その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき

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13. 闇夜のお客様

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 勢いよく現れた黒い物体。

「ひゃっ!」
 
 イチカは悲鳴の出そうになった口を手でおさえた。
 
(な……なにこれ⁉︎)

 それは人影でも幽霊でもない。四枚のプロペラをギーンとうならせ、まるで昆虫のように空中に浮く小さな機械——ドローンだった。
 暗い中でも、ボディについた赤いランプが点滅している。
 予想外のことに、イチカはその場で固まってしまった。

 ふと視線を落とすと、外の通りに見慣れない白い車が止まっている。
 街灯の下、真っ白なポロシャツ姿の冬也が、チョコレート色の髪を光らせながらこちらを見上げていた。
 
「冬也会長っ?」
 
 手にはドローンのリモコンのような物を持っている。
 見下ろすイチカに、冬也はにこりと笑って手を振った。

 気づけばイチカは部屋を出て、階段を駆け下りていた。
 父から『パパがいないときは絶対にドアを開けるなよ』と言われていることなど、すっかり頭からぬけ落ちている。
 ドアを開け、通りに飛び出すと、冬也がそこに立っていた。
 
「やあ。こんばんは、イチカくん」
「冬也会長! なんで⁉︎」
「ああ、夜分遅くにごめんね? ちょうど習い事が終わったところでね。ここの近くなんだけど……イチカくん、どうしてるかなと思ってね。執事に頼んで寄ってもらったんだ」
 
 車の横には、背筋をぴんと伸ばした男性が立っている。イチカの父より若そうだ。
 
(そういえば、近くに華道の先生のおうちがあるっけ……じゃなくて!)
 
「なんで私の家を知ってるのっ?」
「さあ? なんでだろう?」

 冬也はくすっと笑う。『ターゲットを調査するのは当然だよ』なんて言っていたのを思い出す。

「っていうか、なんでドローンっ?」
 
 冬也のかかえるドローンに目が行った。
 
「イチカくんが眠っているかも知れないから、起こしたら悪いと思ってね。家の周りを回って様子を見ようと……」
「人の庭で勝手に飛ばして! 警察に捕まりますよ!」
「法律的には、きみのお父さんが許してくれれば大丈夫だよ。……あるいは、きみが内緒にしてくれるかな?」

 冬也はいたずらっ子みたいな笑顔を見せた。
 父は今、家にいない——そのことも、きっと冬也には知られている気がする。イチカはため息をついた。
 つかれきったようなイチカの様子に、冬也は首をかしげる。
 
「そんなにおどろかせたかな?」
「おどろきますよ……私、もう寝てたし……」
「イチカくんは電気をつけて寝るの?」
「うっ……」
 
 言葉につまる。窓からは、こうこうと部屋の明かりがもれている。
 
(怖くて電気を消せなかった、なんて……言えない)
 
 冬也は困ったようにほほえんだ。
 
「ごめんね?」
 
 まるで何もかも見すかしているような瞳に、イチカは気まずくなって目をそらした。

「べつに……幽霊だって決めつけたわけじゃ……ないし。……私は、確かめてやろうって……思いましたし」
「そう?」
「何か、知らない物がどんどん近づいてくる感じが、ちょっと怖かっただけで……」
 
 話せば話すほど、なんだか言い訳っぽくなっていく。笑われるかと思ったが、冬也はきょとりとした。
 
「うん? イチカくんがドローンに気づいたのは、カーテンを開けたときだよね?」
 
 冬也は二階の窓を指差した。
 
「びっくりして怖かったんじゃないの?」
「そこはおどろいただけ! 怖かったのは、カーテンを開けるまでの……」
「カーテンを開ける前から気づいてたの? 見えないのに?」
「気づきますよ! だって、ずっと耳で……」
 
 言いかけて、ふと止まる。頭に引っかかる感覚があった。
 
 見えないのに、分かった。
 ドローンが近づいてくるのが、確かに伝わってきた。
 
(そうだ……あのときも、耳で感じたんだ)
 
 学校でカゲを見たときも、見失ったのに、一階に行ったってすぐに分かった。
 
 頭の中で、散り散りになっていたパズルのピースが集まってくるのを感じる。イチカは口を開いた。
 
「……冬也会長」
「ん?」
「今日、カゲを追いかけたとき……冬也会長は、なんで階段を下りたんですか?」
「え? カゲが下に行ったからだけど……?」
「それ、ちゃんと見ました?」

 冬也の目が、不思議そうにまばたきした。次の瞬間、ハッと大きく開かれる。冬也も同じことに気づいたのだろう。
 
「見てはいない」
 
 冬也の答えにイチカは深くうなずいた。
 
(あのとき、当たり前のように一階へ行ったと思った理由は……)

「——音、です」

 頭の中、パズルのピースが、パチリとはまる。
 恐怖で見えなくなっていた絵が、ようやく全体の姿を現した。
 
 
 
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