悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
166 / 194
アスタリア王国編

158 和風プリンを味わいましょう

しおりを挟む
 エリーナがナディヤをどう応援するかを考えている間にも、和風プリン計画は進んでいた。マルクは転生者であり、日本のプリンに関する知識を持ちそれを再現する腕もある。となれば、エリーナがクリスに材料の手配を頼み、和風プリンを作ってもらえるように頼むのは当然のことだった。
 マルクの知識と記憶をもとに、似た材料を王宮とドルトン商会の伝手を使って集めていく。みるみるうちに届く食材に、マルクは目を丸くすると同時に興奮を抑えられなかった。料理人の間では、プリン姫のプリン研究と呼ばれて応援され、何度かリズも参加して試行錯誤を繰り返したらしい。そしてこの日、ついにお披露目の日がやってきたのである。

 小さめのサロンにエリーナとクリスが丸テーブルを挟んで座っていた。クリスの休憩とデートを兼ねたプリン会なのだ。クリスは和風プリンの味がアスタリアでも受け入れられそうだったら、カフェ・アークでのメニューに加えるつもりらしい。ちなみにカフェ・アークは先日開店し、さっそく若い女の子たちで賑わっているようだ。ミシェルから成功の報告と忙しすぎて会いに行けない不満が手紙に書かれていた。

 リズは給仕係として側に控えており、お茶の用意がされたカートの上にはいつもより多く茶器が用意されている。それをエリーナが不思議に思っていると、サロンの扉が開きマルクが入って来た。

「クリス殿下、エリーナ王女殿下。この度は祖国の料理を披露する機会を頂きありがとうございます」

 腰を折って深々と挨拶をしたマルクは、少し所作がきれいになっていた。リズが満足そうに微笑んでいることから、特訓をしたのだろう。マルクは慎重に箱が載ったトレーを運び、サイドテーブルに置く。プリンはほどよい冷たさを感じられるように氷が詰まった金属の箱の中に入れられていた。
 エリーナはその箱の中から何が出てくるのかワクワクして、じっと熱い視線をそちらに送っている。

「ではさっそく」

 とマルクが二人の前に置いたのは、薄茶色のプリンだった。プリンの表面が少しざらついているようであり、ソースがいつもより黒い。

「きな粉プリン黒蜜がけでございます」

 聞いたことのない材料で、エリーナは異国を感じた。新しいプリンにエリーナはワクワクしながら、スプーンを差し入れる。

「きな粉プリン……」

 ほどよい弾力が返ってきて、すくい上げればソースが流れる。そして口の中に入れれば、黒蜜の幅が広く深みのある独特の甘さの後に、少し香ばしい豆の風味が広がる。食感はプルプルでもっちりしており、エリーナは目を丸くした。

「これが、和風」

 ココナッツプリンの時も思ったが、国ごとに甘さが異なる。この甘さは自然に包み込まれるような甘さで、優しい気持ちになれる。

「きな粉は君の国のもの?」

 クリスもお気に召したようで、機嫌よく食べている。

「はい。きな粉は豆の粉でして、牛乳に溶かすとまろやかさとコクが生まれます。エリーナ様はプルプルとした食感がお好みと伺ったので、くず粉を入れて少しもっちりとさせました。和菓子にもっちりは欠かせませんので」

 エリーナの好みに合わせながらも、和の譲れないところは入れている。その匙加減が絶妙であり、エリーナは癖になる黒蜜を味わって微笑んだ。

「おいしいわ。カスタードプリンとは違うから、紅茶には合わなさそうだけど」

 とそこで、リズが「ふふふ」と笑ってお茶を淹れる準備を始める。

「そうおっしゃると思って、和風プリンに合うお茶をご用意しました」

 近隣の三国では紅茶が主流だが、他にもお茶の種類があることは知られていた。いつもとは異なる淹れ方で注がれたお茶は、黄金色で豊潤な香りがたっている。

「これは……?」

 少し濁りがあり、緑がかってもいた。

「玉露という東から伝わったお茶です。カイルさんが取り寄せるのに苦労したそうです」

 無理難題に胃を痛めて頑張ったであろうカイルを労おうと心に決める。
 そして香りを楽しみ一口飲むと、すっきりとした苦みの中に甘みもあって、奥深い味に驚く。

「すごい。お茶ってこんなに違うのね。確かに、これは甘みが少ないお菓子のほうが合うわね」

「はい。そしてお茶を粉にした抹茶を使ったプリンがこちらです」

 続いて出てきたプリンにエリーナは目を疑った。お茶を粉にするというのも想像がつかなかったが、このプリンは衝撃が大きい。

「プリンが……緑」

 まるで青野菜のような緑で、野菜プリンと言われたほうが理解できる。エリーナは恐る恐るすくい上げ、口に運んだ。なんだか危険なものでも食べるようだ。
 そろっと舌の上で転がせば、ぶわっと抹茶の香りが広がりほどよい苦みと甘みがまじりあう。後味がよく、思ったよりも食べやすい。そしてこれはプリンの材料に抹茶を混ぜているようで、本来のプリンの風味と食感も味わえる。

「意外とおいしいわ。これはいいプリンね」

「これ気に入ったよ。甘過ぎないのがいい」

 甘いものが苦手なクリスにはちょうどよかったらしい。二人が半分くらい食べ進めたところで、リズが小さな深皿を三つテーブルに置いた。

「和風プリンは味の変化も楽しめるのです。抹茶、きな粉、黒蜜。これらを組み合わせるとさらに楽しめますよ。甘さが苦手なクリス様には抹茶を、エリーナ様にはきな粉と黒蜜をおすすめします」

 元日本人である二人にとって、抹茶、きな粉、黒蜜は最強の組み合わせである。さらに白玉と小豆があればよかったが、そこまですると和風パフェになるので今回は見送った。他にも黒ゴマプリンや小豆プリン、黒豆プリンも作ってみたのだが、日本のものに近づかず断念していた。

「じゃぁ、おすすめを試してみるわ」

 エリーナは黒蜜ときな粉をかけ、クリスは抹茶を振りかける。そして新しいものに出会うのが待ちきれないと言わんばかりに、パクリと口に入れた。抹茶の苦みを黒蜜の甘みが包み込み、きな粉がアクセントをつける。味が二重、三重に深まりをみせていた。

「わぁ……合わせるとこんなにおいしくなるのね」

「うん。苦みが効いていていいね。でもえぐみはなくて、あっさりとおいしい」

 和風プリンは二人に好評のようで、転生者二人は目を合わせて微笑み合った。何度も試作を繰り返した成果だ。
 そしてカフェ・アークでは抹茶プリンを出すことになり、マルクはリズとエリーナの協力をもらいながらレシピの完成を目指すことになったのである。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...