勇者と冥王のママは今日から魔王様と

蛮野晩

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Episode2・魔界の玉座のかたわらに

家族で初めての洞窟探検5

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「イスラ、大丈夫ですか?」

 これってイスラがゼロスを背負って崖を登るということですよね。
 心配で落ち着かない私にイスラが胸を張ります。

「オレ、じょうずにのぼれるぞ」
「だそうだ。イスラならゼロスくらい問題ない」

 二人が当然のように言いました。
 そして私が困惑している間にも崖登りの準備を進めていきます。
 でもハウストが自分とイスラの荷物を両肩に掛けたのを見てぎょっとする。

「あなたが荷物まで持つんですか?!」
「お前と荷物くらい大したことはない」
「駄目ですっ。そこまでしてもらう訳にはいきません!」

 私は慌ててハウストから二つの荷物を奪いました。
 荷物がずっしり重い。こんな物を持ったまま私も一緒に運ぼうとしていたなんて。

「せめて荷物は私が背負います。あなたにばかり持たせるなんて嫌です」
「おい、無理をするな。結構重いぞ?」
「あなたとイスラは持っていたじゃないですか。だから大丈夫です」

 私は二つ分の荷物を背負いました。
 よいしょっ、と肩に背負うとずしりっと沈み込むような重み。
 思わず呻いてしまいそうになりましたが、よいしょっともう一度背負い直しました。
 気を抜くと足元がふらついてしまいそうですが、大丈夫、私だってちゃんと背負えます。
 そんな私にハウストは苦笑し、「早く来い」と背中を向けられました。
 ここにしがみ付けというのです。

「大丈夫か? 紐が必要なら」
「平気ですっ」

 遮って即答しました。
 やっぱり舐めていますね。たしかに崖登りは出来ないかもしれませんが背中にしがみ付くだけなら大丈夫です。

「では、よろしくお願いします」

 私は荷物を背負ってハウストの背中に乗りかかり、ぎゅっとしがみ付きました。おんぶです。
 ハウストは危なげなく立ち上がり、さっそくとばかりに崖をよじ登っていく。
 どんな凹凸も見逃さず、手や足の置き場を瞬時に選んでいる。
 それにしても……。
 しがみ付きながらハウストの厚くて大きな背中や肩、筋骨隆々の強靭な肉体に驚きます。
 彼の体は知っていますが、魔族と人間はこんなに違うのでしょうか。いいえ、そうではありませんね。魔族の方でも鍛えていない方はひょろひょろしています。

「ハウスト、重くありませんか?」
「ああ、もう少し太ってもいいくらいだ」
「太りません! でも、少し体は鍛えた方がいいかもしれませんよね。……私、これでも体力はある方だと思っていたんです」

 ハウストやイスラが規格外だと分かっていますが、それでもなんだか自分が情けないです。

「山育ちだからか?」
「はい。崖登りや木登りだってしたことあるんですよ?」
「それは興味深いな。ぜひ見てみたいものだ」
「……バカにしてます?」
「本気だ」
「では、また機会があれば披露しますね」

 苦笑して答えます。
 披露する前に森で練習しておきましょう。以前は出来たのに出来なくなっていると困ります。

「あなた、凄いですね」

 私と荷物を軽々と背負って、力強く登っていく。腕や足を動かすたびに筋肉が撓って躍動しているのが分かります。見事な体躯にため息をついてしまう。

「惚れ直してくれたか?」
「ふふ、バカなことを」

 私は小さく笑って、しがみ付いている腕にさり気なくぎゅっと力を籠める。
 抱き着いた私にハウストの口元が綻んだのが分かります。
 こうしてハウストは私を背中に乗せたまま崖を登り、そのすぐ下にはイスラがいました。
 ゼロスを背負ったイスラは、ハウストが選ぶ足置き場をなぞるように登っています。
 私はハウストにしがみ付いたままイスラに呼びかけてみる。

「イスラ、大丈夫ですか?!」
「だいじょうぶ!」

 すぐに帰ってきた返事に安心します。
 その声も力強く、疲労を感じさせません。むしろ楽しそうにすら聞こえるのですから驚きです。
 さあイスラの次はゼロスです。

「ゼロスはいい子にしていますか?!」
「あぶぶー!」

 ゼロスに呼びかけると、同じく元気な返事が返ってきました。
 良かった。ゼロスも元気そうです。
 高所にも暗闇にも怖がっている様子はありません。
 やはり勇者と冥王とは凄いのですね。
 こうして無事に崖を登り切りました。
 崖下を見ると地面が見えません。ただ闇の空間が広がるばかりで、とても高い崖だったのが分かります。

「ハウスト、ありがとうございます。大丈夫でしたか?」

 ハウストの背中から降りると、彼の肩や腕にそっと触れます。
 心配する私に彼が優しく笑んでくれる。

「大丈夫だ。お前もよく頑張ったな」
「もちろんです。せめて荷物くらい。ハウスト」

 不意に彼を呼び、触れていた腕を軽く引っ張りました。
 少しだけ彼が屈んだところを狙ってすかさず頬に口付ける。
「ブレイラっ」突然のそれにハウストが目を丸めました。
 自分でも頬が熱くなったのが分かります。でもイスラとゼロスが登ってくる前にどうしてもしたくなったのです。

「あ、イスラ達が上がってきました! 二人とも、こっちですよ!」

 誤魔化すように言ってするりとハウストから離れます。
 ハウストの腕が追ってきましたが、掴まる前にイスラとゼロスに駆け寄りました。

「ブレイラー!」
「あぶー!」

 イスラがゼロスをおんぶしたまま駆け寄ってきます。
 それを抱きとめ、いい子いい子と二人の頭を撫でてあげました。

「二人ともよく頑張りましたね」
「オレ、かっこよかった?」
「はい。とてもかっこよかったですよ。ゼロスをありがとうございます」

 イスラのおんぶ紐を解いてゼロスを受け取りました。
 抱っこするとゼロスが嬉しそうに手を伸ばしてきます。

「あーあー!」
「ふふ、ゼロスも上手におんぶされていましたね」

 これで四人全員揃いました。
 先を進もうとハウストを振り返りましたが、彼の様子に首を傾げる。彼はランタンで地面を照らし、なにやら気難しい顔をしているのです。

「ハウスト、どうしました?」
「……いや、なんでもない。先を急ぐぞ。この先に休憩できる場所があるはずだ」

 彼はそう言うと先へ歩きだしました。
 気になりつつも私もイスラとゼロスをつれて後に続きます。
 しばらく歩くと前方に淡い月光が差す空間が見えました。
 暗闇の地下洞窟に突如として現われた光の空間。私は驚きに目を丸める。
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