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アスタリア王国編
157 気弱な令嬢を押しましょう
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エリーナはナディヤに手紙でお茶会に誘い、夜会から二日後に不安げな表情のナディヤが王宮に来たのだった。図書館に寄って来たようで、ロマンス小説と芸術系の本を数冊借りていた。サロンに入って来るなり小刻みに震えていて、天敵を前にした小動物のようだ。今日の装いは薄い水色のワンピースドレスで、侯爵令嬢とは思えないぐらい装飾が少ない。薄桃色の髪はふわりと広がっており、長い前髪から緊張した瞳が覗いていた。
リズがナディヤを席に案内し、リラックス効果のあるハーブティーを出す。リズ以外の侍女に下がってもらい、リズはエリーナの後ろに控えた。
「お、王女殿下。本日は、お招きいただき、まことありがとうございます」
たどたどしく、自信の無い声に、本当にヒロインかしらとエリーナは心配になる。こんな状態で、どうやって攻略キャラたちと話すのだろう。
「堅苦しい挨拶はけっこうよ。それより、おいしいお菓子を食べて紅茶を飲みましょう?」
「は、はい」
ナディヤはハーブティーを飲んで一息つくと、プリンクッキーを不思議そうに見つめて手を伸ばした。ぱくりとクッキーを口に入れたナディヤは目を見開いて、頬を緩める。その可愛らしく、周りを和ませる笑顔はヒロインだ。
「おいしいです」
「それはよかった。ちゃんとお腹は空かせてきた?」
「あ、はい……でも、どうして?」
晩餐会ならともかく、お茶会に腹ペコでいくことはほとんどない。エリーナはうふふといたずらっぽく笑い、リズに合図をしてカートをもって来させた。
「まぁ!」
そこに並ぶプリンの数々を見て、ナディヤは目を輝かせる。女の子たるもの、スイーツに目がないのだ。
カフェ・アークが開店間近であり、今は材料の違いを加味した商品の最終調整に入っているらしい。そこで、エリーナの下には試食としてカフェ・アークの全商品が届いていたのだ。カートにはプリン、プリン・ア・ラ・モード、かぼちゃプリン、クリームチーズプリンが並んでいる。クレームブリュレは後で炙りたてを持ってくるそうだ。
アスタリアで手に入る材料と需要を考え、新たにかぼちゃプリンとクリームチーズプリンがメニューに加わった。そしてココナッツプリンやマンゴープリンは南の国の果物がおいしい季節に限定するらしい。
「さぁ、心行くまで味わってちょうだい。あと、正直な感想をお願いね。アスタリア向けの商品開発も兼ねているから」
ラルフレアとアスタリアでは好みの味が異なる可能性があるので、その微調整のためにナディヤにも食べてほしいのだ。エリーナがさっそく王道のプリンを手に取ってスプーンを差し入れると、プルっとした感触が返って来て笑みが零れる。口に運べば期待した通りのバニラの香りと卵とミルクが混ざり合った優しいコクが甘みを引き立てていた。カラメルソースのほろ苦さもちょうどよく、ラルフレアのものと変わらなかった。
ナディヤも一口食べてみるなり、目を丸くしてエリーナに顔を向ける。
「す、すごく、おいしいです」
まるで初めて食べたと言うようにパクパクとプリンを口に入れていく。その様子は小動物を餌付けしているようで、なんだか癒される。どのプリンにも新鮮な反応を見せ、絶賛していた。炙りたてのクレームブリュレはその甘い香りと滑らかさに、表情を蕩けさせた。
「こんなにおいしいスイーツを食べたのは、初めてです」
全てのプリンを食べ終えたナディヤは、本当に幸せそうな表情で呟く。そこから彼女の置かれている境遇が透けて見えて、エリーナとリズはもっとお食べとプリンとお茶を追加するのだった。
そしてプリン試食会が一通り終わり、ナディヤの緊張も解けてきたところでエリーナは本題に入る。
「ねぇ、ナディヤ。貴女、婚約者はいなかったわよね」
「え、あ、はい」
プリンを食べながら、ナディヤはコクリと頷いた。緊張の震えが無くなっている。このままさりげなく訊こうと、エリーナは人当たりのよい笑みを浮かべた。
「なら、意中の方はいらっしゃって?」
「ひぇっ!?」
「エリーナ様、直球すぎます」
すかさず背後からツッコミが入った。ナディヤは顔を真っ赤にして俯いていた。両手は膝の上でドレスをきゅっと握っていて、体に力が入っている。緊張に逆戻りだ。エリーナは慌てて言葉を付けたす。
「あ、深い意味はないのよ? ただ、せっかく仲良くなれたから、もしいるなら応援したいなぁと思って」
「そ、そんな。恐れ多いですし、そんなお方おりません。わ、わたくしは、一人で生きていくか、
家の利になるところへ嫁ぎます」
「え、でも、この国は自由恋愛でしょう?」
引っ込み思案で消極的なナディヤには、ラルフレアのほうが結婚しやすそうだが……。
「で、でも。わたくしには男の方に声をかけてもらう魅力もありませんし、声をかけるなんて……」
ナディヤはずっと俯いている。拳は硬く握られていて、ナディヤの硬い心を表しているようだった。これは厄介だとエリーナは内心溜息をつく。自信過剰で積極的な令嬢も困るが、ここまで控えめでもやりにくい。
(認めさせるのは難しそうね……)
無理矢理踏み込めば、次に会ってもらえなくなるかもしれないと思い、エリーナは妥協案に移ることにした。事前にいくつかの案をリズと話していたのだ。
「ナディヤさん、とても可愛らしいと思うのに」
「そ、そんな! わたくしなんて、全くダメで、みすぼらしいんです」
どこまでも卑屈で、背中を叩いて気合を入れてあげたくなった。エリーナが心外そうに眉根を下げれば、ナディヤの肩が跳ねる。
「あら、ということは、王女であるわたくしの目は節穴ということかしら」
わざと責めるような口調で悪役令嬢を滲ませれば、ナディヤの顔色が無くなる。すぐにやり過ぎたと気づいたエリーナは、笑顔に切り替えおほほと手を口に当てて笑った。
「冗談よ。でも、ナディヤさんが可愛いのは本当だわ。嘘だと思うなら、わたくしとデートしましょ?」
「ひぇ? で、デートですか?」
「そう。ちょうどシルヴィオお義兄様が画廊の絵を増やすらしいから、行ってみない?」
「え、あの、王宮の画廊ですか!?」
シルヴィオの絵の話となると、顔色が変わった。目が輝き、すぐにハッとして表情を戻そうとするが期待に顔色が明るくなっている。
「そう。どう?」
行きますと、口が動きかけたが、みるみるうちにしょんぼり顔になって、弱弱しい声が返って来た。
「行きたいですけど、相応しいドレスがありません……」
王宮の画廊となれば、ワンピースドレスでもそれなりの格が必要だ。今着ているようなものでは、少々劣る。
「なら、わたくしがあげるわ。着ないものがたくさんあって、処分に困っているのよ」
「え、そんな、恐れ多い!」
「いいの。むしろこっちに来てからさらに増えたし、これからも増えるから助けると思って!」
エリーナはここでさらに押す。さもドレスをもらうのがよいことのように、ナディヤを説得しにかかった。実際アスタリアに来てから、クリスの贈り物だけでなく、諸侯の贈り物でドレスが倍増したのだ。
ナディヤは目を白黒させ、戸惑いながらも「それならいいのかしら」と呟いて頷いた。押しに弱く流されるところが、なんとも不憫系ヒロインである。
「よかったわ。じゃぁ、よろしくね」
その後、シルヴィオの絵を見るならと、ナディヤはちょうどシルヴィオの画集を借りていたので一緒に目を通すことにした。ナディヤはその本を何度も借りているようで、スラスラと説明をしていく。そして何気なく他の本に目を移すと、シルヴィオをモデルにしたロマンス小説も借りていた。
「ねぇ、あの小説、わたくしも読んだわ。おもしろいわよね」
そう話を振ると、ナディヤはパッと破顔して頷く。
「はい。とても好きなので、何度も借りているんです」
「ふ~ん。いいわね」
やはり思い人はシルヴィオで確定だろう。エリーナは絵の説明を続けるナディヤに相槌を打ちつつ、どうナディヤを応援するかに考えを巡らせるのだった。
リズがナディヤを席に案内し、リラックス効果のあるハーブティーを出す。リズ以外の侍女に下がってもらい、リズはエリーナの後ろに控えた。
「お、王女殿下。本日は、お招きいただき、まことありがとうございます」
たどたどしく、自信の無い声に、本当にヒロインかしらとエリーナは心配になる。こんな状態で、どうやって攻略キャラたちと話すのだろう。
「堅苦しい挨拶はけっこうよ。それより、おいしいお菓子を食べて紅茶を飲みましょう?」
「は、はい」
ナディヤはハーブティーを飲んで一息つくと、プリンクッキーを不思議そうに見つめて手を伸ばした。ぱくりとクッキーを口に入れたナディヤは目を見開いて、頬を緩める。その可愛らしく、周りを和ませる笑顔はヒロインだ。
「おいしいです」
「それはよかった。ちゃんとお腹は空かせてきた?」
「あ、はい……でも、どうして?」
晩餐会ならともかく、お茶会に腹ペコでいくことはほとんどない。エリーナはうふふといたずらっぽく笑い、リズに合図をしてカートをもって来させた。
「まぁ!」
そこに並ぶプリンの数々を見て、ナディヤは目を輝かせる。女の子たるもの、スイーツに目がないのだ。
カフェ・アークが開店間近であり、今は材料の違いを加味した商品の最終調整に入っているらしい。そこで、エリーナの下には試食としてカフェ・アークの全商品が届いていたのだ。カートにはプリン、プリン・ア・ラ・モード、かぼちゃプリン、クリームチーズプリンが並んでいる。クレームブリュレは後で炙りたてを持ってくるそうだ。
アスタリアで手に入る材料と需要を考え、新たにかぼちゃプリンとクリームチーズプリンがメニューに加わった。そしてココナッツプリンやマンゴープリンは南の国の果物がおいしい季節に限定するらしい。
「さぁ、心行くまで味わってちょうだい。あと、正直な感想をお願いね。アスタリア向けの商品開発も兼ねているから」
ラルフレアとアスタリアでは好みの味が異なる可能性があるので、その微調整のためにナディヤにも食べてほしいのだ。エリーナがさっそく王道のプリンを手に取ってスプーンを差し入れると、プルっとした感触が返って来て笑みが零れる。口に運べば期待した通りのバニラの香りと卵とミルクが混ざり合った優しいコクが甘みを引き立てていた。カラメルソースのほろ苦さもちょうどよく、ラルフレアのものと変わらなかった。
ナディヤも一口食べてみるなり、目を丸くしてエリーナに顔を向ける。
「す、すごく、おいしいです」
まるで初めて食べたと言うようにパクパクとプリンを口に入れていく。その様子は小動物を餌付けしているようで、なんだか癒される。どのプリンにも新鮮な反応を見せ、絶賛していた。炙りたてのクレームブリュレはその甘い香りと滑らかさに、表情を蕩けさせた。
「こんなにおいしいスイーツを食べたのは、初めてです」
全てのプリンを食べ終えたナディヤは、本当に幸せそうな表情で呟く。そこから彼女の置かれている境遇が透けて見えて、エリーナとリズはもっとお食べとプリンとお茶を追加するのだった。
そしてプリン試食会が一通り終わり、ナディヤの緊張も解けてきたところでエリーナは本題に入る。
「ねぇ、ナディヤ。貴女、婚約者はいなかったわよね」
「え、あ、はい」
プリンを食べながら、ナディヤはコクリと頷いた。緊張の震えが無くなっている。このままさりげなく訊こうと、エリーナは人当たりのよい笑みを浮かべた。
「なら、意中の方はいらっしゃって?」
「ひぇっ!?」
「エリーナ様、直球すぎます」
すかさず背後からツッコミが入った。ナディヤは顔を真っ赤にして俯いていた。両手は膝の上でドレスをきゅっと握っていて、体に力が入っている。緊張に逆戻りだ。エリーナは慌てて言葉を付けたす。
「あ、深い意味はないのよ? ただ、せっかく仲良くなれたから、もしいるなら応援したいなぁと思って」
「そ、そんな。恐れ多いですし、そんなお方おりません。わ、わたくしは、一人で生きていくか、
家の利になるところへ嫁ぎます」
「え、でも、この国は自由恋愛でしょう?」
引っ込み思案で消極的なナディヤには、ラルフレアのほうが結婚しやすそうだが……。
「で、でも。わたくしには男の方に声をかけてもらう魅力もありませんし、声をかけるなんて……」
ナディヤはずっと俯いている。拳は硬く握られていて、ナディヤの硬い心を表しているようだった。これは厄介だとエリーナは内心溜息をつく。自信過剰で積極的な令嬢も困るが、ここまで控えめでもやりにくい。
(認めさせるのは難しそうね……)
無理矢理踏み込めば、次に会ってもらえなくなるかもしれないと思い、エリーナは妥協案に移ることにした。事前にいくつかの案をリズと話していたのだ。
「ナディヤさん、とても可愛らしいと思うのに」
「そ、そんな! わたくしなんて、全くダメで、みすぼらしいんです」
どこまでも卑屈で、背中を叩いて気合を入れてあげたくなった。エリーナが心外そうに眉根を下げれば、ナディヤの肩が跳ねる。
「あら、ということは、王女であるわたくしの目は節穴ということかしら」
わざと責めるような口調で悪役令嬢を滲ませれば、ナディヤの顔色が無くなる。すぐにやり過ぎたと気づいたエリーナは、笑顔に切り替えおほほと手を口に当てて笑った。
「冗談よ。でも、ナディヤさんが可愛いのは本当だわ。嘘だと思うなら、わたくしとデートしましょ?」
「ひぇ? で、デートですか?」
「そう。ちょうどシルヴィオお義兄様が画廊の絵を増やすらしいから、行ってみない?」
「え、あの、王宮の画廊ですか!?」
シルヴィオの絵の話となると、顔色が変わった。目が輝き、すぐにハッとして表情を戻そうとするが期待に顔色が明るくなっている。
「そう。どう?」
行きますと、口が動きかけたが、みるみるうちにしょんぼり顔になって、弱弱しい声が返って来た。
「行きたいですけど、相応しいドレスがありません……」
王宮の画廊となれば、ワンピースドレスでもそれなりの格が必要だ。今着ているようなものでは、少々劣る。
「なら、わたくしがあげるわ。着ないものがたくさんあって、処分に困っているのよ」
「え、そんな、恐れ多い!」
「いいの。むしろこっちに来てからさらに増えたし、これからも増えるから助けると思って!」
エリーナはここでさらに押す。さもドレスをもらうのがよいことのように、ナディヤを説得しにかかった。実際アスタリアに来てから、クリスの贈り物だけでなく、諸侯の贈り物でドレスが倍増したのだ。
ナディヤは目を白黒させ、戸惑いながらも「それならいいのかしら」と呟いて頷いた。押しに弱く流されるところが、なんとも不憫系ヒロインである。
「よかったわ。じゃぁ、よろしくね」
その後、シルヴィオの絵を見るならと、ナディヤはちょうどシルヴィオの画集を借りていたので一緒に目を通すことにした。ナディヤはその本を何度も借りているようで、スラスラと説明をしていく。そして何気なく他の本に目を移すと、シルヴィオをモデルにしたロマンス小説も借りていた。
「ねぇ、あの小説、わたくしも読んだわ。おもしろいわよね」
そう話を振ると、ナディヤはパッと破顔して頷く。
「はい。とても好きなので、何度も借りているんです」
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