しすぎて会いに行けない不満が手紙に書かれていた。

 リズは給仕係として側に控えており、お茶の用意がされたカートの上にはいつもより多く茶器が用意されている。それをエリーナが不思議に思っていると、サロンの扉が開きマルクが入って来た。

「クリス殿下、エリーナ王女殿下。この度は祖国の料理を披露する機会を頂きありがとうございます」

 腰を折って深々と挨拶をしたマルクは、少し所作がきれいになっていた。リズが満足そうに微笑んでいることから、特訓をしたのだろう。マルクは慎重に箱が載ったトレーを運び、サイドテーブルに置く。プリンはほどよい冷たさを感じられるように氷が詰まった金属の箱の中に入れられていた。
 エリーナはその箱の中から何が出てくるのかワクワクして、じっと熱い視線をそちらに送っている。

「ではさっそく」

 とマルクが二人の前に置いたのは、薄茶色のプリンだった。プリンの表面が少しざらついているようであり、ソースがいつもより黒い。

「きな粉プリン黒蜜がけでございます」

 聞いたことのない材料で、エリーナは異国を感じた。新しいプリンにエリーナはワクワクしながら、スプーンを差し入れる。

「きな粉プリン……」

 ほどよい弾力が返ってきて、すくい上げればソースが流れる。そして口の中に入れれば、黒蜜の幅が広く深みのある独特の甘さの後に、少し香ばしい豆の風味が広がる。食感はプルプルでもっちりしており、エリーナは目を丸くした。

「これが、和風」

 ココナッツプリンの時も思ったが、国ごとに甘さが異なる。この甘さは自然に包み込まれるような甘さで、優しい気持ちになれる。

「きな粉は君の国のもの?」

 クリスもお気に召したようで、機嫌よく食べている。

「はい。きな粉は豆の粉でして、牛乳に溶かすとまろやかさとコクが生まれます。エリーナ様はプルプルとした食感がお好みと伺ったので、くず粉を入れて少しもっちりとさせました。和菓子にもっちりは欠かせませんので」

 エリーナの好みに合わせながらも、和の譲れないところは入れている。その匙加減が絶妙であり、エリーナは癖になる黒蜜を味わって微笑んだ。

「おいしいわ。カスタードプリンとは違うから、紅茶には合わなさそうだけど」

 とそこで、リズが「ふふふ」と笑ってお茶を淹れる準備を始める。

「そうおっしゃると思って、和風プリンに合うお茶をご用意しました」

 近隣の三国では紅茶が主流だが、他にもお茶の種類があることは知られていた。いつもとは異なる淹れ方で注がれたお茶は、黄金色で豊潤な香りがたっている。

「これは……?」

 少し濁りがあり、緑がかってもいた。

「玉露という東から伝わったお茶です。カイルさんが取り寄せるのに苦労したそうです」

 無理難題に胃を痛めて頑張ったであろうカイルを労おうと心に決める。
 そして香りを楽しみ一口飲むと、すっきりとした苦みの中に甘みもあって、奥深い味に驚く。

「すごい。お茶ってこんなに違うのね。確かに、これは甘みが少ないお菓子のほうが合うわね」

「はい。そしてお茶を粉にした抹茶を使ったプリンがこちらです」

 続いて出てきたプリンにエリーナは目を疑った。お茶を粉にするというのも想像がつかなかったが、このプリンは衝撃が大きい。

「プリンが……緑」

 まるで青野菜のような緑で、野菜プリンと言われたほうが理解できる。エリーナは恐る恐るすくい上げ、口に運んだ。なんだか危険なものでも食べるようだ。
 そろっと舌の上で転がせば、ぶわっと抹茶の香りが広がりほどよい苦みと甘みがまじりあう。後味がよく、思ったよりも食べやすい。そしてこれはプリンの材料に抹茶を混ぜているようで、本来のプリンの風味と食感も味わえる。

「意外とおいしいわ。これはいいプリンね」

「これ気に入ったよ。甘過ぎないのがいい」

 甘いものが苦手なクリスにはちょうどよかったらしい。二人が半分くらい食べ進めたところで、リズが小さな深皿を三つテーブルに置いた。

「和風プリンは味の変化も楽しめるのです。抹茶、きな粉、黒蜜。これらを組み合わせるとさらに楽しめますよ。甘さが苦手なクリス様には抹茶を、エリーナ様にはきな粉と黒蜜をおすすめします」

 元日本人である二人にとって、抹茶、きな粉、黒蜜は最強の組み合わせである。さらに白玉と小豆があればよかったが、そこまですると和風パフェになるので今回は見送った。他にも黒ゴマプリンや小豆プリン、黒豆プリンも作ってみたのだが、日本のものに近づかず断念していた。

「じゃぁ、おすすめを試してみるわ」

 エリーナは黒蜜ときな粉をかけ、クリスは抹茶を振りかける。そして新しいものに出会うのが待ちきれないと言わんばかりに、パクリと口に入れた。抹茶の苦みを黒蜜の甘みが包み込み、きな粉がアクセントをつける。味が二重、三重に深まりをみせていた。

「わぁ……合わせるとこんなにおいしくなるのね」

「うん。苦みが効いていていいね。でもえぐみはなくて、あっさりとおいしい」

 和風プリンは二人に好評のようで、転生者二人は目を合わせて微笑み合った。何度も試作を繰り返した成果だ。
 そしてカフェ・アークでは抹茶プリンを出すことになり、マルクはリズとエリーナの協力をもらいながらレシピの完成を目指すことになったのである。

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