悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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アスタリア王国編

171 懐かしい方に会いましょう

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 ラルフレア王国、その西に位置するアスタリア王国、南のニールゲル王国。この三カ国は同盟を結んでおり、定期的に王族の交流が図られている。今回はアスタリア王国が主催であり、王宮はその準備で大忙しだった。

 エリーナはサロンで食後の休息を取っており、読書中だ。傍にリズが控えていて、静かで穏やかな時間が流れる。そう、いつもなら。だが今日はため息が聞こえ、エリーナは気づかれない様に、リズに視線を向ける。
 マルクとの夕食デートから終始こんな感じであり、二人っきりになると心ここにあらずのことが多い。エリーナは面白そうに観察をしており、からかうのはベロニカが来てからに取ってある。

 そんな中、侍女がお客様ですと取次に来て、ほどなく姿を見せた客人にエリーナは目を丸くしたのだった。

「……シャーロット王女殿下」

 戸惑った表情の侍女が連れてきたのは、ラルフレアの学園に遊学に来ていたシャーロットだった。隣には騎士であるエドガーもいる。二人はエリーナの向かいにあるソファーに座り、リズがはっと我に返って、テキパキとお茶の用意を始めた。

「ご無沙汰しております。エリーナ王女殿下」

 シャーロットは気品のある微笑を浮かべて、軽く挨拶をする。一年前とは違い、ずいぶんお淑やかになっていた。銀色の髪は肩のあたりで巻かれており、ふわりと広がっている。すみれ色の瞳を見れば、エリーナにも南の国の血が流れていることを感じさせた。
 隣に座るエドガーは水色の髪と紫の瞳で背筋がピンと伸びており、表情は引き締まって凛々しい。以前ならシャーロットの後ろに控えていたので、関係が正式に変化したのだろう。

「シャーロット様もエドガー様も、お変わりありませんか?」

「おかげさまで、正式に婚約を認めてもらえることになりましたの」

 エドガーは侯爵令息なので、身分的にも結婚は可能だった。婚約までに一年ほどかかっているので、その間いろいろ苦労もあったのだろう。

「まぁ、それはおめでとうございます」

 エリーナは表情を緩めて嬉しそうにしている二人を見ながら、シャーロットが巻き起こした出来事をしみじみと思い出した。エドガーの気を引くためにジークに言い寄り、ベロニカを不安にさせ動揺させた罪は重いが、結果的にシャーロットはエドガーと結ばれ、ベロニカとジークも仲を深めた。
 大変だったわと懐かしい想い出に浸っていると、シャーロットは申し訳なさそうに目を伏せおずおずと口を開く。

「それで、その……ラルフレアではエリーナ様やベロニカ様にご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。あの後、両親に諭され反省しましたの。次に会える機会があれば、必ず謝ろうって」

「私も失礼な言葉遣いをしてしまい、申し訳ありませんでした」

 エドガーも謝罪をし、頭を下げる。二人とも自国に帰ってからきっちり反省し、次に会ったら謝罪するつもりだった。それがまさか、アスタリアでラルフレアの王女として会うことになるとはさすがに思わなかったが。

 エリーナはしおらしくしているシャーロットに微笑みかけ、優しく言葉を返す。

「かまいませんわ。ベロニカ様とジーク様もご結婚されるし、お会いになったら直接お祝いと謝罪の気持ちをお伝えになってくださいな」

「はい、かならず」

 そして相変わらず無口なエドガーに視線を向け、話を振ってみる。

「エドガー様は、今もシャーロット様の騎士をされているの?」

 エドガーは緊張した面持ちで、「はい」と頷き話し出した。

「結婚した後も、シャーロット様の護衛として任務を続けます」

 以前よりもさらに真面目になっており、シャーロットがむくれる。

「もう婚約者なのだから、人前でもロティと呼んでほしいのに」

 と、甘えた視線を向けるが、エドガーは動ぜずエリーナから視線をそらさない。

「陛下たちから、シャーロット様を甘やかすなと言われておりますので」

「もー。エディは私と仲良くしたくないの?」

 ぎゅっとエドガーの腕を掴んで、気を引こうとするシャーロット。相変わらず積極的で行動力がある。ほんの少しでもナディヤに分けてあげて欲しいとエリーナは思った。

「後でお相手いたしますから、今はダメです」

 シャーロットのおねだりをやんわりと断り、エドガーはシャーロットを軽く押し戻した。エドガーがしっかりシャーロットの手綱を握っているのが面白くて、エリーナは目元を和ませる。いい夫婦になりそうだ。

「以前、ニールゲルは情熱的な方が多いと聞きましたが、確かに二人とも情熱的ですわね」

 エドガーに情熱を傾け、周りを巻き込んだシャーロット。そのシャーロットに情熱を抱きながらも、強固な自制心を働かせていたエドガー。

「恋に生きるのがニールゲル人ですわ」

「はい……アスタリアも自由恋愛ですが、想いが強く行動が早いのがニールゲルですね」

 そしてラルフレアは伝統と格を重んじる。三国で少しずつ恋愛観は違うのだ。

「恋にも色々あるわよね」

 ふと思い浮かぶのはナディヤの顔。そして最近上の空のリズ。二人とも恋をしているのは丸わかりだが、それをどう進めさせたらいいか。まだまだ恋愛初心者のエリーナは、ロマンス小説を読んで勉強するしかない。まさかロマンス小説を悪役令嬢研究以外で読むことになるとは思わなかった。

「あ、あの。恋といえば、エリーナ様はクリス殿下と結ばれたのですよね。その、お話を伺ってもよろしいでしょうか」

 シャーロットは興味に彩られた目をエリーナに向け、うずうずとそう尋ねた。なるほど、恋バナをしたいのかとエリーナは合点がいき、にこりと微笑む。エリーナも今後の参考にするために、他人の恋には興味がある。

「えぇ、もちろん。シャーロット様のお話もお聞きしたいわ」

 女の子同士でする恋バナはとても楽しいのだ。だが、エリーナが言い終わるやいなや、エドガーが立ちあがり「終わるまで別室で待機しております」と逃げていった。自分が出てくる恋バナを聞くのは嫌なようだ。素晴らしい逃げっぷりに、二人は目を合わせてくすくすと笑う。

 そして二人は出会いや恋に気づいた時、告白など今までのことを話していった。エリーナはシャーロットとエドガーの純粋で一途な思いに感心し、シャーロットはエリーナの身に起こった劇的な恋愛物語に目を丸くしていた。「劇化させたい」という呟きは、聞こえなかったことにする。

 気のすむまで話せば日暮れが近くなっており、シャーロットは迎えに来たエドガーとともに迎賓館へと帰っていった。数日後には正式な場で交流の夜会が開かれる。
 エリーナは恋バナをしている間も、時々顔を赤らめながらぼんやりしていたリズに顔を向け、不敵な笑みを見せた。

「リズ、便せんを用意してちょうだい。ナディヤをお茶会に誘って、恋バナをするわよ」

「……え、といいますと?」

 リズは意図が読めず、素で返してしまった。

「恋バナをして恋がいいことだって教えるのと、シルヴィオお義兄様への想いをはっきりさせようと思って」

「わぁ……かしこまりました」

 その「わぁ」がどういう意味なのか追求するのは止め、エリーナは「恋のキューピットになるのよ」と息巻いていた。リズが部屋を出る間際に「プリン姫がキューピットになれるの?」と独り言を漏らしていたが、幸い聞こえなかったようだった。
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